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出発進行!里山トロッコ列車

かこさとし作 偕成社 2016年

作者晩年の絵本です。

トロッコ列車とは、車両の屋根や壁を取り払って、まわりの景色や風を楽しむ列車です。表紙の見開きに、日本地図が描いてあって、全国トロッコ列車運行状況図(2016年3月現在)とあります。北海道から九州まで、ぜんぶで18の路線があります。わたしはこの中で、黒部峡谷と釧路湿原の二つに乗りました。あなたは?・・・そんなふうに遊びたくなるのがかこさんの絵本の面白さです。

さて、この本は、千葉県房総半島を走る、小湊鉄道の里山トロッコ列車について書かれたものです。列車の仕組みの細かな図はもちろんのこと、沿線の地図は、ハイキングガイドのように丁寧です。列車好きの子どもにはたまらない魅力があります。コッペル社製蒸気機関車の設計図まであります。

しかも、空・山・大地が広々と描かれ、まるでトロッコ列車に乗って走っているような気になります。沿線の四季折々の動植物や、寺社、その由来、地層、各種トンネル、発電所、伝承の踊り、ゆかりの歴史上の人物、名物。

この絵本を持って、房総半島を歩いてみようと思いました。

はらぺこゾウのうんち

藤原幸一 写真・文 偕成社 2018年

南アジアの熱帯雨林にすむゾウ。巨大なからだにやさしい小さな目、黒々とした巨大なうんち!

動物好きの子どもは目が離せないでしょう。

森の木々も空も美しく、よくある自然や野生動物の写真絵本かと思ったら、じつは深いメッセージが込められていたのです。

地球温暖化のせいで、雨期になっても雨が降らず、ゾウの森は、ここ10年で9回も干ばつが起きています。

やせ衰えたゾウが、水をさがして歩きまわり、しまいには柵を越えて人間の土地に入りこみます。人びとは、ゾウを神さまと信じているので、お供え物としてお菓子や果物をゾウに与えるようになりました。

ゾウは、あまいにおいに引き寄せられて、とうとう、人間のゴミ捨て場を発見。ゴミ捨て場のそばのゾウのうんちには、レジ袋がいっぱいつまっていました。

地球温暖化自体が人間のもたらしたもの。自然とうまく着き合えない人間の罪を突き付けられました。

こんとん

夢枕獏文・松本大洋絵 偕成社 2019年

中国の思想書『荘子』に、混沌(こんとん)という帝の話があります。また、中国の古い神話に、混沌という名の怪物が登場します。それらをもとにかかれた絵本です。

こんとんは、目耳鼻口がなく、いつも空を見て笑っています。南海の帝と北海の帝が、こんとんのために目耳鼻口の七つの穴を開けてやります。そのとたん、こんとんは死んでしまうのです。
 

じぶんの 目で みる きく かぐ じぶんの 口で かたる
それは なんだか とてつもなく たいへんな ことだったんだろうね
と絵本の作者はいいます。そして、
 
こんとん こんとん きみのことが すきだよ
と。

さてさて、混沌は、カオスのこと。「混沌に目鼻を空ける」ということわざがあります。むりやり物事に道理を付けるという意味です。

こんとん、魅惑的な存在です。

ニットさん

たむらしげる作 イースト・プレス 2012年

ニットさんは、毛糸の編み物が得意なおばさんです。シャカシャカとどんどん編んで行きます。
まずはふわふわの椅子。のどがかわいたので、テーブルと、ティーポットと、カップ。風が吹いてきて寒くなったので、大きな家!
毛糸の玉と、毛糸のメリヤス編みは、写真を使ってあるので、リアリティがあって、おお~っと驚いてしまいます。
 
夜になると、三日月を編み、ベッドを編んでおやすみなさい。
よく見ると、地球も土星も、星たちも、みんな毛糸で編んであります。

ひよこのコンコンがとまらない

ポール・ガルドン作/福本友美子訳 ほるぷ出版 2007年

北欧の昔話です。めんどりのコッコさんが、ひよこのタッペンを連れて森に出かけます。おいしい種が落ちていないか探しに行ったのです。
コッコさんはタッペンに、大きい種は食べてはいけない、コンコン(せき)が出るからといいました。ところが、タッペンは、大きい種を飲みこんで、せきが止まらなくなりました。
 
コッコさんは、水をくみに泉へ行きますが、泉はコップを持ってこないと水をやらないといいます。
そこで、コッコさんは、かしの木にたのみましたが、かしの木は枝をゆすってくれなければ、コップをやらないといいます。
そこで・・・コッコさんは、木こりの息子、くつ屋、雌牛・・・と、必死で走ってたのみに行きます。連鎖譚です。

絵は、素朴であたたかいです。コッコさんは左から右へ走って行き、出会うものたちは、右にいて左を向いています。だから、連鎖譚の楽しさがわかります。

ももくりチョコレートのあそび

かこさとし作 農文協 1991年

「かこさとしあそびの大惑星」シリーズの7冊目。副題は「遊びのお菓子大列車」。

すみからすみまで、お菓子を使った遊びで埋め尽くされている本です。

紙の桃太郎の作り方、まめリンピックで豆とマッチ棒を使った遊びの遊び方、豆の数え歌、みつ豆やコーヒーやアイスクリームの作り方(ほんもの。食べられます)、ホットケーキとカステラの小咄、紙で膨らむおもちやのびる餅菓子の作り方、クイズのカステラの切り方・チョコの分け方、レモンの実験(紅茶レモン・牛乳レモン・お金レモン)、・・・・これは、ほんの一部です。とにかく、読んでみてください。

<レモンばなし> せんせい「レモンのじっけんはうまくできましたか?」せいと「はぁ、すっぱいでした。」

「パパはパパイヤ」
「おいしいのはドリヤン?」
「これスイカ、あまいか?」

「これはなんでしょう?」「かきのたねです?」「いいえケンカのタネです」と、さるとかにが話しています。

ネコが見た”きせき”

マイケル・フォアマン作/せなあいこ訳 評論社 2001年

イエスキリストの誕生の物語は、古来絵画で表され、降誕劇として演じられてきました。絵本にも、たくさんの作品があります。

この『ネコが見た”きせき”』は、題名のとおり、ねこの目で描かれたキリストの誕生です。

その夜、外では雪が降っていて星が驚くほど明るく光っていたと、ネコはいいます。ネコは、牛やヤギといっしょに納屋の中にいて、ねずみを取ろうと考えていました。そこへ、いきなりとびらが開いて、雪まみれの人間がふたりとロバが入って来ます。赤ちゃんが生まれ、羊飼いたちがやって来て、ラクダに乗ったりっぱな人間が三人もやって来て、ねずみたちもぞろぞろ出て来て、みなで赤ちゃんを見つめます。

翌日、男の人と女の人は赤ちゃんをつれて出て行きました。その夜以来、ネコはねずみをいっぴきも取っていません。だれかと争うのが、すっかりいやになったからだと、ネコはいいます。

マリアやヨセフという名まえは出てきません。ただのネコに過ぎないのに、キリストの愛の心を手に入れた、奇跡の夜の物語です。

静かなクリスマスにぴったりの絵です。

みらいのえんそく

ジョン・ヘア作/椎名かおる文 あすなろ書房 2019年

ジョン・ヘアは、アメリカのイラストレーター。これは、彼の最初の絵本です。
 
学校の遠足で月に着陸するところから話は始まります。絵を描くのに夢中で一人取り
残された男の子。こういう子って、どこにでもいますね(笑)取り残されたけれど、諦めて絵でも描こうと腰を落ち着けます。そこへ、目がひとつの宇宙人が5人、恐る恐る近づいてきます。宇宙人たちは、好奇心いっぱい。
 
男の子は、宇宙人たちにクレヨンを貸してって、宇宙人たちは大喜びで月の岩に落書きを始めます。
 
とにかく絵がうまい。宇宙服を着ているのに、何を考えているのか、微妙な表情までわかるのです。

そらはあおくて

シャーロット・ゾロトウ文/なかがわちひろ訳/松浦さやか絵 あすなろ書房 2018年

女の子が、お母さんの子どもの頃のアルバムを見ています。服もお店も家の中にある物も、お母さんが子どもの頃は、今とずいぶん違っていることに気が付きます。する
とお母さんがいいます。
「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白
くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」
夜になるとお母さんがベッドで寝かしつけてくれるのも、今と同じだとお母さんはいい
ます。

もっと古いアルバムを開くと、おばあさんの子どもの頃の写真がありました。女の子
は、今とはずいぶん違うと思いましたが、お母さんは、
「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白
くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」といいます。

曾祖母のアルバムも開いてみます。やはり、たいせつなことは変わらないと、お母さ
んは説明します。そして、女の子が大きくなったら、わが子に同じことを説明してあげ
てねというのです。

ソロトウの「終わりになるものは何もない」という思想に心が揺すぶられます。

うどんのうーやん

岡田よしたか作 ブロンズ新社 2012年

主人公は、きつねうどん。どんぶりばちから威勢よくのびている二本のうどんが手になって、お箸もつかめるし、腕組みもできます。
 
うどん屋にうどんの出前の電話がきます。ダイヤル式の黒電話!
 
「うーやん でまえや。たのむでー」
「ほな いってきますう」

人手不足なので、うどんのうーやんは、自分でお客さんの家に行かなければなりません。威勢よく走りだすと、後ろから、おあげとお箸が追いかけます。

途中で出会ったやせねこに、うどんを食べさせてやり、半分に減ったうどん。困ったうーやんは、お客の家に向かう道で会った者たちと仲間になって、どんぶりに入れていきます。そうめん、めざし、うめぼし、とうふ、たこやき、ミニトマト、コロッケ、エビフライ。川をわたり、山を越え、河内音頭を歌いながら進みます。

名付けて、にぎやかうどん!

大阪弁の文章なのですが、関西人でなくても、なりきって読めばきっと楽しいと思います。