はぐ

佐々木マキ作 福音館書店 2013年

幼児がよろこぶ本だと思って、図書館で読みました。もちろんうれしそうにしていましたが、小学校で読んだら、「なんでやねん!」とつっこみを入れながら、隣の子とハグしていました(笑)

砂浜の波打ち際で、左右から子どもやブタやタコがあらわれ、会えたことを喜びあうだけのお話です。ハグしているその顔の安らかで幸せそうなこと。

幼い子には続けて何度も読むといいと思います。

リスとお月さま

セバスティアン・メッシェンモーザ 松永美穂訳 コンセル 2007年

ある朝、リスがびっくりして目をさましました。お月さまが落ちてきたからです。
リスは、月どろぼうと間違われて牢屋に入れられてはたいへんと、お月さまを木の枝から突き落としました。すると、お月さまは、下で寝ていたハリネズミの背中にささって取れなくなってしまいました。
そこへやぎがやって来て、お月さまを角で突きさしました。すると、お月さまが角にささって取れなくなりました。やぎは角を振り回しているうちに、木に角が刺さって身動きできなくなりました。

動けなくなったやぎとハリネズミの表情がなんとも言えず笑えます。何度も出てくるモノトーンの牢屋の場面は、そのたび爆笑してしまいます。

読み手には、はじめから、「月」は実は「チーズ」であることが分かっているのですが、最後まで読むと、「? やっぱり月だったのかしら?」と思わせるオチで、想像の楽しさを思い切り味わえる本です。

子どもたちは、絵の細部まで読んで大喜びします。でも、一番受けたのはおとなの聞き手でした!

きみの家にも牛がいる

小森香折文 中川洋典絵 リブロポート 2005年

親子四人が、食卓で朝食をとっています。さあ、この絵の中に、牛でできている
ものを見つけてください。牛乳、チーズ、バターはもちろん、おかあさんのペンダントは牛の顔だし、クッションは牛柄、玄関マットには「COW」って書いてあるし・・・。

つぎのページから答え合わせが始ますのですが、牛乳からとれる食品については4ページで終わりです。あとは、屠殺場、食肉市場を経て、肉牛が焼き肉になるまでが描かれます。パック詰めの肉が、もとは生きていた牛だということを、きちんと教えてくれる本です。

さらに、牛の皮、骨、爪、・・・牛の体のあらゆる部分が加工されて人間の使うものになっています。最後に再び初めの台所。さあ、あらためて牛探しをすると、あるわあるわ。

「人間は、牛の命をもらっている。そして牛の命を生かすのも、人間」これが作者のメッセージです。

悲しい本

マイケル・ローゼン文 クェンティン・ブレイク絵 谷川 俊太郎訳 あかね書房 2004年

人がどうしようもない悲しみにとらわれるのは、どんな時でしょう。たとえば、愛する人を失くしたとき。もうこの世では永遠に会えないという思いが心に突き刺さります。

この本の主人公は、息子を亡くした中年の男です。悲しみにとらわれ、悲しみから逃げ出すためにさまざまな意味のないことをし、死ぬことさえ考えます。

最後のページの、一本のろうそくの灯りと男の表情に、それでも生きようとする勇気を感じます。

こんたのおつかい

田中友佳子作 徳間書店 2004年

こぎつねのこんたは、おかあさんに、おあげを買いに行くように頼まれます。こんたは、忘れないように「おあげ、おあげ」と唱えながら行くのですが、寄り道して天狗に襲われます。走ってにげますが、「おあげ、おあげ」がいつのまにか、「てんぐ、てんぐ」になってしまいます。「てんぐ、てんぐ」と走っていくと、こんどは鬼が出てきて・・・

昔話の「どっこいしょ」から想をとった楽しい絵本です。恐いものから逃げるモティーフが使ってあって、小さい子はとても喜びます。

ピーターのいす

E=ジャック=キーツ作 木島始訳 偕成社 1969年

ピーターに、妹のスージーが生まれます。ピーターが赤ちゃんのとき使っていたゆりかごがピンクに塗られ、スージーが寝ています。食堂いすも赤ちゃんベッドも、ピンクになってスージーのものになってしまいました。

「あれ、ぼくのなのに」と、ピーターは不満です。ピーターは家出することにしました。犬のウィリーといっしょに、たいせつなものを持って家の前に出ていきました。ところが、もちだした赤ちゃんいすに座ろうとすると、お尻が入りません。ピーターは大きくなりすぎていたのです。

ピーターはどうやって心の折り合いをつけたのでしょう。

ほかに、「ピーターのくちぶえ」「ピーターのてがみ」「ピーターのめがね」もおすすめです。どれも、両親のさりげない対応が絶妙です.

かぜは どこへいくの

シャーロット・ゾロトウ作 ハワード・ノッツ絵 松岡享子訳 偕成社 1981年

楽しく美しい一日の終わり、男の子は寝室の窓からながめながら、お母さんに尋ねます。
「どうして、ひるはおしまいになってしまうの?」
さて、お母さんは何と答えるでしょう。あなたならどう答えますか?

おかあさんは、「よるがはじめられるようによ」と答えて、白く細い月を指さし、「あれが、よるのはじまりよ」といいます。そして、昼はおしまいにならないで、別のところで始まる。どんなものでもおしまいになることはないのだと説明します。

風は止んだらどこへ行くのか、道はどこまで続くのか、山はどこでおしまいになるのか、砕けた波はどこへ行くのか、・・・・

ノッツの繊細な鉛筆画は、遠目はききませんが、母子の対話にぴったり寄り添って、やさしくあたたかです。

じどうしゃトロット

ユリ・シュルヴィッツ作 金原瑞人訳 そうえん社 2015年

元気な小型車のトロットは、あちこち走ってある日サボテン村にやって来ます。そこで出会ったトラック三台。赤トラ、青トラ、黄トラ。トラックたちは小さなトロットをばかにします。負けん気のトロットは、ぜったい負かしてやると考えます。

「ぼくときょうそうしない?サボテン山で12時に」

いぜん紹介した『よあけ』と同じ作者の絵本です。
学童保育(小学1~5年生)のおはなし会で読みました。レースがスタートして見開き3枚分、ずっとトロットがしんがりです。子どもたちはがっかり、ため息。そして次のページから、一台ずつ抜いていきます。大きなトラックたちがパンクしたりつっかえたりするのを横目に、ちいさいがゆえの勝利です。子どもたちの顔が輝きます。

シュルヴィッツらしい色使いで、デフォルメされたマスコットのような自動車たちはとても親しみを感じさせてくれます。

最後のページ「ゆうひにむかって走っていった。でっかいかげをうしろにつれて」
子どもたち「ほんまや~!」

かっこいい、トロットのおはなし。

こっちん とてん

かたやまけん作 福音館書店 2016年

「こどものとも 0,1,2」は、0~2歳対象の月刊絵本です。『こっちん とてん』は、その一冊。

スプーンが、こっこっこっこっとはねてきて、つぎのページでこっちんとたおれます。幼い子は常に経験しているからでしょうか、じっと見入ります。大きい子は、笑います。失敗するって、楽しいんですね。
つぎに、かなづちが、とんとんとんとはねてきて、つぎのページで、とてんとたおれます。つぎに目覚まし時計が、ちっくちっくちっく・・・じゃららららら。かさが、つんつんつん・・・・ばん。かさの開いた音です。

リズミカルな音の繰り返しにのってページを繰っていくと、音がどんどんクレッシェンドしていきます。失敗がつぎつぎ続いて、それが実に楽しいのです。
おおらかな絵本です。

ならの大仏さま

加古里子作 福音館書店 1985年

奈良の東大寺は、いつも、遠足の小学生や、修学旅行生でにぎわっています。金堂(大仏殿)の柱の穴をくぐり抜けた経験をお持ちの人もおられるでしょう。

東大寺は、八世紀、聖武天皇の発願によって建立されました。そのころの世界の宗教の広がりからかきおこしたのが、この絵本です。仏教が大陸から朝鮮半島を通って日本に伝わります。伝わるにはそれなりの国内事情がありました。そのことを、世界地図、平城京の地図、当時の役人の給料表、皇室と藤原氏の系図、疫病流行の人々の様子の絵などなどで説明していきます。

大仏造営の過程は、基礎つくりから丁寧に描かれ、どれだけの費用と材料がどのように集められたのか、どうやって技術者や専門職人や作業者を集めたのかまで説明しています。

おそらく、高校の日本史の教科書より丁寧で、興味をそそると思われます。

さらにさらに、その後の二度の焼失と再興、現代にいたるまでの歴史が語られ、いま、わたしたちにとって「だいぶつさん」ってなんだろうという問題提起で終わっているのです。

もちろんすべての文章を読み聞かせることはできませんが、ぜひ子どもたちに紹介したい本です。読んだ大人もちょっとかしこくなるかも、です。
子どもの絵本といえども、詳細な調査に基づく本作り。かこさとしの面目躍如といったところでしょうか。