エリック・カール絵 アリス・マクレーラン文 ゆあさふみえ訳/偕成社 1987年
あれはてた野原に、岩だらけの山がそびえていました。
山には、草や木が一本もなくて、生き物のすまない不毛の地だったのです。
山は、永久ともいえる時間の中を、太陽や月や星々、空と雲を眺めつづけていました。そこへ、ある日一羽の鳥が飛んできて羽を休めました。山は鳥のつめや羽の柔らかさにおどろきました。
山はわくわくして、名前をたずね、ずっとここにいてくれないかと頼みます。
鳥の名前はジョイといいました。
ジョイは、生き物は水と食べ物がなければ生きられないから、ここで住むのは難しい、でも、また来ますといって飛び立ちました。
山は待ちつづけ、ジョイは毎年羽を休めにやって来ました。
山の命は長いけれど、ジョイの命は短い。そこで、ジョイは、自分の娘にジョイと名前を付けて、この山を訪れるようにいい残します。こうして、ジョイは、代替わりしながら、山を訪れました。
そのあいだも、山はジョイに、ここにいてくれるように懇願します。
百回目にジョイがやって来て飛び去ったとき、山は辛さに耐えかねて、心臓が爆発してしまいました。
すると、固い岩が砕けて涙がふきだし、流れができました。つぎの年の春、ジョイは種を一粒、涙の川のほとりの湿った所にまいて去りました。
こうして、山には草が生まれ、木が育ち、土ができて、虫がすむようになりました。涙の川は、喜びの涙になりました。
初めての種は山で一番高い木になりました。ある年の春、ジョイはその木に巣をつくりました。
物語を書いたのは、文化人類学者アリス・マクレーランです。
「ひとつの命に託された何かが時間をこえてうけつがれていくすばらしさに魅せられて、一人類学者の夢を描いた」そうです。