「3 低学年から」カテゴリーアーカイブ

それよりこわい

それよりこわい

作・村中李衣 絵・近藤薫美子 佼成出版社 2023年

あなたの怖いものは何ですか?
小学生がふたり、学校の帰り道、「きょう、せんせい、むっちゃこわかったなあ」と愚痴っています。でもそれより怖いものが向こうからやって来ました。大きな口をあけた犬の顔は迫力満点です。
ふたりは、それより怖いものは何かと、つぎつぎ言い始めます。
病院の屋上、吊り橋、昇りだけのエスカレーター、だれもいない森の中・・・
と、どんどんエスカレートしていきます。
ページをめくるたびに読んでいるのが怖くなっていきます。

た

田島征三作 佼成出版社 2022年

書名に驚きます。が、作者名を見て、なんとなく納得してしまいます。

見開きに1語ずつ「た」の付く単語が力強い絵とともに展開されます。
よくある言葉遊びではなく、それぞれの単語は関係性を持っていて、物語が形作られます。

「たがやす たねまく」
⇒「たちまち!!めがでた」
⇒「たいよう」
⇒「たくましくそだつ」

このあたりから、「た」は「田」のことだと気がつきます。

⇒「たいへん」
からは、稲作の大変さが描かれ、収穫の喜びへと収束していきます。

みらいのえんそく かざんのしまへ

みらいのえんそく かざんのしまへ

ジョン・ヘア作 椎名かおる文 あすなろ書房 2022年 

『みらいのえんそく』の続編です。前回は月へ遠足に行きましたが、今回は火山島へ行きます。

吹きだす間欠泉や溶岩は、子どもだけでなく大人も心うきうきさせるものがありますが、当然、遠くから見ることしかできません。けれどのこの未来の世界では、近づくことができるし、触ることもできるのです。それだけでもうれしくなります。

今回も、ひとりだけ別行動をして置いてきぼりになる子どもがいます。この子が主人公。そこへ、溶岩の親子が現れて・・・

ストーリーのパターンは前回と同じですが、前回は絵画、今回は粘土細工(陶芸)で、異生物と心を通わせます。テーマはより強調されています。

子どもたちはみな防護マスクをかぶっているのに、表情が見えるという描き方は前回と同じく脱帽です。

おそとがきえた!

おそとがきえた!

角野英子文 市川里美絵 偕成社 2009年 

おばあさんのチラさんは、ねこと暮らしています。
大きな町の高い建物に囲まれた、小さな平屋の家に住んでいます。
窓はたくさんあるのですが、窓から見えるのは、となりの建物の壁ばかり。空も見えないし、太陽の光も届きません。
訪ねてくるお客もないのですが、チラさんと猫は、とても仲良しです。
ふたりは、「おばあちゃん住宅抽選係」に何度も手紙を書くのですが、なかなか当たりません。

ある冬の日、窓の外がまっ白になって、おそとが消えます!
チラさんは、ストーブのスープから上がる湯気が窓を曇らせているのを見て、窓ガラスにおそとの絵を描きます。
花や小鳥、ベンチやブランコのあるお外。アイスクリーム売りも描きます。

春になると、とうとうおばあちゃん住宅に当選して引っ越します。すると、その家は、おそとが・・・

湯気で曇った窓ガラスに絵を描いて遊んだことは、だれにでもあるのではないでしょうか。その空想の世界が、奇跡のように現実になる。希望の絵本です。

せんをたどって せかいいっしゅう

ローラ・ユンクヴィスト作 ふしみみさを訳 講談社 2008年 

一筆書きの旅の本です。
ペンの線をたどって行くと、ケニア、グリーンランド、サハラ砂漠、アマゾンのジャングル・・・と、世界じゅうを回って、そこの自然の中で暮らしている生き物たちに出会えます。
たとえば、ケニアでは、キリン、チーター、ゾウ。ゾウは、陸上動物の中で一番大きいこととか、キリンは世界でいちばん背の高い動物だとか、ふーんな知識がいっぱい。
スリランカへ行くと、世界で最初のやしの木は約8000年前に生まれたんだって!
南極大陸は、雨も雪もほとんど降らないから、氷の砂漠なんだって!そんな土地でも、ペンギンなどわずかな種類の動物が暮らしています。 
一筆書きで描かれる地球は、植物も動物もみなが一緒に暮らすかけがえのない美しい星だということがよくわかります。
ほかに、『せんをたどって』『せんをたどって いえのなかへ』『せんをたどってがっこうへいこう』があります。

パセリともみの木

ルドウィッヒ・ベーメルマンス作 ふしみみさを訳 あすなろ書房 2007年

もみの木というと、空に向かって真っすぐに伸びているイメージがあります。クリスマスツリーがそうですね。それだけでなく、木材として家や橋や、家具や、おもちゃとして使われます。
人はもみの木を何十年も何十年も育て、切り出します。
けれども、崖のふちに生えたそのもみの木は、何かの拍子で、ねじ曲がって育って行きました。人びとは役に立たないそのもみの木を、そのまま放っておきました。
曲がったもみの木はどんどん大きくなって、枝は、まるで緑のテントのようになりました。
そのテントの下に一匹のシカが住みつきました。
シカはもみの木に守られながら子どもを育て、年老いていきました。もみの木のまわりに生えているパセリが好きだったので、シカは、パセリと呼ばれました。
あるとき、下の村の猟師が、新しい双眼鏡を手に入れて、あたりを見ているうちに、崖の上のパセリたちを見つけました。猟師は鉄砲を手に、崖を登っていきました。・・・

ストーリーも素朴であたたかくて素敵なのですが、各ページごとに添えられた花のイラストが、いい。一枚一枚切り抜いて壁に貼っておきたくなりました。花の名前を最後のページに書いてあるのも心憎いです。生成りの紙の色もストーリーにぴったりです。

作者ルドウィッヒ・ベーメルマンスは、『げんきなマドレーヌ』の作者です。

おくりものはナンニモナイ

おくりものはナンニモナイ

パトリック・マクドネル作 谷川俊太郎訳/あすなろ書房 2005年 

大切な人へ、贈り物には何がいいかな?贈り物を考えるのは楽しいけれど、何を贈れば喜んでもらえるだろうとけっこう悩むこともありますね。

ある冬の日。
ねこのムーチは、大好きな犬のアールに贈り物をしたくなります。けれども、アールは、何でも持っていて、たぶんほしいものは何にもないでしょう。考えたあげく、ムーチは、ナンニモナイを贈ろうと思い付きました。
でも、ナンニモナイってどこにあるのでしょう。ムーチはいろんな人にリサーチします。大きなお店にも行きますが、ナンニモナイは売っていません。
ムーチは考えに考えて、大きな箱を用意しました。
さて、何を持って行ったのでしょう。

 そこで ふたりは ただ じっとして
 たのしんだ、ナンニモナイを。
 そしてなにもかもを。

かわ

絵巻じたて ひろがるえほん かわ

加古里子作/福音館書店 2016年

1962年に「こどものとも」で出版された『かわ』は、単行本になって、長いあいだ子どもたちに読まれてきました。
公害などの観点から書かれた文章が、年月による環境変化によって途中で変更になったりもしています。歴史を感じさせますね。

その『かわ』が、絵巻のかたちで出版されています。もともと前のページの右端と次のページの左端が続くように描かれていて、ページをめくりながら楽しんでいましたが、それが、ずらっと一枚の絵になっているのです。嬉しくなりました。
広げると、約7メートルです。 
しかも、表からと裏からと両面あるのです。
表から読んでいくと、文字はなくてカラーの絵巻です。細かい描写を想像して楽しみながら読み進めていくと、海に出ます。海の青の美しいこと!
しかも、大海原が4ページも続くのです。水平線は弧を描いています。
裏から読むと、モノトーンで、文章が説明してくれます。科学絵本であることを思い出させてくれます。
おはなし会で手に持って読むのは難しいですが、文庫などの広い床に広げながら読むと、そのスケールに感動すること請け合いです。

ロバのシルベスターとまほうの小石

ウイリアム・スタイグ作/瀬田貞二訳/評論社 1975年

シルベスターの趣味は小石集め。小さな子どもによくある楽しみですね。ある雨の日、シルベスターは、赤く光ってビー玉のような真ん丸な小石を拾います。それを持って、ふと「雨がやんでくれたら、なあ」とつぶやくと、いっぺんに雨がやんで、お日様が輝きました。
赤い小石は、なんでも願いのかなう小石だったのです。
シルベスターは、大喜びで、小石を持ってお父さんとお母さんのもとへ帰ろうとしました。その途中、ライオンに会って食べられそうになります。とっさに小石に願い事を言います。「ぼくは岩になりたい」

さて、それからどうなるでしょう。
シルベスターは待ちます。絶望しながら待つしかないのです。
両親は、シルベスターが行方不明になって、悲しみに沈みます。そして、待ちます。

親と子、双方の思いが身につまされます。最後のページの親子の抱き合う姿に、思わす涙が・・・

タコやん

富安陽子文/南伸坊絵 福音館書店 2019年6月

ある日、海から、たこのタコやんが、しょうちゃんの家にノタコラ、ペタコラやって来ます。「あそびましょ!」だって。しょうちゃんは、テレビゲームの最中だったので、断ります。でも、タコやんは、ドアのすきまから入りこんで、ゲームを始めます。その強いこと!
「タコやん、すっげえ!」としょうちゃんがいうと、タコやんは、照れて、一本足で頭をかいて、「それほどでも」。
公園でサッカーをすると、みんなは「タコやん、すっげえ!」
かくれんぼも、なかなかみつかりません。そこへ、犬を連れたおじさんが・・・

特になんということのないストーリーなのですが、平凡な日常ながら、わくわく感があるし、心なごみます。繰り返しのリズムも楽しく読めます。