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あるヘラジカの物語

星野道夫原案/鈴木まもる絵と文/あすなろ書房 2020年

星野道夫さんの一枚の写真に深く心ひかれた作者は、この写真を絵本にしようとアラスカへ取材に行きます。
そこで見て感じた自然が空気や光とともに描かれています。

二頭のヘラジカの角のからまった頭蓋骨の写真。いったいどういう経緯でこんなふうに角がからまってしまったのか。作者は考えます。そして、そこから物語が生まれます。
その物語は、自然界の動物たちの織りなす、命の物語です。空想物語ではなく、科学的な事実を下敷きにしています。だから説得力があります。

闘う二頭のヘラジカの描写は、はげしいです。死んだヘラジカを食べる狼たちの描写も激しいです。死んでしまったヘラジカのすがたは静かに動かないけれど、生きようとしている者たちのすがたは、はげしく、命にあふれています。

ヒグマ、コヨーテ、アカギツネ、クズリ、カナダカケス、ワタリガラス。
やがて荒野が雪に覆われると、カンジキウサギがヘラジカの角をかじります。

マイナス40度のきびしいアラスカの冬がおわり、春になり、何度目かの春、ヘラジカは頭の骨だけになってしまいます。その口の中に、アメリカタヒバリが巣をつくり、ひなを育てます。

たんたんと命を伝える絵本です。

ヒトニツイテ

五味太郎作/絵本塾出版(CBSソニー出版) 2015年(1979年)

この本が最初に世に出たのは1979年。作者がまだ絵本を描き始めて間もないころです。主人公(?)は、ヒトですが、裸の男性なので、「人類」と思われます。ストーリーは、ある意味で人類の歴史であり、同時にひとりの人間の歴史でもありす。

ヒト ハ ミル
ヒト ハ カンガエル
ヒト ハ マツ

1ページごとに「ヒト ハ ・・・」と、人の行動が描かれます。

ヒトの目の前に現れた火星人のようなタコのような生物に、ヒトはどのように行動するでしょう。どのページも、うん。あるある、と共感するのですが、笑いながらなにげなく開いたページで、手が止まります。びっくりします。が、たしかに、人間はそういう存在だと思い知らされるのです。
とても哲学的な絵本です。

ロバのシルベスターとまほうの小石

ウイリアム・スタイグ作/瀬田貞二訳/評論社 1975年

シルベスターの趣味は小石集め。小さな子どもによくある楽しみですね。ある雨の日、シルベスターは、赤く光ってビー玉のような真ん丸な小石を拾います。それを持って、ふと「雨がやんでくれたら、なあ」とつぶやくと、いっぺんに雨がやんで、お日様が輝きました。
赤い小石は、なんでも願いのかなう小石だったのです。
シルベスターは、大喜びで、小石を持ってお父さんとお母さんのもとへ帰ろうとしました。その途中、ライオンに会って食べられそうになります。とっさに小石に願い事を言います。「ぼくは岩になりたい」

さて、それからどうなるでしょう。
シルベスターは待ちます。絶望しながら待つしかないのです。
両親は、シルベスターが行方不明になって、悲しみに沈みます。そして、待ちます。

親と子、双方の思いが身につまされます。最後のページの親子の抱き合う姿に、思わす涙が・・・

きみの行く道

ドクター・スース作絵/いとうひろみ訳/河出書房新社 1999年

原作『Oh,the Places You’ll Go!』 は、1990年に発表され、世代を越えたミリオンセラーになったそうです。
たしかに、おとなが読んでも勇気が湧いてきます。

人生は旅です。広い未知の世界への旅です。頭の中には脳みそがぎっしりつまっているし、靴の中には足がぎっしり。行きたいところへ歩いていけばいい。
行きたい道が見つからなければ町を出ていきます。どんなところへ行っても、大丈夫。頭にはぎっしりの脳みそ、靴にはぎっしりの足。だから、大丈夫、トップに躍り出ます。
でも、人生にはスランプがあるわけで、どうにもならないところまで落っこちることもあります。その苦しみも、描かれます。

ドクター・スースが86歳のときの作品です。酸いも甘いもかみ分けた。

タコやん

富安陽子文/南伸坊絵 福音館書店 2019年6月

ある日、海から、たこのタコやんが、しょうちゃんの家にノタコラ、ペタコラやって来ます。「あそびましょ!」だって。しょうちゃんは、テレビゲームの最中だったので、断ります。でも、タコやんは、ドアのすきまから入りこんで、ゲームを始めます。その強いこと!
「タコやん、すっげえ!」としょうちゃんがいうと、タコやんは、照れて、一本足で頭をかいて、「それほどでも」。
公園でサッカーをすると、みんなは「タコやん、すっげえ!」
かくれんぼも、なかなかみつかりません。そこへ、犬を連れたおじさんが・・・

特になんということのないストーリーなのですが、平凡な日常ながら、わくわく感があるし、心なごみます。繰り返しのリズムも楽しく読めます。

ラチとらいおん

マレーク・ベロニカ文・絵/とくながやすもと訳/福音館書店 1965年 

ラチは、世界一弱虫の男の子です。
ラチは飛行士になりたいのですが、犬は怖いし、暗い部屋も怖いし、友達さえ怖いのです。それで、ラチはいつも仲間外れにされて、泣いてばかりいました。
ラチは、ライオンの絵が大好きで、こんなライオンがいたら何も怖くないんだけどと思っています。

ある朝、目を覚ますと、ベッドのそばに、小さな赤いライオンがいました。ライオンは、とても強くて、片手で椅子を持ち上げることができました。
ラチはライオンに強くなる方法を教えてもらいます。

自分を小さく弱い存在だと感じている幼い子にとって、切実な願いをかなえてくれるライオンは、お守りのような存在です。
そして、いつか、お守りがなくても、ひとりでいじめっ子をやっつけられるほど、強くなれるのです。
勇気と希望を与えてくれるおはなしです。

いのちのひろがり

中村桂子文/松岡達英絵/福音館書店 2017年 

たくさんのふしぎ傑作集(月刊たくさんのふしぎ2015年4月号)です。

わたしたちは様々な生き物に囲まれて暮らしています。
生きものたちはみな私たち人間の仲間です。どうしてそういえるのか、38億年前に生命が生まれてから今までの時空の旅が描かれます。
この旅は、「あなたはどこから来たのでしょう」ということばから始まります。
母親の卵と父親の精子が結びついて生まれた受精卵、これが最初の自分です。これは、たった一個の細胞です。それが、お母さんのお腹の中で成長して生まれてきます。
38億年前の生命も、一個の細胞でした。太古の海の中で生まれた細胞。それが長い年月かけて成長して、最初に生まれたのが、カイメン。砂粒くらいの大きさたったそうです。

5億年前、生きものたちは陸に上がる大冒険をしました。
まず、植物が。
森や野原が生まれると、動物も上陸しました。
昆虫の祖先であるカブトエビの仲間、ついでクモやサソリの祖先たち。やがて両生類、爬虫類、ほ乳類。
この5億年の間に、5回も大量の生きものが滅びたそうです。それでも、生き物は命をつないできました。

約600万年前に人類が誕生しました。
さまざまな人類がうまれたけれど、今生きているのはホモ・サピエンス一種類だけです。私たちですね。
ホモ・サピエンスは、20万年ほど前にアフリカで誕生しました。そこから旅に出て地球のあちこちで暮らすようになりました。私たちの故郷は、みなアフリカなのです。

自分も含めあらゆる生きものは、もとは同じ一個の細胞でした。みな38億年という気の遠くなるような時間を体の中に持っているというわけです。

バージニア・リー・バートン作『生命の歴史』とあわせて読むといいと思います。

さがす

長倉洋海著/アリス館 2020年 (高学年から)

作者の最新の写真絵本です。
作者は、子どものとき誰もがぶつかる難問「自分は何なのか」「何のために生きているのか」の答えを求めて人生の旅に出ます。

「出会った人たちは、かがやくばかりの笑顔をもっていた。
苦しみやかなしみを経験したあとに、生まれてきた笑顔。
負けそうになる自分を、はげます笑顔。
まわりの人の心を、あたたかくする笑顔。
そんなすごいものを、みんなも、自分も、もっている。」

そして、世界じゅうで出会った人々、特に子どもからヒントを得ます。
自分の幸せを見つけることが「生きる意味」かも知れないと。
たくさんの人に出会うことで、さがしていたものを手に入れたといいます。

大地と子どもの表情がすばらしい写真絵本です。

おきなわ島のこえ ヌチドゥ タカラ

丸木俊・丸木位里作 小峰書店 1984年

「ヌチドゥ タカラ」とは、「いのちこそたから」という意味です。
ゆたかな沖縄の自然の中でくらすつるちゃんとその家族が、戦争のために、その生活と命まで奪われて行きます。沖縄の人たちにとって、敵はアメリカだけではありませんでした。守ってくれるはずの日本兵こそが、人びとの命を奪ったのです。
戦争の悲惨さ、その現実を私たちに突きつける絵本です。重いけれど、受けとめなくてはなりません。今を生きる、そして、未来を生きる子どもたちのために。

ウミガメと少年

野坂昭如戦争童話集沖縄編 
野坂昭如文/黒田征太郎絵 講談社 2001年

野坂昭如が戦争をテーマに書いた子どものための物語『戦争童話集』は、中公文庫から出版されています。それに絵をつけて、一冊ずつの絵本にしたのが、黒田征太郎。この沖縄編は、続編です。
ウミガメは毎年、沖縄の浜にやってきて産卵します。ある年のこと、爆撃で家族とはぐれてしまった少年が、浜辺にたどり着き、ウミガメの産卵を見ます。少年は、このままでは、卵が爆撃でやられてしまうと考え、卵を自分の隠れている洞窟に、ひとつひとつ避難させます。毎日砂をかえて世話をするのです。
少年は、何日も何も食べていません。思わず、割れた卵をひとつ食べてしまいました。後は、次から次と卵を食べてしまいます。
アニメ化された作品ですが、絵本で自分のペースで読むことをお勧めします。