「3 低学年から」カテゴリーアーカイブ

みらいのえんそく

ジョン・ヘア作/椎名かおる文 あすなろ書房 2019年

ジョン・ヘアは、アメリカのイラストレーター。これは、彼の最初の絵本です。
 
学校の遠足で月に着陸するところから話は始まります。絵を描くのに夢中で一人取り
残された男の子。こういう子って、どこにでもいますね(笑)取り残されたけれど、諦めて絵でも描こうと腰を落ち着けます。そこへ、目がひとつの宇宙人が5人、恐る恐る近づいてきます。宇宙人たちは、好奇心いっぱい。
 
男の子は、宇宙人たちにクレヨンを貸してって、宇宙人たちは大喜びで月の岩に落書きを始めます。
 
とにかく絵がうまい。宇宙服を着ているのに、何を考えているのか、微妙な表情までわかるのです。

そらはあおくて

シャーロット・ゾロトウ文/なかがわちひろ訳/松浦さやか絵 あすなろ書房 2018年

女の子が、お母さんの子どもの頃のアルバムを見ています。服もお店も家の中にある物も、お母さんが子どもの頃は、今とずいぶん違っていることに気が付きます。する
とお母さんがいいます。
「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白
くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」
夜になるとお母さんがベッドで寝かしつけてくれるのも、今と同じだとお母さんはいい
ます。

もっと古いアルバムを開くと、おばあさんの子どもの頃の写真がありました。女の子
は、今とはずいぶん違うと思いましたが、お母さんは、
「そんなことないわ。大切な事は少しも変わっていない。空は青くて、草は緑。雪は白
くて冷たくて、お日さまはまぶしく暖かい。今とおんなじだったのよ」といいます。

曾祖母のアルバムも開いてみます。やはり、たいせつなことは変わらないと、お母さ
んは説明します。そして、女の子が大きくなったら、わが子に同じことを説明してあげ
てねというのです。

ソロトウの「終わりになるものは何もない」という思想に心が揺すぶられます。

サン・サン・サンタひみつきち

かこさとし作 偕成社 1986年

「かこさとし七色のおはなしえほん」シリーズの10冊目です。

あとがきに、「たった一日で地球のすみずみの各家庭を、いっせいに訪れることができる不思議なサンタの謎と、その秘密の全部を、すっかり明らかにしたのが、この本です。」とあります。
 
サンタクロースの秘密を知りたいと思っている子どもはたくさんいるでしょう。子どもたちの質問にうまく答えられないとき、この絵本はうってつけです。
 
子どもたちには、サンタクロースの存在を疑いもしない幼い時代をできるだけ長く、幸せに過ごさせてやりたいと思います。また、地球上には、サンタクロースの存在を知らず飢えと病気で苦しんでいる子どもたちがたくさんいます。その子たちにもこの本を贈ることができたらどんなにいいかと思います。
 
ところで、サンタの秘密基地は、どこにあると思いますか?

パンプキン

ケン・ロビンズ写真と文/千葉茂樹訳 BL出版 2007年

枯草色の広大な畑に転がるオレンジ色の大きなカボチャたち。色も大きさも、日本のカボチャのイメージとはずいぶん違います。とってもダイナミックです。ここは、アメリカ合衆国の畑です。

ノンフィクションの写真絵本です。カボチャの種まきから始まって、芽が出てつるが伸びて、花が咲いて子房がふくらんできてりっぱなカボチャになります。掌サイズのものからものすごく大きいものまで。子どもたちは目を丸くして見つめます。

そのカボチャの頭を切って、中をくりぬいて、目や鼻や口を切り抜きます。畑にならぶお化けカボチャのさまざまな表情に、子どもたちは、○○ちゃんに似てるとか、××ちゃんやとか、おもしろがって見ています。
けれども、夜になって、カボチャの中にろうそくがともされると、一転「こわ~い!」

日が暮れた家の前にともされるお化けカボチャ。ハロウィーンの行列の中にうかび上がるカボチャのランタン。カボチャは、ささやかで楽しいちょっと恐いお祭りの主役です。

たまにはとおくへ

マイク・クラトウ作 福本友美子訳 マイクロマガジン社 2019年

「ちいさなエリオット」シリーズの第4冊目。エリオットは水玉模様の小さなぞうです。友達のねずみと、大都会で楽しく暮らしています。
 
エリオットは、小さくて弱くてちょっと間が抜けています。間が抜けているから強いのかもしれません。ねずみが、いつもちゃんとサポートしてくれます。子どもは、すぐにエリオットに心情的に同化できます。

エリオットは、食いしん坊なので、シリーズの4作とも、食べ物が出てきます。これも、子どもが喜ぶ要素ですね。
 
それから、わくわくする遊びを体験できます。「たまにはとおくへ」では、かくれんぼと、星空観察。
 
ある秋の日、エリオットとねずみは、バスに乗って郊外へピクニックに出かけます。その風景の秋色がすばらしい。農場のりんごを食べたり、葉っぱの山に飛びこんだり。そして、かくれんぼをするうち、エリオットは、ねずみとはぐれてひとりぼっちになってしまいます。存在の不安を、トウモロコシ畑のふたつの見開きが表しています。
 
なんとも懐かしい風情の農家で、新しい友達に囲まれて、おいしいごちそうを楽しむエリオット。夜になると、干し草にもぐりこんで、ねずみと、星の名前の当てっこをしながら眠ります。最後の見開きの星空もすばらしいです。

ゆき!ゆき!ゆき!

オリヴィエ・ダンレイ作/たなやまや訳 評論社 2002年

寒い寒い雪の夜の一コマです。家の中には母親と赤ん坊のふたりだけ。静かな静かな、なべの中でお湯のわく音やほだぎのはぜる音が聞こえてきそうな絵です。粗末だけれど頑丈な家の中には、必要なものがじゅうぶん、あるべき所にあるという安心感が感じられます。

雪の降る、おそろしいような大自然の中に、母親は、赤ん坊を毛皮にくるんで出て行きます。

「ねえ ぼうや、 おそとは ゆき!」

見てごらん、嗅いでごらん、聞いてごらん、食べてごらん、と母親は赤ん坊に雪を教えます。雪のトロルを作り、そりすべりをし、思い切り遊んで楽しんで、ふたりは帰ります。

温かな家の中。赤ん坊はゆりかごで眠ります。母親は足を温め、お茶を飲み、こっくりこっくり眠ります。

この静けさは、高学年の子どもも楽しめます。

リスとはじめての雪

ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/松永美穂訳 コンセル 2008年

ストーリーは単純なので、小さい子にも分かるのですが、思わずくすっと笑ってしまうおもしろさは、むしろ大人向けかもしれません。白い画用紙に鉛筆でさらさらと描かれた森の中や、わずかに色彩の乗った動物たちも、大人向きかもしれません。写実的に描かれているのに、動物たちの表情は、なんて人間的なのでしょう。心の動きは顔だけでなく体全体であらわされています。

雪が降るまで起きていようと決心するリス。少しずつ睡魔にとらわれていくときのリス。びっくりしてとび起きるリス。こまやかな表情が、何ともユーモラスです。

駆けまわるリスも、歌を歌うハリネズミも、眠くてしかたがないクマも、動物としてリアルでしかも人間的なのです。

三匹は、雪を見たことがありません。「白くて、しめっぽくて、つめたくて、やわらかい」雪。そんなものを三匹は探します。

ハリネズミが見つけたのは歯ブラシ。もしこれがたくさん降ってきたら冬はどんなにきれいだろうと、ハリネズミは考えます。次の見開きに歯ブラシの降ってくる光景が描かれます。それがおかしくも美しいのです。

リスは空き缶を見つけます。やっぱり見開きページで、たくさんの空き缶が降ってきます。

クマははき古したくつしたを見つけます。雪ってこんなにおいがするのかしら(笑)? そこへ、ほんとうの雪が降ってきます。三匹は雪だるまを作り、安心して一緒に眠ります。

たきぎを取りにやって来た人間たちが雪だるまを見つけます。人間のそのまぬけな表情は、思わず笑いを誘います。

カッターであそぼう!

五味太郎作 KTC中央出版 2018年

クリスマスやお正月のプレゼントには何がいいかなとお悩みの大人たちへ(笑)。
カッターナイフを使える年齢の子ども向けの絵本です。絵本といっても、カッターナイフで作った色紙作品が次々と登場。作り方の説明もあります。
副題が「さあ、カッターあそびのはじまり はじまり!!」です。

子どもや、工作の好きな大人は、最初の色紙の重なりを見ただけでわくわくします。

「カッターですよ!かみをきりますよ かみをきると いろんなかたちが できます いろんなものが つくれます」
 
青い台紙の上でピンクの紙をスーッと切る。それだけで十分に美しい!ギザギザに切ったりくねくねに切ったり。四角い穴を開けます。星型の穴、温泉マーク、小さな三角がいっぱい。こんどは穴を開けた紙を重ねていくと、複雑な模様、複雑な色目になります。

お面を作ったり、モビールをつくったり、ランプシェードを作ったりと、つぎからつぎへと、ここでは書ききれません(笑)

カッターの安全な使い方まで、ちゃんと説明してあります。

姉妹品『CUT AND CUT キッターであそぼう!』は、本書『カッターであそぼう!』と作者がセレクトした14色の色紙が84枚と、子どもに安全な安心設計のカッターナイフと、カッターマットとが入っています。3,800円です

クリスマスのつぼ

ジャック・ケント作/清水真砂子訳 ポプラ社 1977年

わたしたちは、クリスマスといえば、サンタクロースや雪の中を走るトナカイ、クリスマスツリーを連想します。けれども、この絵本はメキシコのクリスマスのおはなしです。雪のない暖かい所でもイエスキリストの誕生は祝われます。

子どもたちがマリアとヨセフに扮して、家々をめぐるポサーダという行事。ポサーダの最後のパーティーで、子どもたちが飾り付けられたピニャータを割り、中から出てきたお菓子や果物をみんなで分けて食べます。

この絵本では、はじめにふたつのつぼが登場します。双子のようにそっくりのつぼです。が、つぼが焼きあがった時、ひとつにはヒビが入っていました。ヒビの入ったつぼは庭の隅に放っておかれ、悲しみにくれます。ところが、クリスマスが近づくと、つぼ作りの家の女の子が、ヒビの入ったつぼをピニャータにしようといいます。

ヒビの入ったつぼにとって、すばらしいクリスマスになりました。でも、ピニャータになったつぼはこなごなに割られしまい、ゴミ捨て場に捨てられます。悲しんでいると、あのもうひとつのつぼ、りっぱなつぼが、割れて捨てられてきました。りっぱなつぼは、「なんだって いつかは こわれるんだよ。」といいました。

「それで めいめい やくに たったんだね」
「そうだよ。だれだって みんな そうなんだ」

心温まるお話です。

つくえはつくえ

五味太郎 偕成社 2018年

主人公は男の子。
机の上が山のようになっていて、「せまいきがする」といったら、お父さんが、「きがするんじゃない。せまいのだ。ひろいつくえをつくってやろう!」といって、大工道具を出してきて、ひろーい机を作ってくれました。見開き2ページ分の広さです。男の子が左のページの上の方にちょこんといて「ちょっとひろすぎ」といっています。
そこへ、友だちが、ひとり、ふたりとやって来て、机の上で遊びだします。野球、なわとび、スケートボード・・・ページをめくるたびにどんどん子どもが増えていきます。ラジコン、カラオケ、トランプ、そのうち、絵でいっぱいになって、「もうもじもはいらなくなってきました」という文字を探さなくてはなりません。とうとう、「あ、あ、あ」「おちたようなきがする」「きがするんじゃない おちたのだ」

そこでお父さんは、広すぎない狭すぎない机を作ってくれました。

ちょうどいい机、わたしも欲しいなあと思いながら読みました。