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かあさん、だいすき

シャーロット・ゾロトウ文 シャーロット・ヴォーグ絵 松井るり子訳 徳間書店 2018年

原題は、『Say It!』。

風の強い秋の日、枯れ葉が舞い散るなかを、エレンとお母さんが手をつないで歩いています。学校からの帰り道でしょうか。

エレンは、お母さんにたずねます。
「ねえ かあさん、なに かんがえてる?」

お母さんは、にっこり答えます。
「かぜが とっても つよいわねって」

でも、エレンが言ってほしいのはそのことではありません。
 
枯葉をザクザク踏みしめて歩く音や、池に映る枯葉にさざ波が立って、色のかけらが混ざり合う様子。風で髪の毛が逆立って、わらってしまうふたり。ねこに会ったり犬に会ったりしながら家路をゆっくりたどります。秋の道を楽しみながらも、エレンは、お母さんに言ってほしい言葉を待っています。
 
エレンの言ってほしい言葉は何でしょう。エレンの言いたい言葉は何でしょう。
 
母と子の日常の、ささやかなほんのひとときが宝物であることを感じさせてくれる絵本です。

たまにはとおくへ

マイク・クラトウ作 福本友美子訳 マイクロマガジン社 2019年

「ちいさなエリオット」シリーズの第4冊目。エリオットは水玉模様の小さなぞうです。友達のねずみと、大都会で楽しく暮らしています。
 
エリオットは、小さくて弱くてちょっと間が抜けています。間が抜けているから強いのかもしれません。ねずみが、いつもちゃんとサポートしてくれます。子どもは、すぐにエリオットに心情的に同化できます。

エリオットは、食いしん坊なので、シリーズの4作とも、食べ物が出てきます。これも、子どもが喜ぶ要素ですね。
 
それから、わくわくする遊びを体験できます。「たまにはとおくへ」では、かくれんぼと、星空観察。
 
ある秋の日、エリオットとねずみは、バスに乗って郊外へピクニックに出かけます。その風景の秋色がすばらしい。農場のりんごを食べたり、葉っぱの山に飛びこんだり。そして、かくれんぼをするうち、エリオットは、ねずみとはぐれてひとりぼっちになってしまいます。存在の不安を、トウモロコシ畑のふたつの見開きが表しています。
 
なんとも懐かしい風情の農家で、新しい友達に囲まれて、おいしいごちそうを楽しむエリオット。夜になると、干し草にもぐりこんで、ねずみと、星の名前の当てっこをしながら眠ります。最後の見開きの星空もすばらしいです。

びくびくビリー

アンソニー・ブラウン作 灰島かり訳 評論社 2006年

心配ひきうけ人形は、グアテマラにつたわる人形です。ウォリードールといって、南米雑貨の店などでも売っています。とても小さな人形で、つまようじのような木に毛糸などをまきつけて作ります。枕の下に置いて寝ると、心配事をひきうけてくれて、ぐっすり眠ることができます。
 
さて、主人公の男の子ビリーは、いつも何か心配事を抱えています。たくさんの帽子がベッドの上に飛んでくるんじゃないだろうか。たくさんのくつがベッドの下から出てきてまどからはい出すんじゃないだろうか。巨大な鳥にさらわれるんじゃないだろうか。
でも、パパもママも、そんなことは起こらないといいます。なぐさめたり励ましたりしてくれるのですが、それでもビリーの心配は続きます。
 
ある日、ビリーはおばあちゃんの家に泊まりに行きます。こわくて眠れないビリーに、おばあちゃんは、「よわむしなんかじゃないさ。おばあちゃんもこどものころは、しんぱいばっかりしていたもんだよ」といいます。ビリーを否定せず、共感してくれるのです。おばあちゃんはそういう存在でありたいものですね。
そして、おばあちゃんは、ビリーに、心配ひきうけ人形をくれました!
 
それからのビリーの行動が、すばらしいのです。

おすわり どうぞ

しもかわらゆみ作 講談社 2018年

春の日にぴったりの本です。ピクニックに行って遊びつかれた後のティータイムにそっと開きたいような絵本です。
 
作者は、動物細密画の画家です。動物たちは写実的でほんものなんだけれど、表情が愛らしく、物語があって、すてきなファンタジーになっています。
 
さて、これは、いすのおはなしです。もんしろちょうが飛んでいます。小さなまるいきのこのいすにすわるのは、ねずみ。そのぴったり感がすばらしい。のっぽのきのこのいすにすわるのは、りす。やっぱりぴったりです。切り株のいすはうさぎ、たんぽぽのいすには、かえる。葉っぱの小山にはりねずみ。丸太のいすにはきつね。しかといのししがやって来ると、きつねは丸太を転がします。ちゃんと三匹、ぴったり並んですわれました。
 
すずめやことりたちが飛んできました。どこにすわると思いますか?
 
あれれ、いつのまにか、もんしろちょうが二匹になっています。

なくのかな

内田麟太郎作/大島妙子絵 童心社 2018年

子どもって、油断しているとすぐ迷子になりますよね。
 
ここは、おまつりでしょうか。どうも歩行者天国のようです。老若男女が、食べたり歩いたりベンチに座っておしゃべりしたり。風船を持った子もいます。楽しそうです。でも、男の子がひとり、お父さんとお母さんにはぐれてしまいました。
 
ぼくは、じっとこらえて、考えます。
 
知らないどこかでひとりぼっちになったら、恐い鬼でも泣くのかな?
 
ページを開くと、山また山の鬼の世界で、赤鬼が「おかあさーん」「おとうさーん」と泣いています。
 
次はこわいオオカミ。
 
がけの上で、おおかみが遠吠えしています。
 
次は強いさむらい。
 
山の道でけものたちに取り囲まれて、「ははうえー」「ちちうえー」と泣いています。
 
次はおばけ。
 
鬼やおおかみたちは、男の子のまわりに集まって、「だれもみんななくんだよ。みんなないてもいいんだよ」といいます。とうとう男の子は思いきり泣きました。
 
すると、ちゃんと、お父さんとお母さんに会えました。
 
行楽のお供にどうぞ。

きらきら

谷川俊太郎文/吉田六郎写真 アリス館 2008年

雪の結晶は見たことがありますか。ひとつとして同じものがない、六角形のもよう。宝石のように美しいけれど、さわると融けてしまう、はかないもの。

どのページも、紺色の地にさまざまな雪の結晶の写真が置かれています。ページをめくってもめくっても結晶。でも、見あきることはありません。

「たべたいな」 
「あまいかな」

子どもたちは笑って、「あまい」「すっぱい」と口々に言ってくれます。

「でもおかねでかえない ゆびわにもできない」

そういう美しいものがこの世にあることを知ることは、たいせつだと思います。心をしーんとさせてくれます。作者は雪の結晶を「かみさまのおくりもの」だといいます。最後のページでは、解けていく雪の結晶を見せてくれます。はかなさを感じます。

ゆき!ゆき!ゆき!

オリヴィエ・ダンレイ作/たなやまや訳 評論社 2002年

寒い寒い雪の夜の一コマです。家の中には母親と赤ん坊のふたりだけ。静かな静かな、なべの中でお湯のわく音やほだぎのはぜる音が聞こえてきそうな絵です。粗末だけれど頑丈な家の中には、必要なものがじゅうぶん、あるべき所にあるという安心感が感じられます。

雪の降る、おそろしいような大自然の中に、母親は、赤ん坊を毛皮にくるんで出て行きます。

「ねえ ぼうや、 おそとは ゆき!」

見てごらん、嗅いでごらん、聞いてごらん、食べてごらん、と母親は赤ん坊に雪を教えます。雪のトロルを作り、そりすべりをし、思い切り遊んで楽しんで、ふたりは帰ります。

温かな家の中。赤ん坊はゆりかごで眠ります。母親は足を温め、お茶を飲み、こっくりこっくり眠ります。

この静けさは、高学年の子どもも楽しめます。

リスとはじめての雪

ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/松永美穂訳 コンセル 2008年

ストーリーは単純なので、小さい子にも分かるのですが、思わずくすっと笑ってしまうおもしろさは、むしろ大人向けかもしれません。白い画用紙に鉛筆でさらさらと描かれた森の中や、わずかに色彩の乗った動物たちも、大人向きかもしれません。写実的に描かれているのに、動物たちの表情は、なんて人間的なのでしょう。心の動きは顔だけでなく体全体であらわされています。

雪が降るまで起きていようと決心するリス。少しずつ睡魔にとらわれていくときのリス。びっくりしてとび起きるリス。こまやかな表情が、何ともユーモラスです。

駆けまわるリスも、歌を歌うハリネズミも、眠くてしかたがないクマも、動物としてリアルでしかも人間的なのです。

三匹は、雪を見たことがありません。「白くて、しめっぽくて、つめたくて、やわらかい」雪。そんなものを三匹は探します。

ハリネズミが見つけたのは歯ブラシ。もしこれがたくさん降ってきたら冬はどんなにきれいだろうと、ハリネズミは考えます。次の見開きに歯ブラシの降ってくる光景が描かれます。それがおかしくも美しいのです。

リスは空き缶を見つけます。やっぱり見開きページで、たくさんの空き缶が降ってきます。

クマははき古したくつしたを見つけます。雪ってこんなにおいがするのかしら(笑)? そこへ、ほんとうの雪が降ってきます。三匹は雪だるまを作り、安心して一緒に眠ります。

たきぎを取りにやって来た人間たちが雪だるまを見つけます。人間のそのまぬけな表情は、思わず笑いを誘います。

まってる。

デヴィッド・カリ&セルジュ・ブロック作/小山薫堂訳 千倉書房 2006年

一本の赤い毛糸が、ページを彩り、人や命をつないでいきます。
11、5×27、5の横長の絵本です。

初めに待っているのは男の子。おにいちゃんって呼ばれる日を待っています。
お休みのキスを待っています。
ママのケーキが焼けるのを待っています。
雨が止むのを待っています。
クリスマスを待っています。

そうです、わたしたちは子どもの頃から、ずうっと何かを待ちつづけているのですね。

男の子は青年になり、待っていた彼女と出会い、彼女は戦場に出掛けた青年を待ちます。青年は負傷し、病院で戦争の終わるのを待ち、彼女からの色よい返事を待ちます。

青年は父親となり、子どもたちが独立し、妻が病に倒れ、「さようなら。ありがとう」って言わなきゃいけない日を待ちます。
それが人生です。

最後に待つのは新しい家族です。息子の妻のおなかに毛糸の切れはしがあります。

そう、それが人生です。

最後のページに赤い毛糸が美しくたばねられてあります。

カッターであそぼう!

五味太郎作 KTC中央出版 2018年

クリスマスやお正月のプレゼントには何がいいかなとお悩みの大人たちへ(笑)。
カッターナイフを使える年齢の子ども向けの絵本です。絵本といっても、カッターナイフで作った色紙作品が次々と登場。作り方の説明もあります。
副題が「さあ、カッターあそびのはじまり はじまり!!」です。

子どもや、工作の好きな大人は、最初の色紙の重なりを見ただけでわくわくします。

「カッターですよ!かみをきりますよ かみをきると いろんなかたちが できます いろんなものが つくれます」
 
青い台紙の上でピンクの紙をスーッと切る。それだけで十分に美しい!ギザギザに切ったりくねくねに切ったり。四角い穴を開けます。星型の穴、温泉マーク、小さな三角がいっぱい。こんどは穴を開けた紙を重ねていくと、複雑な模様、複雑な色目になります。

お面を作ったり、モビールをつくったり、ランプシェードを作ったりと、つぎからつぎへと、ここでは書ききれません(笑)

カッターの安全な使い方まで、ちゃんと説明してあります。

姉妹品『CUT AND CUT キッターであそぼう!』は、本書『カッターであそぼう!』と作者がセレクトした14色の色紙が84枚と、子どもに安全な安心設計のカッターナイフと、カッターマットとが入っています。3,800円です