ぼくのブック・ウーマン

ヘザー・ヘンソン文 デイビッド・スモール絵 藤原宏之訳 2020年 さ・え・ら書房

今から90年ほど前のアメリカには、荷馬図書館員がいました。
馬に本を積んで、図書館から山間部などに届けるしごとをします。
多くが女性で、ブック・ウーマンとよばれていました。

カルは、ほとんど人が通わない山の上に住む少年です。
両親と、祖父母、妹と弟体と暮らしています。
遠すぎて学校など行くこともできません。
けれども、月に二回、ブックウーマンが馬に乗ってけわしい山道をやってきて本を置いて帰ります。本は無料で、どんなお礼も受け取りません。
妹のラークは本が好きで、宝物のように喜んで読みふけります。
カルは、にわとりがひっかいたような文字だといって、ラークを馬鹿にしているのですが、やがて、寒い雪の日も嵐の日も欠かさずやってくるブック・ウーマンの勇気に心動かされて、ラークに文字を教えてもらいます。

春が近づいたある日、カルは、やってきたブック・ウーマンに、贈り物をしたいといいます。ブック・ウーマンの答えは、
「わたしのために本を読んでほしいわ」でした。
カルは、新しい本を開いて声に出して読みました。
「プレゼントはそれでじゅうぶん!」と、ブック・ウーマンはほほえみました。

おそとがきえた!

おそとがきえた!

角野英子文 市川里美絵 偕成社 2009年 

おばあさんのチラさんは、ねこと暮らしています。
大きな町の高い建物に囲まれた、小さな平屋の家に住んでいます。
窓はたくさんあるのですが、窓から見えるのは、となりの建物の壁ばかり。空も見えないし、太陽の光も届きません。
訪ねてくるお客もないのですが、チラさんと猫は、とても仲良しです。
ふたりは、「おばあちゃん住宅抽選係」に何度も手紙を書くのですが、なかなか当たりません。

ある冬の日、窓の外がまっ白になって、おそとが消えます!
チラさんは、ストーブのスープから上がる湯気が窓を曇らせているのを見て、窓ガラスにおそとの絵を描きます。
花や小鳥、ベンチやブランコのあるお外。アイスクリーム売りも描きます。

春になると、とうとうおばあちゃん住宅に当選して引っ越します。すると、その家は、おそとが・・・

湯気で曇った窓ガラスに絵を描いて遊んだことは、だれにでもあるのではないでしょうか。その空想の世界が、奇跡のように現実になる。希望の絵本です。

絵本で読むバッハ

クリストフ・ハイムブーヒャー文 ディートマー・グリーゼ絵 秋岡寿美子訳 ヤマハミュージックメディア 2007年

偉大なる音楽家バッハの伝記です。
絵本仕立てになっていて、とても読みやすいです。
バッハの生きた時代の町の様子や人々の生活が、食べ物や飲み物服装に至るまで、具体的に描かれていて、好奇心をそそります。

作者クリストフ・ハイムブーヒャーは、音楽家で、バッハを子守歌にして育ったそうです。ですから、バッハへの愛にあふれています。

ヨハン・セバスティアン・バッハは、1685年、ドイツのアイゼナハに、音楽師の息子として生まれました。両親が早くに亡くなり、金銭的にも苦労するのですが、自分の音楽をどこまでも追及して、約1200曲もの作品を残しています。それは、今でも演奏されているし、その一部分のフレーズを使った音楽も現在進行形で作られています。

時代と場所を超えて人びとの心をとらえる音楽を作ったバッハは、天才だったんだと思いますが、この絵本で描かれているのは、人間味のあるふつうの人です。

名前をつけるおばあさん

名前をつけるおばあさん

シンシア・ライラント文 キャスリン・ブラウン絵 まついたかえ訳 新樹社 2007年 

丘の上の一軒家にひとり暮らしのおばあさんが住んでいました。
おばあさんは、長生きしたので、友だちはみんな先に死んでしまって、ひとりぼっちになりました。もう名前を呼ぶ人もいません。寂しくてたまりませんでした。
そこで、自分より長生きするものにだけ名前を付けました。自家用車はベッツィ、いすはフレッド、ベッドはロクサーヌというように。
こうして、おばあさんは、周りのものより長生きする心配は無くなって、幸せでした。

ある日のこと、子犬がいっぴき迷い込んで来ました。おばあさんはハムをやって、「うちへお帰り」といいました。犬は行ってしまいましたが、また次の日もやって来ました。
犬は毎日やって来ましたが、おばあさんは飼うことはできませんでした。なぜなら名前を付けなくてはならないからです。自分が犬より長生きしたときのことを想像すると、寂しくて飼うことはできませんでした。

ところが、もう成犬になったその犬が、いきなりおばあさんのうちにやって来なくなりました。おばあさん心配でたまらなくて、犬を探しはじめました。でも、なんて呼んで探せばいいのでしょう?

あっ おちてくる ふってくる

あっおちてくるふってくる

ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 まさきるりこ訳 あすなろ書房 2005年 

『どろんこハリー』のふたりが贈る詩のような絵本です。

落ちてくる物、降ってくる物といったら何を思い浮かべますか?
はなびらが、テーブルの上に音もなく落ちてきます。
あけ放たれたドアからあたたかないい匂いの風が吹いてくるのが感じられます。
公園の噴水の水が落ちてきます。水の音、鳥のさえずり、子どもたちの歓声が聞こえるようです。
りんごが木から落ちてきます。日差しの中でりんごを集める子どもたちの息遣いが聞こえるようです。
季節は移り、夏の海辺、木の葉の散る公園、雪遊び。雨の日。夕闇、夜。

落ちてくる物、降ってくるものに注目すると、日常の中に自然を見つけることができます。
最後は、朝、お父さんがジミーを抱きあげて、空中にぽーんと放り上げます。
ジミーは落ちる? 
いいえ、お父さんがしっかり受け止めます。

ドラマチックなストーリーはありませんが、楽しく、心がしずまっていく絵本です。

としょかんライオン

としょかんライオン

ミシェル・ヌードセン作 ケビン・ホークス絵 福本友美子訳 岩崎書店 2007年

まずはりっぱな図書館に感動しました(笑)
こんなにたくさんの本が、高い棚の上までぎっしりあって、大人も子どもも、たくさんの人たちがゆったりと読書を楽しんでいる光景は、本好きの読者にはたまりません。絵もとても暖かいです。
その図書館に、のっそりと大きなライオンがやって来ます。
ライオンは、まるで人間の子どものように、当たり前にやって来て、くつろぎます。おはなしの時間が気にいったようです。すぐに、子どもたちの人気者になりました。
館長のメリーウェザーさんのお手伝いもします。

ところが、ちょっとした誤解がもとで、ライオンがやって来なくなります。
ライオンのいないおはなし会や児童書コーナーの子どもたちの寂しげな不安そうな表情。メリウェザーさんの遠い目。
ライオンがまたやって来たときのみんなの喜び。いきいきとした表情がすばらしいです。

せんをたどって せかいいっしゅう

ローラ・ユンクヴィスト作 ふしみみさを訳 講談社 2008年 

一筆書きの旅の本です。
ペンの線をたどって行くと、ケニア、グリーンランド、サハラ砂漠、アマゾンのジャングル・・・と、世界じゅうを回って、そこの自然の中で暮らしている生き物たちに出会えます。
たとえば、ケニアでは、キリン、チーター、ゾウ。ゾウは、陸上動物の中で一番大きいこととか、キリンは世界でいちばん背の高い動物だとか、ふーんな知識がいっぱい。
スリランカへ行くと、世界で最初のやしの木は約8000年前に生まれたんだって!
南極大陸は、雨も雪もほとんど降らないから、氷の砂漠なんだって!そんな土地でも、ペンギンなどわずかな種類の動物が暮らしています。 
一筆書きで描かれる地球は、植物も動物もみなが一緒に暮らすかけがえのない美しい星だということがよくわかります。
ほかに、『せんをたどって』『せんをたどって いえのなかへ』『せんをたどってがっこうへいこう』があります。

オーガスタスのたび

キャサリン・レイナー作 すぎもとえみ訳 アールアイシー出版 2007年

オーガスタスは、アムールトラです。
オーガスタスは、悲しんでいました。笑顔を無くしてしまったからです。そこで、笑顔を探しに旅に出ました。
藪の中、木のこずえ、高い山脈、海の底、果てしない砂漠。ページをめくるたびに現れる自然の色彩の美しさに圧倒されます。

黒とオレンジの縞々の、力強くのびやかな四肢が、ページごとに躍動します。
エネルギッシュな体の輪郭にくらべて、顔の表情はやさしく、目はとってもかわいらしくて、思わず微笑んでしまいます。
オーガスタスは、笑顔を見つけたでしょうか?

アムールトラは、ネコ科最大の動物で、ロシアから中国に住んでいますが、今は絶滅の危機に瀕しています。
アムールトラの一番の敵は人間だということに心痛みます。

パセリともみの木

ルドウィッヒ・ベーメルマンス作 ふしみみさを訳 あすなろ書房 2007年

もみの木というと、空に向かって真っすぐに伸びているイメージがあります。クリスマスツリーがそうですね。それだけでなく、木材として家や橋や、家具や、おもちゃとして使われます。
人はもみの木を何十年も何十年も育て、切り出します。
けれども、崖のふちに生えたそのもみの木は、何かの拍子で、ねじ曲がって育って行きました。人びとは役に立たないそのもみの木を、そのまま放っておきました。
曲がったもみの木はどんどん大きくなって、枝は、まるで緑のテントのようになりました。
そのテントの下に一匹のシカが住みつきました。
シカはもみの木に守られながら子どもを育て、年老いていきました。もみの木のまわりに生えているパセリが好きだったので、シカは、パセリと呼ばれました。
あるとき、下の村の猟師が、新しい双眼鏡を手に入れて、あたりを見ているうちに、崖の上のパセリたちを見つけました。猟師は鉄砲を手に、崖を登っていきました。・・・

ストーリーも素朴であたたかくて素敵なのですが、各ページごとに添えられた花のイラストが、いい。一枚一枚切り抜いて壁に貼っておきたくなりました。花の名前を最後のページに書いてあるのも心憎いです。生成りの紙の色もストーリーにぴったりです。

作者ルドウィッヒ・ベーメルマンスは、『げんきなマドレーヌ』の作者です。

エリザベスは本の虫

サラ・スチュワート文 デイビッド・スモール絵 福本友美子訳 アスラン書房 2003年 

雨の降る日には傘をさして歩きながら本を読む。
ベッドの中で寝る間も惜しんで本を読む。
授業中も本のことばかり考えている。
エリザベスの本への執着に、思わずニヤッと笑ってしまいました。小学生の頃、私もそれに近い状態だったからです。

ふかふかのソファーで本を読みながら片手にティーカップを持っている姿に、あこがれてしまいます。

エリザベスは、汽車でひとり旅の途中、帰り道が分からなくなって、しかたなくその地で家を買って、家庭教師をして暮らします。
本を読み続けていますが、友だちもいるし、買い物に行くと店員とも会話します。
ねこたちもいっしょに暮らしています。
決して孤独ではなく、ひたすら幸せそうです。

どんどん本を買い続けて、家じゅうが本だらけ。
ある日、エリザベスは、ウキウキしながら役場に行って、すべての財産を町に寄付します。それで、家は図書館となって、大人も子どももおおぜいが本を借りに来ます。
エリザベスは、友だちの家に住み、毎日、友だちと図書館に行き、本を読み続けます。

ああ、うらやましい(笑)