じどうしゃトロット

ユリ・シュルヴィッツ作 金原瑞人訳 そうえん社 2015年

元気な小型車のトロットは、あちこち走ってある日サボテン村にやって来ます。そこで出会ったトラック三台。赤トラ、青トラ、黄トラ。トラックたちは小さなトロットをばかにします。負けん気のトロットは、ぜったい負かしてやると考えます。

「ぼくときょうそうしない?サボテン山で12時に」

いぜん紹介した『よあけ』と同じ作者の絵本です。
学童保育(小学1~5年生)のおはなし会で読みました。レースがスタートして見開き3枚分、ずっとトロットがしんがりです。子どもたちはがっかり、ため息。そして次のページから、一台ずつ抜いていきます。大きなトラックたちがパンクしたりつっかえたりするのを横目に、ちいさいがゆえの勝利です。子どもたちの顔が輝きます。

シュルヴィッツらしい色使いで、デフォルメされたマスコットのような自動車たちはとても親しみを感じさせてくれます。

最後のページ「ゆうひにむかって走っていった。でっかいかげをうしろにつれて」
子どもたち「ほんまや~!」

かっこいい、トロットのおはなし。

こっちん とてん

かたやまけん作 福音館書店 2016年

「こどものとも 0,1,2」は、0~2歳対象の月刊絵本です。『こっちん とてん』は、その一冊。

スプーンが、こっこっこっこっとはねてきて、つぎのページでこっちんとたおれます。幼い子は常に経験しているからでしょうか、じっと見入ります。大きい子は、笑います。失敗するって、楽しいんですね。
つぎに、かなづちが、とんとんとんとはねてきて、つぎのページで、とてんとたおれます。つぎに目覚まし時計が、ちっくちっくちっく・・・じゃららららら。かさが、つんつんつん・・・・ばん。かさの開いた音です。

リズミカルな音の繰り返しにのってページを繰っていくと、音がどんどんクレッシェンドしていきます。失敗がつぎつぎ続いて、それが実に楽しいのです。
おおらかな絵本です。

ならの大仏さま

加古里子作 福音館書店 1985年

奈良の東大寺は、いつも、遠足の小学生や、修学旅行生でにぎわっています。金堂(大仏殿)の柱の穴をくぐり抜けた経験をお持ちの人もおられるでしょう。

東大寺は、八世紀、聖武天皇の発願によって建立されました。そのころの世界の宗教の広がりからかきおこしたのが、この絵本です。仏教が大陸から朝鮮半島を通って日本に伝わります。伝わるにはそれなりの国内事情がありました。そのことを、世界地図、平城京の地図、当時の役人の給料表、皇室と藤原氏の系図、疫病流行の人々の様子の絵などなどで説明していきます。

大仏造営の過程は、基礎つくりから丁寧に描かれ、どれだけの費用と材料がどのように集められたのか、どうやって技術者や専門職人や作業者を集めたのかまで説明しています。

おそらく、高校の日本史の教科書より丁寧で、興味をそそると思われます。

さらにさらに、その後の二度の焼失と再興、現代にいたるまでの歴史が語られ、いま、わたしたちにとって「だいぶつさん」ってなんだろうという問題提起で終わっているのです。

もちろんすべての文章を読み聞かせることはできませんが、ぜひ子どもたちに紹介したい本です。読んだ大人もちょっとかしこくなるかも、です。
子どもの絵本といえども、詳細な調査に基づく本作り。かこさとしの面目躍如といったところでしょうか。

ばいばい

まついのりこ作 偕成社 1983年

ページをめくると、ひよこが「こんにちは」。めくると「ばいばい」。まためくるとうさぎが「こんにちは」。めくると「ばいばい」いろいろの動物が、一匹ずつ登場しては、「こんにちは」「ばいばい」を繰り返します。一歳未満の子どもから喜びます。

子どもが自分以外の人とコミュニケーションをとる、その最初の動作がバイバイであることが多いですね。「こんにちは」もそうです。その続きに「いないいないばあ」があり、「ちょちちょちあばば」があり、手遊びを伴うわらべ歌へと発展していきます。これらは、おはなしの世界への第一歩です。

一歳の子に『ばいばい』を読んでみてください。子どもの集中力に驚きますよ。

おやすみ おやすみ

シャーロット・ゾロトウ文 ウラジミール・ボブリ絵 ふしみみさを訳 2014年 岩波書店

落ち着いたグレーの背景に優しい色調の絵が続きます。ページをめくるごとに、ひとつずつ寝ているものが描かれます。

クマは雪をかぶった巣穴の中で、ハトはからだを寄せ合って、サカナは水草の中で、ガは窓にとまって、ウマは野原でたったまま、・・・

ストーリーに展開はないのですが、それぞれの動物たちに物語を感じるのは、作者ゾロトウの筆の力です。

「こどもたちは ふとんに すっぽり くるまって、ぐっすり すやすや ねむります。おやすみ おやすみ よいゆめを。」

騒いでいる子どもたちの心を静めてくれる本です。

妖怪―身近にいるあやしいもの―

小松和彦著 野村たかあき絵 2013年 グラフィック社

出ました出ました、妖怪たち!子どもの大好きな妖怪です! 

子泣き爺、雪女、木魂、河童、小豆洗い、塗り壁・・・日本に古くからいる妖怪がずらり、あらわれる場所と特徴が説明してあります。もちろん迫力ある絵姿も。

著者の小松和彦さんは、国際日本文化研究センターの所長を務めている文化人類学者で、妖怪の専門家です。だから、妖怪の説明も科学的(?)。

妖怪が出るのは、人があまり行かない、薄暗くってよく見通せないところ。そうした場所は半分は人間の世界だけれど、半分は妖怪の世界でもあるのです。夜道、山小屋、空き家、ふだん使わない座敷や納戸は、要注意です。人も動物も物も、年をとると化けることができるようになる、妖怪になるのですって。

ところで、鬼は、妖怪の中でも特別古い妖怪だそうです。妖怪のご先祖様。いまのような角をはやして虎皮のふんどしをするようになったのは、平安時代になってからだそうです。

それから、河童って、川に棲んでいると思うでしょ。たしかに、そうなんだけれど、秋に稲刈りが終わると、山へ帰るのだそうです。山に帰った河童は、山童(やまわろ)になるそうです。

などなど、豆知識も満載の楽しい「ほんとにいるんですか?絵図鑑」の1冊目。2冊目は「幽霊」です。こちらもおすすめです。ちょっと怖いけど(笑)

ぞうのボタン

うえののりこ作 冨山房 1975年

字のない絵本です。
字のない絵本はお話会では読みにくい?いえいえ、そんなことはありません。絵が十分に語っています。だから、子どもたちは自分の言葉でお話を語ります。読み手は、子どもたちの言葉にうなずきながら「あはは、あはは」と笑っていればいいのです。

ぞうのお腹にボタンが四つついています。ボタンをはずすと、中から馬が出てきました。なあんだ、馬がぞうの着ぐるみを着てたのか。ところが、その馬のお腹にもボタンが四つ。ボタンをはずすと、中からライオンが出てきました。なあんだ、ライオンが馬の着ぐるみ着てたのかあ。ところが・・・・どんどん小型の動物になっていって、とうとうねずみが出てきました。あら、ネズミのお腹にもボタンが四つ。さて、何が出てくると思いますか?

ピーターのてがみ

エズラ=ジャック=キーツ作 きじまはじめ訳 偕成社 1974年

ピーターは、エイミーに誕生日の招待状を書いています。会って口で言えばいいのだけど、これはとくべつの手紙なのです。手紙を出しに行くとちゅうで雨が降りだしました。とつぜん強い風が吹いて手紙をさらっていきました。ピーターは追いかけます。するとむこうからエイミーがやってきて、いっしょに手紙を追いかけました。たいへん、エイミー宛の手紙だと分かったら、びっくりしなくなる!
ころんだエイミーは泣きながら家に帰っていきました。ピーターは、エイミーはもう誕生会に来てくれないだろうと、とても沈んだ気持ちになります。

さあ、誕生日、エイミーはパーティーに来てくれるでしょうか。

かいじゅうたちのいるところ

モーリス・センダック作 神宮輝夫訳 冨山房 1975年

古典中の古典。センダックの代表作です。

マックスは、いたずらをして大暴れ。おかあさんに夕ごはん抜きで寝室にほうりこまれます。すると、寝室ににょきりにょきりと木が生えだして、森になり、マックスは船にのって航海に出ます。
「一週間過ぎ、二週間過ぎ、ひと月、ふた月、日がたって、一年と一日航海すると、かいじゅうたちのいるところ」
リズミカルな訳文に、声に出して読むととても心地がいいです。かいじゅうと過ごすマックスの様子が、文字なしで三ページにわたって描かれます。それが迫力満点なのです。

行きて帰りし物語です。

とらっく とらっく とらっく

渡辺茂男・山本忠敬 福音館書店 1966年

山本忠敬さんの乗り物絵本は、小さい男の子をひきつけて離しません。なかでも、渡辺・山本コンビの『しょうぼうじどうしゃじぷた』と『とらっくとらっくとらっく』は、ドラマ性が高く、夢中になってはいりこみます。
一台のトラックが、高速道路を走り、山の向こうの目的地に着くまでのほぼ一日間の行程が描かれます。途中で出会う働く車たち。道路標識。見るべきものが的確に描かれています。

擬人化されているわけではないのに、子どもは自分がトラックになったような気持ちで聞きます。白バイに追いかけられるあたりからはぐっと集中が高まり、夜になって山道をくねりながら登る場面は しーんとして、みんなのがんばれの声が聞こえてきそうなほどです。

あるとき高校生に読みました。子どもたちと同じような聞きかたをしていました。そして、ひとこと「白バイがかっこよかった」。

初めての乗り物絵本としては、山本忠敬さんの『ぶーぶーじどうしゃ』がおすすめ。再版された『とっきゅうでんしゃあつまれ!』は、今ではもう見られなくなった列車ばかりですが、電車の魅力が満ちあふれていて、子どもたちは大好きです。どちらも福音館書店刊。