AT・ATU

昔話の資料を読んでいると、AT番号という言葉が出てきます。これは、昔話の話型番号です。

昔話にはよく似たものがたくさんあります。この類似した話(類話)をそれぞれ集めて、ひとつの話型とみなします。その話型を配列したカタログがあって、その話型番号がAT番号です。カタログを見れば、たとえばこんなことが分かります。 

AT2番は「尻尾の釣り」という話型です。
話の内容は、「熊(狐)がだまされてしっぽを氷の穴に入れて釣りをする。尻尾はすぐに凍る。のちに熊が襲われて逃げようとすると、尻尾が切れる」。
《日本の昔話》の「くまのしっぽはなぜみじかい」は、AT2番ですね。大阪だけではなくて世界じゅうに分布しているのです。

AT327番は「子どもと鬼」という話型。
内容がモティーフ構成で説明されています。それを読むと、「ヘンゼルとグレーテル」「かしこいモリー」「ミアッカどん」「はらぺこピエトリン」などがこの類話だと分かります。 

ところで、ATというのは、カタログを作ったふたりの人物の名前を合体させたものです。

1910年に、フィンランドの民俗学者アンティ・アールネがヨーロッパの昔話をもとに、カタログ『昔話の型』を作りました。それをアメリカのスティス・トンプソンが1928年と1962年に、広く世界の昔話をもとに増補・改訂しました。ふたりの名前の頭文字をとって、ATカタログと呼ばれているのです。 

ATカタログは、『世界の民話25』(小澤俊夫著/ぎょうせい)に部分的に翻訳されています。すべてを日本語で読めないのは残念ですが、これを使えば、たくさんの類話を集めることができます。本書には、『世界の民話1~23』所収の話のAT番号の一覧がのっています。昔話を語る者にとって、類話比較はたいせつです(《ステップアップ》「おはなしの姿」参照)。
これをただ読むだけでも、昔話の世界に深く広くわけいることができます。 

さて、研究が進むにつれ、カタログはさらに増補改訂され充実したものになりました。2005年ドイツのハンス=ウェルク・ウター氏が発表し、ATUと呼ばれます。これは、話の内容はモティーフ構成ではなく、あらすじが文章で書かれています。その翻訳が『国際昔話話型カタログ』(加藤耕義訳/小澤昔ばなし研究所刊)として、2016年年8月に出版されました。