みらいのえんそく かざんのしまへ

みらいのえんそく かざんのしまへ

ジョン・ヘア作 椎名かおる文 あすなろ書房 2022年 

『みらいのえんそく』の続編です。前回は月へ遠足に行きましたが、今回は火山島へ行きます。

吹きだす間欠泉や溶岩は、子どもだけでなく大人も心うきうきさせるものがありますが、当然、遠くから見ることしかできません。けれどのこの未来の世界では、近づくことができるし、触ることもできるのです。それだけでもうれしくなります。

今回も、ひとりだけ別行動をして置いてきぼりになる子どもがいます。この子が主人公。そこへ、溶岩の親子が現れて・・・

ストーリーのパターンは前回と同じですが、前回は絵画、今回は粘土細工(陶芸)で、異生物と心を通わせます。テーマはより強調されています。

子どもたちはみな防護マスクをかぶっているのに、表情が見えるという描き方は前回と同じく脱帽です。

わたしのぼうし

わたしのぼうし

佐野洋子作・絵 ポプラ社 2022年

おにいさんは青いリボンのついた帽子、わたしは赤い花のついた帽子を持っています。
幼い兄妹は、でかけるとき、いつも帽子をかぶります。
トンボとりに行くときも、動物園に行くときも、「おかあさん、ぼうし、ぼうし」といって、かぶります。
古くなって少しよごれていますが、羊の噛み跡があったり、デパートで迷子になっても帽子のおかげで見つかったりと、日常のささやかな経験とともになくてはならない帽子です。
ところが、わたしは電車の窓から帽子を飛ばしてしまったのです。
お父さんは、「とんでいったのが、おまえでなくてよかったよ」といい、お母さんは、アイスクリームを買ってくれましたが、わたしは悲しくて大声で泣き続けます。
帽子をなくした次の日、お父さんは、兄妹に新しい帽子を買って来ました。
おにいさんは、すぐにその帽子をかぶりましたが、わたしはかぶることができません。わたしの帽子のようではなかったからです。

幼い子どもにとって、「自分のもの」がどのようにしてほんとうの自分のものになるのかが、よく分かります。

両親の子どもへの対応がとてもあたたかく、信頼しうる親というもののあり方も、よく分かります。
心優しいストーリーと文章と絵がマッチした傑作です。

1876年刊『わたしのぼうし』の新装版です。 

もしぼくが本だったら

もしぼくが本だったら

ジョゼ・ジョルゼ・レトリア文 アンドレ・レトリア絵 宇野和美訳 アノニマ・スタジオ 2018年

もしあなたが本だったら、何を望みますか?

見開き2ページに、「もしぼくが本だったら」で始まる一文が書かれていて、黒い表紙の本が、地味だけれど想像豊かに描かれます。

「もしぼくが本だったら、つれて帰ってくれるよう、出会った人にたのむだろう」にはじまり、「『この本がわたしの人生を変えた』とだれかが言うのをきいてみたい」で終わります。
ぜんぶで28の文があります。この28の文に、本というものの本質や役割が集約されています。

自分はどれに共感するかなと考えて読むのも楽しいです。

ここからおいしいよかんがするよ

たな作 パイ・インターナショナル 2021年 

しかけ絵本です。
左ページに、おいしい予感で期待にあふれた男の子が、温かなタッチで描かれます。
そして右ページには、ふたをしたおべんとう箱、茶碗蒸しのふた、リボンをかけた四角い缶、なべのふた、ふたをした重箱・・・
そのページを上に開くと、ぎっしり詰まっためっちゃおいしそうな・・・!
父親と母親、祖父母もさりげなく登場しますが、それぞれに重要な役割を持っています。

やがて男の子は、ホットケーキミックスの箱を見つけます。
 ここからおいしいよかんが・・・
ところが、箱の中はからっぽです。男の子は考えます。そして、とってもいいことを思いつきます。

最後に、台所からいい匂いが漂って来て、おいしい予感が!
男の子とお母さんが走って行くと、お父さんがホットケーキを作っていました。

ごちそうさま!

ぼくのブック・ウーマン

ヘザー・ヘンソン文 デイビッド・スモール絵 藤原宏之訳 2020年 さ・え・ら書房

今から90年ほど前のアメリカには、荷馬図書館員がいました。
馬に本を積んで、図書館から山間部などに届けるしごとをします。
多くが女性で、ブック・ウーマンとよばれていました。

カルは、ほとんど人が通わない山の上に住む少年です。
両親と、祖父母、妹と弟体と暮らしています。
遠すぎて学校など行くこともできません。
けれども、月に二回、ブックウーマンが馬に乗ってけわしい山道をやってきて本を置いて帰ります。本は無料で、どんなお礼も受け取りません。
妹のラークは本が好きで、宝物のように喜んで読みふけります。
カルは、にわとりがひっかいたような文字だといって、ラークを馬鹿にしているのですが、やがて、寒い雪の日も嵐の日も欠かさずやってくるブック・ウーマンの勇気に心動かされて、ラークに文字を教えてもらいます。

春が近づいたある日、カルは、やってきたブック・ウーマンに、贈り物をしたいといいます。ブック・ウーマンの答えは、
「わたしのために本を読んでほしいわ」でした。
カルは、新しい本を開いて声に出して読みました。
「プレゼントはそれでじゅうぶん!」と、ブック・ウーマンはほほえみました。

おそとがきえた!

おそとがきえた!

角野英子文 市川里美絵 偕成社 2009年 

おばあさんのチラさんは、ねこと暮らしています。
大きな町の高い建物に囲まれた、小さな平屋の家に住んでいます。
窓はたくさんあるのですが、窓から見えるのは、となりの建物の壁ばかり。空も見えないし、太陽の光も届きません。
訪ねてくるお客もないのですが、チラさんと猫は、とても仲良しです。
ふたりは、「おばあちゃん住宅抽選係」に何度も手紙を書くのですが、なかなか当たりません。

ある冬の日、窓の外がまっ白になって、おそとが消えます!
チラさんは、ストーブのスープから上がる湯気が窓を曇らせているのを見て、窓ガラスにおそとの絵を描きます。
花や小鳥、ベンチやブランコのあるお外。アイスクリーム売りも描きます。

春になると、とうとうおばあちゃん住宅に当選して引っ越します。すると、その家は、おそとが・・・

湯気で曇った窓ガラスに絵を描いて遊んだことは、だれにでもあるのではないでしょうか。その空想の世界が、奇跡のように現実になる。希望の絵本です。

絵本で読むバッハ

クリストフ・ハイムブーヒャー文 ディートマー・グリーゼ絵 秋岡寿美子訳 ヤマハミュージックメディア 2007年

偉大なる音楽家バッハの伝記です。
絵本仕立てになっていて、とても読みやすいです。
バッハの生きた時代の町の様子や人々の生活が、食べ物や飲み物服装に至るまで、具体的に描かれていて、好奇心をそそります。

作者クリストフ・ハイムブーヒャーは、音楽家で、バッハを子守歌にして育ったそうです。ですから、バッハへの愛にあふれています。

ヨハン・セバスティアン・バッハは、1685年、ドイツのアイゼナハに、音楽師の息子として生まれました。両親が早くに亡くなり、金銭的にも苦労するのですが、自分の音楽をどこまでも追及して、約1200曲もの作品を残しています。それは、今でも演奏されているし、その一部分のフレーズを使った音楽も現在進行形で作られています。

時代と場所を超えて人びとの心をとらえる音楽を作ったバッハは、天才だったんだと思いますが、この絵本で描かれているのは、人間味のあるふつうの人です。

名前をつけるおばあさん

名前をつけるおばあさん

シンシア・ライラント文 キャスリン・ブラウン絵 まついたかえ訳 新樹社 2007年 

丘の上の一軒家にひとり暮らしのおばあさんが住んでいました。
おばあさんは、長生きしたので、友だちはみんな先に死んでしまって、ひとりぼっちになりました。もう名前を呼ぶ人もいません。寂しくてたまりませんでした。
そこで、自分より長生きするものにだけ名前を付けました。自家用車はベッツィ、いすはフレッド、ベッドはロクサーヌというように。
こうして、おばあさんは、周りのものより長生きする心配は無くなって、幸せでした。

ある日のこと、子犬がいっぴき迷い込んで来ました。おばあさんはハムをやって、「うちへお帰り」といいました。犬は行ってしまいましたが、また次の日もやって来ました。
犬は毎日やって来ましたが、おばあさんは飼うことはできませんでした。なぜなら名前を付けなくてはならないからです。自分が犬より長生きしたときのことを想像すると、寂しくて飼うことはできませんでした。

ところが、もう成犬になったその犬が、いきなりおばあさんのうちにやって来なくなりました。おばあさん心配でたまらなくて、犬を探しはじめました。でも、なんて呼んで探せばいいのでしょう?

あっ おちてくる ふってくる

あっおちてくるふってくる

ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 まさきるりこ訳 あすなろ書房 2005年 

『どろんこハリー』のふたりが贈る詩のような絵本です。

落ちてくる物、降ってくる物といったら何を思い浮かべますか?
はなびらが、テーブルの上に音もなく落ちてきます。
あけ放たれたドアからあたたかないい匂いの風が吹いてくるのが感じられます。
公園の噴水の水が落ちてきます。水の音、鳥のさえずり、子どもたちの歓声が聞こえるようです。
りんごが木から落ちてきます。日差しの中でりんごを集める子どもたちの息遣いが聞こえるようです。
季節は移り、夏の海辺、木の葉の散る公園、雪遊び。雨の日。夕闇、夜。

落ちてくる物、降ってくるものに注目すると、日常の中に自然を見つけることができます。
最後は、朝、お父さんがジミーを抱きあげて、空中にぽーんと放り上げます。
ジミーは落ちる? 
いいえ、お父さんがしっかり受け止めます。

ドラマチックなストーリーはありませんが、楽しく、心がしずまっていく絵本です。

としょかんライオン

としょかんライオン

ミシェル・ヌードセン作 ケビン・ホークス絵 福本友美子訳 岩崎書店 2007年

まずはりっぱな図書館に感動しました(笑)
こんなにたくさんの本が、高い棚の上までぎっしりあって、大人も子どもも、たくさんの人たちがゆったりと読書を楽しんでいる光景は、本好きの読者にはたまりません。絵もとても暖かいです。
その図書館に、のっそりと大きなライオンがやって来ます。
ライオンは、まるで人間の子どものように、当たり前にやって来て、くつろぎます。おはなしの時間が気にいったようです。すぐに、子どもたちの人気者になりました。
館長のメリーウェザーさんのお手伝いもします。

ところが、ちょっとした誤解がもとで、ライオンがやって来なくなります。
ライオンのいないおはなし会や児童書コーナーの子どもたちの寂しげな不安そうな表情。メリウェザーさんの遠い目。
ライオンがまたやって来たときのみんなの喜び。いきいきとした表情がすばらしいです。