この言葉、聞きなれないかたもおられるかと思います。
Frame Story の訳語。説話集の構成方法のひとつです。全編を統一した物語の中に、たくさんの物語を入れ込んでいます。
たとえば、『千一夜物語』、アラビアンナイトですね。ペルシャのシャフリヤール王が、妻の不実をきっかけに女性不信に陥り、毎日ひとりの娘を宮殿に呼んでは翌朝殺すようになります。街に若い娘がいなくなる。これを憂えた大臣の娘シェヘラザードが、これを止めるために自ら王の妻になります。そして、毎晩ひとつ物語を語り、一番面白いところでやめて、続きは翌日に語る。すると王は、続きを聞きたいがために、翌晩までシェヘラザードを生かしておきます。次の日もまた同じこと、というように、毎日物語を語り、とうとう王の悪習をなおしてしまいます。
そうやってシェヘラザードが語った話が、「まほうのランプ」であり、「シンドバッドの冒険」であり「アリババと四十人の盗賊」・・・なのです。
この、「シェヘラザードがシャフリヤール王に語るという」という枠があって、その中で独立した物語が語られるという構成の物語が、「枠物語」です。
枠物語という構成方法は、インドに起源があるようで、オリエント、ヨーロッパと伝わっていきました。『デカメロン』『ペンタメローネ』『カンタベリー物語』などなど。
さて、ホームページの《外国の昔話》掲載の「りこうなまほうの鳥」を思い出してください(『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』にも入れています)。鳥がインテゲル王に物語を語り、王が悲しんだら鳥は逃げ去る、という枠の中で、三つの話が物語られていますね。規模は小さいですが、枠物語と考えていいでしょう。
規模が小さいといえば、「愚か村の人たち」の後半も枠物語です。よく使われる構成なのですね。
日本の場合では、「百物語」を思い出しましょう。
夜に人々が寄り集い、順番に怪談を語り合います。一話終わるごとに灯をひとつ消していき、最後の話が終わると、真っ暗になる。そのとき、今までの話に登場した妖怪たちが現れる。という遊びです。これはあくまで遊びであって、説話集ではありません。
江戸時代に『百物語』(万治2年)という書名の説話集がありますが、中身は必ずしも怪談が集められているわけではありません。遊びに名を借りているといえばいいでしょうか。これは枠物語ではありません。