ぞうくんのおおゆきさんぽ

なかのひろたか作 福音館書店 2022年

こどものとも(年中向き)430号。
ぞうくんのさんぽシリーズは、子どもたちに定評があります。
1冊目の『ぞうくんのさんぽ』は1977年発行です。
2冊目の『ぞうくんのあめふりさんぽ』は2006年だから、30年近く開いていますね。きっとシリーズ化は考えておられなかったのでしょう。でも子どもたちは喜んだと思います。
つづいて2010年『ぞうくんのおおかぜさんぽ』。
2019年の『かめくんのさんぽ』。
そして、昨年2021年末にこの『ぞうくんのおおゆきさんぽ』が出ました。まだ雑誌ですが、きっと絵本になるでしょう。

ぞうくんが散歩に出かけます。
やっぱり、かばくんに会います。
つぎにやっぱりわにくんに会って、最後にかめくんに会います。
4匹はやっぱり「うわー!」な目にあいます。

そして・・・

 みんな ごきげん
 きょうは おおゆき

この予定調和がなんともいえず心地よい安心感を与えてくれます。

うみがめのおじいさん

いとうひろし/講談社 2021年

対象を幼児からとしましたが、大人も楽しめます。

同じ作者の『おさるのまいにち』に出てくるあのうみがめのおじいさんの話です。
おさるたちのおだやかな毎日のなかで、うみがめのおじいさんが遥か彼方からやって来るのは、大事件です。
おじいさんは、旅のとちゅうでであったことをおさるたちに話してくれます。
そのストーリーを、おじいさんの視点で書いてあります。

おじいさんは、大きな船にぶつかるときもあるし、ぶつからないときもあります。
うつらうつら波間を漂っていると、そんなことはどうでもよくなってきます。

「ここがどこなのか。
 いまがいつなのか。
 じぶんがなんなのか。」

おじいさんにはどうでもいいことに思えるのです。
そうやって海とひとつになっていくおじいさん。
そんなふうに生きて老いて行きたいと思ってしまいます。

パパ、お月さまとって!

エリック・カール作 もりひさし訳/偕成社 1986年

モニカがベッドに行こうとすると、お月さまがとっても近くに見えました。
お月さまと遊びたくなったモニカは、パパに、お月さまをとってとたのみます。
パパは、長い長いはしごを持って来ますが届きません。
そこで、はしごを高い高い山にかつぎあげて登って行きます。
パパはお月さまに届きましたが、お月さまがあんまり大きすぎて、持って降りることができません。
さて、そこで、パパはどうやってモニカにお月さまを取ってあげたでしょうか?

はしごの長さや山の高さ、月の大きさを描くために、エリックカールは、本の形をはみ出します。紙を継ぎ足して広げ、ページの使い方が自由自在です。幼児が絵を描くときと同じ自由さがあります。

月を持って来るというファンタジーですが、月の満ち欠けをちゃんと教えてくれます。
父親が、当たり前のように子どもの願いをかなえてやるすがたに、温かな愛情を感じます。

おくりものはナンニモナイ

おくりものはナンニモナイ

パトリック・マクドネル作 谷川俊太郎訳/あすなろ書房 2005年 

大切な人へ、贈り物には何がいいかな?贈り物を考えるのは楽しいけれど、何を贈れば喜んでもらえるだろうとけっこう悩むこともありますね。

ある冬の日。
ねこのムーチは、大好きな犬のアールに贈り物をしたくなります。けれども、アールは、何でも持っていて、たぶんほしいものは何にもないでしょう。考えたあげく、ムーチは、ナンニモナイを贈ろうと思い付きました。
でも、ナンニモナイってどこにあるのでしょう。ムーチはいろんな人にリサーチします。大きなお店にも行きますが、ナンニモナイは売っていません。
ムーチは考えに考えて、大きな箱を用意しました。
さて、何を持って行ったのでしょう。

 そこで ふたりは ただ じっとして
 たのしんだ、ナンニモナイを。
 そしてなにもかもを。

うたがみえる きこえるよ

うたがみえるきこえるよ

エリック・カール作 もりひさし訳/偕成社 1981年 

モノトーンのページに、切り絵のバイオリンひきが登場します。

バイオリンひきは、歌や音楽を絵に描くことを宣言して、「あなたも、耳をすませ、空想のつばさをひろげて、絵本のなかのうたをみてごらんなさい」と呼びかけます。
バイオリンをひき始めると、黄色や青の音がぽろぽろとこぼれ出ます。
ページをめくると、色の粒は広がります。
次のページでは、まるでシンバルンのように色がふきだします。
ページをめくるだびに、月、太陽、人、魚、涙、花・・・と、カラフルな物語が展開されて行くのです。

本当に音楽や詩が聞こえて来ます。視覚と聴覚がひとつになる楽しさ、喜びを感じさせてくれます。

引き終わったバイオリンひきは、とってもカラフルなすがたに変身しています。

ことりをすきになった山

ことりをすきになった山

エリック・カール絵 アリス・マクレーラン文 ゆあさふみえ訳/偕成社 1987年

あれはてた野原に、岩だらけの山がそびえていました。
山には、草や木が一本もなくて、生き物のすまない不毛の地だったのです。
山は、永久ともいえる時間の中を、太陽や月や星々、空と雲を眺めつづけていました。そこへ、ある日一羽の鳥が飛んできて羽を休めました。山は鳥のつめや羽の柔らかさにおどろきました。
山はわくわくして、名前をたずね、ずっとここにいてくれないかと頼みます。
鳥の名前はジョイといいました。
ジョイは、生き物は水と食べ物がなければ生きられないから、ここで住むのは難しい、でも、また来ますといって飛び立ちました。
山は待ちつづけ、ジョイは毎年羽を休めにやって来ました。
山の命は長いけれど、ジョイの命は短い。そこで、ジョイは、自分の娘にジョイと名前を付けて、この山を訪れるようにいい残します。こうして、ジョイは、代替わりしながら、山を訪れました。
そのあいだも、山はジョイに、ここにいてくれるように懇願します。
百回目にジョイがやって来て飛び去ったとき、山は辛さに耐えかねて、心臓が爆発してしまいました。
すると、固い岩が砕けて涙がふきだし、流れができました。つぎの年の春、ジョイは種を一粒、涙の川のほとりの湿った所にまいて去りました。
こうして、山には草が生まれ、木が育ち、土ができて、虫がすむようになりました。涙の川は、喜びの涙になりました。
初めての種は山で一番高い木になりました。ある年の春、ジョイはその木に巣をつくりました。

物語を書いたのは、文化人類学者アリス・マクレーランです。
ひとつの命に託された何かが時間をこえてうけつがれていくすばらしさに魅せられて、一人類学者の夢を描いた」そうです。

やさいはいきている

やさいはいきている~そだててみようやさいのきれはし~

藤田智監修/ひさかたチャイルド 2007年

副題は「そだててみよう やさいの きれはし」。しぜんにタッチシリーズの写真絵本です。
にんじん、じゃがいも、ごぼう、ほうれんそう、キャベツ、等々、子どもたちがよく見る野菜が集合。
やさいたちは、みんな生きているのです。命が宿っている。ふだんはそのことに気が付きませんが、野菜が生きていることが分かる方法があります。
料理のあとの切れ端を水に入れておくといいのです。
大根やにんじんは、葉っぱのほうを上にして深皿に入れます。ホウレンソウやこまつなは、根っこのほうを下にしてコップに入れます。
どちらも畑に植わっていたときと上下が同じです。すると、根が出て、葉っぱがのびて、花が咲きます。
にんじんの葉っぱの美しいこと!
キャベツの芯から葉っぱがどんどん増える様子は、造形美に驚きます。
大根の花のかれんなこと!
根っこと芽が出たジャガイモを土に植えれば、新しいジャガイモが生まれます。

簡単にお家で実験できて、命について実感できます。

かわ

絵巻じたて ひろがるえほん かわ

加古里子作/福音館書店 2016年

1962年に「こどものとも」で出版された『かわ』は、単行本になって、長いあいだ子どもたちに読まれてきました。
公害などの観点から書かれた文章が、年月による環境変化によって途中で変更になったりもしています。歴史を感じさせますね。

その『かわ』が、絵巻のかたちで出版されています。もともと前のページの右端と次のページの左端が続くように描かれていて、ページをめくりながら楽しんでいましたが、それが、ずらっと一枚の絵になっているのです。嬉しくなりました。
広げると、約7メートルです。 
しかも、表からと裏からと両面あるのです。
表から読んでいくと、文字はなくてカラーの絵巻です。細かい描写を想像して楽しみながら読み進めていくと、海に出ます。海の青の美しいこと!
しかも、大海原が4ページも続くのです。水平線は弧を描いています。
裏から読むと、モノトーンで、文章が説明してくれます。科学絵本であることを思い出させてくれます。
おはなし会で手に持って読むのは難しいですが、文庫などの広い床に広げながら読むと、そのスケールに感動すること請け合いです。

ママー、ポケット!

デヴィッド・エズラ・シュタイン作 ふしみみさを訳/光村教育出版 2018年

赤ちゃんカンガルーのジョーイは、初めてママのおなかのふくろから外をのぞきました。そして、「ママ、おそとをピョンピョンしたいよ」とせがみます。
ピョンピョンと2回はねると何かが飛んでいます。
「きみ、だあれ?」とジョーイが聞くと、それは、「ハチだよ」と答えました。そのとたん、ジョーイは「ママー、ポケット」と、あわててママのポケットに飛び込みました。でも、安心すると、すぐにまた、外へ出たくなるジョーイ。
今度は、ピョンピョンピョンを三回はねて、また誰かに会います。
「きみ、だあれ?」「ウサギだよ」で、また「ママー、ポケット!」
幼い子は《出かけて行っては安心できる所に帰って来る》を繰り返して外の世界を自分のものにして行くのですね。それがとても愛らしく、描かれています。
ジョーイを黙って見守るママの視線も素敵です。
少しずつ遠くはねていく様子が、遠近法で描かれていて、幼い子にもよくわかります。
最後に出会ったのはだれでしょう?

急行「北極号」

急行「北極号」

クリス・ヴァン・オールズバーグ作/村上春樹訳/あすなろ書房 2003年

ダークブラウンが基調の落ち着いた幻想的な絵。読み進めるあいだじゅう、静かな音が流れています。

クリスマスイブの晩、「ぼく」は、ベッドの中でサンタのそりの鈴の音が聞こえるのをじっと待っていました。友達は、サンタなんていないといっていたけれど、「ぼく」は信じて待っていました。

真夜中に聞こえて来たのは、しゅうっという汽車の蒸気の音でした。それは、北極点に向かう、急行「北極号」でした。車掌に引っぱり上げられて、「ぼく」は北極号に乗りこみました。車中は、「ぼく」と同じような、パジャマやナイトガウン姿の子どもたちでいっぱいでした。みんなでクリスマス・キャロルを歌ったり、雪のように真っ白なヌガーがまんなかに入ったキャンディを食べたり、とろりと濃くて香ばしいココアを飲んだりしているあいだに、北極号は、北へ進みます。

暗い森を抜け、高い山を越え、遥かに街の明かりが見えて来ました。そこが北極点でした。
何百というこびとたちがサンタの手伝いをしていました。
サンタが登場して、最初のプレゼントを「ぼく」がもらう場面は圧巻です。

帰りの車中、プレゼントをなくした「ぼく」と周りの子どもたちの表情、描き方がすばらしい。

さて、サンタのプレゼントはどうなったでしょうか?

「ぼくはすっかりおとなになってしまったけれど、鈴の音はまだ耳に届く。心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ」