絵本のこみち
おはなし会で子どもたちに人気のあった絵本や、井戸端会議で話題になった絵本を、古典から新刊まで紹介していきます。ぜひ手にとってみてください。
( ) はだいたいのめやすです。その子によってもグループによっても異なります。
- 出発進行!里山トロッコ列車 かこさとし作 偕成社 2016年 (中学年から)
作者晩年の絵本です。
トロッコ列車とは、車両の屋根や壁を取り払って、まわりの景色や風を楽しむ列車です。表紙の見開きに、日本地図が描いてあって、全国トロッコ列車運行状況図(2016年3月現在)とあります。北海道から九州まで、ぜんぶで18の路線があります。わたしはこの中で、黒部峡谷と釧路湿原の二つに乗りました。あなたは?・・・そんなふうに遊びたくなるのがかこさんの絵本の面白さです。
さて、この本は、千葉県房総半島を走る、小湊鉄道の里山トロッコ列車について書かれたものです。列車の仕組みの細かな図はもちろんのこと、沿線の地図は、ハイキングガイドのように丁寧です。列車好きの子どもにはたまらない魅力があります。コッペル社製蒸気機関車の設計図まであります。
しかも、空・山・大地が広々と描かれ、まるでトロッコ列車に乗って走っているような気になります。沿線の四季折々の動植物や、寺社、その由来、地層、各種トンネル、発電所、伝承の踊り、ゆかりの歴史上の人物、名物。
この絵本を持って、房総半島を歩いてみようと思いました。
- はらぺこゾウのうんち 藤原幸一 写真・文 偕成社 2018年 (中学年から)
南アジアの熱帯雨林にすむゾウ。巨大なからだにやさしい小さな目、黒々とした巨大なうんち!
動物好きの子どもは目が離せないでしょう。
森の木々も空も美しく、よくある自然や野生動物の写真絵本かと思ったら、じつは深いメッセージが込められていたのです。
地球温暖化のせいで、雨期になっても雨が降らず、ゾウの森は、ここ10年で9回も干ばつが起きています。
やせ衰えたゾウが、水をさがして歩きまわり、しまいには柵を越えて人間の土地に入りこみます。人びとは、ゾウを神さまと信じているので、お供え物としてお菓子や果物をゾウに与えるようになりました。
ゾウは、あまいにおいに引き寄せられて、とうとう、人間のゴミ捨て場を発見。ゴミ捨て場のそばのゾウのうんちには、レジ袋がいっぱいつまっていました。
地球温暖化自体が人間のもたらしたもの。自然とうまく着き合えない人間の罪を突き付けられました。
- こんとん 夢枕獏文・松本大洋絵 偕成社 2019年 (高学年から)
中国の思想書『荘子』に、混沌(こんとん)という帝の話があります。また、中国の古い神話に、混沌という名の怪物が登場します。それらをもとにかかれた絵本です。
こんとんは、目耳鼻口がなく、いつも空を見て笑っています。南海の帝と北海の帝が、こんとんのために目耳鼻口の七つの穴を開けてやります。そのとたん、こんとんは死んでしまうのです。
じぶんの 目で みる きく かぐ じぶんの 口で かたる
それは なんだか とてつもなく たいへんな ことだったんだろうね
と絵本の作者はいいます。そして、
こんとん こんとん きみのことが すきだよ
と。
さてさて、混沌は、カオスのこと。「混沌に目鼻を空ける」ということわざがあります。むりやり物事に道理を付けるという意味です。
こんとん、魅惑的な存在です。
- ニットさん たむらしげる作 イースト・プレス 2012年 (幼児から)
ニットさんは、毛糸の編み物が得意なおばさんです。シャカシャカとどんどん編んで行きます。
まずはふわふわの椅子。のどがかわいたので、テーブルと、ティーポットと、カップ。風が吹いてきて寒くなったので、大きな家!
毛糸の玉と、毛糸のメリヤス編みは、写真を使ってあるので、リアリティがあって、おお~っと驚いてしまいます。
夜になると、三日月を編み、ベッドを編んでおやすみなさい。
よく見ると、地球も土星も、星たちも、みんな毛糸で編んであります。
- ひよこのコンコンがとまらない ポール・ガルドン作/福本友美子訳 ほるぷ出版 2007年 (幼児から)
北欧の昔話です。めんどりのコッコさんが、ひよこのタッペンを連れて森に出かけます。おいしい種が落ちていないか探しに行ったのです。
コッコさんはタッペンに、大きい種は食べてはいけない、コンコン(せき)が出るからといいました。ところが、タッペンは、大きい種を飲みこんで、せきが止まらなくなりました。
コッコさんは、水をくみに泉へ行きますが、泉はコップを持ってこないと水をやらないといいます。
そこで、コッコさんは、かしの木にたのみましたが、かしの木は枝をゆすってくれなければ、コップをやらないといいます。
そこで・・・コッコさんは、木こりの息子、くつ屋、雌牛・・・と、必死で走ってたのみに行きます。連鎖譚です。
絵は、素朴であたたかいです。コッコさんは左から右へ走って行き、出会うものたちは、右にいて左を向いています。だから、連鎖譚の楽しさがわかります。
- ももくりチョコレートのあそび かこさとし作 農文協 1991年 (低学年から)
「かこさとしあそびの大惑星」シリーズの7冊目。副題は「遊びのお菓子大列車」。
すみからすみまで、お菓子を使った遊びで埋め尽くされている本です。
紙の桃太郎の作り方、まめリンピックで豆とマッチ棒を使った遊びの遊び方、豆の数え歌、みつ豆やコーヒーやアイスクリームの作り方(ほんもの。食べられます)、ホットケーキとカステラの小咄、紙で膨らむおもちやのびる餅菓子の作り方、クイズのカステラの切り方・チョコの分け方、レモンの実験(紅茶レモン・牛乳レモン・お金レモン)、・・・・これは、ほんの一部です。とにかく、読んでみてください。
<レモンばなし> せんせい「レモンのじっけんはうまくできましたか?」せいと「はぁ、すっぱいでした。」
「パパはパパイヤ」
「おいしいのはドリヤン?」
「これスイカ、あまいか?」
「これはなんでしょう?」「かきのたねです?」「いいえケンカのタネです」と、さるとかにが話しています。
- ネコが見た"きせき" マイケル・フォアマン作/せなあいこ訳 評論社 2001年 (中学年)
イエスキリストの誕生の物語は、古来絵画で表され、降誕劇として演じられてきました。絵本にも、たくさんの作品があります。
この『ネコが見た"きせき"』は、題名のとおり、ねこの目で描かれたキリストの誕生です。
その夜、外では雪が降っていて星が驚くほど明るく光っていたと、ネコはいいます。ネコは、牛やヤギといっしょに納屋の中にいて、ねずみを取ろうと考えていました。そこへ、いきなりとびらが開いて、雪まみれの人間がふたりとロバが入って来ます。赤ちゃんが生まれ、羊飼いたちがやって来て、ラクダに乗ったりっぱな人間が三人もやって来て、ねずみたちもぞろぞろ出て来て、みなで赤ちゃんを見つめます。
翌日、男の人と女の人は赤ちゃんをつれて出て行きました。その夜以来、ネコはねずみをいっぴきも取っていません。だれかと争うのが、すっかりいやになったからだと、ネコはいいます。
マリアやヨセフという名まえは出てきません。ただのネコに過ぎないのに、キリストの愛の心を手に入れた、奇跡の夜の物語です。
静かなクリスマスにぴったりの絵です。
- みらいのえんそく ジョン・ヘア作/椎名かおる文 あすなろ書房 2019年(低学年から)
ジョン・ヘアは、アメリカのイラストレーター。これは、彼の最初の絵本です。
学校の遠足で月に着陸するところから話は始まります。絵を描くのに夢中で一人取り 残された男の子。こういう子って、どこにでもいますね(笑)取り残されたけれど、諦めて絵でも描こうと腰を落ち着けます。そこへ、目がひとつの宇宙人が5人、恐る恐る近づいてきます。宇宙人たちは、好奇心いっぱい。
男の子は、宇宙人たちにクレヨンを貸してって、宇宙人たちは大喜びで月の岩に落書きを始めます。
とにかく絵がうまい。宇宙服を着ているのに、何を考えているのか、微妙な表情までわかるのです。
- そらはあおくて シャーロット・ゾロトウ文/なかがわちひろ訳/松浦さやか絵 あすなろ書房 2018年(低学年から)
女の子が、お母さんの子どもの頃のアルバムを見ています。服もお店も家の中にある物も、お母さんが子どもの頃は、今とずいぶん違っていることに気が付きます。する とお母さんがいいます。 「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白 くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」 夜になるとお母さんがベッドで寝かしつけてくれるのも、今と同じだとお母さんはいい ます。
もっと古いアルバムを開くと、おばあさんの子どもの頃の写真がありました。女の子 は、今とはずいぶん違うと思いましたが、お母さんは、 「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白 くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」といいます。
曾祖母のアルバムも開いてみます。やはり、たいせつなことは変わらないと、お母さ んは説明します。そして、女の子が大きくなったら、わが子に同じことを説明してあげ てねというのです。
ソロトウの「終わりになるものは何もない」という思想に心が揺すぶられます。
- うどんのうーやん 岡田よしたか作 ブロンズ新社 2012年 (低学年から)
主人公は、きつねうどん。どんぶりばちから威勢よくのびている二本のうどんが手になって、お箸もつかめるし、腕組みもできます。
うどん屋にうどんの出前の電話がきます。ダイヤル式の黒電話!
「うーやん でまえや。たのむでー」
「ほな いってきますう」
人手不足なので、うどんのうーやんは、自分でお客さんの家に行かなければなりません。威勢よく走りだすと、後ろから、おあげとお箸が追いかけます。
途中で出会ったやせねこに、うどんを食べさせてやり、半分に減ったうどん。困ったうーやんは、お客の家に向かう道で会った者たちと仲間になって、どんぶりに入れていきます。そうめん、めざし、うめぼし、とうふ、たこやき、ミニトマト、コロッケ、エビフライ。川をわたり、山を越え、河内音頭を歌いながら進みます。
名付けて、にぎやかうどん!
大阪弁の文章なのですが、関西人でなくても、なりきって読めばきっと楽しいと思います。
- あかちゃんがやってきた 角野栄子作/はたこうしろう絵 福音館書店 2009年 (低学年から
1998年に月刊「こどものとも」として発行された絵本のハードカバー版です。
お母さんが、ケイくんにささやきます。「あかちゃんがうまれるの」。
お母さんのおなかが少しずつ大きくなるにつれて、ケイくんは、期待したり、しっとしたり。おかあさんは、そんなケイくんの気持ちを大事に、大事にして、おなかの中の赤ちゃんとコミュニケーションを取らせます。
弟が生まれると想定して、ケイくんは、何をして遊ぶか考えます。楽しみで仕方がありません。
お母さんが入院して、ケイくんは、お父さんといっしょに病院に行きます。赤ちゃんとご対面です。ベッドには、男の子と女の子。ふたごです。
「ちっちゃいなあ。ぼく おにいちゃんになったんだ。」
思わず「おめでとう」っていいたくなるようなおしゃれでかわいい絵本です。 - サン・サン・サンタひみつきち かこさとし作 偕成社 1986年 (低学年から)
「かこさとし七色のおはなしえほん」シリーズの10冊目です。
あとがきに、「たった一日で地球のすみずみの各家庭を、いっせいに訪れることができる不思議なサンタの謎と、その秘密の全部を、すっかり明らかにしたのが、この本です。」とあります。
サンタクロースの秘密を知りたいと思っている子どもはたくさんいるでしょう。子どもたちの質問にうまく答えられないとき、この絵本はうってつけです。
子どもたちには、サンタクロースの存在を疑いもしない幼い時代をできるだけ長く、幸せに過ごさせてやりたいと思います。また、地球上には、サンタクロースの存在を知らず飢えと病気で苦しんでいる子どもたちがたくさんいます。その子たちにもこの本を贈ることができたらどんなにいいかと思います。
ところで、サンタの秘密基地は、どこにあると思いますか?
- いったでしょ 五味太郎作 偕成社 2003年 (幼児から)
幼児からと書きましたが、小学生でも十分楽しめます。むしろ小学生のほうがこのユーモアは分かるかもしれません。
子馬?とお母さん馬。馬?ろばかな?人間?ではないしなあ。と、いつものように正体不明の登場人物です。
子馬(にしておきましょう)は、お母さんの後から歩いて行きます。 道に穴があります。お母さんが「おちますよ」と警告します。つぎの見開きページで、子馬は穴に落ちます。「おちた!」 するとお母さんが、「いったでしょ」
この2パターンが繰り返されます。「ぶつかりますよ」「つまづきますよ」・・・
最後は階段です。「落ちますよって言って」「とびますよ」 そして、子馬は飛びます!「いったでしょ」
すてきな親子です。 - いそげ!きゅうきゅうしゃ 竹下文子作/鈴木まもる絵 偕成社 2017年 (幼児から)
幼児からと書きましたが、小学生でも十分楽しめる、力のある絵本です。
消防署で出番を待つ救急車、出動する救急車。けが人や病人をどのようにして運ぶのかを、クリアで力強い絵と簡潔な文章で、きちんと説明していきます。表現の誠実さが、救急車への信頼を呼び起こすように思います。
けがや急病でうろたえているとき、救急車も隊員さんも、どれほど頼もしく感じられることでしょう。
でも、救急車では運べないような遠方の急病人は、どうすればいいでしょう。大丈夫、ドクターヘリの出動です。ヘリの内部で隊員に励まされる病人の様子、眼下の景色、遥かに見える病院のヘリポート。大人でも、「かっこいい!」って声をあげてしまいます。
何人もの人たちの連携によって、わたしたちは助けられているのです。
最後のページには、救急車の運転席の細かな絵。見ている子どもの目がきら~んと光りました。 - パンプキン ケン・ロビンズ写真と文/千葉茂樹訳 BL出版 2007年 (低学年から)
枯草色の広大な畑に転がるオレンジ色の大きなカボチャたち。色も大きさも、日本のカボチャのイメージとはずいぶん違います。とってもダイナミックです。ここは、アメリカ合衆国の畑です。
ノンフィクションの写真絵本です。カボチャの種まきから始まって、芽が出てつるが伸びて、花が咲いて子房がふくらんできてりっぱなカボチャになります。掌サイズのものからものすごく大きいものまで。子どもたちは目を丸くして見つめます。
そのカボチャの頭を切って、中をくりぬいて、目や鼻や口を切り抜きます。畑にならぶお化けカボチャのさまざまな表情に、子どもたちは、○○ちゃんに似てるとか、××ちゃんやとか、おもしろがって見ています。
けれども、夜になって、カボチャの中にろうそくがともされると、一転「こわ~い!」
日が暮れた家の前にともされるお化けカボチャ。ハロウィーンの行列の中にうかび上がるカボチャのランタン。カボチャは、ささやかで楽しいちょっと恐いお祭りの主役です。 - もみじのてがみ きくちちき作 小峰書店 2018年 (幼児から)
「てがみだよ
てがみだよ
もみじの
てがみだよ」
つぐみがかえでの紅葉を一枚口にくわえて森を飛んできます。ドングリをかじっていたねずみが、その紅葉を受けとって、もっとたくさんの紅葉をさがしに行きます。でも見つけたのは赤いきのこ。松ぼっくりをかじっていたりすが、それを見て、いっしょに紅葉をさがしに行きます。でも、見つけたのは、赤い椿。そこでヒヨドリもいっしょにさがしに行きます。
一羽と二匹は、深緑と灰色の森の中を、赤い物をさがしてどんどん進んでいきます。すると、次つぎに赤い秋の贈り物を発見するのです。そして、とうとう最後に、一面に散り敷いたかえでの葉。森がぱっと明るくなりました。おもわず、おお~っ!と声が上がります。 - かあさん、だいすき シャーロット・ゾロトウ文 シャーロット・ヴォーグ絵 松井るり子訳 徳間書店 2018年 (幼児から)
原題は、『Say It!』。
風の強い秋の日、枯れ葉が舞い散るなかを、エレンとお母さんが手をつないで歩いています。学校からの帰り道でしょうか。
エレンは、お母さんにたずねます。
「ねえ かあさん、なに かんがえてる?」
お母さんは、にっこり答えます。
「かぜが とっても つよいわねって」
でも、エレンが言ってほしいのはそのことではありません。
枯葉をザクザク踏みしめて歩く音や、池に映る枯葉にさざ波が立って、色のかけらが混ざり合う様子。風で髪の毛が逆立って、わらってしまうふたり。ねこに会ったり犬に会ったりしながら家路をゆっくりたどります。秋の道を楽しみながらも、エレンは、お母さんに言ってほしい言葉を待っています。
エレンの言ってほしい言葉は何でしょう。エレンの言いたい言葉は何でしょう。
母と子の日常の、ささやかなほんのひとときが宝物であることを感じさせてくれる絵本です。 - たまにはとおくへ マイク・クラトウ作 福本友美子訳 マイクロマガジン社 2019年 (低学年)
「ちいさなエリオット」シリーズの第4冊目。エリオットは水玉模様の小さなぞうです。友達のねずみと、大都会で楽しく暮らしています。
エリオットは、小さくて弱くてちょっと間が抜けています。間が抜けているから強いのかもしれません。ねずみが、いつもちゃんとサポートしてくれます。子どもは、すぐにエリオットに心情的に同化できます。
エリオットは、食いしん坊なので、シリーズの4作とも、食べ物が出てきます。これも、子どもが喜ぶ要素ですね。
それから、わくわくする遊びを体験できます。「たまにはとおくへ」では、かくれんぼと、星空観察。
ある秋の日、エリオットとねずみは、バスに乗って郊外へピクニックに出かけます。その風景の秋色がすばらしい。農場のりんごを食べたり、葉っぱの山に飛びこんだり。そして、かくれんぼをするうち、エリオットは、ねずみとはぐれてひとりぼっちになってしまいます。存在の不安を、トウモロコシ畑のふたつの見開きが表しています。
なんとも懐かしい風情の農家で、新しい友達に囲まれて、おいしいごちそうを楽しむエリオット。夜になると、干し草にもぐりこんで、ねずみと、星の名前の当てっこをしながら眠ります。最後の見開きの星空もすばらしいです。 - びくびくビリー アンソニー・ブラウン作 灰島かり訳 評論社 2006年 (幼児から)
心配ひきうけ人形は、グアテマラにつたわる人形です。ウォリードールといって、南米雑貨の店などでも売っています。とても小さな人形で、つまようじのような木に毛糸などをまきつけて作ります。枕の下に置いて寝ると、心配事をひきうけてくれて、ぐっすり眠ることができます。
さて、主人公の男の子ビリーは、いつも何か心配事を抱えています。たくさんの帽子がベッドの上に飛んでくるんじゃないだろうか。たくさんのくつがベッドの下から出てきてまどからはい出すんじゃないだろうか。巨大な鳥にさらわれるんじゃないだろうか。 でも、パパもママも、そんなことは起こらないといいます。なぐさめたり励ましたりしてくれるのですが、それでもビリーの心配は続きます。
ある日、ビリーはおばあちゃんの家に泊まりに行きます。こわくて眠れないビリーに、おばあちゃんは、「よわむしなんかじゃないさ。おばあちゃんもこどものころは、しんぱいばっかりしていたもんだよ」といいます。ビリーを否定せず、共感してくれるのです。おばあちゃんはそういう存在でありたいものですね。
そして、おばあちゃんは、ビリーに、心配ひきうけ人形をくれました!
それからのビリーの行動が、すばらしいのです。 - おすわり どうぞ しもかわらゆみ作 講談社 2018年 (幼児から)
春の日にぴったりの本です。ピクニックに行って遊びつかれた後のティータイムにそっと開きたいような絵本です。
作者は、動物細密画の画家です。動物たちは写実的でほんものなんだけれど、表情が愛らしく、物語があって、すてきなファンタジーになっています。
さて、これは、いすのおはなしです。もんしろちょうが飛んでいます。小さなまるいきのこのいすにすわるのは、ねずみ。そのぴったり感がすばらしい。のっぽのきのこのいすにすわるのは、りす。やっぱりぴったりです。切り株のいすはうさぎ、たんぽぽのいすには、かえる。葉っぱの小山にはりねずみ。丸太のいすにはきつね。しかといのししがやって来ると、きつねは丸太を転がします。ちゃんと三匹、ぴったり並んですわれました。
すずめやことりたちが飛んできました。どこにすわると思いますか?
あれれ、いつのまにか、もんしろちょうが二匹になっています。 - なくのかな 内田麟太郎作/大島妙子絵 童心社 2018年 (幼児から)
子どもって、油断しているとすぐ迷子になりますよね。
ここは、おまつりでしょうか。どうも歩行者天国のようです。老若男女が、食べたり歩いたりベンチに座っておしゃべりしたり。風船を持った子もいます。楽しそうです。でも、男の子がひとり、お父さんとお母さんにはぐれてしまいました。
ぼくは、じっとこらえて、考えます。
知らないどこかでひとりぼっちになったら、恐い鬼でも泣くのかな?
ページを開くと、山また山の鬼の世界で、赤鬼が「おかあさーん」「おとうさーん」と泣いています。
次はこわいオオカミ。
がけの上で、おおかみが遠吠えしています。
次は強いさむらい。
山の道でけものたちに取り囲まれて、「ははうえー」「ちちうえー」と泣いています。
次はおばけ。
鬼やおおかみたちは、男の子のまわりに集まって、「だれもみんななくんだよ。みんなないてもいいんだよ」といいます。とうとう男の子は思いきり泣きました。
すると、ちゃんと、お父さんとお母さんに会えました。
行楽のお供にどうぞ。 - きらきら 谷川俊太郎文/吉田六郎写真 アリス館 2008年 (幼児から)
雪の結晶は見たことがありますか。ひとつとして同じものがない、六角形のもよう。宝石のように美しいけれど、さわると融けてしまう、はかないもの。
どのページも、紺色の地にさまざまな雪の結晶の写真が置かれています。ページをめくってもめくっても結晶。でも、見あきることはありません。
「たべたいな」
「あまいかな」
子どもたちは笑って、「あまい」「すっぱい」と口々に言ってくれます。
「でもおかねでかえない ゆびわにもできない」
そういう美しいものがこの世にあることを知ることは、たいせつだと思います。心をしーんとさせてくれます。作者は雪の結晶を「かみさまのおくりもの」だといいます。最後のページでは、解けていく雪の結晶を見せてくれます。はかなさを感じます。 - ゆき!ゆき!ゆき! オリヴィエ・ダンレイ作/たなやまや訳 評論社 2002年 (幼児から)
寒い寒い雪の夜の一コマです。家の中には母親と赤ん坊のふたりだけ。静かな静かな、なべの中でお湯のわく音やほだぎのはぜる音が聞こえてきそうな絵です。粗末だけれど頑丈な家の中には、必要なものがじゅうぶん、あるべき所にあるという安心感が感じられます。
雪の降る、おそろしいような大自然の中に、母親は、赤ん坊を毛皮にくるんで出て行きます。
「ねえ ぼうや、 おそとは ゆき!」
見てごらん、嗅いでごらん、聞いてごらん、食べてごらん、と母親は赤ん坊に雪を教えます。雪のトロルを作り、そりすべりをし、思い切り遊んで楽しんで、ふたりは帰ります。
温かな家の中。赤ん坊はゆりかごで眠ります。母親は足を温め、お茶を飲み、こっくりこっくり眠ります。
この静けさは、高学年の子どもも楽しめます。 - リスとはじめての雪 ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/松永美穂訳 コンセル 2008年 (低学年から)
ストーリーは単純なので、小さい子にも分かるのですが、思わずくすっと笑ってしまうおもしろさは、むしろ大人向けかもしれません。白い画用紙に鉛筆でさらさらと描かれた森の中や、わずかに色彩の乗った動物たちも、大人向きかもしれません。写実的に描かれているのに、動物たちの表情は、なんて人間的なのでしょう。心の動きは顔だけでなく体全体であらわされています。
雪が降るまで起きていようと決心するリス。少しずつ睡魔にとらわれていくときのリス。びっくりしてとび起きるリス。こまやかな表情が、何ともユーモラスです。
駆けまわるリスも、歌を歌うハリネズミも、眠くてしかたがないクマも、動物としてリアルでしかも人間的なのです。
三匹は、雪を見たことがありません。「白くて、しめっぽくて、つめたくて、やわらかい」雪。そんなものを三匹は探します。
ハリネズミが見つけたのは歯ブラシ。もしこれがたくさん降ってきたら冬はどんなにきれいだろうと、ハリネズミは考えます。次の見開きに歯ブラシの降ってくる光景が描かれます。それがおかしくも美しいのです。
リスは空き缶を見つけます。やっぱり見開きページで、たくさんの空き缶が降ってきます。
クマははき古したくつしたを見つけます。雪ってこんなにおいがするのかしら(笑)? そこへ、ほんとうの雪が降ってきます。三匹は雪だるまを作り、安心して一緒に眠ります。
たきぎを取りにやって来た人間たちが雪だるまを見つけます。人間のそのまぬけな表情は、思わず笑いを誘います。 - まってる。 デヴィッド・カリ&セルジュ・ブロック作/小山薫堂訳 千倉書房 2006年 (高学年以上)
一本の赤い毛糸が、ページを彩り、人や命をつないでいきます。 11、5×27、5の横長の絵本です。
初めに待っているのは男の子。おにいちゃんって呼ばれる日を待っています。
お休みのキスを待っています。ママのケーキが焼けるのを待っています。雨が止むのを待っています。クリスマスを待っています。
そうです、わたしたちは子どもの頃から、ずうっ何かをと待ちつづけているのですね。
男の子は青年になり、待っていた彼女と出会い、彼女は戦場に出掛けた青年を待ちます。青年は負傷し、病院で戦争の終わるのを待ち、彼女からの色よい返事を待ちます。
青年は父親となり、子どもたちが独立し、妻が病に倒れ、「さようなら。ありがとう」って言わなきゃいけない日を待ちます。 それが人生です。
最後に待つのは新しい家族です。息子の妻のおなかに毛糸の切れはしがあります。
そう、それが人生です。
最後のページに赤い毛糸が美しくたばねられてあります。 - カッターであそぼう! 五味太郎作 KTC中央出版 2018年 (小学生以上)
クリスマスやお正月のプレゼントには何がいいかなとお悩みの大人たちへ(笑)。カッターナイフを使える年齢の子ども向けの絵本です。絵本といっても、カッターナイフで作った色紙作品が次々と登場。作り方の説明もあります。副題が「さあ、カッターあそびのはじまり はじまり!!」です。
子どもや、工作の好きな大人は、最初の色紙の重なりを見ただけでわくわくします。
「カッターですよ!かみをきりますよ かみをきると いろんなかたちが できます いろんなものが つくれます」
青い台氏の上でピンクの紙をスーッと切る。それだけで十分に美しい!ギザギザに切ったりくねくねに切ったり。四角い穴を開けます。星型の穴、温泉マーク、小さな三角がいっぱい。こんどは穴を開けた紙を重ねていくと、複雑な模様、複雑な色目になります。
お面を作ったり、モビールをつくったり、ランプシェードを作ったりと、つぎからつぎへと、ここでは書ききれません(笑) カッターの安全な使い方まで、ちゃんと説明してあります。
姉妹品『CUT AND CUT キッターであそぼう!』は、本書『カッターであそぼう!』と作者がセレクトした14色の色紙が84枚と、子どもに安全な安心設計のカッターナイフと、カッターマットとが入っています。3,800円です - クリスマスのつぼ ジャック・ケント作/清水真砂子訳 ポプラ社 1977年 (低学年から)
わたしたちは、クリスマスといえば、サンタクロースや雪の中を走るトナカイ、クリスマスツリーを連想します。けれども、この絵本はメキシコのクリスマスのおはなしです。雪のない暖かい所でもイエスキリストの誕生は祝われます。
子どもたちがマリアとヨセフに扮して、家々をめぐるポサーダという行事。ポサーダの最後のパーティーで、子どもたちが飾り付けられたピニャータを割り、中から出てきたお菓子や果物をみんなで分けて食べます。
この絵本では、はじめにふたつのつぼが登場します。双子のようにそっくりのつぼです。が、つぼが焼きあがった時、ひとつにはヒビが入っていました。ヒビの入ったつぼは庭の隅に放っておかれ、悲しみにくれます。ところが、クリスマスが近づくと、つぼ作りの家の女の子が、ヒビの入ったつぼをピニャータにしようといいます。
ヒビの入ったつぼにとって、すばらしいクリスマスになりました。でも、ピニャータになったつぼはこなごなに割られしまい、ゴミ捨て場に捨てられます。悲しんでいると、あのもうひとつのつぼ、りっぱなつぼが、割れて捨てられてきました。りっぱなつぼは、「なんだって いつかは こわれるんだよ。」といいました。
「それで めいめい やくに たったんだね」
「そうだよ。だれだって みんな そうなんだ」
心温まるお話です。 - あひるのピンのぼうけん マージョリー・フラック文/クルト・ヴィーゼ絵/まさきるりこ訳 瑞雲社 1994年 (幼児から)
ピンは「とても美しい子どものあひる」です。揚子江に浮かぶ船に、67羽の家族たちと暮らしています。船の名前は「かしこい目」といって、目があるので、まるで生き物のように描かれています。
船の主人は、毎朝、あひるたちを陸地に放し、夕方になると、あひるたちを集めて船にもどらせます。あひるたちは一列になって、船と陸の間に渡した板の橋をわたって行き来しますが、列の最後のアヒルは、主人からおしりに鞭を食らうのです。ある日ピンはもどるのが遅くなって、鞭を食らうのがいやで、草むらにもぐりこんでかくれました。 かしこい目は、ピンを岸に残したまま遠ざかっていきました。
そこから、ひとりぼっちになったピンのぼうけんが始まります。
川に暮らす人々の生活の様子が、素朴だけれど動きのある絵と、ピンの視線で描かれます。ピンは人間につかまってしまいますが、逃がしてくれたのも人間の男の子です。ピンは奇跡のようにかしこい目を発見します。
瀬田貞二のいう「行きて帰りし物語」です。ピンはおしりを鞭で打たれましたが、無事家に帰ることができて、めでたし、めでたしです。 - ひとまねこざる H・A・レイ作/光吉夏弥訳 岩波書店 1954年 (幼児から)
古典中の古典です。今読み返しても、全く古びていません。きっと、時代がうつっても、幼い子どもの本質は変わらないからでしょう。おさるのジョージは、知りたがり屋であることも含め、前へ前へと行動する姿が、幼児の姿と重なります。子どもは自分がジョージになっていっしょに冒険することができる、そんなふうに描かれているのです。
ぞうの大きな耳の下で寝る!バスの屋根に乗って町を走る!部屋中にペンキで絵を描く!大人たちはそんな夢を忘れがちですが、ジョージはやります。子どもはどんなにか嬉しいことでしょう。いつもジョージを許す大人たちの表情も暖かです。よく見ると、ジョージも他の人物も、みな、いつも口もとが笑っています。
ジョージは失敗してけがもするし、入院もしますが(救急車に乗れるなんて、なんてすてきなんだろう!)、それもこれも含めて、人生は愉しいと感じさせてくれます。幼い子どもには、この肯定感は、とても大切です。
最近の幼児向きの絵本と比べると、ページ数が多く、読むのに時間がかかります。それだけに読後の充実感があります。そして明るいユーモアに彩られているので、読み手も子どもも疲れません。 - つないでつないで 福地伸夫作 福音館書店 2018年 (赤ちゃんから)
「こどものとも012」のシリーズですが、幼稚園の5歳児と学童保育(小学1年生から6年生まで)で、読みました。このシリーズには、たまに、大きな子どもも楽しめる作品があります。
初めの見開きのページで、左からくろねこ、右からしろねこが、「てをつなぎましょう」といって現れます。次の見開きページで、「はい、つなぎましょう」と、二匹は手をつなぎます。あとは、ねこが右から現れては手をつないで増えていくだけの展開です。
同じ言葉のくりかえしのリズムが楽しく、子どもたちは自然に口にします。いつも「はい、」と肯定して、決してほかのことはいいません。だから、読み手も聞き手も、とても穏やかな気持ちになります。もしも物理的に可能ならば、最後にみんなで手をつないで、大きな輪を作りたいです。
ねこたちの顔の表情はよく似ているのですが、からだの表現がさまざまで、リズム感があります。 - まなぶ 長倉洋海 アリス館 2018年 (中学年から)
写真家長倉洋海さんの写真絵本、最新刊です。
題の通り、世界じゅうの子どもの学ぶ姿が映し出されます。キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、カンボジア、スリランカ、日本・・・。子どもたちの瞳の深さ、笑顔の明るさは、背景の景色が違ってもみな同じです。そして、その背景が子どもたちを見守り育てているのだということを、これらの写真は感じさせてくれます。子どもと、子どもの生きる場所への、作者の愛を感じるのです。
「自分の道を見つけるために、人はまなぶ。まわりのみんなとはちがう「自分だけの道」。ほかの人とぶつかったり、競争しなくてもいい、きみだけの道が、そのまなびの先にある」
この作者の言葉は、子どもたちへ贈られたものですが、子どもたちの姿に浄化された大人にとっても、たいせつなものとして受けとめることができます。 - つくえはつくえ 五味太郎 偕成社 2018年 (低学年から)
作者の最新刊。主人公は男の子。
机の上が山のようになっていて、「せまいきがする」といったら、お父さんが、「きがするんじゃない。せまいのだ。ひろいつくえをつくってやろう!」といって、大工道具を出してきて、ひろーい机を作ってくれました。見開き2ページ分の広さです。男の子が左のページの上の方にちょこんといて「ちょっとひろすぎ」といっています。
そこへ、友だちが、ひとり、ふたりとやって来て、机の上で遊びだします。野球、なわとび、スケートボード・・・ページをめくるたびにどんどん子どもが増えていきます。ラジコン、カラオケ、トランプ、そのうち、絵でいっぱいになって、「もうもじもはいらなくなってきました」という文字を探さなくてはなりません。とうとう、「あ、あ、あ」「おちたようなきがする」「きがするんじゃない おちたのだ」
そこでお父さんは、広すぎない狭すぎない机を作ってくれました。
ちょうどいい机、わたしも欲しいなあと思いながら読みました。 - じかんだよー! さいとうしのぶ 白泉社 2018年 (幼児から)
『あっちゃんあがつく』『おべんとうばこのうた』の作者の最新刊です。
どこにでもある台所。瓶やオーブンやなべやら、ぎっしりとあるべき所におさまっています。白いまるいお皿の上で、プチトマトが「もうすぐじかんだよー!しゅうごう!」と叫びます。すると、オーブンの中からハンバーグが「やけたよー!」と、元気いっぱい飛び出してきます。フライパンからオムライスが出てきます。ボールからちぎったレタスと輪切りのきゅうり。みんなお皿に乗ります。もう一人足りない。
プチトマトがさがしに行くと・・・ピーマン、アジ、ちくわ、れんこん、マッシュルーム、ウインナー、アスパラ・・・つぎつぎと小麦粉のバットに飛びこんで、つぎは卵のボールにつかって、パン粉の中で転がって、フライヤーの中にじゅん。フライヤーから「おまたせー」とエビフライが飛びだしました。冷蔵庫からプリンとケチャップとオレンジジュースが飛びだしました。プリンは旗を持っています。
はい、お子様ランチの時間だったのです。
ひたすら、明るく楽しい食べ物の絵本です。 - どしゃぶり おーなり由子文/はたこうしろう絵 講談社 2018年 (幼児から)
「あっついなあ! じめんが あつあつ! あっつ あつ!」のページから始まります。
ふつうの家のふつうの男の子の夏の日の日常を切りとっています。
黒い雲の近づいてきて、いきなり雨が降りだします。
「そらのにおいがするぞ じめんのにおいもするぞ」
にわか雨が、幼い男の子の視線で驚きを持って表現されます。
茶色の地面に黄色い傘、グレーの空。真っ白の雨としぶき。 男の子は、雨の中を走って、跳んで、ずぶぬれになって雨と遊びます。
「あめさん ばいばい。 また きてね。」
ああ気持ちよかった。大人になってできなくなったささやかな日常の遊びを、本の中で体験できます。子どもには、ほんとうに体験させてあげたいです。 - 雨、あめ ピーター・スピア 評論社 1984年 (低学年から)
雨が降りだしたので、姉弟はレインコートを着て大きな傘をさして、散歩に出かけます。雨の日は見慣れたものがいつもと違った顔を見せます。それはとても美しい顔です。
ハチの巣箱をのぞき、洗濯物の下を通り、土の道を歩き、電線にとまっている鳥たちを見上げます。雨樋から落ちてくる雨を手で受け、傘で受け、傘を逆さにして受けます。くもの巣にかかった雨粒。自動車の下で雨宿りする猫。
ずぶ濡れになって家に飛びこみ、お風呂に入って美味しいおやつ。室内での遊びや夕食や食後のテレビ。そのあいだにも外では雨が降っています。寝室の窓から見る夜の雨。
翌日はすっかり晴れて、さわやかな一日が始まりました。
この本には字がありません。だから、絵の隅々まで心ゆくまで楽しめます。 - ちょうちょのためにドアをあけよう ルース・クラウス文/モーリス・センダック絵/木坂涼訳 岩波書店 2018年 (低学年から)
『かいじゅうたちのいるところ』『まどのそとのそのまたむこう』などでおなじみのモーリス・センダックは、ルース・クラウスとのあいだに『あなはほるものおっこちるとこ』などの共著があります。この『ちょうちょのためにドアをあけよう』も、それらと同じナンセンス絵本、詩のような絵本です。小さな本なので、グループへの読み聞かせは難しいですが、こっそり楽しむのにちょうどよいてのひらサイズです。
「おおごえでうたううたを ひとつくらい おぼえておくといいよ ぎゃーって さけびたくなる ひの ために」とか「ワニとすれちがうときは まずそうな かおを するといいよ」とか「どうしても ねむりたくないときは ふねに のりこめー!っていってから ベッドにはいると ねむれるよ」とか、笑える深~い人生のアドヴァイスが続きます。
「おかあさんとおとうさんをつくるのは あかちゃん もしあかちゃんがうまれなければ ふたりはどっちも ただのひと」なんてすてきな視点でしょ。
最後のページにはこうあります。
「ものがたりの いちばんいいおわりかたは 「おうじさまとおひめさまは ずっとしあわせにくらしましたとさ。ねずみたちも いっしょにね」 - おたんじょうびおめでとう! パット・ハッチンス作/渡辺茂男訳 偕成社 1980年 (幼児から)
きょうはサム君のお誕生日です。歳がひとつ大きくなりました。それなのに小さなサム君は、自分で明かりをつけようにも壁スイッチに手が届きません。タンスの服にもお風呂の蛇口にも手が届かないので、自分で服を着られないし、自分で歯を磨くこともできない。せっかく両親からすてきなボートをプレゼントしてもらったのに、流しに手が届かないのでボートを浮かべることができません。郵便屋さんがおじいちゃんからのプレゼントを届けてくれたのですが、取っ手に手が届かず、自分でドアを開けることもできないのです。
幼い子の「自分で!」という自立心をどうやって育めばいいでしょうか。大人は「まだ無理よ」といって、その芽を積んでしまいがちです。ところが、ハッチンスは、こうすればいいんですよと、教えてくれます。郵便屋さんが持ってきたおじいちゃんからのプレゼントは何だったと思いますか。おじいちゃん、ナイスジョブ!
同じ作者の『ティッチ』『ぶかぶかティッチ』も幼い子の心理をうまくとらえています。 - ばったくん 五味太郎 福音館書店 1989年 (幼児から)
かわいくてユーモラスでリズミカルなおはなしです。ばったくんがお散歩に出て、家の中にとびこんでしまいます。テーブルのお皿の上を滑ったり、テレビにこつんとぶつかったり、ピアノの鍵盤の上を飛んでいったり、ゴミ箱の中に入ったり、工作のりの上に飛び乗ってしまったり。小さなばったくんでも、それなりに冒険があるのです。
「ばったくん おさんぽ まだまだ つづきます」といいつつ、次のページをめくると・・・あらまあ!
この季節、小さな子どもから小学生まで楽しめる本です。 - ごきげんななめのてんとうむし エリック=カール作/もりひさし訳 偕成社 1980年 (低学年から)
夜、ホタルがお月さまの明かりで踊っていました。朝五時、お日さまがのぼってきました。左から機嫌のよいテントウムシが、右からご機嫌ななめのテントウムシが飛んできました。ご機嫌ななめのテントウムシは、けんかをふっかけます。でもあまり自信がないので、「おまえじゃ小さすぎるな」と意地を張って、もっと大きな敵を探しに飛んでいきます。すると、蜂、クワガタ、カマキリ、・・・と、どんどん大きない相手に出会います。
各ページの上には、テントウムシが他の生きものと出会った時間を示す時計が書かれています。文章の文字は、相手が大きくなるにしたがってどんどん大きくなります。何だか迫力があります。
とうとう最後に、クジラに出会います。テントウムシは45分かかってくじらのしっぽまで行き着きます。すると、しっぽが・・・!
エリック・カールといえば『はらぺこあおむし』が有名ですね。『ごきげんななめのてんとうむし』も同じようにカラフルな、仕掛けのある楽しい絵本です。 - バスていよいしょ 重松彌佐作/西村繁男絵 童心社 2017年(幼児から)
小学生のしんごくんは、お隣の大邸宅の前にあるバス停を自分の家の前に持っていこうと引っ張ります。コンクリートの重しがあるので重くてなかなか動きません。そこへ「えっさ、えっさ」と駕籠屋さんがやって来ます。事情を聞いて駕籠屋さんたちは笑っていってしまいました。でも、なぜ駕籠屋さん?
その後からきたのは浪人者。お姫様。なぜか江戸時代とこんがらがっています。しまいに大名行列が来て、おとのさまは、なぜしんんごくんがバス停を移動させようとしているのかを聞くと、「よかろう」と、家来たちに命じて、バス停を動かしてくれました。
しんごくんの理由は何だったでしょう。これは夏の風物詩のはなしです。 - うたってくださいことりさん 五味太郎 偕成社 2002年 (幼児から)
五味太郎の作品は、あんがい幼児に難しかったりするのですが、これはいけます。
小鳥が歌うと、花が咲きます。みんなワクワク楽しくなるのです。小鳥が歌うと、ぐったりしている猫も元気になります。しゃきっ。ブランコでけんかしているブタたちもにこにこ仲良くなります。などなど。
こんな小鳥が、あなたのところにも来ましたよ。
心が温かくなって、疲れたおとなはちょっとうれし涙がにじむかもしれません。 - だいすき 田島征三 偕成社 1997年 (幼児から)
おそろいの黄色い帽子に黄色いかばんの男の子と女の子。幼稚園児でしょうね。肩をくんでにこにこ笑っている表紙から始まります。見開き一面に、筆で、いろんな色いろんな大きさの「だいすき」が書かれています。
頁を繰っていくと、文章は、どのページも「だいすき」だけ。ミニトマトがふたつ、絡まっています。魚が二匹、ぴたっとお腹を合わせています。白鳥が長い首を絡ませています。みんな、みんな、「だいすき」をからだであらわしています。
タコの「だいすき」はたいへんです(笑) - しろさんとちびねこ エリシャ・クーパー作 椎名かおる訳 あすなろ書房 2017年 (幼児から)
白地に黒の素朴な線で描かれています。
ひとりで暮らしている白猫のところに、ちびの黒猫がやって来ます。白猫は黒猫に、かしこい猫のすることを教えます。食べる、飲む、トイレなどなど。幸せな時がたち、黒猫は成長して白猫と同じ大きさになります。さらに時がたち、白猫がいなくなります。
悲しくてどうしようもない黒猫のところに、ちびの白猫がやって来ます、黒猫は、かつて教わったのと同じように、ちびねこに、賢い猫のすることを教えます。
命のつながり。
二匹の猫が抱き合って眠っている場面(3カ所)だけ、地の色が温かなクリーム色。白猫がいなくなった場面(1箇所)は灰色。
地味だし、難しいテーマのはずなのに、子どもたちは、もういちど読んでとアンコールしました。図書館のお話会、3歳から8歳の子どもたちでした。 - いちにち ハイディ・ゴーネル えくにかおり訳 PRCO出版局 1992年 (低学年から)
女の子のなんでもない一日が描かれます。
早起きして、服を着て、朝ごはんをたっぷり食べて・・・。色画用紙を切り抜いてはったような絵で、くっきりとした絵です。よくある日常ですが、バスで学校へ行ったり、ヴァイオリンの授業があったり、お昼休みは給食ではなくてベンチでパンを食べたりと、文化の違いが感じられます。家に帰ってからは友だちとバスケットやかくれんぼで遊び、夜には犬のえさをやり、夜ご飯の後はテレビを見たり本を読んだり。宿題をして日記を書いて寝る。
きちんとした日常は、平和だからすごすことができる。
ゲームの時間がないのがいいなあ。 - ぼく・わたし 高畠那生 絵本館 2003年 (中学年から)
見開きの右ページに「ぼく、べんきょうはとくいじゃないけれど」と、男の子がノートの上にひじをつき、スツールに片足上げてつまらなそうな顔で、遠くを見ています。ノートの横にはおそらく算数と国語と思われる教科書が開かれています。同じ机の上に、鉛筆が二本と消しゴムが直立しています。
左ページには、「かみひこうきはとくい。」。同じ部屋の中、同じ机の前で、男の子は笑顔で紙飛行機を飛ばしています。右ページでは気付かなかったくず入れが、左ページでは大きく描かれ、中に紙飛行機がふたつ、そばには四つ落ちています。飛んでいるのも置いてあるのも手に持っているのも、紙飛行機はあちこちの方向を向いています。鉛筆と消しゴムは倒れ、算数の教科書は閉じられています。
このようなページ構成で、「ぼくむしにさされるのはだいきらい。」=「でも、ちゅうしゃはがまんできる。」とか、「ぼく、ちょっときがよわい。」=「でも、こたえはしってるんだ」とか、人には不得手なものと得意なものがあって当然だと主張しています。
最後のページは、登場した子どもたちがみんないっしょにジェットコースターに乗っている場面です。
子どもの健やかな心の成長に欠かせないのは、自己肯定感。親子で読んでほしいなと思う本です。 - しろいかみ 谷内つねお作/西山悦子撮影/福音館書店 2018年 (赤ちゃんから)
『こどものとも0,1,2』の2018年2月号です。
背景は、はっきりした一色。その上に白い紙が置かれています。紙は、「くる」と丸まり、「くるくる」と丸まります。「ぎこ」と折れ曲がり、「ぎこぎこ」と折れ曲がります。影があるので、ほんとうにつかめそうです。一枚の紙が、単純だけれど自由自在に変形します。
2歳から4歳に読みましたが、ごく当たり前のことに、こんなに子どもは驚きを感じ喜ぶのかと、目を見張ります。 - ウメ・モモ・サクラ 赤木かん子作/藤井英美写真/新樹社 2016年 (低学年から)
科学絵本です。わたしたちは、ふつう、梅の実と桃の実とサクランボの区別はつきますね。でも、葉っぱだけ並べてみて、どれがどれか分かりますか?冬になって葉っぱも落ちて裸になった木を見て、どれがどれか言い当てられますか?
どこがどう違うのか、花のつき方やおしべめしべのつき方まで、写真でわかりやすく説明してくれています。
ところで、この3種は、みな同じバラ目バラ科の木です。へえ、バラなんだと思われるかもしれません。じゃあ、うちの庭に咲いているバラとどこが同じなんでしょうって、調べてみたくなりませんか?
身近なところに知らないことがいっぱいあります。知るのはおもしろいです。 - 空の飛びかた ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/関口裕昭訳/光村教育図書 2009年 (高学年から)
語り手「わたし」は中年の男性です。わたしは、歩いているとペンギンに会いました。ペンギンは、「空から落っこちたんだよ」といいます。
ペンギンは、鳥になりきれば飛べると思って飛んだんだけど、飛んでる最中にほかの飛んでいる鳥に出会ったとたん、自分は飛ぶようにはできていないなと不安になった。で、墜落したというのです。
かわいそうになったわたしは、ペンギンと暮らしはじめます。そして、ペンギンが飛べるように、奇想天外な方法を次つぎと試します。そのリアルな絵がとにかく笑えてしまうのです。
ある日、ペンギンの群れが頭上を飛んでいくのを見つけます。すると彼のペンギンはエイっとジャンプして・・・
さて、飛べたでしょうか? - はなを くんくん ルース・クラウス文/マーク・サイモント絵/きじまはじめ訳/福音館書店 1967年 (幼児から)
雪の降り積もる森の中。白黒モノトーンで雪原と、冬眠中の動物たちが描かれます。地面の下、石の間で眠っているのは野ネズミです。岩あなで眠っているのはクマ、木の洞にはかたつむりが眠っています。りすは木の中で、山ネズミは地面の下で。
いきなり動物たちは目を覚まし、雪の中を走りだします。
のねずみが鼻をクンクン。くまが鼻をクンクン。みんなみんな走りだします。
そして、ある地点でいっせいに立ちどまり、笑い、おどりだします。
最後のページのまんなかに、黄色い花が描かれ、動物たちは喜びにあふれた目で見つめています。心なしか、描かれている雪も、春の雪に見えてきます。 - てぶくろ エウゲーニー・M・ラチョフ絵/うちだりさこ訳/福音館書店 1965年 (幼児から)
ウクライナの昔話です。昔話絵本ではピカイチです。ラチョフはこの絵本を描いた後、違った絵柄で描き直していて、日本では2003年に田中潔訳で出版されています。新しいほうもおしゃれですが、古いほうが読者にはなじみがあり、また、昔話らしい雰囲気があるように思います。
おじいさんが森の中に落としていった手袋。ねずみが駆けてきて、「ここでくらすことにするわ」といって、はしご付きの家にします。そこへ、蛙がやって来ていっしょに暮らしはじめると、うさぎやきつねやおおかみやいのししもやって来て手袋の中で暮らしはじめます。
てぶくろにバルコニーがつき、ドアがつき、窓が付き、呼び鈴が付き。細部まで楽しめます。ウクライナの民族衣装も興味深いです。
最後にクマがやって来て、さて、手袋はどうなったでしょう? - ゆきのうえのあしあと ウォン・ハーバート・イー作/福本友美子訳/ひさかたチャイルド 2008年 (低学年から)
雪が降り積もり、女の子がそりすべりをしているところからページが始まります。大きな雪だるまも作っています。ひとりきりなのですが、それでも雪遊びの楽しさが満載です。
女の子は雪の上に足跡を見つけます。誰の足跡だろうと、あとをつけて行きます。足跡はどこまでもどこまでも続きます。いろんな動物がいますが、どれの足跡でもありません。また雪が降りだし、寒くなって帰ろうと思っていると、足跡はお家に向かって続いています!さて、だれの足跡だったでしょう。
幼児からでも楽しめるかもしれませんが、オチがちょっと分かりづらいです。 - サンカクさん マック・バーネット文/ジョン・クラッセン絵/長谷川義史訳/クレヨンハウス 2017年 (幼児から)
表紙のサンカクさんの目を見ただけで、はっと思いだす人は多いでしょう。『どこいったん』のジョン・クラッセンの絵です。
サンカクさんの家は三角で、建物?も、山?も、何もかも三角です。サンカクさんは、シカクに悪さをしにでかけます。すると、風景がどんどん変化します。「あーしんど」といいながらもどんどん行くと、山?も、建物?も四角い場所に到着します。シカクの家の入り口でサンカクさんは悪さをします。どんな悪さかって? それは読んでのお楽しみ。
怒ったシカクは、仕返しをしようと、サンカクさんといっしょにサンカクさんの家に向かいます。さて、どんな仕返しをしたのでしょう?
読後は、サンカクさんとシカクさん、ほんまはえらい仲ええねんなと笑うてしまいますねん。 - ねむるまえにクマは フィリップ・C・ステッド文/エリン・E・ステッド絵/青山南訳/光村教育図書 2012年 (低学年から)
「冬がちかづいてきて、クマはねむくなってきました。」と、物語は始まります。丸太にこしかけたクマは、ほんとうに眠そうです。でも、冬眠に入る前に、みんなに話したいことがありました。それで、友だちを次つぎと呼びとめます。ねずみ、かも、かえる、でもみんな冬支度に大忙しで、クマの話なんて聞いていられません。もぐらなんて、もう冬眠していました。雪が降りはじめ、クマはあきらめてあなにもぐって眠ってしまいました。
何か月かして春になりました。クマはみんなを起こして回りました。そしてみんなを集めて話をしようと思いました。みんな楽しみに待っています。が、思いだせない…
『エイモスさんがかぜをひくと』と同じ作者のゆったり温かな絵本です。 - だんだんやまのそりすべり あまんきみこ作/西村繁男絵/福音館書店 2002年 (低学年から)
いずみちゃんは友だちとみんなで、だんだん山にそりすべりに行きます。でもこわくてすべれない。みんなが、「いっちゃーん」って呼んでも、ひとり山の上で待っています。すると、山の反対のほうからも、「いっちゃーん」と呼ぶ声がします。見ると、そばに、やっぱりこわくてすべれない狐の男の子がいました。一郎という名前だからいっちゃんです。
ふたりのいっちゃんは、勇気を出して一緒に滑ってみることにします。
真っ白な画面にたくさんのそりが思い思いにすべっているのが見えます。人間も動物もいっしょになってすべっている様子が楽しいです。
雪が降ると、かならずお話会で読みます。 - サイモンは、ねこである。 ガリア・バーンスタイン作/なかがわちひろ訳/あすなろ書房 2017年 (低学年から)
表紙にはいかにも気の強そうな猫がでんとすわっています。この目ぢからのあるサイモンが、「こんにちは。ぼく、サイモンです。ぼくたち、にてますね」と声をかけてきます。子どもたちは、「え~っ、似てない」と言って笑いますが、ページをめくると、ライオン、チータ、ピューマ、クロヒョウ、トラが、やっぱり驚いて大笑いします。そして、サイモンをばかにします。サイモンはがっかりです。
でも、実は、似ているのです。ライオンたちは考えます。「みんな耳はいいよな」「りっぱなひげと、長いしっぽ」「鋭い歯、とがったつめ」「暗闇でもよく見える大きな目」。
サイモンが「それぜんぶ、ぼくも持ってます。ちっちゃいですけど!」というと、みんなは、自分たちがネコの仲間だったことに気がつきます。そして、みんなでネコらしくじゃれあって、一日じゅうなかよく遊びました。
こんなに楽しい動物絵本。みなさんもどうぞ。 - どうぶつのおかあさん 小森厚文/薮内正幸絵/福音館書店 1977年 (赤ちゃんから)
子どもは赤ちゃんにとても興味を持ちます。お母さんに抱っこされている赤ちゃんやお父さんにおんぶされている赤ちゃん。では、動物の赤ちゃんたちはどんなふうに抱っこされているのでしょう。
ネコ。お母さんねこは、子どもをくわえて運びます。ライオンも口にくわえて運びます。くわえられている赤ちゃんのかわいらしいこと!
さるは、お母さんのお腹にしがみついています。チンパンジーは抱っこ。コアラは、おんぶです。では、なまけものは?カンガルーは、もちろん、分かりますよね。では像は?シマウマは?イノシシ、ハリネズミ。親の後から自分の足でついて歩くのは、早く自立するからでしょうか?人間の子どもがいちばん親とくっついているようです。
あたたかな動物絵本です。 - こねてのばして ヨシタケシンスケ作/ブロンズ新社 2017年 (幼児から)
待ってました! ヨシタケシンスケの新作。2歳半の孫が、「りんごと同じ!」とさけんだそうな。そう、『りんごかもしれない』の作者です。ばあちゃんは『もうぬげない』と『あるかしら書店』にバカ受けしました(笑)
やわらかであたたかなのびやかな人物(?)たち。
朝がきて、起きて、着替えて、用意して。これはどうみてもパン作りです。う~ん、うどんかもしれない。彼はひたすら、こねてのばしてまたこねて、こねてのばして・・・・。
つついて、つまんで、おしつけて・・・すわらせて、おどって、・・・・
いったい、なにができるのでしょう? ああ、もうこれ以上は書きません。読んでください。孫は最後で大笑いしたそうです。わたしは、「あやまって」のところでいっちばん笑いました。 - クリスマスのちいさなおくりもの アリスン・アトリー作/上條由美子訳/山内ふじ江絵 福音館書店 2006年 (低学年)
アリスン・アトリーは、1884年にイギリスのダービシャーの農場に生まれます。アトリーの作品は、野原や森が舞台で、うさぎや野ネズミなどの小さな動物たちが物語を作っています。この物語は1970年に書かれたものです。
クリスマス・イブなのに、お母さんが病気で入院しているので、お父さんとふたりの子どもは、クリスマスの飾りつけもせずに寝てしまいました。夜中の11時になると、ネズミたちがネコのおかみさんに、どうして飾りがないのかと文句を言います。そこで、ネコとたくさんのネズミたちと、一匹のクモが、飾りつけをして、ミンスパイを焼き、ケーキを焼き、みんなのくつ下をつるします。
そこへ、もちろん! サンタクロースがやって来ます。サンタクロースは、ネコやネズミやクモにもプレゼントをくれました。ネコには真っ赤な房飾りのついた首飾り、クモにはルビーの冠、ネズミたちにはダイヤモンド(もしかしたらまほうのつゆ)。
おはなしにぴったりの、やさしいかわいい絵です。 - カイとカイサのぼうけん エルサ・ベスコフ作/まつむらゆうこ訳 福音館書店 2016年(低学年)
原作は1923年に出版されています。ベスコフといえば、『ペレのあたらしいふく』『ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん』がおなじみですね。スウェーデンの絵本作家です。
カイとカイサは兄妹で、森の奥の家に両親と住んでいます。ある日、倒れた枯れ木にまたがって遊んでいるとき、ふと、枯れ木に壊れた傘を打ち付けて、「枯れ木ドラゴン」にして遊び始めました。すると、オークの木にすんでいるトムテが魔法をかけて、生きているドラゴンにしてしまったのです。ふたりはドラゴンに乗って、おはなしの国へ冒険に出かけます。
ふたりはおひめさまと騎士を救いだします。
行きて帰りし物語です。 - きのうえのおうちへようこそ! ドロシア・ウォーレン・フォックス作/おびかゆうこ訳 偕成社 2017年 (低学年)
10月に出たばかりの本です。原作は1966年にアメリカ合衆国で出版されました。
年配女性のツイグリーさんは、人とつき合うのが苦手で、木の上の家で犬のニャンコとふたりで暮らしています。ときどき、くまたちもやって来て、好きなことだけして楽しく生きています。買い物も、ニャンコがやってくれます。町の人たちは、ツイグリーさんを変わり者だといって、困った人だと思っています。とうとう市町の奥さんがツイグリーさんを追いはらってしまおうといいだしました。
ところがある日、大洪水が起こります。町の人たちや動物が、どんどん流されていくのですが、それを見たツイグリーさんは、なんとかして助けようと大活躍します。
暖かく懐かしい絵です。 - しおちゃんとこしょうちゃん ルース・エインズワース作 こうもとさちこ訳・絵 福音館書店 1993年 (幼児から)
ストーリーテリングで語られることもよくあるおはなしです。かわいいかわいい子ねこたちと、やわらかで愛情あふれるお母さんねこのタビ―夫人が、あたたかなタッチで描かれています。
しおちゃんとこしょうちゃんは、どちらが高くまで登れるか競争しようと、庭のもみの木に登っていきます。「うちよりも高い木」が、素話では想像しきれないほどの高さで描かれています。
下りられなくなったしおちゃんとこしょうちゃんは、カッコウに助けてもらおうとしますが、カッコウは飛んでいってしまいます。つぎに飛行機に呼びかけますが、やはり飛んでいってしまいます。夜の風に頼んでもだめ。子どもの好む三回のくりかえしのなかで、不安と寂しさがつのっていきます。
暗い木の下で動くふたつの緑色の光。不安が頂点に達したとき、やさしいおかあさんの姿と声が現れます。緑色の光はお母さんの目の色でした。ぶじ自分たちのかごの中にもどり、のどをごろごろ鳴らして、三匹はねむりました。行きて帰りし物語です。 - くまさんどこ? ジョナサン・ベントレー 林木林訳 講談社 2016年 (小学校低学年から)
大事なくまがいなくなります。男の子は家じゅう探し、庭も探しますが、どうしても見つかりません。絵本を見ている者には、くまが見えています。だから、ドアの向こうからのぞいているくまやテーブルの下にいるくまのおしりを指さして、「ほら、あそこにいるのに!」と笑います。ここまでは、幼児向きの絵本だなと思うのですが、ところがどっこい。男の子が見つけたのは・・・。みんな、すっかりだまされて大笑いします。
男の子が正面を向いて「ねえ、くまさん みなかった?」と訊いたり、聞き手をまきこんで楽しむ絵本です。 - バナナのはなし 伊沢尚子文 及川賢治絵 福音館書店 2013年 (小学校低学年から)
2009年に「かがくのとも」として発行されました。
バナナを冷蔵庫で冷やすと黒くなります。なぜだか知っていますか?傷をつけると黒くなるのと同じで、バナナに含まれるタンニンのせいなのです。皮が黒くなっても、腐っているのではないので食べられます。この性質を利用して、バナナの皮につまようじで字や絵をかいて遊ぶことができます。
バナナは産地から出荷されるときはまだ緑色で渋くて固くておいしくない。では、どんなふうになったときが食べごろか知っていますか?
バナナはどうやって増えるか知っていますか?バナナの種はどこにある?などなど、子どもたちの好きなバナナの秘密がいっぱい詰まった本です。 - いろいろいっぱい ニコラ・デイビス文 エミリー・サットン絵 越智典子訳 ゴブリン書房 2017年 (小学校中学年から)
副題が「ちきゅうのさまざまないきもの」
科学絵本。術語は難しいですが、ひらがなが多用してあるので、興味のある子どもなら低学年でも読めます。
「ちきゅうにはなんしゅるいのいきものがいるとおもう?」との問いかけから始まります。「ひとつ」「ふたつ」「みっつ」と数えていって、「いっぱい!」
虫、花、象といった子どもの好きな物が描かれ、つぎには多種多様なきのこ。そして微生物。大きさの多様性を教えたあとは、棲家の多様性。砂漠、島。鳥の羽のすきま。それからつぎは、種類の多様性。見た目が違うのに種類は同じだったり、見た目がそっくりなのに違う種類だったり。
「すべての生きものが複雑にからみあってひとつの大きくて美しい模様を織りあげているようだ」という説明(主張)とこまやかな素朴な絵とがマッチしています。
そして、人間がこの模様をこわしている、人間もこの模様がないと生きられないのに。
同じ作者たちの『ちいさなちいさな めにみえないびせいぶつのせかい』もおすすめです。 - フワフワ おおなり修司文 高畠那生絵 絵本館 2017年 (幼児から)
なぜかダチョウが群れをなして走っています。するとその羽がとんでフワフワ。カバが大きな鼻で羽を吸い込んで、ハックション。びっくりしたダチョウが、ダチョーと走っていくと、ワニやライオンが池に浸かっています。ダチョウがダダダダダー!と走りぬけたひょうしに、ライオンのたてがみがふわっと飛んでしまいます。なんと、かつらだったのだ?かつらがまたフワフワ飛んでいって、池に浸かっているかピパラ(?)の頭に乗っかります。
何とも言えないナンセンス絵本です。ダチョウの表情に大笑いすること請け合いです。 - うし 内田麟太郎詩 高畠純絵 アリス館 2017年 (小学校低学年から)
こども文学の実験『ざわざわ』第2号所収の詩「うし」を絵本にしたものです。
ただ牛がつぎつぎつぎと並んでいるだけなのですが。なんともきまじめで、しかも飄々とした牛の表情がユーモラスで、笑えてきます。詩のことばと、スタンプのように並ぶ絵が絶妙にコラボしています。ナンセンス詩を絵本にするのって独特の感性がいるんでしょうね。
子どもたちは、確実につぎを予想して、大笑いします。最後のページ、私は予想が外れたけれど、子どもたちは、ぴたりと当てました。さすが! - ちいさなねこ 石井桃子文 横内襄絵 福音館書店1963年 (幼児から)
ちょっとした猫ブームです。猫の絵本といえばこれ。50年以上も前に作られた本ですが、子どもたちをひきつけてやみません。古典中の古典です。
最初のページは、見開きで、広い部屋の畳の上に小さな猫がしっぽを振って座っています。何気なく外を見ている様子。いまにも外へ飛び出しそうな表情です。
「ちいさなねこ、おおきなへやに ちいさなねこ。」
石井桃子の文章は的確です。美しい文章というのは、正確な文章のことだと思わせてくれます。
あんのじょう、猫は縁側からおりて走りだしました。子どもにつかまったり、自動車に引かれそうになったり、大きな犬に追いかけられたり。犬に追いつめられて木の上に登りますが、下りられません。
でも、だいじょうぶ。お母さん猫が、子ねこの声を聞いて探しに来ます。お母さん猫の表情の頼もしいこと。
最後のページでは、子ねこがおかあさんのおっぱいをのんでいます。幼い子には、冒険と帰還の物語、つまり「行きて帰りし物語」がぴったりなのです - 100まんびきのねこ ワンダ・ガアグ作 石井桃子訳 福音館書店 1961年 (幼児から)
これも猫の本です。白黒画法の絵ですが、デフォルメされた雲や木や花は、自由に色を想像することができ、むしろカラフルにさえ感じさせます。
おじいさんとおばあさんは、ふたりきりで暮らしていて、とても寂しいのです。それで、猫が一匹いればいいなあと話しあいます。おじいさんは、丘を越え、谷を越えて、猫をさがしにでかけました。
とうとう、どこもここも猫でいっぱいの丘にやってきました。白い猫、灰色の猫、白黒の猫、茶色の猫・・・どれもこれもかわいくて、おじいさんは選びきれません。とうとうぜんぶ連れて帰ることにしましたが・・・。
ひゃっぴきのねこ
せんびきのねこ
ひゃくまんびき、一おく 一ちょうひきの ねこ
こり返しのリズムがここちよく、行列は進みます。ところが、家に帰ると、おばあさんが、「こんなにたくさんのねこに、ごはんはやれません」といいます。そこで、一兆匹の猫たちはけんかを始めます。
最後に残ったのは、どんな猫だったでしょうか。 - せいめいのれきし 改訂版 バージニア・リー・バートン作 石井桃子訳 2015年 (小学中学年から)
1964年に出版された『せいめいのれきし』が51年たって改訂されました。
地球が46億年前に誕生してから現在までの生命の歴史を、ステージに移された映像で見せるというかたちで、ページが進みます。写実的な絵ではないのですが、地中の様子や海底の様子が、とてもリアルに感じられます。
大きなグループへの読み聞かせには向きませんが、かがみこんでじっくりと読ませたい本です。科学的な探求心を満足させてくれるでしょう。
科学の研究が進むにつれて、地球上の生命の歴史に新たな発見がつぎつぎと出てきます。改訂版の監修者真鍋真(まなべまこと)さんは、国立科学博物館で、化石から生命の進化を読み解く研究をしています。初版と改訂版を読み比べるのも面白いですよ。 - しゅっぱつしんこう! 山本忠敬・作 福音館書店 1984年 (幼児から)
電車絵本のピカイチです。
みなさんは、特急列車「はつかり」に乗ったことはありますか。東京と東北・北海道をつなぎ、1958年から、2002年に東北新幹線が八戸まで延伸したときまで走っていました。だから、今の子どもたちはもう見たことがない列車です。
『しゅっぱつしんこう!』は、みよちゃんがおかあさんといっしょに、はつかりに乗って出発、急行列車に乗り換え、普通電車に乗り換えて、おじいさんの家の最寄り駅まで行く、その行程を描いています。
古い知らない列車が書かれているのに、子どもたちに大人気で増刷を続けている、その魅力は、手に取ればすぐに分かります。列車の正確な描写は生命感にあふれています。そして、流れていく風景の、あくまでも背景でありながら、その美しさ。おとなにはノスタルジーを呼び起こしますが、子どもにとっては風土の生命を吹きこんでくれるのではないかと感じます。走る列車への作者の愛を感じます。
やまもとただよしさんは、乗り物絵本の作家として有名です。『しょうぼうじどうしゃじぷた』『とらっく とらっく とらっく』『のろまなろーらー』などなど。子どもたちは、主人公といっしょに走ります。 - セミがうまれるよ あかぎかんこ・作 きたじまひでお・写真 埼玉福祉会 2017年 (幼児から)
新しく出版された本です。セミの幼虫が成虫になるまでの成長の様子が、大きな写真とわかりやすい言葉で描かれています。科学的な正確さから考えると、小学生向きかとも思いますが、わかりやすさと、幼い子の探求心にきちんと応えていることから、幼児からとしました。
みなさんは、セミの雄と雌の見分け方を知っていますか?なんと、飛んでいった後の抜け殻から判断できるのですって。
昆虫は、子どもにとっての身近な生命です。おとなは毛嫌いせずに、子どもに、他の生命との出会いを用意してやりたいものです。 - 川はどこからながれてくるの トマス=ロッカー・作 みのうらまりこ・訳 偕成社 1992年 (低学年から)
まるでターナーの絵のような美しい風景の中を、おじいさんとふたりの孫が、川の源流を求めて旅立ちます。川を渡り、水浴びをし、キャンプをしながら、自然の中を歩いていきます。高原の小さな池が源流でした。少しずつ湧き出て流れ出した水が、次第に大きな川になっていたのです。
三人は、流れとともに帰りの旅につきます。夕暮れのあわい光の中に、両親の待つ家の窓の灯りが見えました。 - マロンちゃん カレーつくってみよう! 西村敏雄作 文溪堂 2017年 (低学年から)
マロンちゃんは犬です。飼い主(家族?)はオジーさんという名の紳士。マロンちゃんがオジーさんにサポートしてもらってカレーを作るというだけの話なんですが、子ども心をくすぐる楽しさです。
おなかがすいたのでお料理を作ろう、何作ろう、ハンバーグ、オムライス、からあげ。ね、子どもの好きな物ばかり。結局、そうだ、カレーにしよう。絵を見ている子どもたちも大きくうなずきます。
材料は何かな?定番なので、絵を見ながら大きな声でいいます。それからが楽しい。買い物に行くのです。肉屋、八百屋。パン屋、・・・。買ってきたのは、もちろんさっき大声でいったカレーの材料。と、牛乳、とろけるチーズ、スパゲッティ、うどん、マカロニ食パン菓子パン。気持ち、わかりますよねえ。
さて、カレーを作ります。材料を切るところから丁寧に描かれるので、リアリティがあります。だから、うれしい。お鍋にふたをして、歌って踊りながら待ちます。
ババ~ン! カレーのできあがり!
ご近所さんが集まってきますが、もうカレーライスはありません。どうなったと思いますか?さっきの無駄遣いは無駄ではなかったのです。カレーサンド、カレーグラタン、カレースパゲティ、カレーうどん、・・・ああおいしかった。
おっと、学童保育で読んだら、カレーうどんを知らない子がいましたよ。 - にんじゃ あまがえる 松井孝爾監修 ひさかたチャイルド 2006年 (幼児から)
子どもたちにとって、なじみの深いアマガエルの写真絵本です。
「せっしゃはにんじゃあまがえるでござる。きょうはわれわれあまがえるのすごいじゅつをたくさんみせるでござる」と、忍者言葉でアマガエルのふしぎを教えてくれます。その語り口調だけでも子どもは大よろこびです。
大人でも、カエルは保護色で身を守ることは知っていても、証拠写真を見せられると、う~んとうなってしまうし、透明のまぶたが下から閉まるのには、「へえ~」。
楽しく得した気分になる科学絵本です。 - プアー 長新太作、和田誠しあげ 福音館書店 2008年 (赤ちゃんから)
長新太さんが2005年に亡くなる前に描かれたラフスケッチが遺されました。それを和田誠さんが彩色して完成させた本です。以前に紹介した『わんわん にゃーにゃー』も同じようにして作られました。
犬が右向いて立ってるだけです。わんわん。
いきなり、しっぽがプアーとふくらみます。続いて耳がプアー。顔がプアー、鼻がプアー・・・。この発想、なにがなんだか(笑)。この魅力、幼い子を引きつける力はすごいです。おとなにはきっと分からない人もいると思います(笑)
犬のいっしょうけんめいな顔がすてきです。 - ブルーナの0歳からの本 第3集 どうぶつ ディック・ブルーナ 講談社 1997年 (赤ちゃんから)
わが子が生まれたとき、うさこちゃんシリーズをどかっと譲っていただきました。 ブルーナの絵は、まっすぐ子どもの目を見つめています。原色を使った、輪郭のはっきりしたとても分かりやすい絵です。ですから、サイズは小さいのですが、遠くからでも見つけてはいよってきます。
『ちいさいことり』や『ゆきのひのうさこちゃん』『うさこちゃんとうみ』などは、まだ経験しないものがたくさん出てきます。でも絵画としての魅力から、赤ちゃんでもじゅうぶん楽しめるでしょう。もちろん、雪を経験し、浜での遊びを経験すると、うさこちゃんと気持ちを合わせることができます。通りすがりの本ではない、ということですね。
今回は、ほんとうに赤ちゃん向きのじゃばら絵本をご紹介しました。 - おへそのあな 長谷川義史 BL出版 2006年 (幼児から)
まだ生まれていない赤ちゃんが、おかあさんのおへそのあなから、外をのぞいています。
お兄ちゃんやお姉ちゃん、おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん。みんな赤ちゃんが生まれてくるのが楽しみで、それぞれ準備しているのが、見えます、聞こえます、においます。
子どもたちに読むと、「うへ~」と、てれくさそうにします。でも、そのほころびきった顔は、嬉しくてしかたがないというようです。
どの子もこんなふうに迎えられるのだと気づいてくれるでしょう。 - なにをたべたかわかる? 長新太 絵本館 2003年 (低学年から)
気持ちのいい朝の海で、ねこが釣りをしています。すると、ものすごく大きな魚が釣れました。ねずみが後ろでびっくりして見ていると、なんとその魚が・・・!
子どもの好きな入れ子細工のストーリーです。そのナンセンスというか、ブラックユーモアがなんともいえず、絶妙!
いっしょに見ている大人もおおよろこびしてくれます。 - ゆきのひ エズラ・ジャック・キーツ作/木島始訳/偕成社 1969年 (幼児から)
以前紹介したピーターのシリーズです。このピーターがいちばん幼いかなと思います。
雪の中を赤いコートで出かけるピーター。コントラストが美しく、貼り絵がすばらしいです。
ピーターは大きい子どもたちの仲間入りはできません。でも、ひとりで精一杯雪を楽しみ、すばらしい時間を過ごします。雪の上にさまざまな足形をつけたり、天使の形を作ったり。わが子が小さかったとき、スキー場でピーターのまねをして遊びました。
ピーターは雪の玉をたいせつに持ってかえりますが、すっかり融けてしまいました。でも、つぎの日はもっとたくさん積もっていたのです。こんどは、友だちと遊びに出かけました。 - ゆき ユリ・シュルヴィッツ作/さくまゆみこ訳/あすなろ書房 1998年 (幼児から)
子どもはたいてい雪が好きです。雪があまり降らない地域の子どもは特に、雪に憧れます。そんな思いを美しい色をかさねて描いています。
初めは雪なんてふらないように見えます。ところが、一粒だけ、小さく小さく描かれます。少しずつ数が増えていきます。大人たちは雪なんてふらないといいますが、どんどん降ってきます。男の子は雪の町を踊って、走って、よろこびます。
マザーグースの登場人物たちもとびだして、ふしぎな世界があらわれます。 - おとなっていいなあ、こどもっていいなあ―はだかんぼうがふたり 奥田継夫文/関屋敏隆絵/サンリード 1979年 (低学年から)
以前、図書館のおはなし会で読んだ数日後、司書さんから質問がありました。
「年配の男性が、このあいだのおはなし会で読んでいた性教育の本の名前を教えてほしいといってこられました」と。しばらく考えて、ああこれだなと思い当たりました。
男の子が両親と銭湯に行くというだけの話です。商店街をぬけて、いつもの銭湯です。顔見知りの番台のおばさん、近所のお姉ちゃん、友達。母親が「きょうはどっちにはいるのん?」ときくと、ぼくは、「きまってるやん。男、男」と答えます。
お風呂の湯気とともに心までとけそうなリラックス感にあふれた絵本です。関西弁で書かれています。
銭湯から出ると、外では雪が降っていました。 「あしたつもるかなあ」 - とおいクリスマス えびなみつる 白泉社 1994年 (中学年から)
言葉はとても少ないのです。でも、人物のにこやかな表情がたくさんたくさん語っています。雪の降る情景も、バスの窓明かりも。そして、くっきりと浮かび上がる彼らの家の窓の灯りも。
お父さんとお兄ちゃんと弟が、うきうきとクリスマスのごちそうを作ります。ろうそくの明かりのもとで三人は食卓をかこみます。お母さんの写真もテーブルの上から参加しています。
雪がやみ、皆は外に出て大きな天体望遠鏡をセットします。
「あの星?」
「そう あの星!」
兄弟は庭にある大きなパラボラアンテナから電話をします。
「メリークリスマス もしもし おかあさん あのね・・・・・」
読んでいて涙ぐみそうになったとき、お母さんがどこにいるかわかります。
宇宙船の中なのです。かっこいい、お母さん。お母さんは宇宙飛行士です。 - エイモスさんがかぜをひくと フィリップ・C・ステッド作 エリン・E・ステッド絵 青山南訳 光村教育出版 2010年 (低学年から)
年配の飼育員のエイモスさんは、毎日バスに乗って動物園に出勤します。そして、ゾウとチェスをしたり、カメとかけっこしたり、サイにハンカチを貸してやったりと、動物の友だちとおだやかな日々をすごしています。
ある日、エイモスさんは風邪をひいて、園を休んでしまいました。動物たちは手持無沙汰でしようがありません。エイモスさんのことも心配です。とうとうみんなはバスに乗ってエイモスさんの家へお見舞いにでかけます。
写実的な絵なので、動物たちがバス停に並んでいるあたりから、子どもたち、「え~っ、バスにのれるの?」と声をあげます。次のページで動物たちが乗っているバスを見て、思わず笑ってしまいます。
動物たちは、それぞれのやり方で、エイモスさんがしてほしいことをしてあげます。いつもエイモスさんが動物たちにしてくれているのと同じように。 - はぐ 佐々木マキ作 福音館書店 2013年(幼児から)
幼児がよろこぶ本だと思って、図書館で読みました。もちろんうれしそうにしていましたが、小学校で読んだら、「なんでやねん!」とつっこみを入れながら、隣の子とハグしていました(笑)
砂浜の波打ち際で、左右から子どもやブタやタコがあらわれ、会えたことを喜びあうだけのお話です。ハグしているその顔の安らかで幸せそうなこと。
幼い子には続けて何度も読むといいと思います。
- リスとお月さま セバスティアン・メッシェンモーザ 松永美穂訳 コンセル 2007年 (中学年から)
ある朝、リスがびっくりして目をさましました。お月さまが落ちてきたからです。
リスは、月どろぼうと間違われて牢屋に入れられてはたいへんと、お月さまを木の枝から突き落としました。すると、お月さまは、下で寝ていたハリネズミの背中にささって取れなくなってしまいました。
そこへやぎがやって来て、お月さまを角で突きさしました。すると、お月さまが角にささって取れなくなりました。やぎは角を振り回しているうちに、木に角が刺さって身動きできなくなりました。
動けなくなったやぎとハリネズミの表情がなんとも言えず笑えます。何度も出てくるモノトーンの牢屋の場面は、そのたび爆笑してしまいます。
読み手には、はじめから、「月」は実は「チーズ」であることが分かっているのですが、最後まで読むと、「? やっぱり月だったのかしら?」と思わせるオチで、想像の楽しさを思い切り味わえる本です。
子どもたちは、絵の細部まで読んで大喜びします。でも、一番受けたのはおとなの聞き手でした! - きみの家にも牛がいる 小森香折文 中川洋典絵 リブロポート 2005年 (中学年から)
親子四人が、食卓で朝食をとっています。さあ、この絵の中に、牛でできている ものを見つけてください。牛乳、チーズ、バターはもちろん、おかあさんのペンダントは牛の顔だし、クッションは牛柄、玄関マットには「COW」って書いてあるし・・・。
つぎのページから答え合わせが始ますのですが、牛乳からとれる食品については4ページで終わりです。あとは、屠殺場、食肉市場を経て、肉牛が焼き肉になるまでが描かれます。パック詰めの肉が、もとは生きていた牛だということを、きちんと教えてくれる本です。
さらに、牛の皮、骨、爪、・・・牛の体のあらゆる部分が加工されて人間の使うものになっています。最後に再び初めの台所。さあ、あらためて牛探しをすると、あるわあるわ。
「人間は、牛の命をもらっている。そして牛の命を生かすのも、人間」これが作者のメッセージです。
- 悲しい本 マイケル・ローゼン文 クェンティン・ブレイク絵 谷川 俊太郎訳 あかね書房 2004年 (高学年から)
人がどうしようもない悲しみにとらわれるのは、どんな時でしょう。たとえば、愛する人を失くしたとき。もうこの世では永遠に会えないという思いが心に突き刺さります。
この本の主人公は、息子を亡くした中年の男です。悲しみにとらわれ、悲しみから逃げ出すためにさまざまな意味のないことをし、死ぬことさえ考えます。 最後のページの、一本のろうそくの灯りと男の表情に、それでも生きようとする勇気を感じます。
- こんたのおつかい 田中友佳子作 徳間書店 2004年(幼児から)
こぎつねのこんたは、おかあさんに、おあげを買いに行くように頼まれます。こんたは、忘れないように「おあげ、おあげ」と唱えながら行くのですが、寄り道して天狗に襲われます。走ってにげますが、「おあげ、おあげ」がいつのまにか、「てんぐ、てんぐ」になってしまいます。「てんぐ、てんぐ」と走っていくと、こんどは鬼が出てきて・・・
昔話の「どっこいしょ」から想をとった楽しい絵本です。恐いものから逃げるモティーフが使ってあって、小さい子はとても喜びます。
- ピーターのいす E=ジャック=キーツ作 木島始訳 偕成社 1969年 (幼児から)
ピーターに、妹のスージーが生まれます。ピーターが赤ちゃんのとき使っていたゆりかごがピンクに塗られ、スージーが寝ています。食堂いすも赤ちゃんベッドも、ピンクになってスージーのものになってしまいました。
「あれ、ぼくのなのに」と、ピーターは不満です。ピーターは家出することにしました。犬のウィリーといっしょに、たいせつなものを持って家の前に出ていきました。ところが、もちだした赤ちゃんいすに座ろうとすると、お尻が入りません。ピーターは大きくなりすぎていたのです。
ピーターはどうやって心の折り合いをつけたのでしょう。
ほかに、「ピーターのくちぶえ」「ピーターのてがみ」「ピーターのめがね」もおすすめです。どれも、両親のさりげない対応が絶妙です.
- かぜは どこへいくの シャーロット・ゾロトウ作 ハワード・ノッツ絵 松岡享子訳 偕成社 1981年 (低学年から)
楽しく美しい一日の終わり、男の子は寝室の窓からながめながら、お母さんに尋ねます。
「どうして、ひるはおしまいになってしまうの?」
さて、お母さんは何と答えるでしょう。あなたならどう答えますか?おかあさんは、
「よるがはじめられるようによ」と答えて、白く細い月を指さし、「あれが、よるのはじまりよ」といいます。そして、昼はおしまいにならないで、別のところで始まる。どんなものでもおしまいになることはないのだと説明します。
風は止んだらどこへ行くのか、道はどこまで続くのか、山はどこでおしまいになるのか、砕けた波はどこへ行くのか、・・・・
ノッツの繊細な鉛筆画は、遠目はききませんが、母子の対話にぴったり寄り添って、やさしくあたたかです。
- じどうしゃトロット ユリ・シュルヴィッツ作 金原瑞人訳 そうえん社 2015年 (幼児から)
元気な小型車のトロットは、あちこち走ってある日サボテン村にやって来ます。そこで出会ったトラック三台。赤トラ、青トラ、黄トラ。トラックたちは小さなトロットをばかにします。負けん気のトロットは、ぜったい負かしてやると考えます。
「ぼくときょうそうしない?サボテン山で12時に」
いぜん紹介した『よあけ』と同じ作者の絵本です。
学童保育(小学1~5年生)のおはなし会で読みました。レースがスタートして見開き3枚分、ずっとトロットがしんがりです。子どもたちはがっかり、ため息。そして次のページから、一台ずつ抜いていきます。大きなトラックたちがパンクしたりつっかえたりするのを横目に、ちいさいがゆえの勝利です。子どもたちの顔が輝きます。
シュルヴィッツらしい色使いで、デフォルメされたマスコットのような自動車たちはとても親しみを感じさせてくれます。
最後のページ「ゆうひにむかって走っていった。でっかいかげをうしろにつれて」
子どもたち「ほんまや~!」
かっこいい、トロットのおはなし。
- こっちん とてん かたやまけん作 福音館書店 2016年 (赤ちゃん)
「こどものとも 0,1,2」は、0~2歳対象の月刊絵本です。『こっちん とてん』は、その一冊。
スプーンが、こっこっこっこっとはねてきて、つぎのページでこっちんとたおれます。幼い子は常に経験しているからでしょうか、じっと見入ります。大きい子は、笑います。失敗するって、楽しいんですね。
つぎに、かなづちが、とんとんとんとはねてきて、つぎのページで、とてんとたおれます。つぎに目覚まし時計が、ちっくちっくちっく・・・じゃららららら。かさが、つんつんつん・・・・ばん。かさの開いた音です。
リズミカルな音の繰り返しにのってページを繰っていくと、音がどんどんクレッシェンドしていきます。失敗がつぎつぎ続いて、それが実に楽しいのです。
おおらかな絵本です。
- ならの大仏さま 加古里子作 福音館書店 1985年 (高学年から)
奈良の東大寺は、いつも、遠足の小学生や、修学旅行生でにぎわっています。金堂(大仏殿)の柱の穴をくぐり抜けた経験をお持ちの人もおられるでしょう。
東大寺は、八世紀、聖武天皇の発願によって建立されました。そのころの世界の宗教の広がりからかきおこしたのが、この絵本です。仏教が大陸から朝鮮半島を通って日本に伝わります。伝わるにはそれなりの国内事情がありました。そのことを、世界地図、平城京の地図、当時の役人の給料表、皇室と藤原氏の系図、疫病流行の人々の様子の絵などなどで説明していきます。
大仏造営の過程は、基礎つくりから丁寧に描かれ、どれだけの費用と材料がどのように集められたのか、どうやって技術者や専門職人や作業者を集めたのかまで説明しています。
おそらく、高校の日本史の教科書より丁寧で、興味をそそると思われます。
さらにさらに、その後の二度の焼失と再興、現代にいたるまでの歴史が語られ、いま、わたしたちにとって「だいぶつさん」ってなんだろうという問題提起で終わっているのです。
もちろんすべての文章を読み聞かせることはできませんが、ぜひ子どもたちに紹介したい本です。読んだ大人もちょっとかしこくなるかも、です。
子どもの絵本といえども、詳細な調査に基づく本作り。かこさとしの面目躍如といったところでしょうか。
- ばいばい まついのりこ作 偕成社 1983年 (赤ちゃん)
ページをめくると、ひよこが「こんにちは」。めくると「ばいばい」。まためくるとうさぎが「こんにちは」。めくると「ばいばい」いろいろの動物が、一匹ずつ登場しては、「こんにちは」「ばいばい」を繰り返します。一歳未満の子どもから喜びます。
子どもが自分以外の人とコミュニケーションをとる、その最初の動作がバイバイであることが多いですね。「こんにちは」もそうです。その続きに「いないいないばあ」があり、「ちょちちょちあばば」があり、手遊びを伴うわらべ歌へと発展していきます。これらは、おはなしの世界への第一歩です。
一歳の子に『ばいばい』を読んでみてください。子どもの集中力に驚きますよ。
- おやすみ おやすみ シャーロット・ゾロトウ文 ウラジミール・ボブリ絵 ふしみみさを訳 2014年 岩波書店 (幼児から)
落ち着いたグレーの背景に優しい色調の絵が続きます。ページをめくるごとに、ひとつずつ寝ているものが描かれます。
クマは雪をかぶった巣穴の中で、ハトはからだを寄せ合って、サカナは水草の中で、ガは窓にとまって、ウマは野原でたったまま、・・・
ストーリーに展開はないのですが、それぞれの動物たちに物語を感じるのは、作者ゾロトウの筆の力です。
「こどもたちは ふとんに すっぽり くるまって、ぐっすり すやすや ねむります。おやすみ おやすみ よいゆめを。」
騒いでいる子どもたちの心を静めてくれる本です。
- 妖怪―身近にいるあやしいもの― 小松和彦著 野村たかあき絵 2013年 グラフィック社 (中学年から)
出ました出ました、妖怪たち!子どもの大好きな妖怪です!
子泣き爺、雪女、木魂、河童、小豆洗い、塗り壁・・・日本に古くからいる妖怪がずらり、あらわれる場所と特徴が説明してあります。もちろん迫力ある絵姿も。
著者の小松和彦さんは、国際日本文化研究センターの所長を務めている文化人類学者で、妖怪の専門家です。だから、妖怪の説明も科学的(?)。
妖怪が出るのは、人があまり行かない、薄暗くってよく見通せないところ。そうした場所は半分は人間の世界だけれど、半分は妖怪の世界でもあるのです。夜道、山小屋、空き家、ふだん使わない座敷や納戸は、要注意です。人も動物も物も、年をとると化けることができるようになる、妖怪になるのですって。
ところで、鬼は、妖怪の中でも特別古い妖怪だそうです。妖怪のご先祖様。いまのような角をはやして虎皮のふんどしをするようになったのは、平安時代になってからだそうです。
それから、河童って、川に棲んでいると思うでしょ。たしかに、そうなんだけれど、秋に稲刈りが終わると、山へ帰るのだそうです。山に帰った河童は、山童(やまわろ)になるそうです。
などなど、豆知識も満載の楽しい「ほんとにいるんですか?絵図鑑」の1冊目。2冊目は「幽霊」です。こちらもおすすめです。ちょっと怖いけど(笑)
- ぞうのボタン うえののりこ作 冨山房 1975年 (幼児から)
字のない絵本です。 字のない絵本はお話会では読みにくい?いえいえ、そんなことはありません。絵が十分に語っています。だから、子どもたちは自分の言葉でお話を語ります。読み手は、子どもたちの言葉にうなずきながら「あはは、あはは」と笑っていればいいのです。
ぞうのお腹にボタンが四つついています。ボタンをはずすと、中から馬が出てきました。なあんだ、馬がぞうの着ぐるみを着てたのか。ところが、その馬のお腹にもボタンが四つ。ボタンをはずすと、中からライオンが出てきました。なあんだ、ライオンが馬の着ぐるみ着てたのかあ。ところが・・・・どんどん小型の動物になっていって、とうとうねずみが出てきました。あら、ネズミのお腹にもボタンが四つ。さて、何が出てくると思いますか?
- ピーターのてがみ エズラ=ジャック=キーツ作 きじまはじめ訳 偕成社 1974年 (低学年から)
ピーターは、エイミーに誕生日の招待状を書いています。会って口で言えばいいのだけど、これはとくべつの手紙なのです。手紙を出しに行くとちゅうで雨が降りだしました。とつぜん強い風が吹いて手紙をさらっていきました。ピーターは追いかけます。するとむこうからエイミーがやってきて、いっしょに手紙を追いかけました。たいへん、エイミー宛の手紙だと分かったら、びっくりしなくなる!
ころんだエイミーは泣きながら家に帰っていきました。ピーターは、エイミーはもう誕生会に来てくれないだろうと、とても沈んだ気持ちになります。
さあ、誕生日、エイミーはパーティーに来てくれるでしょうか。 - かいじゅうたちのいるところ モーリス・センダック作 神宮輝夫訳 冨山房 1975年(幼児から)
古典中の古典。センダックの代表作です。 マックスは、いたずらをして大暴れ。おかあさんに夕ごはん抜きで寝室にほうりこまれます。すると、寝室ににょきりにょきりと木が生えだして、森になり、マックスは船にのって航海に出ます。
「一週間過ぎ、二週間過ぎ、ひと月、ふた月、日がたって、一年と一日航海すると、かいじゅうたちのいるところ」
リズミカルな訳文に、声に出して読むととても心地がいいです。かいじゅうと過ごすマックスの様子が、文字なしで三ページにわたって描かれます。それが迫力満点なのです。
行きて帰りし物語です。 - とらっく とらっく とらっく 渡辺茂男・山本忠敬 福音館書店 1966年 (幼児から)
山本忠敬さんの乗り物絵本は、小さい男の子をひきつけて離しません。なかでも、渡辺・山本コンビの『しょうぼうじどうしゃじぷた』と『とらっくとらっくとらっく』は、ドラマ性が高く、夢中になってはいりこみます。
一台のトラックが、高速道路を走り、山の向こうの目的地に着くまでのほぼ一日間の行程が描かれます。途中で出会う働く車たち。道路標識。見るべきものが的確に描かれています。
擬人化されていないのに、子どもは自分がトラックになったような気持ちで聞きます。白バイに追いかけられるあたりからはぐっと集中が高まり、夜になって山道をくねりながら登る場面は しーんとして、みんなのがんばれの声が聞こえてきそうなほどです。
あるとき高校生に読みました。子どもたちと同じような聞きかたをしていました。そして、ひとこと「白バイがかっこよかった」。
初めての乗り物絵本としては、山本忠敬さんの『ぶーぶーじどうしゃ』がおすすめ。再版された『とっきゅうでんしゃあつまれ!』は、今ではもう見られなくなった列車ばかりですが、電車の魅力が満ちあふれていて、子どもたちは大好きです。どちらも福音館書店刊。 - まほうのコップ 藤田千枝原案・川島敏生写真・長谷川摂子文 福音館書店 2012年 (低学年から)
ふしぎなたねシリーズの写真絵本です。
コップに水を入れます。いちごをコップの向こうがわに置きます。すると、あらふしぎ、いちごがぐんにゃりつぶれていきます。
きのこのしめじを置くと、あらふしぎ、どう見てもガマガエルです。
フォークをすうっと置くと、反対側からもフォークがすうっと現れます。
水の入ったコップがレンズの役割をして、光の屈折によって、コップの向こう側にあるものの形が変化して見えるのです。とても身近な科学実験ですね。
実験。では、コップを切子ガラスのものに変えるとどう見えるでしょうか。コップではなく、ビンならどうなるかな。さまざまな形のビンに入れてみよう。
子どもの好奇心をそそる一冊です。ページを繰るごとに、ため息のようなふしぎな笑いがおこります。 - 太陽へとぶ矢 ジェラルド・マクダーモット作・神宮輝夫訳 ほるぷ出版 1975年 (中学年から)
副題に「インディアンにつたわるおはなし」とあります。
むすめが太陽の放ついのちの矢を受けて身ごもり、男の子を生みます。男の子は、「父なし子」といじめられ、父親をさがしに旅に出ます。トウモロコシづくりも、壺作りも教えてくれません。矢づくりの男は男の子を矢に変えて太陽にむかって放ちます。
ようやく父親に対面しますが、父親は、自分の息子である証拠を見せてもらおうといって、男の子にライオンの部屋、蛇の部屋、蜂の部屋、稲妻の部屋を通りぬけるよう命じます。
オレンジと黒を基調にしたカラフルな絵は、躍動感と力強さにあふれています。子どもたちは、しーんと聞き入ります。とくに男の子の心にしみいるようです。 - パンめしあがれ 高原美和 絵/視覚デザイン研究所 2013年 (幼児から)
なんとおいしそうなパンたちでしょう!
メロンパンが最初に出てくるのはうまいですね。子どもたちの一番のお気に入りですから。そばにはクリームソーダがいかにもどうぞというふうに置いてあります。ダブルハートのピンクのストローです。
あんパンは、ちゃんとつぶあんとこしあんが並んでいます。桜の散る丘の上。花びらは煎茶の上にもおちています。
あ~、ホットドッグ!
あかん、ぜんぶ書いてしまいそう(笑)
赤ちゃんと絵本を楽しむ会で読むと、1~2歳さんが、ページをめくるたびに近づいてきてとって食べる真似をします。学童保育に持っていったときも、手を伸ばしてきました。
一冊読むと、ああお腹いっぱい。え? もう一回読むの?
シリーズの「めしあがれ」「おべんとうめしあがれ」もどうぞ。 - がたごと ばん たん パット・ハッチンス作/いつじあけみ訳/福音館書店 2007年 (幼児から)
ぼくは、おじいちゃんの手押し車にのって農場を進んでいきます。小さな赤いめんどりがついてきます。
明るい晴れた農場に、「がたごとばんたん」と繰り返しのリズムが明るく響きます。ぼくは、ジャガイモを掘り、ニンジンを掘り、玉ねぎを掘り、……高い蔓になっている豆も、地面のいちごもとります。ついてくるめんどりに、ぼくは、とっても得意そうに「こんなこともできるんだよ」といいます。
でも、あれ? めんどりは、鶏小屋に入ってしまいました。ついていくと、…!
この本の中には30種以上の植物が描かれています。それを見るだけでも楽しい絵本です。 - 時計つくりのジョニー エドワード・アーディゾーニ作/あべきみこ訳/こぐま社 1998年 (低学年から)
ジョニーは手先のとても器用な男の子です。でもかなづちやトンカチであれこれ作りはじめると、お父さんもお母さんも、うるさいといってどなります。
ジョニーのお気に入りの本は、『船のもけいのつくりかた』『テーブルといすのつくりかた』『大時計のつくりかた』の三冊です。
ある日、ジョニーは「大時計をつくろう」と思いつきました。嬉しくて、両親や教室でこの思いつきを話しました。でも、みんなはそれを聞いてジョニーをばかにして笑いました。それでもジョニーはあきらめません。
だれにも、身につまされるような経験が少なからずあります。だから、読みながら思わずがんばれと応援してしまいます。作中にも頼もしい応援者がいます。
もちろん、ジョニーは素晴らしい大時計をつくります。
- ものぐさトミー ベーン・デュボア文絵/松岡享子訳/岩波書店刊 1977年 (中学年から)
トミー・ナマケンボという名前からして、子どもたちは喜びます。そのトミーが電気仕掛けの家に住んでいて、自分で何もしないでも寝間着から抜け出してお風呂にすべりこみ、お風呂がからだを洗ってくれる、となると、「いいなあ」とうらやましがります。
ところが、ある晩嵐のせいで停電してしまうのです。そのあたりから爆笑につぐ爆笑で、私も笑いながら読んでいます。
絵は大きくはないのですが、教室の後ろの子どもにもよく見えます。 - わんわん にゃーにゃー 長新太作絵/和田誠しあげ/福音館書店刊 2008年 (赤ちゃんから)
赤ちゃん絵本ですが、このユーモアは小学校高学年でもたのしみます。
犬がわんわん、ねこがにゃーにゃー。ねこが犬に近づいていきます。
そして、ねこは、犬の口の中に入ります。 犬はわふんわふん、ねこはにゃごにゃご。
ねこが犬の鼻の穴から出てきます。 犬はふわんふわん、ねこはにゃーニャー。・・・・・
たったこれだけなのに、こんなに楽しいのは、まさに長新太さんです。 - せかいのひとびと ピーター・スピア作/松川真弓訳/ 評論社刊 1982年 (高学年から)
地球上の人々がどんなに違っているか、興味と好奇心に駆られて細かく詳しく楽しく見てしまいます。
みんな同じだったらどんなにつまらないか。うしろから2番目の見開きページに、灰色の町が描かれます。さいごのページをめくると、この町のなんと雑多で美しいことでしょう。
グループへの読み聞かせには向きませんが、ブックトークや本の紹介にはよく使います。 - あなたこそたからもの いとうまこと文/たるいしまこ絵/大月書店刊 2015年 (高学年から)
解説によると、作者の伊藤真さんは1958年生まれの弁護士さん。夢は「世界の幸せの総量を増やすこと」だそうです。
いとうさま、憲法の理念をこんなにわかりやすく書いてくださってありがとうございます。たるいしさま、子どもたちをこんなに温かく描いてくださってありがとうございます。本は、会ったこともない人と、心をつないでくれますね。
6年生のブックトークのために平和をテーマにした本を探していて見つけました。
子どもたちにお話を届けていて、いつも思っていることが書かれていました。それが、憲法の理念だとは、意識もしませんでした。そして、意識もしないほど、自分が憲法に守られて生きてきたのだと気づきました。 - どんぐりころちゃん 正高もとこ作絵/鈴木出版刊 2015年 ( 幼児から )
どんぐりころちゃんが木からとびおりて散歩に行きます。歌いながら歩いていきます。 ♪ どんぐりころちゃん……
ある日のおはなし会でこの本を読みました。以下、実況中継。
「 わあ、どんぐりころちゃんや~ 」 子どもたちは、おはなし会の始まりで歌った歌が出てくるので、おおよろこび。いろんな形のどんぐりに次々と出会って、いっしょに歩いていきます。 「 ♪ どんぐりころちゃん あたまはとんがって…… 」 ページを繰るたびに子どもたちもいっしょに歌います。ほんと、たのしい~
そこへ、リスがやって来ます。 「 ひゃあっ 」 子どもたちはすっかりどんぐりになりきっています。
リスが 「 おいしそうなどんぐりたち。わたしについておいで。いいところにつれて いってあげるから 」 というと、子どもたち 「 あかんあかん。いったらあかん 」
どんぐりたちは木の葉の下に隠れます。リスはどんぐりたちを見つけられなかったけど、葉っぱのあいだから、ちらっち らっと見えてるんですね。 子どもたち 「 みえてる~。あそこ。ここも~ 」 ひとしきりミッケをやってから ( 笑 )、さいごのぺージへ。
子どもたち 「 あ~、芽が出てる~ 」
表の見返しにはわらべ歌が楽譜つきで載っているし、裏表紙には、登場したドング リたちの名前が紹介されています。子ども心満載、遊び心いっぱいの、地味だけれどぜいたくな絵本です。 - バナナじけん 高畠 邦生作/BL出版刊 2012年 ( 低学年から )
道にバナナが一本おちていました。そこへ猿がやってきました。どうするとおもう ? もちろん食べますね。猿はバナナの皮をぽいっと捨てていってしまいます。そこへウサギが走ってきます。どうなると思う ? もちろん滑りますね。あとからワニがやってきてその川を背中に乗せて歩いていきました。そして、落ちたバナナは一本ではなかった ! そこで猿は次から次 と… 、ウサギは次から次と、 … ワニは次から次と … 。聞いている子どもたち、笑いが止まらない。 - よあけ ユリ・シュルヴィッツ作/瀬田貞二訳/福音館書店刊 1977年 ( 中学年から )
暗い木の下でお爺さんと孫が寝ています。静まり返った湖畔。モノトーンの景色に少しずつ色合いが浮かんできます。それにつれてそよ風の揺らぎや蛙が水に飛び込む音が描かれていきます。お爺さんと孫は火を焚いて朝ご飯を作り、湖にボートをこぎだします。とつぜん太陽が昇ります。そのまばゆい美しさ。はっと息をのむ美しさです。
わが子が一歳のとき、はじめて自分から手を伸ばした本です。