「5 高学年から」カテゴリーアーカイブ

もしぼくが本だったら

もしぼくが本だったら

ジョゼ・ジョルゼ・レトリア文 アンドレ・レトリア絵 宇野和美訳 アノニマ・スタジオ 2018年

もしあなたが本だったら、何を望みますか?

見開き2ページに、「もしぼくが本だったら」で始まる一文が書かれていて、黒い表紙の本が、地味だけれど想像豊かに描かれます。

「もしぼくが本だったら、つれて帰ってくれるよう、出会った人にたのむだろう」にはじまり、「『この本がわたしの人生を変えた』とだれかが言うのをきいてみたい」で終わります。
ぜんぶで28の文があります。この28の文に、本というものの本質や役割が集約されています。

自分はどれに共感するかなと考えて読むのも楽しいです。

絵本で読むバッハ

クリストフ・ハイムブーヒャー文 ディートマー・グリーゼ絵 秋岡寿美子訳 ヤマハミュージックメディア 2007年

偉大なる音楽家バッハの伝記です。
絵本仕立てになっていて、とても読みやすいです。
バッハの生きた時代の町の様子や人々の生活が、食べ物や飲み物服装に至るまで、具体的に描かれていて、好奇心をそそります。

作者クリストフ・ハイムブーヒャーは、音楽家で、バッハを子守歌にして育ったそうです。ですから、バッハへの愛にあふれています。

ヨハン・セバスティアン・バッハは、1685年、ドイツのアイゼナハに、音楽師の息子として生まれました。両親が早くに亡くなり、金銭的にも苦労するのですが、自分の音楽をどこまでも追及して、約1200曲もの作品を残しています。それは、今でも演奏されているし、その一部分のフレーズを使った音楽も現在進行形で作られています。

時代と場所を超えて人びとの心をとらえる音楽を作ったバッハは、天才だったんだと思いますが、この絵本で描かれているのは、人間味のあるふつうの人です。

急行「北極号」

急行「北極号」

クリス・ヴァン・オールズバーグ作/村上春樹訳/あすなろ書房 2003年

ダークブラウンが基調の落ち着いた幻想的な絵。読み進めるあいだじゅう、静かな音が流れています。

クリスマスイブの晩、「ぼく」は、ベッドの中でサンタのそりの鈴の音が聞こえるのをじっと待っていました。友達は、サンタなんていないといっていたけれど、「ぼく」は信じて待っていました。

真夜中に聞こえて来たのは、しゅうっという汽車の蒸気の音でした。それは、北極点に向かう、急行「北極号」でした。車掌に引っぱり上げられて、「ぼく」は北極号に乗りこみました。車中は、「ぼく」と同じような、パジャマやナイトガウン姿の子どもたちでいっぱいでした。みんなでクリスマス・キャロルを歌ったり、雪のように真っ白なヌガーがまんなかに入ったキャンディを食べたり、とろりと濃くて香ばしいココアを飲んだりしているあいだに、北極号は、北へ進みます。

暗い森を抜け、高い山を越え、遥かに街の明かりが見えて来ました。そこが北極点でした。
何百というこびとたちがサンタの手伝いをしていました。
サンタが登場して、最初のプレゼントを「ぼく」がもらう場面は圧巻です。

帰りの車中、プレゼントをなくした「ぼく」と周りの子どもたちの表情、描き方がすばらしい。

さて、サンタのプレゼントはどうなったでしょうか?

「ぼくはすっかりおとなになってしまったけれど、鈴の音はまだ耳に届く。心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ」

あるヘラジカの物語

星野道夫原案/鈴木まもる絵と文/あすなろ書房 2020年

星野道夫さんの一枚の写真に深く心ひかれた作者は、この写真を絵本にしようとアラスカへ取材に行きます。
そこで見て感じた自然が空気や光とともに描かれています。

二頭のヘラジカの角のからまった頭蓋骨の写真。いったいどういう経緯でこんなふうに角がからまってしまったのか。作者は考えます。そして、そこから物語が生まれます。
その物語は、自然界の動物たちの織りなす、命の物語です。空想物語ではなく、科学的な事実を下敷きにしています。だから説得力があります。

闘う二頭のヘラジカの描写は、はげしいです。死んだヘラジカを食べる狼たちの描写も激しいです。死んでしまったヘラジカのすがたは静かに動かないけれど、生きようとしている者たちのすがたは、はげしく、命にあふれています。

ヒグマ、コヨーテ、アカギツネ、クズリ、カナダカケス、ワタリガラス。
やがて荒野が雪に覆われると、カンジキウサギがヘラジカの角をかじります。

マイナス40度のきびしいアラスカの冬がおわり、春になり、何度目かの春、ヘラジカは頭の骨だけになってしまいます。その口の中に、アメリカタヒバリが巣をつくり、ひなを育てます。

たんたんと命を伝える絵本です。

ヒトニツイテ

五味太郎作/絵本塾出版(CBSソニー出版) 2015年(1979年)

この本が最初に世に出たのは1979年。作者がまだ絵本を描き始めて間もないころです。主人公(?)は、ヒトですが、裸の男性なので、「人類」と思われます。ストーリーは、ある意味で人類の歴史であり、同時にひとりの人間の歴史でもありす。

ヒト ハ ミル
ヒト ハ カンガエル
ヒト ハ マツ

1ページごとに「ヒト ハ ・・・」と、人の行動が描かれます。

ヒトの目の前に現れた火星人のようなタコのような生物に、ヒトはどのように行動するでしょう。どのページも、うん。あるある、と共感するのですが、笑いながらなにげなく開いたページで、手が止まります。びっくりします。が、たしかに、人間はそういう存在だと思い知らされるのです。
とても哲学的な絵本です。

さがす

長倉洋海著/アリス館 2020年 (高学年から)

作者の最新の写真絵本です。
作者は、子どものとき誰もがぶつかる難問「自分は何なのか」「何のために生きているのか」の答えを求めて人生の旅に出ます。

「出会った人たちは、かがやくばかりの笑顔をもっていた。
苦しみやかなしみを経験したあとに、生まれてきた笑顔。
負けそうになる自分を、はげます笑顔。
まわりの人の心を、あたたかくする笑顔。
そんなすごいものを、みんなも、自分も、もっている。」

そして、世界じゅうで出会った人々、特に子どもからヒントを得ます。
自分の幸せを見つけることが「生きる意味」かも知れないと。
たくさんの人に出会うことで、さがしていたものを手に入れたといいます。

大地と子どもの表情がすばらしい写真絵本です。

こんとん

夢枕獏文・松本大洋絵 偕成社 2019年

中国の思想書『荘子』に、混沌(こんとん)という帝の話があります。また、中国の古い神話に、混沌という名の怪物が登場します。それらをもとにかかれた絵本です。

こんとんは、目耳鼻口がなく、いつも空を見て笑っています。南海の帝と北海の帝が、こんとんのために目耳鼻口の七つの穴を開けてやります。そのとたん、こんとんは死んでしまうのです。
 

じぶんの 目で みる きく かぐ じぶんの 口で かたる
それは なんだか とてつもなく たいへんな ことだったんだろうね
と絵本の作者はいいます。そして、
 
こんとん こんとん きみのことが すきだよ
と。

さてさて、混沌は、カオスのこと。「混沌に目鼻を空ける」ということわざがあります。むりやり物事に道理を付けるという意味です。

こんとん、魅惑的な存在です。

まってる。

デヴィッド・カリ&セルジュ・ブロック作/小山薫堂訳 千倉書房 2006年

一本の赤い毛糸が、ページを彩り、人や命をつないでいきます。
11、5×27、5の横長の絵本です。

初めに待っているのは男の子。おにいちゃんって呼ばれる日を待っています。
お休みのキスを待っています。
ママのケーキが焼けるのを待っています。
雨が止むのを待っています。
クリスマスを待っています。

そうです、わたしたちは子どもの頃から、ずうっと何かを待ちつづけているのですね。

男の子は青年になり、待っていた彼女と出会い、彼女は戦場に出掛けた青年を待ちます。青年は負傷し、病院で戦争の終わるのを待ち、彼女からの色よい返事を待ちます。

青年は父親となり、子どもたちが独立し、妻が病に倒れ、「さようなら。ありがとう」って言わなきゃいけない日を待ちます。
それが人生です。

最後に待つのは新しい家族です。息子の妻のおなかに毛糸の切れはしがあります。

そう、それが人生です。

最後のページに赤い毛糸が美しくたばねられてあります。

空の飛びかた

ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/関口裕昭訳/光村教育図書 2009年

語り手「わたし」は中年の男性です。わたしは、歩いているとペンギンに会いました。ペンギンは、「空から落っこちたんだよ」といいます。

ペンギンは、鳥になりきれば飛べると思って飛んだんだけど、飛んでる最中にほかの飛んでいる鳥に出会ったとたん、自分は飛ぶようにはできていないなと不安になった。で、墜落したというのです。

かわいそうになったわたしは、ペンギンと暮らしはじめます。そして、ペンギンが飛べるように、奇想天外な方法を次つぎと試します。そのリアルな絵がとにかく笑えてしまうのです。

ある日、ペンギンの群れが頭上を飛んでいくのを見つけます。すると彼のペンギンはエイっとジャンプして・・・

さて、飛べたでしょうか?

悲しい本

マイケル・ローゼン文 クェンティン・ブレイク絵 谷川 俊太郎訳 あかね書房 2004年

人がどうしようもない悲しみにとらわれるのは、どんな時でしょう。たとえば、愛する人を失くしたとき。もうこの世では永遠に会えないという思いが心に突き刺さります。

この本の主人公は、息子を亡くした中年の男です。悲しみにとらわれ、悲しみから逃げ出すためにさまざまな意味のないことをし、死ぬことさえ考えます。

最後のページの、一本のろうそくの灯りと男の表情に、それでも生きようとする勇気を感じます。