アイヌの語り

アイヌ民族は、かつて日本列島の北海道から東北にかけて暮らしていました。
文字を持たず、かわりに、豊かな口伝えの文芸(口承文芸)を花開かせていました。
その語りは、自然の中で暮らす人々の心が反映したものです。

アイヌの語りは大きく分けてつぎのようになります。

  • カムイ・ユーカラまたはオイナ(神謡)

物語の主人公は神。神自身が自らの物語を一人称で語ります。
アイヌの神は、自然神で、自然のあらゆるものが神であるという信仰のもとに、太陽や鳥や獣、病気までが神として自分の物語を持っています。
人間が自然とどう関わっていくかを教える役目もあったそうです。
韻律を持って歌うように語られ、主に女性が語ります。

  • ユーカラ(英雄叙事詩)

英雄の冒険物語。英雄が自分の物語を一人称で語ります。 
祭りや葬式など、村人が集まるときに夜を徹して語られたそうです。長い話が多く、中には、語るのに何日もかかるものもあるとのことです。
長大で特別な言葉や表現を持っているので、ユーカラの知識や語りの技量に秀でた人は、人びとの尊敬を集めました。
韻律を持って独特の発声で歌うように語られます。

  • ウェペケレまたはツイタク

昔話に近いジャンル。
韻律を持たない散文で語られます。

ウェペケレは内容によってさらに分類されます。
A、カムイ(神々)の物語
B、人間の物語
C、和人の物語
D、パナンペ・ペナンペ話(隣人葛藤話)

このうち、AとBは一人称で語られます。
CとDは三人称で語られ、和人社会の伝承の影響を受けているそうです。

《日本の昔話》で紹介している「くま神の娘」はウェペケレのA、「首の短い男の話」(こちら⇒)は、ウェペケレのBです。

アイヌの語りの特徴として、一人称で語るということがあります。これについて、『日本の民話事典』(日本民話の会編)に、次のようにあります。
『正確にいえば、他人の身の上話をその人になりかわって語っているのであり、物語の中での〈私〉は、語り手本人が自分をさす場合の〈私〉とはちがったものとして意識されます。そして、アイヌ語ではそのふたつの〈私〉を区別して、語り手自身を指す〈私〉は「ク」、物語のなかの〈私〉は「ア(ン)」というように、べつべつの語形であらわしますので、厳密な意味では「一人称」で語られているとはいえません。』

同じ日本列島でも、こんなに異なった文化・言語を持つ民族があることを喜び、それが滅びないことを切に祈ります。