「2 幼児から」カテゴリーアーカイブ

おすわり どうぞ

しもかわらゆみ作 講談社 2018年

春の日にぴったりの本です。ピクニックに行って遊びつかれた後のティータイムにそっと開きたいような絵本です。
 
作者は、動物細密画の画家です。動物たちは写実的でほんものなんだけれど、表情が愛らしく、物語があって、すてきなファンタジーになっています。
 
さて、これは、いすのおはなしです。もんしろちょうが飛んでいます。小さなまるいきのこのいすにすわるのは、ねずみ。そのぴったり感がすばらしい。のっぽのきのこのいすにすわるのは、りす。やっぱりぴったりです。切り株のいすはうさぎ、たんぽぽのいすには、かえる。葉っぱの小山にはりねずみ。丸太のいすにはきつね。しかといのししがやって来ると、きつねは丸太を転がします。ちゃんと三匹、ぴったり並んですわれました。
 
すずめやことりたちが飛んできました。どこにすわると思いますか?
 
あれれ、いつのまにか、もんしろちょうが二匹になっています。

なくのかな

内田麟太郎作/大島妙子絵 童心社 2018年

子どもって、油断しているとすぐ迷子になりますよね。
 
ここは、おまつりでしょうか。どうも歩行者天国のようです。老若男女が、食べたり歩いたりベンチに座っておしゃべりしたり。風船を持った子もいます。楽しそうです。でも、男の子がひとり、お父さんとお母さんにはぐれてしまいました。
 
ぼくは、じっとこらえて、考えます。
 
知らないどこかでひとりぼっちになったら、恐い鬼でも泣くのかな?
 
ページを開くと、山また山の鬼の世界で、赤鬼が「おかあさーん」「おとうさーん」と泣いています。
 
次はこわいオオカミ。
 
がけの上で、おおかみが遠吠えしています。
 
次は強いさむらい。
 
山の道でけものたちに取り囲まれて、「ははうえー」「ちちうえー」と泣いています。
 
次はおばけ。
 
鬼やおおかみたちは、男の子のまわりに集まって、「だれもみんななくんだよ。みんなないてもいいんだよ」といいます。とうとう男の子は思いきり泣きました。
 
すると、ちゃんと、お父さんとお母さんに会えました。
 
行楽のお供にどうぞ。

きらきら

谷川俊太郎文/吉田六郎写真 アリス館 2008年

雪の結晶は見たことがありますか。ひとつとして同じものがない、六角形のもよう。宝石のように美しいけれど、さわると融けてしまう、はかないもの。

どのページも、紺色の地にさまざまな雪の結晶の写真が置かれています。ページをめくってもめくっても結晶。でも、見あきることはありません。

「たべたいな」 
「あまいかな」

子どもたちは笑って、「あまい」「すっぱい」と口々に言ってくれます。

「でもおかねでかえない ゆびわにもできない」

そういう美しいものがこの世にあることを知ることは、たいせつだと思います。心をしーんとさせてくれます。作者は雪の結晶を「かみさまのおくりもの」だといいます。最後のページでは、解けていく雪の結晶を見せてくれます。はかなさを感じます。

あひるのピンのぼうけん

マージョリー・フラック文/クルト・ヴィーゼ絵/まさきるりこ訳 瑞雲社 1994年

ピンは「とても美しい子どものあひる」です。揚子江に浮かぶ船に、67羽の家族たちと暮らしています。船の名前は「かしこい目」といって、目があるので、まるで生き物のように描かれています。

船の主人は、毎朝、あひるたちを陸地に放し、夕方になると、あひるたちを集めて船にもどらせます。あひるたちは一列になって、船と陸の間に渡した板の橋をわたって行き来しますが、列の最後のアヒルは、主人からおしりに鞭を食らうのです。ある日ピンはもどるのが遅くなって、鞭を食らうのがいやで、草むらにもぐりこんでかくれました。
かしこい目は、ピンを岸に残したまま遠ざかっていきました。

そこから、ひとりぼっちになったピンのぼうけんが始まります。

川に暮らす人々の生活の様子が、素朴だけれど動きのある絵と、ピンの視線で描かれます。ピンは人間につかまってしまいますが、逃がしてくれたのも人間の男の子です。ピンは奇跡のようにかしこい目を発見します。

瀬田貞二のいう「行きて帰りし物語」です。ピンはおしりを鞭で打たれましたが、無事家に帰ることができて、めでたし、めでたしです。

ひとまねこざる

H・A・レイ作/光吉夏弥訳 岩波書店 1954年

古典中の古典です。今読み返しても、全く古びていません。きっと、時代がうつっても、幼い子どもの本質は変わらないからでしょう。おさるのジョージは、知りたがり屋であることも含め、前へ前へと行動する姿が、幼児の姿と重なります。子どもは自分がジョージになっていっしょに冒険することができる、そんなふうに描かれているのです。

ぞうの大きな耳の下で寝る!バスの屋根に乗って町を走る!部屋中にペンキで絵を描く!大人たちはそんな夢を忘れがちですが、ジョージはやります。子どもはどんなにか嬉しいことでしょう。いつもジョージを許す大人たちの表情も暖かです。よく見ると、ジョージも他の人物も、みな、いつも口もとが笑っています。

ジョージは失敗してけがもするし、入院もしますが(救急車に乗れるなんて、なんてすてきなんだろう!)、それもこれも含めて、人生は愉しいと感じさせてくれます。幼い子どもには、この肯定感は、とても大切です。

最近の幼児向きの絵本と比べると、ページ数が多く、読むのに時間がかかります。それだけに読後の充実感があります。そして明るいユーモアに彩られているので、読み手も子どもも疲れません。

じかんだよー!

さいとうしのぶ 白泉社 2018年

『あっちゃんあがつく』『おべんとうばこのうた』の作者の最新刊です。

どこにでもある台所。瓶やオーブンやなべやら、ぎっしりとあるべき所におさまっています。白いまるいお皿の上で、プチトマトが「もうすぐじかんだよー!しゅうごう!」と叫びます。すると、オーブンの中からハンバーグが「やけたよー!」と、元気いっぱい飛び出してきます。フライパンからオムライスが出てきます。ボールからちぎったレタスと輪切りのきゅうり。みんなお皿に乗ります。もう一人足りない。

プチトマトがさがしに行くと・・・ピーマン、アジ、ちくわ、れんこん、マッシュルーム、ウインナー、アスパラ・・・つぎつぎと小麦粉のバットに飛びこんで、つぎは卵のボールにつかって、パン粉の中で転がって、フライヤーの中にじゅん。フライヤーから「おまたせー」とエビフライが飛びだしました。冷蔵庫からプリンとケチャップとオレンジジュースが飛びだしました。プリンは旗を持っています。
 
はい、お子様ランチの時間だったのです。
 
ひたすら、明るく楽しい食べ物の絵本です。

どしゃぶり

おーなり由子文/はたこうしろう絵 講談社 2018年「あっついなあ! じめんが あつあつ! あっつ あつ!」のページから始まります。
 
ふつうの家のふつうの男の子の夏の日の日常を切りとっています。

黒い雲の近づいてきて、いきなり雨が降りだします。
「そらのにおいがするぞ じめんのにおいもするぞ」
 
にわか雨が、幼い男の子の視線で驚きを持って表現されます。

茶色の地面に黄色い傘、グレーの空。真っ白の雨としぶき。
男の子は、雨の中を走って、跳んで、ずぶぬれになって雨と遊びます。

「あめさん ばいばい。 また きてね。」

ああ気持ちよかった。大人になってできなくなったささやかな日常の遊びを、本の中で体験できます。子どもには、ほんとうに体験させてあげたいです。

おたんじょうびおめでとう!

パット・ハッチンス作/渡辺茂男訳 偕成社 1980年

きょうはサム君のお誕生日です。歳がひとつ大きくなりました。それなのに小さなサム君は、自分で明かりをつけようにも壁スイッチに手が届きません。タンスの服にもお風呂の蛇口にも手が届かないので、自分で服を着られないし、自分で歯を磨くこともできない。せっかく両親からすてきなボートをプレゼントしてもらったのに、流しに手が届かないのでボートを浮かべることができません。郵便屋さんがおじいちゃんからのプレゼントを届けてくれたのですが、取っ手に手が届かず、自分でドアを開けることもできないのです。

幼い子の「自分で!」という自立心をどうやって育めばいいでしょうか。大人は「まだ無理よ」といって、その芽を積んでしまいがちです。ところが、ハッチンスは、こうすればいいんですよと、教えてくれます。郵便屋さんが持ってきたおじいちゃんからのプレゼントは何だったと思いますか。おじいちゃん、ナイスジョブ!

同じ作者の『ティッチ』『ぶかぶかティッチ』も幼い子の心理をうまくとらえています。

ばったくん

五味太郎 福音館書店 1989年

かわいくてユーモラスでリズミカルなおはなしです。ばったくんがお散歩に出て、家の中にとびこんでしまいます。テーブルのお皿の上を滑ったり、テレビにこつんとぶつかったり、ピアノの鍵盤の上を飛んでいったり、ゴミ箱の中に入ったり、工作のりの上に飛び乗ってしまったり。小さなばったくんでも、それなりに冒険があるのです。

「ばったくん おさんぽ まだまだ つづきます」といいつつ、次のページをめくると・・・あらまあ!

この季節、小さな子どもから小学生まで楽しめる本です。

うたってくださいことりさん

五味太郎 偕成社 2002年

五味太郎の作品は、あんがい幼児に難しかったりするのですが、これはいけます。

小鳥が歌うと、花が咲きます。みんなワクワク楽しくなるのです。小鳥が歌うと、ぐったりしている猫も元気になります。しゃきっ。ブランコでけんかしているブタたちもにこにこ仲良くなります。などなど。

こんな小鳥が、あなたのところにも来ましたよ。

心が温かくなって、疲れたおとなはちょっとうれし涙がにじむかもしれません。