「2 幼児から」カテゴリーアーカイブ

ひとまねこざる

H・A・レイ作/光吉夏弥訳 岩波書店 1954年

古典中の古典です。今読み返しても、全く古びていません。きっと、時代がうつっても、幼い子どもの本質は変わらないからでしょう。おさるのジョージは、知りたがり屋であることも含め、前へ前へと行動する姿が、幼児の姿と重なります。子どもは自分がジョージになっていっしょに冒険することができる、そんなふうに描かれているのです。

ぞうの大きな耳の下で寝る!バスの屋根に乗って町を走る!部屋中にペンキで絵を描く!大人たちはそんな夢を忘れがちですが、ジョージはやります。子どもはどんなにか嬉しいことでしょう。いつもジョージを許す大人たちの表情も暖かです。よく見ると、ジョージも他の人物も、みな、いつも口もとが笑っています。

ジョージは失敗してけがもするし、入院もしますが(救急車に乗れるなんて、なんてすてきなんだろう!)、それもこれも含めて、人生は愉しいと感じさせてくれます。幼い子どもには、この肯定感は、とても大切です。

最近の幼児向きの絵本と比べると、ページ数が多く、読むのに時間がかかります。それだけに読後の充実感があります。そして明るいユーモアに彩られているので、読み手も子どもも疲れません。

じかんだよー!

さいとうしのぶ 白泉社 2018年

『あっちゃんあがつく』『おべんとうばこのうた』の作者の最新刊です。

どこにでもある台所。瓶やオーブンやなべやら、ぎっしりとあるべき所におさまっています。白いまるいお皿の上で、プチトマトが「もうすぐじかんだよー!しゅうごう!」と叫びます。すると、オーブンの中からハンバーグが「やけたよー!」と、元気いっぱい飛び出してきます。フライパンからオムライスが出てきます。ボールからちぎったレタスと輪切りのきゅうり。みんなお皿に乗ります。もう一人足りない。

プチトマトがさがしに行くと・・・ピーマン、アジ、ちくわ、れんこん、マッシュルーム、ウインナー、アスパラ・・・つぎつぎと小麦粉のバットに飛びこんで、つぎは卵のボールにつかって、パン粉の中で転がって、フライヤーの中にじゅん。フライヤーから「おまたせー」とエビフライが飛びだしました。冷蔵庫からプリンとケチャップとオレンジジュースが飛びだしました。プリンは旗を持っています。
 
はい、お子様ランチの時間だったのです。
 
ひたすら、明るく楽しい食べ物の絵本です。

どしゃぶり

おーなり由子文/はたこうしろう絵 講談社 2018年「あっついなあ! じめんが あつあつ! あっつ あつ!」のページから始まります。
 
ふつうの家のふつうの男の子の夏の日の日常を切りとっています。

黒い雲の近づいてきて、いきなり雨が降りだします。
「そらのにおいがするぞ じめんのにおいもするぞ」
 
にわか雨が、幼い男の子の視線で驚きを持って表現されます。

茶色の地面に黄色い傘、グレーの空。真っ白の雨としぶき。
男の子は、雨の中を走って、跳んで、ずぶぬれになって雨と遊びます。

「あめさん ばいばい。 また きてね。」

ああ気持ちよかった。大人になってできなくなったささやかな日常の遊びを、本の中で体験できます。子どもには、ほんとうに体験させてあげたいです。

おたんじょうびおめでとう!

パット・ハッチンス作/渡辺茂男訳 偕成社 1980年

きょうはサム君のお誕生日です。歳がひとつ大きくなりました。それなのに小さなサム君は、自分で明かりをつけようにも壁スイッチに手が届きません。タンスの服にもお風呂の蛇口にも手が届かないので、自分で服を着られないし、自分で歯を磨くこともできない。せっかく両親からすてきなボートをプレゼントしてもらったのに、流しに手が届かないのでボートを浮かべることができません。郵便屋さんがおじいちゃんからのプレゼントを届けてくれたのですが、取っ手に手が届かず、自分でドアを開けることもできないのです。

幼い子の「自分で!」という自立心をどうやって育めばいいでしょうか。大人は「まだ無理よ」といって、その芽を積んでしまいがちです。ところが、ハッチンスは、こうすればいいんですよと、教えてくれます。郵便屋さんが持ってきたおじいちゃんからのプレゼントは何だったと思いますか。おじいちゃん、ナイスジョブ!

同じ作者の『ティッチ』『ぶかぶかティッチ』も幼い子の心理をうまくとらえています。

ばったくん

五味太郎 福音館書店 1989年

かわいくてユーモラスでリズミカルなおはなしです。ばったくんがお散歩に出て、家の中にとびこんでしまいます。テーブルのお皿の上を滑ったり、テレビにこつんとぶつかったり、ピアノの鍵盤の上を飛んでいったり、ゴミ箱の中に入ったり、工作のりの上に飛び乗ってしまったり。小さなばったくんでも、それなりに冒険があるのです。

「ばったくん おさんぽ まだまだ つづきます」といいつつ、次のページをめくると・・・あらまあ!

この季節、小さな子どもから小学生まで楽しめる本です。

うたってくださいことりさん

五味太郎 偕成社 2002年

五味太郎の作品は、あんがい幼児に難しかったりするのですが、これはいけます。

小鳥が歌うと、花が咲きます。みんなワクワク楽しくなるのです。小鳥が歌うと、ぐったりしている猫も元気になります。しゃきっ。ブランコでけんかしているブタたちもにこにこ仲良くなります。などなど。

こんな小鳥が、あなたのところにも来ましたよ。

心が温かくなって、疲れたおとなはちょっとうれし涙がにじむかもしれません。

だいすき

田島征三 偕成社 1997年

おそろいの黄色い帽子に黄色いかばんの男の子と女の子。幼稚園児でしょうね。肩をくんでにこにこ笑っている表紙から始まります。見開き一面に、筆で、いろんな色いろんな大きさの「だいすき」が書かれています。

頁を繰っていくと、文章は、どのページも「だいすき」だけ。ミニトマトがふたつ、絡まっています。魚が二匹、ぴたっとお腹を合わせています。白鳥が長い首を絡ませています。みんな、みんな、「だいすき」をからだであらわしています。

タコの「だいすき」はたいへんです(笑)

しろさんとちびねこ

エリシャ・クーパー作 椎名かおる訳 あすなろ書房 2017年

白地に黒の素朴な線で描かれています。
 
ひとりで暮らしている白猫のところに、ちびの黒猫がやって来ます。白猫は黒猫に、かしこい猫のすることを教えます。食べる、飲む、トイレなどなど。幸せな時がたち、黒猫は成長して白猫と同じ大きさになります。さらに時がたち、白猫がいなくなります。
悲しくてどうしようもない黒猫のところに、ちびの白猫がやって来ます、黒猫は、かつて教わったのと同じように、ちびねこに、賢い猫のすることを教えます。
命のつながり。

二匹の猫が抱き合って眠っている場面(3カ所)だけ、地の色が温かなクリーム色。白猫がいなくなった場面(1箇所)は灰色。

地味だし、難しいテーマのはずなのに、子どもたちは、もういちど読んでとアンコールしました。図書館のお話会、3歳から8歳の子どもたちでした。

はなを くんくん

ルース・クラウス文/マーク・サイモント絵/きじまはじめ訳/福音館書店 1967年

雪の降り積もる森の中。白黒モノトーンで雪原と、冬眠中の動物たちが描かれます。地面の下、石の間で眠っているのは野ネズミです。岩あなで眠っているのはクマ、木の洞にはかたつむりが眠っています。りすは木の中で、山ネズミは地面の下で。

いきなり動物たちは目を覚まし、雪の中を走りだします。
のねずみが鼻をクンクン。くまが鼻をクンクン。みんなみんな走りだします。
 そして、ある地点でいっせいに立ちどまり、笑い、おどりだします。

最後のページのまんなかに、黄色い花が描かれ、動物たちは喜びにあふれた目で見つめています。心なしか、描かれている雪も、春の雪に見えてきます。

てぶくろ

エウゲーニー・M・ラチョフ絵/うちだりさこ訳/福音館書店 1965年

ウクライナの昔話です。昔話絵本ではピカイチです。ラチョフはこの絵本を描いた後、違った絵柄で描き直していて、日本では2003年に田中潔訳で出版されています。新しいほうもおしゃれですが、古いほうが読者にはなじみがあり、また、昔話らしい雰囲気があるように思います。

おじいさんが森の中に落としていった手袋。ねずみが駆けてきて、「ここでくらすことにするわ」といって、はしご付きの家にします。そこへ、蛙がやって来ていっしょに暮らしはじめると、うさぎやきつねやおおかみやいのししもやって来て手袋の中で暮らしはじめます。
 
てぶくろにバルコニーがつき、ドアがつき、窓が付き、呼び鈴が付き。細部まで楽しめます。ウクライナの民族衣装も興味深いです。
 
最後にクマがやって来て、さて、手袋はどうなったでしょう?