イメージを作る
テキストが決まったら、意味段落に分けていきます。ほら、学校の国語の時間にやったあれです。
ポイントは、時間の経過と場面転換。「 やがて 」 「 まもなく 」 「 つぎの朝 」 など、時間がぽんと飛ぶところとか、新しい人物が登場するところ、また退場するところなど、場面が切りかわるところ。そこで切っていきます。そして、各段落に番号をふって、第1段落から順番に覚えていくのです。けっして、全文いっぺんに覚えようなどと無謀なことはしないでくださいね。
全体を段落わけしたら、ひと段落ごとに場面を思い描きましょう。人物の姿かたちや位置関係、人物の動き、建物のようす、山の中の風景など、しっかりイメージします。映画監督になったつもりで楽しんで創ってみましょう。
このとき、視覚だけでなく、木の葉のそよぐ音や、近づいてくる靴音など、聴覚も働かせます。ホットケーキのにおいや森の針葉樹のにおい、きびのおかゆの味や、渇ききったのどを潤すひしゃくの水の冷たさなど、五感を使ってイメージします。
昔話やよくできた語りのテキストは、単純な言葉で語られますが、だからといって平面的にとらえるのではなく、まるで実生活で感じているように、言葉をイメージして世界を作っていきます。イメージがクリアであればあるほど、その話の世界は豊かになり、リアリティが増します。そうすると、聞き手への説得力も増すのです。
すべての場面をイメージし終わったら、テキストを声に出して読みながら、それらのイメージをつなげて、一本の映画にします。
言葉を覚える
ひと段落ごとに、なんども声に出して読んで、自分の耳に聞かせます。語りも音楽みたいなものですから、耳で覚えると早いのです。声に出して覚える、これが絶対必要、不可欠です。伝承の語り手は、子どものころに何度も繰り返し聞いているということを思い出してくださいね。
そろそろ耳が覚えてきたと思ったら、こんどは、2~3行ぱっと見て目をつぶって言ってみます。ほら、イメージが浮かぶでしょ?先にイメージをしっかり作っておいたからですよ。
その2~3行ぱっ、を繰り返していきます。そして、ひと段落覚えたら、その日はそれでおしまい。次に進まないで、買い物に行くときも、掃除機をかけるときも、お風呂に入るときも、ずっと、ぶつぶつぶつぶつ、ネタを食ってください (笑)
まずはひとつめの段落を完全に覚えるのです。いいかげんなところで、まあ覚えたかなと次に進むと、結局全体があいまいに終わってしまい、覚えられないままになってしまいます。
段落ごとに覚える
さて、次の日はふたつ目の段落。昨日の段落は復習しない。覚えてるかな、大丈夫かな、なんて考えないで、ふたつ目の段落に突入します。
昨日と同じようにして覚えます。完全に覚えてから、日をあらためて次の段落へ。こうして最後の段落がすんだら、はじめて最初の段落に戻って全体を通すのです。たぶん最初のほうの段落はだいぶ忘れていると思います。忘れていてもいいのです。あなたは忘れていても脳は忘れていませんから。繰り返し通しているうちにじきに記憶が戻ってきます。
さてさて、この方法で覚えたら、ストーリーのどの部分もほぼ同じ回数だけ口にしているということに、気づきましたか? 練習のたびに最初に戻っていたら、口にする回数は、最初のほうがが多くなって、あとになるほど少なくなりますね。これでは、語るとき、最初ばかり自信があって元気が良くて、ずんずん気弱になっていきますよ。お話は、あとになるほど盛り上がっていって最後が大事なのに。
昔話は、最後の主人公の幸せに向かってストーリーが進んでいきます。聞き手が満足して終わるためには、最後まで自信を持って語りましょう。
繰り返し練習する
とりあえず全体が覚えられたら、毎日暇を見つけては練習しましょう。できるだけ大きな声でやると自信がつきます。
よく間違えるところや不安な部分があれば、そこだけ取り出して繰り返し練習します。練習するときも、イメージすることを忘れずにいてくださいね。寝言ででも言えるくらいに練習しましょう。
ここまで、覚え方を書いてきました。よく、自分なりの方法があればそれでやればいいという意見を聞きます。でも、初めてお話を語る人や、覚えるのがどうも自信がない人は、ぜひこの方法でやってください。いえ、ベテランの人こそ、これでやってみてください。この方法でやれば、お話の構成を頭でなくて体できちっととらえられるはずです。そして、お話の命である 「 イメージ 」 がくっきりと見えるようになると思います。