まなぶ

長倉洋海 アリス館 2018年

写真家長倉洋海さんの写真絵本です。
 
題の通り、世界じゅうの子どもの学ぶ姿が映し出されます。キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、カンボジア、スリランカ、日本・・・。子どもたちの瞳の深さ、笑顔の明るさは、背景の景色が違ってもみな同じです。そして、その背景が子どもたちを見守り育てているのだということを、これらの写真は感じさせてくれます。子どもと、子どもの生きる場所への、作者の愛を感じるのです。

「自分の道を見つけるために、人はまなぶ。まわりのみんなとはちがう「自分だけの道」。ほかの人とぶつかったり、競争しなくてもいい、きみだけの道が、そのまなびの先にある」
作者のこの言葉は、子どもたちへ贈られたものですが、子どもたちの姿に浄化された大人にとっても、たいせつなものとして受けとめることができます。

つくえはつくえ

五味太郎 偕成社 2018年

主人公は男の子。
机の上が山のようになっていて、「せまいきがする」といったら、お父さんが、「きがするんじゃない。せまいのだ。ひろいつくえをつくってやろう!」といって、大工道具を出してきて、ひろーい机を作ってくれました。見開き2ページ分の広さです。男の子が左のページの上の方にちょこんといて「ちょっとひろすぎ」といっています。
そこへ、友だちが、ひとり、ふたりとやって来て、机の上で遊びだします。野球、なわとび、スケートボード・・・ページをめくるたびにどんどん子どもが増えていきます。ラジコン、カラオケ、トランプ、そのうち、絵でいっぱいになって、「もうもじもはいらなくなってきました」という文字を探さなくてはなりません。とうとう、「あ、あ、あ」「おちたようなきがする」「きがするんじゃない おちたのだ」

そこでお父さんは、広すぎない狭すぎない机を作ってくれました。

ちょうどいい机、わたしも欲しいなあと思いながら読みました。

じかんだよー!

さいとうしのぶ 白泉社 2018年

『あっちゃんあがつく』『おべんとうばこのうた』の作者の最新刊です。

どこにでもある台所。瓶やオーブンやなべやら、ぎっしりとあるべき所におさまっています。白いまるいお皿の上で、プチトマトが「もうすぐじかんだよー!しゅうごう!」と叫びます。すると、オーブンの中からハンバーグが「やけたよー!」と、元気いっぱい飛び出してきます。フライパンからオムライスが出てきます。ボールからちぎったレタスと輪切りのきゅうり。みんなお皿に乗ります。もう一人足りない。

プチトマトがさがしに行くと・・・ピーマン、アジ、ちくわ、れんこん、マッシュルーム、ウインナー、アスパラ・・・つぎつぎと小麦粉のバットに飛びこんで、つぎは卵のボールにつかって、パン粉の中で転がって、フライヤーの中にじゅん。フライヤーから「おまたせー」とエビフライが飛びだしました。冷蔵庫からプリンとケチャップとオレンジジュースが飛びだしました。プリンは旗を持っています。
 
はい、お子様ランチの時間だったのです。
 
ひたすら、明るく楽しい食べ物の絵本です。

どしゃぶり

おーなり由子文/はたこうしろう絵 講談社 2018年「あっついなあ! じめんが あつあつ! あっつ あつ!」のページから始まります。
 
ふつうの家のふつうの男の子の夏の日の日常を切りとっています。

黒い雲の近づいてきて、いきなり雨が降りだします。
「そらのにおいがするぞ じめんのにおいもするぞ」
 
にわか雨が、幼い男の子の視線で驚きを持って表現されます。

茶色の地面に黄色い傘、グレーの空。真っ白の雨としぶき。
男の子は、雨の中を走って、跳んで、ずぶぬれになって雨と遊びます。

「あめさん ばいばい。 また きてね。」

ああ気持ちよかった。大人になってできなくなったささやかな日常の遊びを、本の中で体験できます。子どもには、ほんとうに体験させてあげたいです。

雨、あめ

ピーター・スピア 評論社 1984年

雨が降りだしたので、姉弟はレインコートを着て大きな傘をさして、散歩に出かけます。雨の日は見慣れたものがいつもと違った顔を見せます。それはとても美しい顔です。

ハチの巣箱をのぞき、洗濯物の下を通り、土の道を歩き、電線にとまっている鳥たちを見上げます。雨樋から落ちてくる雨を手で受け、傘で受け、傘を逆さにして受けます。くもの巣にかかった雨粒。自動車の下で雨宿りする猫。

ずぶ濡れになって家に飛びこみ、お風呂に入って美味しいおやつ。室内での遊びや夕食や食後のテレビ。そのあいだにも外では雨が降っています。寝室の窓から見る夜の雨。

翌日はすっかり晴れて、さわやかな一日が始まりました。

この本には字がありません。だから、絵の隅々まで心ゆくまで楽しめます。

ちょうちょのためにドアをあけよう

ルース・クラウス文/モーリス・センダック絵/木坂涼訳 岩波書店 2018年

『かいじゅうたちのいるところ』『まどのそとのそのまたむこう』などでおなじみのモーリス・センダックは、ルース・クラウスとのあいだに『あなはほるものおっこちるとこ』などの共著があります。この『ちょうちょのためにドアをあけよう』も、それらと同じナンセンス絵本、詩のような絵本です。小さな本なので、グループへの読み聞かせは難しいですが、こっそり楽しむのにちょうどよいてのひらサイズです。

「おおごえでうたううたを ひとつくらい おぼえておくといいよ ぎゃーって さけびたくなる ひの ために」とか「ワニとすれちがうときは まずそうな かおを するといいよ」とか「どうしても ねむりたくないときは ふねに のりこめー!っていってから ベッドにはいると ねむれるよ」とか、笑える深~い人生のアドヴァイスが続きます。

「おかあさんとおとうさんをつくるのは あかちゃん もしあかちゃんがうまれなければ ふたりはどっちも ただのひと」なんてすてきな視点でしょ。
最後のページにはこうあります。

「ものがたりの いちばんいいおわりかたは 「おうじさまとおひめさまは ずっとしあわせにくらしましたとさ。ねずみたちも いっしょにね」

おたんじょうびおめでとう!

パット・ハッチンス作/渡辺茂男訳 偕成社 1980年

きょうはサム君のお誕生日です。歳がひとつ大きくなりました。それなのに小さなサム君は、自分で明かりをつけようにも壁スイッチに手が届きません。タンスの服にもお風呂の蛇口にも手が届かないので、自分で服を着られないし、自分で歯を磨くこともできない。せっかく両親からすてきなボートをプレゼントしてもらったのに、流しに手が届かないのでボートを浮かべることができません。郵便屋さんがおじいちゃんからのプレゼントを届けてくれたのですが、取っ手に手が届かず、自分でドアを開けることもできないのです。

幼い子の「自分で!」という自立心をどうやって育めばいいでしょうか。大人は「まだ無理よ」といって、その芽を積んでしまいがちです。ところが、ハッチンスは、こうすればいいんですよと、教えてくれます。郵便屋さんが持ってきたおじいちゃんからのプレゼントは何だったと思いますか。おじいちゃん、ナイスジョブ!

同じ作者の『ティッチ』『ぶかぶかティッチ』も幼い子の心理をうまくとらえています。

ばったくん

五味太郎 福音館書店 1989年

かわいくてユーモラスでリズミカルなおはなしです。ばったくんがお散歩に出て、家の中にとびこんでしまいます。テーブルのお皿の上を滑ったり、テレビにこつんとぶつかったり、ピアノの鍵盤の上を飛んでいったり、ゴミ箱の中に入ったり、工作のりの上に飛び乗ってしまったり。小さなばったくんでも、それなりに冒険があるのです。

「ばったくん おさんぽ まだまだ つづきます」といいつつ、次のページをめくると・・・あらまあ!

この季節、小さな子どもから小学生まで楽しめる本です。

ごきげんななめのてんとうむし

エリック=カール作/もりひさし訳 偕成社 1980年

夜、ホタルがお月さまの明かりで踊っていました。朝五時、お日さまがのぼってきました。左から機嫌のよいテントウムシが、右からご機嫌ななめのテントウムシが飛んできました。ご機嫌ななめのテントウムシは、けんかをふっかけます。でもあまり自信がないので、「おまえじゃ小さすぎるな」と意地を張って、もっと大きな敵を探しに飛んでいきます。すると、蜂、クワガタ、カマキリ、・・・と、どんどん大きない相手に出会います。

各ページの上には、テントウムシが他の生きものと出会った時間を示す時計が書かれています。文章の文字は、相手が大きくなるにしたがってどんどん大きくなります。何だか迫力があります。

とうとう最後に、クジラに出会います。テントウムシは45分かかってくじらのしっぽまで行き着きます。すると、しっぽが・・・!

エリック・カールといえば『はらぺこあおむし』が有名ですね。『ごきげんななめのてんとうむし』も同じようにカラフルな、仕掛けのある楽しい絵本です。

バスていよいしょ

重松彌佐作/西村繁男絵 童心社 2017年

小学生のしんごくんは、お隣の大邸宅の前にあるバス停を自分の家の前に持っていこうと引っ張ります。コンクリートの重しがあるので重くてなかなか動きません。そこへ「えっさ、えっさ」と駕籠屋さんがやって来ます。事情を聞いて駕籠屋さんたちは笑っていってしまいました。でも、なぜ駕籠屋さん?
その後からきたのは浪人者。お姫様。なぜか江戸時代とこんがらがっています。しまいに大名行列が来て、おとのさまは、なぜしんんごくんがバス停を移動させようとしているのかを聞くと、「よかろう」と、家来たちに命じて、バス停を動かしてくれました。

しんごくんの理由は何だったでしょう。これは夏の風物詩のはなしです。