どしゃぶり

おーなり由子文/はたこうしろう絵 講談社 2018年「あっついなあ! じめんが あつあつ! あっつ あつ!」のページから始まります。
 
ふつうの家のふつうの男の子の夏の日の日常を切りとっています。

黒い雲の近づいてきて、いきなり雨が降りだします。
「そらのにおいがするぞ じめんのにおいもするぞ」
 
にわか雨が、幼い男の子の視線で驚きを持って表現されます。

茶色の地面に黄色い傘、グレーの空。真っ白の雨としぶき。
男の子は、雨の中を走って、跳んで、ずぶぬれになって雨と遊びます。

「あめさん ばいばい。 また きてね。」

ああ気持ちよかった。大人になってできなくなったささやかな日常の遊びを、本の中で体験できます。子どもには、ほんとうに体験させてあげたいです。

雨、あめ

ピーター・スピア 評論社 1984年

雨が降りだしたので、姉弟はレインコートを着て大きな傘をさして、散歩に出かけます。雨の日は見慣れたものがいつもと違った顔を見せます。それはとても美しい顔です。

ハチの巣箱をのぞき、洗濯物の下を通り、土の道を歩き、電線にとまっている鳥たちを見上げます。雨樋から落ちてくる雨を手で受け、傘で受け、傘を逆さにして受けます。くもの巣にかかった雨粒。自動車の下で雨宿りする猫。

ずぶ濡れになって家に飛びこみ、お風呂に入って美味しいおやつ。室内での遊びや夕食や食後のテレビ。そのあいだにも外では雨が降っています。寝室の窓から見る夜の雨。

翌日はすっかり晴れて、さわやかな一日が始まりました。

この本には字がありません。だから、絵の隅々まで心ゆくまで楽しめます。

ちょうちょのためにドアをあけよう

ルース・クラウス文/モーリス・センダック絵/木坂涼訳 岩波書店 2018年

『かいじゅうたちのいるところ』『まどのそとのそのまたむこう』などでおなじみのモーリス・センダックは、ルース・クラウスとのあいだに『あなはほるものおっこちるとこ』などの共著があります。この『ちょうちょのためにドアをあけよう』も、それらと同じナンセンス絵本、詩のような絵本です。小さな本なので、グループへの読み聞かせは難しいですが、こっそり楽しむのにちょうどよいてのひらサイズです。

「おおごえでうたううたを ひとつくらい おぼえておくといいよ ぎゃーって さけびたくなる ひの ために」とか「ワニとすれちがうときは まずそうな かおを するといいよ」とか「どうしても ねむりたくないときは ふねに のりこめー!っていってから ベッドにはいると ねむれるよ」とか、笑える深~い人生のアドヴァイスが続きます。

「おかあさんとおとうさんをつくるのは あかちゃん もしあかちゃんがうまれなければ ふたりはどっちも ただのひと」なんてすてきな視点でしょ。
最後のページにはこうあります。

「ものがたりの いちばんいいおわりかたは 「おうじさまとおひめさまは ずっとしあわせにくらしましたとさ。ねずみたちも いっしょにね」

おたんじょうびおめでとう!

パット・ハッチンス作/渡辺茂男訳 偕成社 1980年

きょうはサム君のお誕生日です。歳がひとつ大きくなりました。それなのに小さなサム君は、自分で明かりをつけようにも壁スイッチに手が届きません。タンスの服にもお風呂の蛇口にも手が届かないので、自分で服を着られないし、自分で歯を磨くこともできない。せっかく両親からすてきなボートをプレゼントしてもらったのに、流しに手が届かないのでボートを浮かべることができません。郵便屋さんがおじいちゃんからのプレゼントを届けてくれたのですが、取っ手に手が届かず、自分でドアを開けることもできないのです。

幼い子の「自分で!」という自立心をどうやって育めばいいでしょうか。大人は「まだ無理よ」といって、その芽を積んでしまいがちです。ところが、ハッチンスは、こうすればいいんですよと、教えてくれます。郵便屋さんが持ってきたおじいちゃんからのプレゼントは何だったと思いますか。おじいちゃん、ナイスジョブ!

同じ作者の『ティッチ』『ぶかぶかティッチ』も幼い子の心理をうまくとらえています。

ばったくん

五味太郎 福音館書店 1989年

かわいくてユーモラスでリズミカルなおはなしです。ばったくんがお散歩に出て、家の中にとびこんでしまいます。テーブルのお皿の上を滑ったり、テレビにこつんとぶつかったり、ピアノの鍵盤の上を飛んでいったり、ゴミ箱の中に入ったり、工作のりの上に飛び乗ってしまったり。小さなばったくんでも、それなりに冒険があるのです。

「ばったくん おさんぽ まだまだ つづきます」といいつつ、次のページをめくると・・・あらまあ!

この季節、小さな子どもから小学生まで楽しめる本です。

ごきげんななめのてんとうむし

エリック=カール作/もりひさし訳 偕成社 1980年

夜、ホタルがお月さまの明かりで踊っていました。朝五時、お日さまがのぼってきました。左から機嫌のよいテントウムシが、右からご機嫌ななめのテントウムシが飛んできました。ご機嫌ななめのテントウムシは、けんかをふっかけます。でもあまり自信がないので、「おまえじゃ小さすぎるな」と意地を張って、もっと大きな敵を探しに飛んでいきます。すると、蜂、クワガタ、カマキリ、・・・と、どんどん大きない相手に出会います。

各ページの上には、テントウムシが他の生きものと出会った時間を示す時計が書かれています。文章の文字は、相手が大きくなるにしたがってどんどん大きくなります。何だか迫力があります。

とうとう最後に、クジラに出会います。テントウムシは45分かかってくじらのしっぽまで行き着きます。すると、しっぽが・・・!

エリック・カールといえば『はらぺこあおむし』が有名ですね。『ごきげんななめのてんとうむし』も同じようにカラフルな、仕掛けのある楽しい絵本です。

バスていよいしょ

重松彌佐作/西村繁男絵 童心社 2017年

小学生のしんごくんは、お隣の大邸宅の前にあるバス停を自分の家の前に持っていこうと引っ張ります。コンクリートの重しがあるので重くてなかなか動きません。そこへ「えっさ、えっさ」と駕籠屋さんがやって来ます。事情を聞いて駕籠屋さんたちは笑っていってしまいました。でも、なぜ駕籠屋さん?
その後からきたのは浪人者。お姫様。なぜか江戸時代とこんがらがっています。しまいに大名行列が来て、おとのさまは、なぜしんんごくんがバス停を移動させようとしているのかを聞くと、「よかろう」と、家来たちに命じて、バス停を動かしてくれました。

しんごくんの理由は何だったでしょう。これは夏の風物詩のはなしです。

うたってくださいことりさん

五味太郎 偕成社 2002年

五味太郎の作品は、あんがい幼児に難しかったりするのですが、これはいけます。

小鳥が歌うと、花が咲きます。みんなワクワク楽しくなるのです。小鳥が歌うと、ぐったりしている猫も元気になります。しゃきっ。ブランコでけんかしているブタたちもにこにこ仲良くなります。などなど。

こんな小鳥が、あなたのところにも来ましたよ。

心が温かくなって、疲れたおとなはちょっとうれし涙がにじむかもしれません。

だいすき

田島征三 偕成社 1997年

おそろいの黄色い帽子に黄色いかばんの男の子と女の子。幼稚園児でしょうね。肩をくんでにこにこ笑っている表紙から始まります。見開き一面に、筆で、いろんな色いろんな大きさの「だいすき」が書かれています。

頁を繰っていくと、文章は、どのページも「だいすき」だけ。ミニトマトがふたつ、絡まっています。魚が二匹、ぴたっとお腹を合わせています。白鳥が長い首を絡ませています。みんな、みんな、「だいすき」をからだであらわしています。

タコの「だいすき」はたいへんです(笑)

しろさんとちびねこ

エリシャ・クーパー作 椎名かおる訳 あすなろ書房 2017年

白地に黒の素朴な線で描かれています。
 
ひとりで暮らしている白猫のところに、ちびの黒猫がやって来ます。白猫は黒猫に、かしこい猫のすることを教えます。食べる、飲む、トイレなどなど。幸せな時がたち、黒猫は成長して白猫と同じ大きさになります。さらに時がたち、白猫がいなくなります。
悲しくてどうしようもない黒猫のところに、ちびの白猫がやって来ます、黒猫は、かつて教わったのと同じように、ちびねこに、賢い猫のすることを教えます。
命のつながり。

二匹の猫が抱き合って眠っている場面(3カ所)だけ、地の色が温かなクリーム色。白猫がいなくなった場面(1箇所)は灰色。

地味だし、難しいテーマのはずなのに、子どもたちは、もういちど読んでとアンコールしました。図書館のお話会、3歳から8歳の子どもたちでした。