「2 幼児から」カテゴリーアーカイブ

しゅっぱつしんこう!

山本忠敬・作 福音館書店 1984年

電車絵本のピカイチです。

みなさんは、特急列車「はつかり」に乗ったことはありますか。東京と東北・北海道をつなぎ、1958年から、2002年に東北新幹線が八戸まで延伸したときまで走っていました。だから、今の子どもたちはもう見たことがない列車です。

『しゅっぱつしんこう!』は、みよちゃんがおかあさんといっしょに、はつかりに乗って出発、急行列車に乗り換え、普通電車に乗り換えて、おじいさんの家の最寄り駅まで行く、その行程を描いています。
 
古い知らない列車が書かれているのに、子どもたちに大人気で増刷を続けている、その魅力は、手に取ればすぐに分かります。列車の正確な描写は生命感にあふれています。そして、流れていく風景の、あくまでも背景でありながら、その美しさ。おとなにはノスタルジーを呼び起こしますが、子どもにとっては風土の生命を吹きこんでくれるのではないかと感じます。走る列車への作者の愛を感じます。
 
やまもとただよしさんは、乗り物絵本の作家として有名です。『しょうぼうじどうしゃじぷた』『とらっく とらっく とらっく』『のろまなろーらー』などなど。子どもたちは、主人公といっしょに走ります。

セミがうまれるよ

あかぎかんこ・作 きたじまひでお・写真 埼玉福祉会 2017年

セミの幼虫が成虫になるまでの成長の様子が、大きな写真とわかりやすい言葉で描かれています。科学的な正確さから考えると、小学生向きかとも思いますが、わかりやすさと、幼い子の探求心にきちんと応えていることから、幼児からとしました。

みなさんは、セミの雄と雌の見分け方を知っていますか?なんと、飛んでいった後の抜け殻から判断できるのですって。

昆虫は、子どもにとっての身近な生命です。おとなは毛嫌いせずに、子どもに、他の生命との出会いを用意してやりたいものです。

にんじゃ あまがえる

 松井孝爾監修 ひさかたチャイルド 2006年

子どもたちにとって、なじみの深いアマガエルの写真絵本です。
 
「せっしゃはにんじゃあまがえるでござる。きょうはわれわれあまがえるのすごいじゅつをたくさんみせるでござる」と、忍者言葉でアマガエルのふしぎを教えてくれます。その語り口調だけでも子どもは大よろこびです。

大人でも、カエルは保護色で身を守ることは知っていても、証拠写真を見せられると、う~んとうなってしまうし、透明のまぶたが下から閉まるのには、「へえ~」。

楽しく得した気分になる科学絵本です。

おへそのあな

長谷川義史 BL出版 2006年

まだ生まれていない赤ちゃんが、おかあさんのおへそのあなから、外をのぞいています。
お兄ちゃんやお姉ちゃん、おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん。みんな赤ちゃんが生まれてくるのが楽しみで、それぞれ準備しているのが、見えます、聞こえます、においます。

子どもたちに読むと、「うへ~」と、てれくさそうにします。でも、そのほころびきった顔は、嬉しくてしかたがないというようです。

どの子もこんなふうに迎えられるのだと気づいてくれるでしょう。

ゆきのひ

エズラ・ジャック・キーツ作/木島始訳/偕成社 1969年

以前紹介したピーターのシリーズです。このピーターがいちばん幼いかなと思います。
 
雪の中を赤いコートで出かけるピーター。コントラストが美しく、貼り絵がすばらしいです。
 
ピーターは大きい子どもたちの仲間入りはできません。でも、ひとりで精一杯雪を楽しみ、すばらしい時間を過ごします。雪の上にさまざまな足形をつけたり、天使の形を作ったり。わが子が小さかったとき、スキー場でピーターのまねをして遊びました。

ピーターは雪の玉をたいせつに持ってかえりますが、すっかり融けてしまいました。でも、つぎの日はもっとたくさん積もっていたのです。こんどは、友だちと遊びに出かけました。

ゆき

ユリ・シュルヴィッツ作/さくまゆみこ訳/あすなろ書房 1998年

子どもはたいてい雪が好きです。雪があまり降らない地域の子どもは特に、雪に憧れます。そんな思いを美しい色をかさねて描いています。

初めは雪なんてふらないように見えます。ところが、一ひらだけ、小さく小さく描かれます。少しずつ数が増えていきます。大人たちは雪なんてふらないといいますが、どんどん降ってきます。男の子は雪の町を踊って、走って、よろこびます。

マザーグースの登場人物たちもとびだして、ふしぎな世界があらわれます。

はぐ

佐々木マキ作 福音館書店 2013年

幼児がよろこぶ本だと思って、図書館で読みました。もちろんうれしそうにしていましたが、小学校で読んだら、「なんでやねん!」とつっこみを入れながら、隣の子とハグしていました(笑)

砂浜の波打ち際で、左右から子どもやブタやタコがあらわれ、会えたことを喜びあうだけのお話です。ハグしているその顔の安らかで幸せそうなこと。

幼い子には続けて何度も読むといいと思います。

こんたのおつかい

田中友佳子作 徳間書店 2004年

こぎつねのこんたは、おかあさんに、おあげを買いに行くように頼まれます。こんたは、忘れないように「おあげ、おあげ」と唱えながら行くのですが、寄り道して天狗に襲われます。走ってにげますが、「おあげ、おあげ」がいつのまにか、「てんぐ、てんぐ」になってしまいます。「てんぐ、てんぐ」と走っていくと、こんどは鬼が出てきて・・・

昔話の「どっこいしょ」から想をとった楽しい絵本です。恐いものから逃げるモティーフが使ってあって、小さい子はとても喜びます。

ピーターのいす

E=ジャック=キーツ作 木島始訳 偕成社 1969年

ピーターに、妹のスージーが生まれます。ピーターが赤ちゃんのとき使っていたゆりかごがピンクに塗られ、スージーが寝ています。食堂いすも赤ちゃんベッドも、ピンクになってスージーのものになってしまいました。

「あれ、ぼくのなのに」と、ピーターは不満です。ピーターは家出することにしました。犬のウィリーといっしょに、たいせつなものを持って家の前に出ていきました。ところが、もちだした赤ちゃんいすに座ろうとすると、お尻が入りません。ピーターは大きくなりすぎていたのです。

ピーターはどうやって心の折り合いをつけたのでしょう。

ほかに、「ピーターのくちぶえ」「ピーターのてがみ」「ピーターのめがね」もおすすめです。どれも、両親のさりげない対応が絶妙です.

じどうしゃトロット

ユリ・シュルヴィッツ作 金原瑞人訳 そうえん社 2015年

元気な小型車のトロットは、あちこち走ってある日サボテン村にやって来ます。そこで出会ったトラック三台。赤トラ、青トラ、黄トラ。トラックたちは小さなトロットをばかにします。負けん気のトロットは、ぜったい負かしてやると考えます。

「ぼくときょうそうしない?サボテン山で12時に」

いぜん紹介した『よあけ』と同じ作者の絵本です。
学童保育(小学1~5年生)のおはなし会で読みました。レースがスタートして見開き3枚分、ずっとトロットがしんがりです。子どもたちはがっかり、ため息。そして次のページから、一台ずつ抜いていきます。大きなトラックたちがパンクしたりつっかえたりするのを横目に、ちいさいがゆえの勝利です。子どもたちの顔が輝きます。

シュルヴィッツらしい色使いで、デフォルメされたマスコットのような自動車たちはとても親しみを感じさせてくれます。

最後のページ「ゆうひにむかって走っていった。でっかいかげをうしろにつれて」
子どもたち「ほんまや~!」

かっこいい、トロットのおはなし。