いそげ!きゅうきゅうしゃ

竹下文子作/鈴木まもる絵 偕成社 2017年

幼児からと書きましたが、小学生でも十分楽しめる、力のある絵本です。
 
消防署で出番を待つ救急車、出動する救急車。けが人や病人をどのようにして運ぶのかを、クリアで力強い絵と簡潔な文章で、きちんと説明していきます。表現の誠実さが、救急車への信頼を呼び起こすように思います。

けがや急病でうろたえているとき、救急車も隊員さんも、どれほど頼もしく感じられることでしょう。

でも、救急車では運べないような遠方の急病人は、どうすればいいでしょう。大丈夫、ドクターヘリの出動です。ヘリの内部で隊員に励まされる病人の様子、眼下の景色、遥かに見える病院のヘリポート。大人でも、「かっこいい!」って声をあげてしまいます。

何人もの人たちの連携によって、わたしたちは助けられているのです。

最後のページには、救急車の運転席の細かな絵。見ている子どもの目がきら~んと光りました。

パンプキン

ケン・ロビンズ写真と文/千葉茂樹訳 BL出版 2007年

枯草色の広大な畑に転がるオレンジ色の大きなカボチャたち。色も大きさも、日本のカボチャのイメージとはずいぶん違います。とってもダイナミックです。ここは、アメリカ合衆国の畑です。

ノンフィクションの写真絵本です。カボチャの種まきから始まって、芽が出てつるが伸びて、花が咲いて子房がふくらんできてりっぱなカボチャになります。掌サイズのものからものすごく大きいものまで。子どもたちは目を丸くして見つめます。

そのカボチャの頭を切って、中をくりぬいて、目や鼻や口を切り抜きます。畑にならぶお化けカボチャのさまざまな表情に、子どもたちは、○○ちゃんに似てるとか、××ちゃんやとか、おもしろがって見ています。
けれども、夜になって、カボチャの中にろうそくがともされると、一転「こわ~い!」

日が暮れた家の前にともされるお化けカボチャ。ハロウィーンの行列の中にうかび上がるカボチャのランタン。カボチャは、ささやかで楽しいちょっと恐いお祭りの主役です。

もみじのてがみ

きくちちき作 小峰書店 2018年

「てがみだよ
てがみだよ
もみじの
てがみだよ」
 
つぐみがかえでの紅葉を一枚口にくわえて森を飛んできます。ドングリをかじっていたねずみが、その紅葉を受けとって、もっとたくさんの紅葉をさがしに行きます。でも見つけたのは赤いきのこ。松ぼっくりをかじっていたりすが、それを見て、いっしょに紅葉をさがしに行きます。でも、見つけたのは、赤い椿。そこでヒヨドリもいっしょにさがしに行きます。

一羽と二匹は、深緑と灰色の森の中を、赤い物をさがしてどんどん進んでいきます。すると、次つぎに赤い秋の贈り物を発見するのです。そして、とうとう最後に、一面に散り敷いたかえでの葉。森がぱっと明るくなりました。おもわず、おお~っ!と声が上がります。

かあさん、だいすき

シャーロット・ゾロトウ文 シャーロット・ヴォーグ絵 松井るり子訳 徳間書店 2018年

原題は、『Say It!』。

風の強い秋の日、枯れ葉が舞い散るなかを、エレンとお母さんが手をつないで歩いています。学校からの帰り道でしょうか。

エレンは、お母さんにたずねます。
「ねえ かあさん、なに かんがえてる?」

お母さんは、にっこり答えます。
「かぜが とっても つよいわねって」

でも、エレンが言ってほしいのはそのことではありません。
 
枯葉をザクザク踏みしめて歩く音や、池に映る枯葉にさざ波が立って、色のかけらが混ざり合う様子。風で髪の毛が逆立って、わらってしまうふたり。ねこに会ったり犬に会ったりしながら家路をゆっくりたどります。秋の道を楽しみながらも、エレンは、お母さんに言ってほしい言葉を待っています。
 
エレンの言ってほしい言葉は何でしょう。エレンの言いたい言葉は何でしょう。
 
母と子の日常の、ささやかなほんのひとときが宝物であることを感じさせてくれる絵本です。

たまにはとおくへ

マイク・クラトウ作 福本友美子訳 マイクロマガジン社 2019年

「ちいさなエリオット」シリーズの第4冊目。エリオットは水玉模様の小さなぞうです。友達のねずみと、大都会で楽しく暮らしています。
 
エリオットは、小さくて弱くてちょっと間が抜けています。間が抜けているから強いのかもしれません。ねずみが、いつもちゃんとサポートしてくれます。子どもは、すぐにエリオットに心情的に同化できます。

エリオットは、食いしん坊なので、シリーズの4作とも、食べ物が出てきます。これも、子どもが喜ぶ要素ですね。
 
それから、わくわくする遊びを体験できます。「たまにはとおくへ」では、かくれんぼと、星空観察。
 
ある秋の日、エリオットとねずみは、バスに乗って郊外へピクニックに出かけます。その風景の秋色がすばらしい。農場のりんごを食べたり、葉っぱの山に飛びこんだり。そして、かくれんぼをするうち、エリオットは、ねずみとはぐれてひとりぼっちになってしまいます。存在の不安を、トウモロコシ畑のふたつの見開きが表しています。
 
なんとも懐かしい風情の農家で、新しい友達に囲まれて、おいしいごちそうを楽しむエリオット。夜になると、干し草にもぐりこんで、ねずみと、星の名前の当てっこをしながら眠ります。最後の見開きの星空もすばらしいです。

びくびくビリー

アンソニー・ブラウン作 灰島かり訳 評論社 2006年

心配ひきうけ人形は、グアテマラにつたわる人形です。ウォリードールといって、南米雑貨の店などでも売っています。とても小さな人形で、つまようじのような木に毛糸などをまきつけて作ります。枕の下に置いて寝ると、心配事をひきうけてくれて、ぐっすり眠ることができます。
 
さて、主人公の男の子ビリーは、いつも何か心配事を抱えています。たくさんの帽子がベッドの上に飛んでくるんじゃないだろうか。たくさんのくつがベッドの下から出てきてまどからはい出すんじゃないだろうか。巨大な鳥にさらわれるんじゃないだろうか。
でも、パパもママも、そんなことは起こらないといいます。なぐさめたり励ましたりしてくれるのですが、それでもビリーの心配は続きます。
 
ある日、ビリーはおばあちゃんの家に泊まりに行きます。こわくて眠れないビリーに、おばあちゃんは、「よわむしなんかじゃないさ。おばあちゃんもこどものころは、しんぱいばっかりしていたもんだよ」といいます。ビリーを否定せず、共感してくれるのです。おばあちゃんはそういう存在でありたいものですね。
そして、おばあちゃんは、ビリーに、心配ひきうけ人形をくれました!
 
それからのビリーの行動が、すばらしいのです。

おすわり どうぞ

しもかわらゆみ作 講談社 2018年

春の日にぴったりの本です。ピクニックに行って遊びつかれた後のティータイムにそっと開きたいような絵本です。
 
作者は、動物細密画の画家です。動物たちは写実的でほんものなんだけれど、表情が愛らしく、物語があって、すてきなファンタジーになっています。
 
さて、これは、いすのおはなしです。もんしろちょうが飛んでいます。小さなまるいきのこのいすにすわるのは、ねずみ。そのぴったり感がすばらしい。のっぽのきのこのいすにすわるのは、りす。やっぱりぴったりです。切り株のいすはうさぎ、たんぽぽのいすには、かえる。葉っぱの小山にはりねずみ。丸太のいすにはきつね。しかといのししがやって来ると、きつねは丸太を転がします。ちゃんと三匹、ぴったり並んですわれました。
 
すずめやことりたちが飛んできました。どこにすわると思いますか?
 
あれれ、いつのまにか、もんしろちょうが二匹になっています。

なくのかな

内田麟太郎作/大島妙子絵 童心社 2018年

子どもって、油断しているとすぐ迷子になりますよね。
 
ここは、おまつりでしょうか。どうも歩行者天国のようです。老若男女が、食べたり歩いたりベンチに座っておしゃべりしたり。風船を持った子もいます。楽しそうです。でも、男の子がひとり、お父さんとお母さんにはぐれてしまいました。
 
ぼくは、じっとこらえて、考えます。
 
知らないどこかでひとりぼっちになったら、恐い鬼でも泣くのかな?
 
ページを開くと、山また山の鬼の世界で、赤鬼が「おかあさーん」「おとうさーん」と泣いています。
 
次はこわいオオカミ。
 
がけの上で、おおかみが遠吠えしています。
 
次は強いさむらい。
 
山の道でけものたちに取り囲まれて、「ははうえー」「ちちうえー」と泣いています。
 
次はおばけ。
 
鬼やおおかみたちは、男の子のまわりに集まって、「だれもみんななくんだよ。みんなないてもいいんだよ」といいます。とうとう男の子は思いきり泣きました。
 
すると、ちゃんと、お父さんとお母さんに会えました。
 
行楽のお供にどうぞ。

きらきら

谷川俊太郎文/吉田六郎写真 アリス館 2008年

雪の結晶は見たことがありますか。ひとつとして同じものがない、六角形のもよう。宝石のように美しいけれど、さわると融けてしまう、はかないもの。

どのページも、紺色の地にさまざまな雪の結晶の写真が置かれています。ページをめくってもめくっても結晶。でも、見あきることはありません。

「たべたいな」 
「あまいかな」

子どもたちは笑って、「あまい」「すっぱい」と口々に言ってくれます。

「でもおかねでかえない ゆびわにもできない」

そういう美しいものがこの世にあることを知ることは、たいせつだと思います。心をしーんとさせてくれます。作者は雪の結晶を「かみさまのおくりもの」だといいます。最後のページでは、解けていく雪の結晶を見せてくれます。はかなさを感じます。

ゆき!ゆき!ゆき!

オリヴィエ・ダンレイ作/たなやまや訳 評論社 2002年

寒い寒い雪の夜の一コマです。家の中には母親と赤ん坊のふたりだけ。静かな静かな、なべの中でお湯のわく音やほだぎのはぜる音が聞こえてきそうな絵です。粗末だけれど頑丈な家の中には、必要なものがじゅうぶん、あるべき所にあるという安心感が感じられます。

雪の降る、おそろしいような大自然の中に、母親は、赤ん坊を毛皮にくるんで出て行きます。

「ねえ ぼうや、 おそとは ゆき!」

見てごらん、嗅いでごらん、聞いてごらん、食べてごらん、と母親は赤ん坊に雪を教えます。雪のトロルを作り、そりすべりをし、思い切り遊んで楽しんで、ふたりは帰ります。

温かな家の中。赤ん坊はゆりかごで眠ります。母親は足を温め、お茶を飲み、こっくりこっくり眠ります。

この静けさは、高学年の子どもも楽しめます。