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やさいはいきている

やさいはいきている~そだててみようやさいのきれはし~

藤田智監修/ひさかたチャイルド 2007年

副題は「そだててみよう やさいの きれはし」。しぜんにタッチシリーズの写真絵本です。
にんじん、じゃがいも、ごぼう、ほうれんそう、キャベツ、等々、子どもたちがよく見る野菜が集合。
やさいたちは、みんな生きているのです。命が宿っている。ふだんはそのことに気が付きませんが、野菜が生きていることが分かる方法があります。
料理のあとの切れ端を水に入れておくといいのです。
大根やにんじんは、葉っぱのほうを上にして深皿に入れます。ホウレンソウやこまつなは、根っこのほうを下にしてコップに入れます。
どちらも畑に植わっていたときと上下が同じです。すると、根が出て、葉っぱがのびて、花が咲きます。
にんじんの葉っぱの美しいこと!
キャベツの芯から葉っぱがどんどん増える様子は、造形美に驚きます。
大根の花のかれんなこと!
根っこと芽が出たジャガイモを土に植えれば、新しいジャガイモが生まれます。

簡単にお家で実験できて、命について実感できます。

かわ

絵巻じたて ひろがるえほん かわ

加古里子作/福音館書店 2016年

1962年に「こどものとも」で出版された『かわ』は、単行本になって、長いあいだ子どもたちに読まれてきました。
公害などの観点から書かれた文章が、年月による環境変化によって途中で変更になったりもしています。歴史を感じさせますね。

その『かわ』が、絵巻のかたちで出版されています。もともと前のページの右端と次のページの左端が続くように描かれていて、ページをめくりながら楽しんでいましたが、それが、ずらっと一枚の絵になっているのです。嬉しくなりました。
広げると、約7メートルです。 
しかも、表からと裏からと両面あるのです。
表から読んでいくと、文字はなくてカラーの絵巻です。細かい描写を想像して楽しみながら読み進めていくと、海に出ます。海の青の美しいこと!
しかも、大海原が4ページも続くのです。水平線は弧を描いています。
裏から読むと、モノトーンで、文章が説明してくれます。科学絵本であることを思い出させてくれます。
おはなし会で手に持って読むのは難しいですが、文庫などの広い床に広げながら読むと、そのスケールに感動すること請け合いです。

ママー、ポケット!

デヴィッド・エズラ・シュタイン作 ふしみみさを訳/光村教育出版 2018年

赤ちゃんカンガルーのジョーイは、初めてママのおなかのふくろから外をのぞきました。そして、「ママ、おそとをピョンピョンしたいよ」とせがみます。
ピョンピョンと2回はねると何かが飛んでいます。
「きみ、だあれ?」とジョーイが聞くと、それは、「ハチだよ」と答えました。そのとたん、ジョーイは「ママー、ポケット」と、あわててママのポケットに飛び込みました。でも、安心すると、すぐにまた、外へ出たくなるジョーイ。
今度は、ピョンピョンピョンを三回はねて、また誰かに会います。
「きみ、だあれ?」「ウサギだよ」で、また「ママー、ポケット!」
幼い子は《出かけて行っては安心できる所に帰って来る》を繰り返して外の世界を自分のものにして行くのですね。それがとても愛らしく、描かれています。
ジョーイを黙って見守るママの視線も素敵です。
少しずつ遠くはねていく様子が、遠近法で描かれていて、幼い子にもよくわかります。
最後に出会ったのはだれでしょう?

急行「北極号」

急行「北極号」

クリス・ヴァン・オールズバーグ作/村上春樹訳/あすなろ書房 2003年

ダークブラウンが基調の落ち着いた幻想的な絵。読み進めるあいだじゅう、静かな音が流れています。

クリスマスイブの晩、「ぼく」は、ベッドの中でサンタのそりの鈴の音が聞こえるのをじっと待っていました。友達は、サンタなんていないといっていたけれど、「ぼく」は信じて待っていました。

真夜中に聞こえて来たのは、しゅうっという汽車の蒸気の音でした。それは、北極点に向かう、急行「北極号」でした。車掌に引っぱり上げられて、「ぼく」は北極号に乗りこみました。車中は、「ぼく」と同じような、パジャマやナイトガウン姿の子どもたちでいっぱいでした。みんなでクリスマス・キャロルを歌ったり、雪のように真っ白なヌガーがまんなかに入ったキャンディを食べたり、とろりと濃くて香ばしいココアを飲んだりしているあいだに、北極号は、北へ進みます。

暗い森を抜け、高い山を越え、遥かに街の明かりが見えて来ました。そこが北極点でした。
何百というこびとたちがサンタの手伝いをしていました。
サンタが登場して、最初のプレゼントを「ぼく」がもらう場面は圧巻です。

帰りの車中、プレゼントをなくした「ぼく」と周りの子どもたちの表情、描き方がすばらしい。

さて、サンタのプレゼントはどうなったでしょうか?

「ぼくはすっかりおとなになってしまったけれど、鈴の音はまだ耳に届く。心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ」

あるヘラジカの物語

星野道夫原案/鈴木まもる絵と文/あすなろ書房 2020年

星野道夫さんの一枚の写真に深く心ひかれた作者は、この写真を絵本にしようとアラスカへ取材に行きます。
そこで見て感じた自然が空気や光とともに描かれています。

二頭のヘラジカの角のからまった頭蓋骨の写真。いったいどういう経緯でこんなふうに角がからまってしまったのか。作者は考えます。そして、そこから物語が生まれます。
その物語は、自然界の動物たちの織りなす、命の物語です。空想物語ではなく、科学的な事実を下敷きにしています。だから説得力があります。

闘う二頭のヘラジカの描写は、はげしいです。死んだヘラジカを食べる狼たちの描写も激しいです。死んでしまったヘラジカのすがたは静かに動かないけれど、生きようとしている者たちのすがたは、はげしく、命にあふれています。

ヒグマ、コヨーテ、アカギツネ、クズリ、カナダカケス、ワタリガラス。
やがて荒野が雪に覆われると、カンジキウサギがヘラジカの角をかじります。

マイナス40度のきびしいアラスカの冬がおわり、春になり、何度目かの春、ヘラジカは頭の骨だけになってしまいます。その口の中に、アメリカタヒバリが巣をつくり、ひなを育てます。

たんたんと命を伝える絵本です。

ヒトニツイテ

五味太郎作/絵本塾出版(CBSソニー出版) 2015年(1979年)

この本が最初に世に出たのは1979年。作者がまだ絵本を描き始めて間もないころです。主人公(?)は、ヒトですが、裸の男性なので、「人類」と思われます。ストーリーは、ある意味で人類の歴史であり、同時にひとりの人間の歴史でもありす。

ヒト ハ ミル
ヒト ハ カンガエル
ヒト ハ マツ

1ページごとに「ヒト ハ ・・・」と、人の行動が描かれます。

ヒトの目の前に現れた火星人のようなタコのような生物に、ヒトはどのように行動するでしょう。どのページも、うん。あるある、と共感するのですが、笑いながらなにげなく開いたページで、手が止まります。びっくりします。が、たしかに、人間はそういう存在だと思い知らされるのです。
とても哲学的な絵本です。

ロバのシルベスターとまほうの小石

ウイリアム・スタイグ作/瀬田貞二訳/評論社 1975年

シルベスターの趣味は小石集め。小さな子どもによくある楽しみですね。ある雨の日、シルベスターは、赤く光ってビー玉のような真ん丸な小石を拾います。それを持って、ふと「雨がやんでくれたら、なあ」とつぶやくと、いっぺんに雨がやんで、お日様が輝きました。
赤い小石は、なんでも願いのかなう小石だったのです。
シルベスターは、大喜びで、小石を持ってお父さんとお母さんのもとへ帰ろうとしました。その途中、ライオンに会って食べられそうになります。とっさに小石に願い事を言います。「ぼくは岩になりたい」

さて、それからどうなるでしょう。
シルベスターは待ちます。絶望しながら待つしかないのです。
両親は、シルベスターが行方不明になって、悲しみに沈みます。そして、待ちます。

親と子、双方の思いが身につまされます。最後のページの親子の抱き合う姿に、思わす涙が・・・

きみの行く道

ドクター・スース作絵/いとうひろみ訳/河出書房新社 1999年

原作『Oh,the Places You’ll Go!』 は、1990年に発表され、世代を越えたミリオンセラーになったそうです。
たしかに、おとなが読んでも勇気が湧いてきます。

人生は旅です。広い未知の世界への旅です。頭の中には脳みそがぎっしりつまっているし、靴の中には足がぎっしり。行きたいところへ歩いていけばいい。
行きたい道が見つからなければ町を出ていきます。どんなところへ行っても、大丈夫。頭にはぎっしりの脳みそ、靴にはぎっしりの足。だから、大丈夫、トップに躍り出ます。
でも、人生にはスランプがあるわけで、どうにもならないところまで落っこちることもあります。その苦しみも、描かれます。

ドクター・スースが86歳のときの作品です。酸いも甘いもかみ分けた。

タコやん

富安陽子文/南伸坊絵 福音館書店 2019年6月

ある日、海から、たこのタコやんが、しょうちゃんの家にノタコラ、ペタコラやって来ます。「あそびましょ!」だって。しょうちゃんは、テレビゲームの最中だったので、断ります。でも、タコやんは、ドアのすきまから入りこんで、ゲームを始めます。その強いこと!
「タコやん、すっげえ!」としょうちゃんがいうと、タコやんは、照れて、一本足で頭をかいて、「それほどでも」。
公園でサッカーをすると、みんなは「タコやん、すっげえ!」
かくれんぼも、なかなかみつかりません。そこへ、犬を連れたおじさんが・・・

特になんということのないストーリーなのですが、平凡な日常ながら、わくわく感があるし、心なごみます。繰り返しのリズムも楽しく読めます。

ラチとらいおん

マレーク・ベロニカ文・絵/とくながやすもと訳/福音館書店 1965年 

ラチは、世界一弱虫の男の子です。
ラチは飛行士になりたいのですが、犬は怖いし、暗い部屋も怖いし、友達さえ怖いのです。それで、ラチはいつも仲間外れにされて、泣いてばかりいました。
ラチは、ライオンの絵が大好きで、こんなライオンがいたら何も怖くないんだけどと思っています。

ある朝、目を覚ますと、ベッドのそばに、小さな赤いライオンがいました。ライオンは、とても強くて、片手で椅子を持ち上げることができました。
ラチはライオンに強くなる方法を教えてもらいます。

自分を小さく弱い存在だと感じている幼い子にとって、切実な願いをかなえてくれるライオンは、お守りのような存在です。
そして、いつか、お守りがなくても、ひとりでいじめっ子をやっつけられるほど、強くなれるのです。
勇気と希望を与えてくれるおはなしです。