昔話に登場する「物」は、とても印象深く感じられます。それは、物が鋭い輪郭を持って語られていることが多いためです。家を描くにしても、背景の中に埋もれてしまうような描き方はなされません。たとえば、
「暗い山道をどんどん歩いていくと、家が一軒ありました。戸をたたくと、・・・」と語られるとき、その家は、細かい写実的な描写がなされていないため、くっきりした輪郭を持ってイメージされます。
ディック・ブルーナのうさこちゃんの絵は、くっきりした輪郭線で描かれてるね。 だから必要な情報だけが、ばちっと見る者の心に入ってくる。
そうして、それは、描き方のみならず、そもそも登場する物自体が鋭い輪郭を持ったものが多いのです。
リュティ先生いわく。
「昔話が名をあげてのべる物のなかでは、それ自身がすでにするどい輪郭をもっていて、固体でできているものがとくに多い。指輪、杖、刀、髪の毛、木の堅い実、卵、箱、がまぐち、リンゴなどが、贈り物として彼岸者から此岸者の手へ移っていく」
指輪やリンゴなどは、日本の昔話にはあまり登場しませんね。このような小道具は、国や民族によって入れかわります。それを伝えた人たちの生活に密着したものが使われるのです。
具体例を≪外国の昔話≫のページから探してみましょう。
「かきねの戸」 かきね、戸、かしの木
「矢のくさり」 矢、木の枝、ヤマアラシの針、ばらの木、トウヒの枝、砥石
「白いこねこ」 城、塔、氷、おの、そり
それぞれの民族の生活が見え、独特の雰囲気が感じられますね。
それでは、鋭い輪郭をもつ固体を≪日本の昔話≫から具体例をさがしてみてください。
また、材質が柔らかいものでも、まるで固いものであるかのように語られます。「にぎりめしころころ」のにぎりめしは、どこまでも転がっていくのに、あなに落ちてもくずれません。葉っぱやゴミもくっつきません。まるで固いボールのようです。
「かしこいモリー」の「髪の毛一本橋」もそうだね。まるで針金みたいに固い。「馬方山姥」の「かや」だって、梁の上からお餅を突き刺してもちあげられるんだから、固いんだね。
昔話は固いものがすき。箱や塔もよく出てきます。そして、主要な登場人物や物を箱や塔などの狭い空間に閉じこめることが好んで行われます。具体例を示しておきます。