「2 幼児から」カテゴリーアーカイブ

ラチとらいおん

マレーク・ベロニカ文・絵/とくながやすもと訳/福音館書店 1965年 

ラチは、世界一弱虫の男の子です。
ラチは飛行士になりたいのですが、犬は怖いし、暗い部屋も怖いし、友達さえ怖いのです。それで、ラチはいつも仲間外れにされて、泣いてばかりいました。
ラチは、ライオンの絵が大好きで、こんなライオンがいたら何も怖くないんだけどと思っています。

ある朝、目を覚ますと、ベッドのそばに、小さな赤いライオンがいました。ライオンは、とても強くて、片手で椅子を持ち上げることができました。
ラチはライオンに強くなる方法を教えてもらいます。

自分を小さく弱い存在だと感じている幼い子にとって、切実な願いをかなえてくれるライオンは、お守りのような存在です。
そして、いつか、お守りがなくても、ひとりでいじめっ子をやっつけられるほど、強くなれるのです。
勇気と希望を与えてくれるおはなしです。

ニットさん

たむらしげる作 イースト・プレス 2012年

ニットさんは、毛糸の編み物が得意なおばさんです。シャカシャカとどんどん編んで行きます。
まずはふわふわの椅子。のどがかわいたので、テーブルと、ティーポットと、カップ。風が吹いてきて寒くなったので、大きな家!
毛糸の玉と、毛糸のメリヤス編みは、写真を使ってあるので、リアリティがあって、おお~っと驚いてしまいます。
 
夜になると、三日月を編み、ベッドを編んでおやすみなさい。
よく見ると、地球も土星も、星たちも、みんな毛糸で編んであります。

ひよこのコンコンがとまらない

ポール・ガルドン作/福本友美子訳 ほるぷ出版 2007年

北欧の昔話です。めんどりのコッコさんが、ひよこのタッペンを連れて森に出かけます。おいしい種が落ちていないか探しに行ったのです。
コッコさんはタッペンに、大きい種は食べてはいけない、コンコン(せき)が出るからといいました。ところが、タッペンは、大きい種を飲みこんで、せきが止まらなくなりました。
 
コッコさんは、水をくみに泉へ行きますが、泉はコップを持ってこないと水をやらないといいます。
そこで、コッコさんは、かしの木にたのみましたが、かしの木は枝をゆすってくれなければ、コップをやらないといいます。
そこで・・・コッコさんは、木こりの息子、くつ屋、雌牛・・・と、必死で走ってたのみに行きます。連鎖譚です。

絵は、素朴であたたかいです。コッコさんは左から右へ走って行き、出会うものたちは、右にいて左を向いています。だから、連鎖譚の楽しさがわかります。

うどんのうーやん

岡田よしたか作 ブロンズ新社 2012年

主人公は、きつねうどん。どんぶりばちから威勢よくのびている二本のうどんが手になって、お箸もつかめるし、腕組みもできます。
 
うどん屋にうどんの出前の電話がきます。ダイヤル式の黒電話!
 
「うーやん でまえや。たのむでー」
「ほな いってきますう」

人手不足なので、うどんのうーやんは、自分でお客さんの家に行かなければなりません。威勢よく走りだすと、後ろから、おあげとお箸が追いかけます。

途中で出会ったやせねこに、うどんを食べさせてやり、半分に減ったうどん。困ったうーやんは、お客の家に向かう道で会った者たちと仲間になって、どんぶりに入れていきます。そうめん、めざし、うめぼし、とうふ、たこやき、ミニトマト、コロッケ、エビフライ。川をわたり、山を越え、河内音頭を歌いながら進みます。

名付けて、にぎやかうどん!

大阪弁の文章なのですが、関西人でなくても、なりきって読めばきっと楽しいと思います。

あかちゃんがやってきた

角野栄子作/はたこうしろう絵 福音館書店 2009年

1998年に月刊「こどものとも」として発行された絵本のハードカバー版です。
 
お母さんが、ケイくんにささやきます。「あかちゃんがうまれるの」。
 
お母さんのおなかが少しずつ大きくなるにつれて、ケイくんは、期待したり、しっとしたり。おかあさんは、そんなケイくんの気持ちを大事に、大事にして、おなかの中の赤ちゃんとコミュニケーションを取らせます。
 
弟が生まれると想定して、ケイくんは、何をして遊ぶか考えます。楽しみで仕方がありません。
 
お母さんが入院して、ケイくんは、お父さんといっしょに病院に行きます。赤ちゃんとご対面です。ベッドには、男の子と女の子。ふたごです。
 
「ちっちゃいなあ。ぼく おにいちゃんになったんだ。」

思わず「おめでとう」っていいたくなるようなおしゃれでかわいい絵本です。

いったでしょ

五味太郎作 偕成社 2003年

幼児からと書きましたが、小学生でも十分楽しめます。むしろ小学生のほうがこのユーモアは分かるかもしれません。
 
子馬?とお母さん馬。馬?ろばかな?人間?ではないしなあ。と、いつものように正体不明の登場人物です。

子馬(にしておきましょう)は、お母さんの後から歩いて行きます。
道に穴があります。お母さんが「おちますよ」と警告します。つぎの見開きページで、子馬は穴に落ちます。「おちた!」 するとお母さんが、「いったでしょ」
 
この2パターンが繰り返されます。「ぶつかりますよ」「つまづきますよ」・・・
 
最後は階段です。「落ちますよって言って」「とびますよ」 そして、子馬は飛びます!「いったでしょ」

すてきな親子です。

いそげ!きゅうきゅうしゃ

竹下文子作/鈴木まもる絵 偕成社 2017年

幼児からと書きましたが、小学生でも十分楽しめる、力のある絵本です。
 
消防署で出番を待つ救急車、出動する救急車。けが人や病人をどのようにして運ぶのかを、クリアで力強い絵と簡潔な文章で、きちんと説明していきます。表現の誠実さが、救急車への信頼を呼び起こすように思います。

けがや急病でうろたえているとき、救急車も隊員さんも、どれほど頼もしく感じられることでしょう。

でも、救急車では運べないような遠方の急病人は、どうすればいいでしょう。大丈夫、ドクターヘリの出動です。ヘリの内部で隊員に励まされる病人の様子、眼下の景色、遥かに見える病院のヘリポート。大人でも、「かっこいい!」って声をあげてしまいます。

何人もの人たちの連携によって、わたしたちは助けられているのです。

最後のページには、救急車の運転席の細かな絵。見ている子どもの目がきら~んと光りました。

もみじのてがみ

きくちちき作 小峰書店 2018年

「てがみだよ
てがみだよ
もみじの
てがみだよ」
 
つぐみがかえでの紅葉を一枚口にくわえて森を飛んできます。ドングリをかじっていたねずみが、その紅葉を受けとって、もっとたくさんの紅葉をさがしに行きます。でも見つけたのは赤いきのこ。松ぼっくりをかじっていたりすが、それを見て、いっしょに紅葉をさがしに行きます。でも、見つけたのは、赤い椿。そこでヒヨドリもいっしょにさがしに行きます。

一羽と二匹は、深緑と灰色の森の中を、赤い物をさがしてどんどん進んでいきます。すると、次つぎに赤い秋の贈り物を発見するのです。そして、とうとう最後に、一面に散り敷いたかえでの葉。森がぱっと明るくなりました。おもわず、おお~っ!と声が上がります。

かあさん、だいすき

シャーロット・ゾロトウ文 シャーロット・ヴォーグ絵 松井るり子訳 徳間書店 2018年

原題は、『Say It!』。

風の強い秋の日、枯れ葉が舞い散るなかを、エレンとお母さんが手をつないで歩いています。学校からの帰り道でしょうか。

エレンは、お母さんにたずねます。
「ねえ かあさん、なに かんがえてる?」

お母さんは、にっこり答えます。
「かぜが とっても つよいわねって」

でも、エレンが言ってほしいのはそのことではありません。
 
枯葉をザクザク踏みしめて歩く音や、池に映る枯葉にさざ波が立って、色のかけらが混ざり合う様子。風で髪の毛が逆立って、わらってしまうふたり。ねこに会ったり犬に会ったりしながら家路をゆっくりたどります。秋の道を楽しみながらも、エレンは、お母さんに言ってほしい言葉を待っています。
 
エレンの言ってほしい言葉は何でしょう。エレンの言いたい言葉は何でしょう。
 
母と子の日常の、ささやかなほんのひとときが宝物であることを感じさせてくれる絵本です。

びくびくビリー

アンソニー・ブラウン作 灰島かり訳 評論社 2006年

心配ひきうけ人形は、グアテマラにつたわる人形です。ウォリードールといって、南米雑貨の店などでも売っています。とても小さな人形で、つまようじのような木に毛糸などをまきつけて作ります。枕の下に置いて寝ると、心配事をひきうけてくれて、ぐっすり眠ることができます。
 
さて、主人公の男の子ビリーは、いつも何か心配事を抱えています。たくさんの帽子がベッドの上に飛んでくるんじゃないだろうか。たくさんのくつがベッドの下から出てきてまどからはい出すんじゃないだろうか。巨大な鳥にさらわれるんじゃないだろうか。
でも、パパもママも、そんなことは起こらないといいます。なぐさめたり励ましたりしてくれるのですが、それでもビリーの心配は続きます。
 
ある日、ビリーはおばあちゃんの家に泊まりに行きます。こわくて眠れないビリーに、おばあちゃんは、「よわむしなんかじゃないさ。おばあちゃんもこどものころは、しんぱいばっかりしていたもんだよ」といいます。ビリーを否定せず、共感してくれるのです。おばあちゃんはそういう存在でありたいものですね。
そして、おばあちゃんは、ビリーに、心配ひきうけ人形をくれました!
 
それからのビリーの行動が、すばらしいのです。