愚か村話(おろかむらばなし)@日本

ある村の住民が、もの知らずだったり言葉知らずだったりして、愚かなことをするという笑い話群です。

「飛びこみ蚊帳」

村人がお伊勢参りに行って、途中の宿屋で、かやの使い方が分からなくて、さかさまにつるします。どうやって入ろうかと考えて、上から飛びこむという話。

「長頭(ちょうず)を回す」

村に役人が来て泊まります。朝、役人が、顔を洗うために「手水を回せ」といいます。たらいに水を入れてもって来いという意味です。ところが、村人たちは「手水」の意味が分かりません。さんざん考えたあげく、村一番の長い頭の男をさし出します。男は、役人の前で、一生懸命長い頭を回します。

などなど、30種類くらいあるそうです。
多くはひとつのモティーフからなる短い話です。

これらは、人気があって、全国に残っています。
村の名前をとって、「○○話」と呼ばれます。この村々は、実際に存在する村です。『日本昔話事典』からすべて書き抜いておきますので、みなさんのお住まいの地域や出身地の近くの村を探してみてください。

南山(みなみやま)話(福島県)
栃尾話(新潟県)
二十村郷話(新潟県)
秋山話(新潟県)
安寺持方(あでらもちかた)話(茨城県)
栗山話(栃木県)
美麻村話(長野県)
小倉話(長野県)
川上話(長野県)
奥道志話(山梨県)
川津場話(千葉県)
子安話(神奈川県)
須賀話(神奈川県)
黒谷話(京都府)
野間話(京都府)
横行(よこゆき)話(兵庫県)
佐治谷(さじだに)話(鳥取県)
俣野話(鳥取県)
湯船話(岡山県)
星山話(岡山県)
越原話(広島県)
山代話(山口県)
杢路子(もくろうじ)話(山口県)
木頭(きとう)話(徳島県)
韮生(にらう)話(高知県)
山分(やまぶん)話(高知県)
寒田(さわた)話(福岡県)
野間話(福岡県)
津江山話(大分県)
倉谷話(佐賀県)
高千穂話(宮崎県)
世知原(せちばる)話(長崎県)
五箇庄話(熊本県)
日当山(ひなたやま)話(鹿児島県)

実在の村なので、実際にその村を知っている人たちの間では、事実談・経験談として語られているとのことです。知らない人にとっては、一般的な昔話として語られています。

愚か村話が成立したのは、中世から近世にかけて、町の商人が農村に商売のために回るようになったころだと考えられています。貨幣経済が農村に入りこむことで、新旧の対立が生まれます。商人は農民の古い価値観を笑い、農民は商人のずるさをののしります。そして、商人たちがこの笑い話を伝えて歩いたのです。聞いた農民たちは、自分たちより愚かな村を笑うことで、自尊心を取りもどしたのではないかといわれています。なんだか、閉鎖的で差別的ですね。でも、それも人間の性(さが)なのでしょう。

愚か村が、平家の落人村だといわれることが多いのは、その村の人たちの自尊心から来る反発かも知れません。また、愚かを装うことで、圧政から逃げるという知恵を持っていたとも考えられます。

愚か村話は、外国にもたくさんあります。次回は外国の愚か村についてお話します。