ウリアの手紙

ヨーロッパの昔話では有名なモティーフです。命名は『旧約聖書』から来ています。
 
『旧約聖書』「サムエル記 第2-11」を簡単に説明しましょう。神の意志によって王となったダビデが、罪をおかす場面です。

ダビデ王は、ひとりの美しい女性を垣間見て心動かされ、人妻であると知りながら一夜を過ごします。彼女は、懐妊します。ダビデ王は自分の罪をかくすため、彼女の夫ウリアを呼び寄せ、ウリアの上官であるヨアブに手紙を届けさせます。手紙にはこう書かれていました。「ウリアを戦いの最前線に送り、他の者はみな撤退して、ウリアが討たれて死ぬようにせよ」。結果、ウリアは死に、しかも他の者たちもいっしょに討ち死にしてしまいます。

このように、「ウリアの手紙」とは、手紙の持参者を殺すようにと書かれた手紙のことです。この旧約聖書のモティーフが昔話に取り入れられ、昔話モティーフとなったとき、つぎのようになります。

主人公は、自分を破滅させる手紙(ウリアの手紙)を持ってでかける。とちゅうで、援助者によって手紙が書きかえられ、運命が逆転して幸せを手に入れる。

これを、「ウリアの手紙」のモティーフ、または「手紙の書きかえ」のモティーフといいます。旧約聖書がウリアの死によるダビデ王の罪を語っているのに対して、昔話がいかに主人公中心に語られるかが、よくわかる例ですね。

このモティーフを持つ昔話の話型には、ATU425A「魔女の息子」、ATU462「追放された妃たちと鬼女妃」、ATU910K「製鉄所へ歩く」、ATU930「予言」があります。グリム童話の「三本の金髪を持った悪魔」はATU930です。
 

「三本の金髪を持った悪魔」

ある村の貧しい夫婦に幸運の皮をかぶった男の子が生まれます。主人公です。この子は王の娘と結婚すると予言されます。それを知った王は阻止するために、男の子を殺そうとしますが、失敗します。約13年後、王はこの子と再会します。驚いた王は、再び殺そうと考えます。そして、「この子が着いたらすぐに殺すように」を書いた手紙を男の子に持たせ、后に届けさせます。城への道の途中、男の子は盗賊の家に泊まります。盗賊は、こっそり、「この子が着いたらすぐに姫と結婚させるように」と手紙を書きかえます。翌日、男の子はその手紙を后に届け、王の娘と結婚するのです。

日本の昔話では「水の神の文使い」という話型がそれです。「沼神の使い」ともいいます。こんな話です。

「水の神の文使い」

ある男が沼のそばを通りかかると、美しい女が出てきて、妹に手紙を届けてくれといいます。妹は、もうひとつの沼に住んでいます。男は手紙を受けとってでかけますが、とちゅうで、お坊さんに会います。お坊さんに手紙を見せると、「この男をとって食え」と書いてありました。お坊さんはその手紙を書きかえて男にわたします。男はそれを沼に持っていって渡します。すると、沼の女は、手紙に書いてある通りに、すばらしい金銀宝物をくれました。

この「手紙の書きかえ」のモティーフをより広い意味でとらえると、手紙を書きかえることによって、主人公の運命が変わるモティーフすべてを指すことになります。

「手なし娘」

「かわいい男の子を生んだ」という妻(または夫の母親)の手紙を持った使者が、途中で悪魔(または継母)の手によって「化け物を生んだ」と書きかえられます。そして、「大事に育てよ」という夫の手紙が「追放せよ」と書きかえられ、主人公は苦難の旅に出ます。

この場合は、主人公を救ってくれるのではなく、主人公に試練を与えるためのモティーフになっていますね。
 

世界的に同じモティーフがあります。みなさんも探してみてください。