「異界に行く話」カテゴリーアーカイブ

お雪といちご

おゆきといちご

山梨県の昔話

まま母にいいつけられて雪の山へいちごをつみに行く娘。雪の中でこごえそうになったとき、おじいさんの家に導かれます。いろりを囲んで、十二の月の精たちが座っています。スロバキア民話の「十ニの月のおくりもの」を思い出しますね。

このお雪の話は、日本ではここでしか語られていないそうです。昭和11年刊の『続甲斐昔話集』所収です。山梨県の郷土史家土橋里木氏が聞き書きされました。この話を土橋氏に語った人は、もしかしたらヨーロッパの「十二の月のおくりもの」をどこかで聞くか読むかして、語りのレパートリーにしたのでしょうか。

情景描写が少なく、ストーリーは短いですが、きちっとした継子話(こちら⇒)になっています。そして、ヨーロッパの伝承では森の中のたき火ですが、ここでは、山の一軒家のいろりになっています。日本らしい換骨奪胎といえます。

ATU480「親切な少女と不親切な少女」。グリム童話の「ホレばあさん」の類話です。


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寅千代丸

とらちよまる

鹿児島の昔話

鹿児島県の沖永良部島で伝承されていた昔話。
もとの語り手がつけた題は「神様の申し子」です。
赤い花が咲けば男の子、白い花が咲けば女の子が生まれるという予言や、駿馬に乗り、七人力の刀をたずさえて彼岸に出かけて行くというモティーフなど、ヨーロッパ的な雰囲気がありますね。まるで竜退治のようです。
この話型の話は、南西諸島の限られた地域にだけ残っているそうです。
日本の話では、アイヌの話と南の島の話が他と違うスケールを持ったものが多いです。
名前など、言葉が耳慣れませんが、内容的には4年生くらいから聞けると思います。いじめにあった寅千代丸がどのように生きて幸せになるか、勇気づけることができればと思います。

 


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地獄めぐり

じごくめぐり

徳島の昔話

話型名は「閻魔(えんま)の失敗」といって、日本全国に伝えられています。笑い話で、『日本昔話通観』では、その「誇張」に分類されています。笑い話は短いものが多いのですが、「閻魔の失敗」譚は、長いですね。旅の職業人によって、改作されながら伝えられたのではないかといわれています。
徳島県のこの話では、お医者と、山伏と鍛冶屋が地獄送りになりますが、ほかに、歯医者、軽業師が出てくる話もあります。
地獄に送られた三人は、それぞれ自分の特技を生かして、切りぬけます。剣の山では、鍛冶屋が金(かね)のわらじを作って剣をこわします。熱湯の釜では山伏が水の印を結んで水に変えます。鬼の口の中では、医者が薬をまきます。条件の一致がそのまま笑いになっています。
落語の世界でも江戸時代から話されていたとのことです。いまは、関西では、『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』という演目で、一時間以上かかる大ネタです。この落語をもとに作られた絵本『じごくのそうべえ』(田島征彦作/童心社刊)は、子どもたちに人気です。


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こぶとりじいさん

大分の昔話

話型名は「瘤取り爺」。東北から九州にまで分布している、よく知られた昔話です。古くは『宇治拾遺物語』にも載せられています。『宇治拾遺物語』では、おじいさんが山の木の洞に入って雨宿りをしていると、鬼にでくわします。全国に伝わっている話もこのシチュエーションが多いようです。今回再話した大分県のこの話は、冒頭が、ねずみ浄土や地蔵浄土のような始まり方ですね。そして、出会うのは鬼ではなくて天狗です。天狗になっている類話は比較的多いようです。
ところで、この話は、世界的にも類話がたくさんあります。ATU503「小人の贈り物」です。《外国の昔話》にオーストリアの「こびとのおくりもの」を紹介しているので、くらべてみてくださいね。

共通語テキストは、『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。 ⇒書籍案内

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だんごころりん

熊本の昔話

幼い子がよろこぶお話です。
「目かご」というのは、竹などで編んだ目の粗いかごのことです。子どもがたずねたら簡潔に教えてあげましょう。
話型名は「ねずみ浄土」。類話が全国に広がっています。この「だんごころりん」は、隣の爺型の形がきちっと整っています。「だんごころりんだごころりーん すってんとーん」という歌のくりかえしも楽しいです。しかもこの歌は、ねずみではなくだんご自身が歌っています。目かごも自分で歌いながら入っていきますし、おじいさんも自分で歌います。なんともユーモラスです。
よく似た話で、地下の世界に行ってお地蔵さまと出会う話を「地蔵浄土」といいます。
おはなしの最後に、「人まねはするものではない」と、知恵を授けているのも、幼い子どもにぴったりだと思います。


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