抽象性

昔話は、小説のように写実的な文芸ではなく、抽象的な様式を持っているということを、最初に説明しました。 → こちら そして、その様式のなかにみられる一次元性という性質 → こちら、 また、平面性という性質 → こちら を学びました。ここでは、抽象的な性質(抽象性)について、具体的にどのように表れているかをさらにくわしく見ていきます。

まずは、復習です。

 リュティ先生いわく。

「昔話は文字どおり話のすじの発展をたのしむものなので、図形的登場人物をある点からつぎの点へと導いていくばかりで、描写のためにどこかにたちどまることはしない。」

キーポイントは、昔話では「出来事や人物を名指すだけという技法」で語っていくという点です。描写しないで名指すだけです。
 
たとえば、「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」と語るとき、「おじいさん」「おばあさん」「山」「川」とのみいうだけで、まったく描写がありません。名指すだけです。どんなおじいさんなのか、歳はいくつか体格はどんなか等々という描写はいっさいありません。また、どんな山なのか、針葉樹林なのか雑木林か、高い山かなだらかなのか、まったく描写しないで、ストーリーをどんどん進めていきます。
 
出来事もそうです。「柴刈りに行く」「洗濯に行く」というだけで、どんな身支度をして、何を持って、どれほどの距離を行くのか、描写しません。
そのような描写は、ストーリーに必要なときだけなされるのです。

これって、平面性のところで考えたよね。これをどんどん突きつめていったらどんどん写実から離れていくね。いったいどんな表現になるんだろう。

では、昔話に特有の鋭い固い描きかたや、孤立的な語りかた、極端に語る語りかた、明確なすじの線、一致させる語りかた、固定性、について考えていきましょう。

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