リスとはじめての雪

ゼバスティアン・メッシェンモーザー作/松永美穂訳 コンセル 2008年

ストーリーは単純なので、小さい子にも分かるのですが、思わずくすっと笑ってしまうおもしろさは、むしろ大人向けかもしれません。白い画用紙に鉛筆でさらさらと描かれた森の中や、わずかに色彩の乗った動物たちも、大人向きかもしれません。写実的に描かれているのに、動物たちの表情は、なんて人間的なのでしょう。心の動きは顔だけでなく体全体であらわされています。

雪が降るまで起きていようと決心するリス。少しずつ睡魔にとらわれていくときのリス。びっくりしてとび起きるリス。こまやかな表情が、何ともユーモラスです。

駆けまわるリスも、歌を歌うハリネズミも、眠くてしかたがないクマも、動物としてリアルでしかも人間的なのです。

三匹は、雪を見たことがありません。「白くて、しめっぽくて、つめたくて、やわらかい」雪。そんなものを三匹は探します。

ハリネズミが見つけたのは歯ブラシ。もしこれがたくさん降ってきたら冬はどんなにきれいだろうと、ハリネズミは考えます。次の見開きに歯ブラシの降ってくる光景が描かれます。それがおかしくも美しいのです。

リスは空き缶を見つけます。やっぱり見開きページで、たくさんの空き缶が降ってきます。

クマははき古したくつしたを見つけます。雪ってこんなにおいがするのかしら(笑)? そこへ、ほんとうの雪が降ってきます。三匹は雪だるまを作り、安心して一緒に眠ります。

たきぎを取りにやって来た人間たちが雪だるまを見つけます。人間のそのまぬけな表情は、思わず笑いを誘います。

まってる。

デヴィッド・カリ&セルジュ・ブロック作/小山薫堂訳 千倉書房 2006年

一本の赤い毛糸が、ページを彩り、人や命をつないでいきます。
11、5×27、5の横長の絵本です。

初めに待っているのは男の子。おにいちゃんって呼ばれる日を待っています。
お休みのキスを待っています。
ママのケーキが焼けるのを待っています。
雨が止むのを待っています。
クリスマスを待っています。

そうです、わたしたちは子どもの頃から、ずうっと何かを待ちつづけているのですね。

男の子は青年になり、待っていた彼女と出会い、彼女は戦場に出掛けた青年を待ちます。青年は負傷し、病院で戦争の終わるのを待ち、彼女からの色よい返事を待ちます。

青年は父親となり、子どもたちが独立し、妻が病に倒れ、「さようなら。ありがとう」って言わなきゃいけない日を待ちます。
それが人生です。

最後に待つのは新しい家族です。息子の妻のおなかに毛糸の切れはしがあります。

そう、それが人生です。

最後のページに赤い毛糸が美しくたばねられてあります。

カッターであそぼう!

五味太郎作 KTC中央出版 2018年

クリスマスやお正月のプレゼントには何がいいかなとお悩みの大人たちへ(笑)。
カッターナイフを使える年齢の子ども向けの絵本です。絵本といっても、カッターナイフで作った色紙作品が次々と登場。作り方の説明もあります。
副題が「さあ、カッターあそびのはじまり はじまり!!」です。

子どもや、工作の好きな大人は、最初の色紙の重なりを見ただけでわくわくします。

「カッターですよ!かみをきりますよ かみをきると いろんなかたちが できます いろんなものが つくれます」
 
青い台紙の上でピンクの紙をスーッと切る。それだけで十分に美しい!ギザギザに切ったりくねくねに切ったり。四角い穴を開けます。星型の穴、温泉マーク、小さな三角がいっぱい。こんどは穴を開けた紙を重ねていくと、複雑な模様、複雑な色目になります。

お面を作ったり、モビールをつくったり、ランプシェードを作ったりと、つぎからつぎへと、ここでは書ききれません(笑)

カッターの安全な使い方まで、ちゃんと説明してあります。

姉妹品『CUT AND CUT キッターであそぼう!』は、本書『カッターであそぼう!』と作者がセレクトした14色の色紙が84枚と、子どもに安全な安心設計のカッターナイフと、カッターマットとが入っています。3,800円です

クリスマスのつぼ

ジャック・ケント作/清水真砂子訳 ポプラ社 1977年

わたしたちは、クリスマスといえば、サンタクロースや雪の中を走るトナカイ、クリスマスツリーを連想します。けれども、この絵本はメキシコのクリスマスのおはなしです。雪のない暖かい所でもイエスキリストの誕生は祝われます。

子どもたちがマリアとヨセフに扮して、家々をめぐるポサーダという行事。ポサーダの最後のパーティーで、子どもたちが飾り付けられたピニャータを割り、中から出てきたお菓子や果物をみんなで分けて食べます。

この絵本では、はじめにふたつのつぼが登場します。双子のようにそっくりのつぼです。が、つぼが焼きあがった時、ひとつにはヒビが入っていました。ヒビの入ったつぼは庭の隅に放っておかれ、悲しみにくれます。ところが、クリスマスが近づくと、つぼ作りの家の女の子が、ヒビの入ったつぼをピニャータにしようといいます。

ヒビの入ったつぼにとって、すばらしいクリスマスになりました。でも、ピニャータになったつぼはこなごなに割られしまい、ゴミ捨て場に捨てられます。悲しんでいると、あのもうひとつのつぼ、りっぱなつぼが、割れて捨てられてきました。りっぱなつぼは、「なんだって いつかは こわれるんだよ。」といいました。

「それで めいめい やくに たったんだね」
「そうだよ。だれだって みんな そうなんだ」

心温まるお話です。

あひるのピンのぼうけん

マージョリー・フラック文/クルト・ヴィーゼ絵/まさきるりこ訳 瑞雲社 1994年

ピンは「とても美しい子どものあひる」です。揚子江に浮かぶ船に、67羽の家族たちと暮らしています。船の名前は「かしこい目」といって、目があるので、まるで生き物のように描かれています。

船の主人は、毎朝、あひるたちを陸地に放し、夕方になると、あひるたちを集めて船にもどらせます。あひるたちは一列になって、船と陸の間に渡した板の橋をわたって行き来しますが、列の最後のアヒルは、主人からおしりに鞭を食らうのです。ある日ピンはもどるのが遅くなって、鞭を食らうのがいやで、草むらにもぐりこんでかくれました。
かしこい目は、ピンを岸に残したまま遠ざかっていきました。

そこから、ひとりぼっちになったピンのぼうけんが始まります。

川に暮らす人々の生活の様子が、素朴だけれど動きのある絵と、ピンの視線で描かれます。ピンは人間につかまってしまいますが、逃がしてくれたのも人間の男の子です。ピンは奇跡のようにかしこい目を発見します。

瀬田貞二のいう「行きて帰りし物語」です。ピンはおしりを鞭で打たれましたが、無事家に帰ることができて、めでたし、めでたしです。

ひとまねこざる

H・A・レイ作/光吉夏弥訳 岩波書店 1954年

古典中の古典です。今読み返しても、全く古びていません。きっと、時代がうつっても、幼い子どもの本質は変わらないからでしょう。おさるのジョージは、知りたがり屋であることも含め、前へ前へと行動する姿が、幼児の姿と重なります。子どもは自分がジョージになっていっしょに冒険することができる、そんなふうに描かれているのです。

ぞうの大きな耳の下で寝る!バスの屋根に乗って町を走る!部屋中にペンキで絵を描く!大人たちはそんな夢を忘れがちですが、ジョージはやります。子どもはどんなにか嬉しいことでしょう。いつもジョージを許す大人たちの表情も暖かです。よく見ると、ジョージも他の人物も、みな、いつも口もとが笑っています。

ジョージは失敗してけがもするし、入院もしますが(救急車に乗れるなんて、なんてすてきなんだろう!)、それもこれも含めて、人生は愉しいと感じさせてくれます。幼い子どもには、この肯定感は、とても大切です。

最近の幼児向きの絵本と比べると、ページ数が多く、読むのに時間がかかります。それだけに読後の充実感があります。そして明るいユーモアに彩られているので、読み手も子どもも疲れません。

つないでつないで

福地伸夫作 福音館書店 2018年

「こどものとも012」のシリーズですが、幼稚園の5歳児と学童保育(小学1年生から6年生まで)で、読みました。このシリーズには、たまに、大きな子どもも楽しめる作品があります。

初めの見開きのページで、左からくろねこ、右からしろねこが、「てをつなぎましょう」といって現れます。次の見開きページで、「はい、つなぎましょう」と、二匹は手をつなぎます。あとは、ねこが右から現れては手をつないで増えていくだけの展開です。

同じ言葉のくりかえしのリズムが楽しく、子どもたちは自然に口にします。いつも「はい、」と肯定して、決してほかのことはいいません。だから、読み手も聞き手も、とても穏やかな気持ちになります。もしも物理的に可能ならば、最後にみんなで手をつないで、大きな輪を作りたいです。

ねこたちの顔の表情はよく似ているのですが、からだの表現がさまざまで、リズム感があります。

まなぶ

長倉洋海 アリス館 2018年

写真家長倉洋海さんの写真絵本です。
 
題の通り、世界じゅうの子どもの学ぶ姿が映し出されます。キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、カンボジア、スリランカ、日本・・・。子どもたちの瞳の深さ、笑顔の明るさは、背景の景色が違ってもみな同じです。そして、その背景が子どもたちを見守り育てているのだということを、これらの写真は感じさせてくれます。子どもと、子どもの生きる場所への、作者の愛を感じるのです。

「自分の道を見つけるために、人はまなぶ。まわりのみんなとはちがう「自分だけの道」。ほかの人とぶつかったり、競争しなくてもいい、きみだけの道が、そのまなびの先にある」
作者のこの言葉は、子どもたちへ贈られたものですが、子どもたちの姿に浄化された大人にとっても、たいせつなものとして受けとめることができます。

つくえはつくえ

五味太郎 偕成社 2018年

主人公は男の子。
机の上が山のようになっていて、「せまいきがする」といったら、お父さんが、「きがするんじゃない。せまいのだ。ひろいつくえをつくってやろう!」といって、大工道具を出してきて、ひろーい机を作ってくれました。見開き2ページ分の広さです。男の子が左のページの上の方にちょこんといて「ちょっとひろすぎ」といっています。
そこへ、友だちが、ひとり、ふたりとやって来て、机の上で遊びだします。野球、なわとび、スケートボード・・・ページをめくるたびにどんどん子どもが増えていきます。ラジコン、カラオケ、トランプ、そのうち、絵でいっぱいになって、「もうもじもはいらなくなってきました」という文字を探さなくてはなりません。とうとう、「あ、あ、あ」「おちたようなきがする」「きがするんじゃない おちたのだ」

そこでお父さんは、広すぎない狭すぎない机を作ってくれました。

ちょうどいい机、わたしも欲しいなあと思いながら読みました。

じかんだよー!

さいとうしのぶ 白泉社 2018年

『あっちゃんあがつく』『おべんとうばこのうた』の作者の最新刊です。

どこにでもある台所。瓶やオーブンやなべやら、ぎっしりとあるべき所におさまっています。白いまるいお皿の上で、プチトマトが「もうすぐじかんだよー!しゅうごう!」と叫びます。すると、オーブンの中からハンバーグが「やけたよー!」と、元気いっぱい飛び出してきます。フライパンからオムライスが出てきます。ボールからちぎったレタスと輪切りのきゅうり。みんなお皿に乗ります。もう一人足りない。

プチトマトがさがしに行くと・・・ピーマン、アジ、ちくわ、れんこん、マッシュルーム、ウインナー、アスパラ・・・つぎつぎと小麦粉のバットに飛びこんで、つぎは卵のボールにつかって、パン粉の中で転がって、フライヤーの中にじゅん。フライヤーから「おまたせー」とエビフライが飛びだしました。冷蔵庫からプリンとケチャップとオレンジジュースが飛びだしました。プリンは旗を持っています。
 
はい、お子様ランチの時間だったのです。
 
ひたすら、明るく楽しい食べ物の絵本です。