あるヘラジカの物語

星野道夫原案/鈴木まもる絵と文/あすなろ書房 2020年

星野道夫さんの一枚の写真に深く心ひかれた作者は、この写真を絵本にしようとアラスカへ取材に行きます。
そこで見て感じた自然が空気や光とともに描かれています。

二頭のヘラジカの角のからまった頭蓋骨の写真。いったいどういう経緯でこんなふうに角がからまってしまったのか。作者は考えます。そして、そこから物語が生まれます。
その物語は、自然界の動物たちの織りなす、命の物語です。空想物語ではなく、科学的な事実を下敷きにしています。だから説得力があります。

闘う二頭のヘラジカの描写は、はげしいです。死んだヘラジカを食べる狼たちの描写も激しいです。死んでしまったヘラジカのすがたは静かに動かないけれど、生きようとしている者たちのすがたは、はげしく、命にあふれています。

ヒグマ、コヨーテ、アカギツネ、クズリ、カナダカケス、ワタリガラス。
やがて荒野が雪に覆われると、カンジキウサギがヘラジカの角をかじります。

マイナス40度のきびしいアラスカの冬がおわり、春になり、何度目かの春、ヘラジカは頭の骨だけになってしまいます。その口の中に、アメリカタヒバリが巣をつくり、ひなを育てます。

たんたんと命を伝える絵本です。

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