いろいろいっぱい

ニコラ・デイビス文 エミリー・サットン絵 越智典子訳 ゴブリン書房 2017年

副題が「ちきゅうのさまざまないきもの」

科学絵本。術語は難しいですが、ひらがなが多用してあるので、興味のある子どもなら低学年でも読めます。

「ちきゅうにはなんしゅるいのいきものがいるとおもう?」との問いかけから始まります。「ひとつ」「ふたつ」「みっつ」と数えていって、「いっぱい!」
 
虫、花、象といった子どもの好きな物が描かれ、つぎには多種多様なきのこ。そして微生物。大きさの多様性を教えたあとは、棲家の多様性。砂漠、島。鳥の羽のすきま。それからつぎは、種類の多様性。見た目が違うのに種類は同じだったり、見た目がそっくりなのに違う種類だったり。
 
「すべての生きものが複雑にからみあってひとつの大きくて美しい模様を織りあげているようだ」という説明(主張)とこまやかな素朴な絵とがマッチしています。
 そして、人間がこの模様をこわしている、人間もこの模様がないと生きられないのに。 

同じ作者たちの『ちいさなちいさな  めにみえないびせいぶつのせかい』もおすすめです。

フワフワ

おおなり修司文 高畠那生絵 絵本館 2017年

なぜかダチョウが群れをなして走っています。するとその羽がとんでフワフワ。カバが大きな鼻で羽を吸い込んで、ハックション。びっくりしたダチョウが、ダチョーと走っていくと、ワニやライオンが池に浸かっています。ダチョウがダダダダダー!と走りぬけたひょうしに、ライオンのたてがみがふわっと飛んでしまいます。なんと、かつらだったのだ?かつらがまたフワフワ飛んでいって、池に浸かっているかピパラ(?)の頭に乗っかります。

何とも言えないナンセンス絵本です。ダチョウの表情に大笑いすること請け合いです。

うし

内田麟太郎詩 高畠純絵 アリス館 2017年

こども文学の実験『ざわざわ』第2号所収の詩「うし」を絵本にしたものです。

ただ牛がつぎつぎつぎと並んでいるだけなのですが。なんともきまじめで、しかも飄々とした牛の表情がユーモラスで、笑えてきます。詩のことばと、スタンプのように並ぶ絵が絶妙にコラボしています。ナンセンス詩を絵本にするのって独特の感性がいるんでしょうね。

子どもたちは、確実につぎを予想して、大笑いします。最後のページ、私は予想が外れたけれど、子どもたちは、ぴたりと当てました。さすが!

ちいさなねこ

石井桃子文 横内襄絵 福音館書店1963年

ちょっとした猫ブームです。猫の絵本といえばこれ。50年以上も前に作られた本ですが、子どもたちをひきつけてやみません。古典中の古典です。
 
最初のページは、見開きで、広い部屋の畳の上に小さな猫がしっぽを振って座っています。何気なく外を見ている様子。いまにも外へ飛び出しそうな表情です。
「ちいさなねこ、おおきなへやに ちいさなねこ。」
 
石井桃子の文章は的確です。美しい文章というのは、正確な文章のことだと思わせてくれます。
 
あんのじょう、猫は縁側からおりて走りだしました。子どもにつかまったり、自動車に引かれそうになったり、大きな犬に追いかけられたり。犬に追いつめられて木の上に登りますが、下りられません。
でも、だいじょうぶ。お母さん猫が、子ねこの声を聞いて探しに来ます。お母さん猫の表情の頼もしいこと。
最後のページでは、子ねこがおかあさんのおっぱいをのんでいます。

幼い子には、冒険と帰還の物語、つまり「行きて帰りし物語」がぴったりなのです

100まんびきのねこ

ワンダ・ガアグ作 石井桃子訳 福音館書店 1961年

これも猫の本です。白黒画法の絵ですが、デフォルメされた雲や木や花は、自由に色を想像することができ、むしろカラフルにさえ感じさせます。
 
おじいさんとおばあさんは、ふたりきりで暮らしていて、とても寂しいのです。それで、猫が一匹いればいいなあと話しあいます。おじいさんは、丘を越え、谷を越えて、猫をさがしにでかけました。
 
とうとう、どこもここも猫でいっぱいの丘にやってきました。白い猫、灰色の猫、白黒の猫、茶色の猫・・・どれもこれもかわいくて、おじいさんは選びきれません。とうとうぜんぶ連れて帰ることにしましたが・・・。
   
ひゃっぴきのねこ
せんびきのねこ
ひゃくまんびき、一おく 一ちょうひきの ねこ
 
こり返しのリズムがここちよく、行列は進みます。ところが、家に帰ると、おばあさんが、「こんなにたくさんのねこに、ごはんはやれません」といいます。そこで、一兆匹の猫たちはけんかを始めます。
最後に残ったのは、どんな猫だったでしょうか。

せいめいのれきし 改訂

バージニア・リー・バートン作 石井桃子訳  岩波書店 2015年

1964年に出版された『せいめいのれきし』が51年たって改訂されました。

地球が46億年前に誕生してから現在までの生命の歴史を、ステージに移された映像で見せるというかたちで、ページが進みます。写実的な絵ではないのですが、地中の様子や海底の様子が、とてもリアルに感じられます。
大きなグループへの読み聞かせには向きませんが、かがみこんでじっくりと読ませたい本です。科学的な探求心を満足させてくれるでしょう。
 
科学の研究が進むにつれて、地球上の生命の歴史に新たな発見がつぎつぎと出てきます。改訂版の監修者真鍋真(まなべまこと)さんは、国立科学博物館で、化石から生命の進化を読み解く研究をしています。初版と改訂版を読み比べるのも面白いですよ。

しゅっぱつしんこう!

山本忠敬・作 福音館書店 1984年

電車絵本のピカイチです。

みなさんは、特急列車「はつかり」に乗ったことはありますか。東京と東北・北海道をつなぎ、1958年から、2002年に東北新幹線が八戸まで延伸したときまで走っていました。だから、今の子どもたちはもう見たことがない列車です。

『しゅっぱつしんこう!』は、みよちゃんがおかあさんといっしょに、はつかりに乗って出発、急行列車に乗り換え、普通電車に乗り換えて、おじいさんの家の最寄り駅まで行く、その行程を描いています。
 
古い知らない列車が書かれているのに、子どもたちに大人気で増刷を続けている、その魅力は、手に取ればすぐに分かります。列車の正確な描写は生命感にあふれています。そして、流れていく風景の、あくまでも背景でありながら、その美しさ。おとなにはノスタルジーを呼び起こしますが、子どもにとっては風土の生命を吹きこんでくれるのではないかと感じます。走る列車への作者の愛を感じます。
 
やまもとただよしさんは、乗り物絵本の作家として有名です。『しょうぼうじどうしゃじぷた』『とらっく とらっく とらっく』『のろまなろーらー』などなど。子どもたちは、主人公といっしょに走ります。

セミがうまれるよ

あかぎかんこ・作 きたじまひでお・写真 埼玉福祉会 2017年

セミの幼虫が成虫になるまでの成長の様子が、大きな写真とわかりやすい言葉で描かれています。科学的な正確さから考えると、小学生向きかとも思いますが、わかりやすさと、幼い子の探求心にきちんと応えていることから、幼児からとしました。

みなさんは、セミの雄と雌の見分け方を知っていますか?なんと、飛んでいった後の抜け殻から判断できるのですって。

昆虫は、子どもにとっての身近な生命です。おとなは毛嫌いせずに、子どもに、他の生命との出会いを用意してやりたいものです。

川はどこからながれてくるの

トマス=ロッカー・作 みのうらまりこ・訳 偕成社 1992年

まるでターナーの絵のような美しい風景の中を、おじいさんとふたりの孫が、川の源流を求めて旅立ちます。川を渡り、水浴びをし、キャンプをしながら、自然の中を歩いていきます。高原の小さな池が源流でした。少しずつ湧き出て流れ出した水が、次第に大きな川になっていたのです。
 
三人は、流れとともに帰りの旅につきます。夕暮れのあわい光の中に、両親の待つ家の窓の灯りが見えました。

マロンちゃん カレーつくってみよう!

西村敏雄作 文溪堂 2017年

マロンちゃんは犬です。飼い主(家族?)はオジーさんという名の紳士。マロンちゃんがオジーさんにサポートしてもらってカレーを作るというだけの話なんですが、子ども心をくすぐる楽しさです。

おなかがすいたのでお料理を作ろう、何作ろう、ハンバーグ、オムライス、からあげ。ね、子どもの好きな物ばかり。結局、そうだ、カレーにしよう。絵を見ている子どもたちも大きくうなずきます。

材料は何かな?定番なので、絵を見ながら大きな声でいいます。それからが楽しい。買い物に行くのです。肉屋、八百屋。パン屋、・・・。買ってきたのは、もちろんさっき大声でいったカレーの材料。と、牛乳、とろけるチーズ、スパゲッティ、うどん、マカロニ食パン菓子パン。気持ち、わかりますよねえ。

さて、カレーを作ります。材料を切るところから丁寧に描かれるので、リアリティがあります。だから、うれしい。お鍋にふたをして、歌って踊りながら待ちます。

 ババ~ン! カレーのできあがり!
 
ご近所さんが集まってきますが、もうカレーライスはありません。どうなったと思いますか?さっきの無駄遣いは無駄ではなかったのです。カレーサンド、カレーグラタン、カレースパゲティ、カレーうどん、・・・ああおいしかった。

おっと、学童保育で読んだら、カレーうどんを知らない子がいましたよ。