隣の爺譚(となりのじいたん)

日本の昔話には、善良なおじいさんと、対照的に人まねする隣のおじいさんを登場させる構成を持ったものがあって、隣の爺譚とよばれています。

關敬吾『昔話の型』 11「葛藤」のC 「 隣人」 からどんな話型があるか引いてみましょう。

「地蔵浄土」 「鼠浄土」 「雁取り爺(花咲爺)」 「鳥のみ爺」 「竹伐爺(屁ひり爺)」 「舌切雀(舌切り雀・腰折り雀)」 「蟹の甲」 「瘤取爺」 「猿地蔵」 「見るなの座敷」 「猿長者」 「宝手拭」 「親を棄てる」 「大年の客」 「厄病神」 「貧乏神」 「大年の火」 「笠地蔵」 「大年の亀」 「物いふ動物」 
20種類ありました。

これ以外にも、たとえば「取っつく引っ付く」 「天福地福」なども、隣の爺譚の構成を持っています。
 
隣の爺端には、ヴァリエーションがあって、爺―隣の爺、婆―隣の婆、爺―婆の対照になっているものがあります。どれも構成が同じなので「隣の爺譚」と呼びます。人が入れ替わっているだけです。 

また、前半の善いじいさんが成功する話だけで終わるもの、隣のじいさんの失敗だけで終わるものがあります。
 
完全な形では、後半、隣のじいさんが善いじいさんの成功をうらやんでまねをして、失敗します。「だから、人のまねをしてはいけない」という教訓が、話の終わりに付くこともあります。

前半と後半は同じ言葉でくりかえされますが、結末はまったく対照的です。昔話は極端な対照を好む、その好例といえます。→ ≪昔話の語法≫「極端性」
 

隣の爺譚は、日本には、先にあげたようにたくさんあるのですが、世界的には朝鮮半島と中国に少しあるだけで、世界的な分布はないようです。日本の昔話の特色といえるでしょう。
隣人関係を強く意識する日本人の生活意識のなかで、この形式が育ったのではないかといわれています。興味深いですね。
 
語りの森の≪日本の昔話≫に「こしおれすずめ」を載せていますので、どうぞ。