「4 中学年から」カテゴリーアーカイブ

ウミガメと少年

野坂昭如戦争童話集沖縄編 
野坂昭如文/黒田征太郎絵 講談社 2001年

野坂昭如が戦争をテーマに書いた子どものための物語『戦争童話集』は、中公文庫から出版されています。それに絵をつけて、一冊ずつの絵本にしたのが、黒田征太郎。この沖縄編は、続編です。
ウミガメは毎年、沖縄の浜にやってきて産卵します。ある年のこと、爆撃で家族とはぐれてしまった少年が、浜辺にたどり着き、ウミガメの産卵を見ます。少年は、このままでは、卵が爆撃でやられてしまうと考え、卵を自分の隠れている洞窟に、ひとつひとつ避難させます。毎日砂をかえて世話をするのです。
少年は、何日も何も食べていません。思わず、割れた卵をひとつ食べてしまいました。後は、次から次と卵を食べてしまいます。
アニメ化された作品ですが、絵本で自分のペースで読むことをお勧めします。

出発進行!里山トロッコ列車

かこさとし作 偕成社 2016年

作者晩年の絵本です。

トロッコ列車とは、車両の屋根や壁を取り払って、まわりの景色や風を楽しむ列車です。表紙の見開きに、日本地図が描いてあって、全国トロッコ列車運行状況図(2016年3月現在)とあります。北海道から九州まで、ぜんぶで18の路線があります。わたしはこの中で、黒部峡谷と釧路湿原の二つに乗りました。あなたは?・・・そんなふうに遊びたくなるのがかこさんの絵本の面白さです。

さて、この本は、千葉県房総半島を走る、小湊鉄道の里山トロッコ列車について書かれたものです。列車の仕組みの細かな図はもちろんのこと、沿線の地図は、ハイキングガイドのように丁寧です。列車好きの子どもにはたまらない魅力があります。コッペル社製蒸気機関車の設計図まであります。

しかも、空・山・大地が広々と描かれ、まるでトロッコ列車に乗って走っているような気になります。沿線の四季折々の動植物や、寺社、その由来、地層、各種トンネル、発電所、伝承の踊り、ゆかりの歴史上の人物、名物。

この絵本を持って、房総半島を歩いてみようと思いました。

はらぺこゾウのうんち

藤原幸一 写真・文 偕成社 2018年

南アジアの熱帯雨林にすむゾウ。巨大なからだにやさしい小さな目、黒々とした巨大なうんち!

動物好きの子どもは目が離せないでしょう。

森の木々も空も美しく、よくある自然や野生動物の写真絵本かと思ったら、じつは深いメッセージが込められていたのです。

地球温暖化のせいで、雨期になっても雨が降らず、ゾウの森は、ここ10年で9回も干ばつが起きています。

やせ衰えたゾウが、水をさがして歩きまわり、しまいには柵を越えて人間の土地に入りこみます。人びとは、ゾウを神さまと信じているので、お供え物としてお菓子や果物をゾウに与えるようになりました。

ゾウは、あまいにおいに引き寄せられて、とうとう、人間のゴミ捨て場を発見。ゴミ捨て場のそばのゾウのうんちには、レジ袋がいっぱいつまっていました。

地球温暖化自体が人間のもたらしたもの。自然とうまく着き合えない人間の罪を突き付けられました。

ネコが見た”きせき”

マイケル・フォアマン作/せなあいこ訳 評論社 2001年

イエスキリストの誕生の物語は、古来絵画で表され、降誕劇として演じられてきました。絵本にも、たくさんの作品があります。

この『ネコが見た”きせき”』は、題名のとおり、ねこの目で描かれたキリストの誕生です。

その夜、外では雪が降っていて星が驚くほど明るく光っていたと、ネコはいいます。ネコは、牛やヤギといっしょに納屋の中にいて、ねずみを取ろうと考えていました。そこへ、いきなりとびらが開いて、雪まみれの人間がふたりとロバが入って来ます。赤ちゃんが生まれ、羊飼いたちがやって来て、ラクダに乗ったりっぱな人間が三人もやって来て、ねずみたちもぞろぞろ出て来て、みなで赤ちゃんを見つめます。

翌日、男の人と女の人は赤ちゃんをつれて出て行きました。その夜以来、ネコはねずみをいっぴきも取っていません。だれかと争うのが、すっかりいやになったからだと、ネコはいいます。

マリアやヨセフという名まえは出てきません。ただのネコに過ぎないのに、キリストの愛の心を手に入れた、奇跡の夜の物語です。

静かなクリスマスにぴったりの絵です。

まなぶ

長倉洋海 アリス館 2018年

写真家長倉洋海さんの写真絵本です。
 
題の通り、世界じゅうの子どもの学ぶ姿が映し出されます。キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、カンボジア、スリランカ、日本・・・。子どもたちの瞳の深さ、笑顔の明るさは、背景の景色が違ってもみな同じです。そして、その背景が子どもたちを見守り育てているのだということを、これらの写真は感じさせてくれます。子どもと、子どもの生きる場所への、作者の愛を感じるのです。

「自分の道を見つけるために、人はまなぶ。まわりのみんなとはちがう「自分だけの道」。ほかの人とぶつかったり、競争しなくてもいい、きみだけの道が、そのまなびの先にある」
作者のこの言葉は、子どもたちへ贈られたものですが、子どもたちの姿に浄化された大人にとっても、たいせつなものとして受けとめることができます。

ぼく・わたし

高畠那生 絵本館 2003年

見開きの右ページに「ぼく、べんきょうはとくいじゃないけれど」と、男の子がノートの上にひじをつき、スツールに片足上げてつまらなそうな顔で、遠くを見ています。ノートの横にはおそらく算数と国語と思われる教科書が開かれています。同じ机の上に、鉛筆が二本と消しゴムが直立しています。

左ページには、「かみひこうきはとくい。」。同じ部屋の中、同じ机の前で、男の子は笑顔で紙飛行機を飛ばしています。右ページでは気付かなかったくず入れが、左ページでは大きく描かれ、中に紙飛行機がふたつ、そばには四つ落ちています。飛んでいるのも置いてあるのも手に持っているのも、紙飛行機はあちこちの方向を向いています。鉛筆と消しゴムは倒れ、算数の教科書は閉じられています。

このようなページ構成で、「ぼくむしにさされるのはだいきらい。」=「でも、ちゅうしゃはがまんできる。」とか、「ぼく、ちょっときがよわい。」=「でも、こたえはしってるんだ」とか、人には不得手なものと得意なものがあって当然だと主張しています。

最後のページは、登場した子どもたちがみんないっしょにジェットコースターに乗っている場面です。

子どもの健やかな心の成長に欠かせないのは、自己肯定感。親子で読んでほしいなと思う本です。

いろいろいっぱい

ニコラ・デイビス文 エミリー・サットン絵 越智典子訳 ゴブリン書房 2017年

副題が「ちきゅうのさまざまないきもの」

科学絵本。術語は難しいですが、ひらがなが多用してあるので、興味のある子どもなら低学年でも読めます。

「ちきゅうにはなんしゅるいのいきものがいるとおもう?」との問いかけから始まります。「ひとつ」「ふたつ」「みっつ」と数えていって、「いっぱい!」
 
虫、花、象といった子どもの好きな物が描かれ、つぎには多種多様なきのこ。そして微生物。大きさの多様性を教えたあとは、棲家の多様性。砂漠、島。鳥の羽のすきま。それからつぎは、種類の多様性。見た目が違うのに種類は同じだったり、見た目がそっくりなのに違う種類だったり。
 
「すべての生きものが複雑にからみあってひとつの大きくて美しい模様を織りあげているようだ」という説明(主張)とこまやかな素朴な絵とがマッチしています。
 そして、人間がこの模様をこわしている、人間もこの模様がないと生きられないのに。 

同じ作者たちの『ちいさなちいさな  めにみえないびせいぶつのせかい』もおすすめです。

せいめいのれきし 改訂

バージニア・リー・バートン作 石井桃子訳  岩波書店 2015年

1964年に出版された『せいめいのれきし』が51年たって改訂されました。

地球が46億年前に誕生してから現在までの生命の歴史を、ステージに移された映像で見せるというかたちで、ページが進みます。写実的な絵ではないのですが、地中の様子や海底の様子が、とてもリアルに感じられます。
大きなグループへの読み聞かせには向きませんが、かがみこんでじっくりと読ませたい本です。科学的な探求心を満足させてくれるでしょう。
 
科学の研究が進むにつれて、地球上の生命の歴史に新たな発見がつぎつぎと出てきます。改訂版の監修者真鍋真(まなべまこと)さんは、国立科学博物館で、化石から生命の進化を読み解く研究をしています。初版と改訂版を読み比べるのも面白いですよ。

とおいクリスマス

えびなみつる作 白泉社 1994年

言葉はとても少ないのです。でも、人物のにこやかな表情がたくさんたくさん語っています。雪の降る情景も、バスの窓明かりも。そして、くっきりと浮かび上がる彼らの家の窓の灯りも。

お父さんとお兄ちゃんと弟が、うきうきとクリスマスのごちそうを作ります。ろうそくの明かりのもとで三人は食卓をかこみます。お母さんの写真もテーブルの上から参加しています。

雪がやみ、皆は外に出て大きな天体望遠鏡をセットします。
「あの星?」
「そう あの星!」
兄弟は庭にある大きなパラボラアンテナから電話をします。
「メリークリスマス もしもし おかあさん あのね・・・・・

読んでいて涙ぐみそうになったとき、お母さんがどこにいるかわかります。
宇宙船の中なのです。かっこいい、お母さん。お母さんは宇宙飛行士です。

リスとお月さま

セバスティアン・メッシェンモーザ 松永美穂訳 コンセル 2007年

ある朝、リスがびっくりして目をさましました。お月さまが落ちてきたからです。
リスは、月どろぼうと間違われて牢屋に入れられてはたいへんと、お月さまを木の枝から突き落としました。すると、お月さまは、下で寝ていたハリネズミの背中にささって取れなくなってしまいました。
そこへやぎがやって来て、お月さまを角で突きさしました。すると、お月さまが角にささって取れなくなりました。やぎは角を振り回しているうちに、木に角が刺さって身動きできなくなりました。

動けなくなったやぎとハリネズミの表情がなんとも言えず笑えます。何度も出てくるモノトーンの牢屋の場面は、そのたび爆笑してしまいます。

読み手には、はじめから、「月」は実は「チーズ」であることが分かっているのですが、最後まで読むと、「? やっぱり月だったのかしら?」と思わせるオチで、想像の楽しさを思い切り味わえる本です。

子どもたちは、絵の細部まで読んで大喜びします。でも、一番受けたのはおとなの聞き手でした!