お経を忘れた和尚さん

おきょうをわすれたおしょうさん

長野の昔話

日本じゅうに、和尚さんと小僧さんの笑い話があります。どうしてこんなにたくさんあるのかなと思うほど資料が残っています。でも、パターンは多くありません。きっと、きつねやたぬきにだまされた話と同じく、本格昔話がだんだん語られなくなっていっても、短い笑い話は気楽に語られていったんではないかと思います。とくに、幼い子に語ったり、子ども同士が語り合ったりしたのではないかと想像します。そうやって現代までたくさん残って来たのではないかなと思います。
ただし、鎌倉時代の『沙石集』(1283年成立)にも載っているので、もとはかなり古いものです。もともとは、お寺が人々の生活に深く関わっていた社会背景の中で伝わっていました。
この話型では、機転の利く小僧さんが和尚さんをやりこめます。子どもが大人を、社会的弱者が強い者をぎゃふんといわせるので、人気があったのでしょう。
いまは、単純に、おもしろい話として語ることができます。

共通語テキストは、『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。 ⇒書籍案内

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節分のお客

せつぶんのおきゃく

京都の昔話

節分に合わせて紹介します。節分の話といえば、豆をまいたり柊やイワシの頭を家の戸口にさしたりして鬼を追いはらう行事の起りを語るものがよく知られています。が、この京都に残っている話は、節分にやって来る「まれ人(びと)」の話です。
「まれ人」というのは、弘法大師であったり旅のお坊さんであったり、物乞いだったりしますが、いわゆる「来訪神」です。村の外からやって来た来訪神に親切にすると、よい報いがあるという話です。このページでは「大晦日のお客」がそうですね。
この「節分の客」は、旅のお坊さん(来訪神)が、その家の神さま(土地の神)たちの会話を聞くのですが、昔は、米も野菜も着物も、何もかもが神さまだったのですね。それがおもしろくて再話しました。
まっとうに生きていると、まわりの神さまたちが守ってくれるという安心感、現代の私たちは忘れているような気がします。

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つるの恩返し

つるのおんがえし

鳥取の昔話

話型名は「鶴女房」。罠にかかっていたつるが美しい娘になって恩返しにやって来る話です。つるを助けるのは、ここではおじいさんになっていますが、若者であることが多いです。そして、若者の女房になる、つまり、異類婚姻譚が本来のかたちのようです。
小学低中学年に語りたかったので、婚姻譚でないほうを選びました。
ところで、機を織っている姿を見てはならないというタブーを冒したために、つるは去っていきます。昔話では、よくタブーが出てきます。そして、タブーは必ず破られます。そうやってドラマが構成されていくのです。その一方で、機織りは古来女性の仕事で、古くは、機織り場は神聖な場所だったという説があります。その神聖な仕事をしている場面を見てはならなかったのです。昔話の構造と、古代信仰とが、すばらしく合致していますね。
子どもに語ってみると→井戸端会議

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いのししとかめ

長野の昔話

来年の干支「いのしし」の話です。お正月に間に合うように再話しました。短いのですぐに覚えられると思います。これは長野県の伝承ですが、どうぞご自分のお国言葉になおして語ってください。
幼い子ども向きの由来話です。
いのししは、東北から沖縄まで広く生息していて、古来から人々の生活に深くかかわっていたそうです。狩りをして食料にもしますが、田畑に害を及ぼす困った存在でもありました。となると、やはり、神としてあがめられたのです。鹿や熊など人間のそばにいる他の野生動物たちと同じです。山の神が白いいのししとなって現れるという伝承もあったそうです。

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にんじんとごぼうとだいこん

岡山の昔話

絵本などでおなじみのお話です。誰でも知っている話だと思っていましたが、昔話資料は案外多くありませんでした。それでも、日本各地にまばらに広がって分布しています。
岡山のこの話は、冒頭でおばあさんがお風呂を沸かします。にんじんとごぼうとだいこんが、畑でしゃべっている光景が目に浮かぶようです。
「もらい湯」の風習は、いまでは聞かれなくなりましたが、わたしの母の世代では、農村では、都市近郊であっても、当たり前のことだったようです。お風呂を沸かす家があれば、夕方ごろから近所の人たちが三々五々集まって来て、順番を待ちながら世間話をしたそうです。時には昔話も語られたでしょうか。この「にんじんとごぼうとだいこん」もそんな中で生まれた話かもしれません。
ところで、この類話には、旅に出てお風呂に入る話や、にんじんとごぼうが、病気のだいこんの見舞いに行く話など、いくつかのバージョンがあります。どれも、大根はなぜ白いのか、にんじんはなぜ赤いのか、ごぼうはなぜ黒いのかといった色の由来を説いています。そういった由来譚(ゆらいたん)は、もともと、幼い子どもに語ったものだそうです。

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