「恐い話」カテゴリーアーカイブ

天道さま金のくさり

てんとうさまかねのくさり

長崎県の昔話

話型名「天道さん金の綱」。
本格昔話の逃竄譚(とうざんたん)のひとつ。「逃竄譚」については《昔話雑学》こちら⇒を見てください。
「兄弟星」とも呼ばれ、「ソバの茎はなぜ赤い」の由来譚が付いたりします。

典型的なストーリーでは、冒頭で、出かけた母親が山姥に食われてしまいます。そして、結末で、天に上った子どもたちが星や月や太陽になります。恐ろしいだけでなく悲劇を感じます。
今回紹介した長崎県の話では、このモティーフ(母親が食われる・子どもが星などになる)がないので、ストーリーとしての明瞭さには欠けますが、「やがて母親が帰って来て、子どもは鎖で降ろしてもらって再会するのだろう」と想像することで、救いが得られます。

青森から沖縄まで全国的に語りつがれています。とくに九州などの南に多いです。
子どもが山姥から逃げる話では「三枚のお札」が有名ですが、「三枚のお札」も全国的に語られていて、おもしろいことに東北や北の地方に多いです。

外国の話では、中国や朝鮮半島に類話があります。こちら⇒「日と月と星」

グリム童話「おおかみと七匹の子やぎ」も同じモティーフが入っていますが、これは動物昔話で、似ているけれど類話ではありませんね。

恐い話なので、中学年くらいから。親しい間柄の子どもなら低学年でも楽しめます。子どもは恐い話が好きですからね。

なお、長崎県のこの伝承では、子どもの性別が示されていません。「子ども」と呼ぶだけで、男の子なのか女の子なのかを示していないのです。どちらなのかは、語り手が決めるか、または聞き手との関係の中で決めるといいと思います。不明のまま語ってもいっこうに差し支えありません。言葉としてはテキスト通りに語って不自然ではないようにしました。


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てえてえ小法師

てえてえこぼし

岡山県の昔話

原題は「化け物問答」
前回紹介した長野県の「化け物問答」(こちら⇒)の類話です。
この話型の話は全国に見られますが、この岡山県真庭市に伝わる「てえてえ小法師」は、完成形に近いのではないかと思います。

同じ言葉で問答を繰り返しますが、口に乗せるととっても気持ちがいいです。
化け物の正体暴露の部分が難しいので、高学年向きです。

夜中ごろ化け物が登場する場面は、聞き手をじゅうぶんに恐がらせたいですし、最後の血が出ている場面も考えあわせると、やっぱり高学年向きかと思います。
が、家族に語る場合は、もっと小さい子でも楽しむでしょう。


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千人力

せんにんりき

鹿児島県の昔話

全体を三つの部分に分けることができます。
初めの部分は、世間話的な雰囲気です。子どもが恐い物がないといい合う場面は日常よくありそうです。そして、「おれの足をさわってごらん」の発言から一気に恐怖がつのります。
中盤は、幽霊を背負って幽霊の意趣返しに付き合う場面。これは、大人でも恐い。黄色い糸。原色を好む昔話ではあまり出てこない色ですが、暗闇との対比で、非常に印象的です。
幽霊の意趣返しを手伝うモティーフは、1970年代奈良で記録されていて、『子どもと家庭の奈良の民話1』に「ゆうれいのおんがえし」として再話しています。
後半、幽霊がお礼に千人力をくれる所からは、一転、ユーモラスに展開します。歩くたびに足がめりこむというモティーフは、力持ちの描写によくあります。

恐怖を乗りこえて、主人公は幸せを勝ちとります。
ただ、金持ちになったというだけでなく、千人力を使って役立つことをしたのでみんなから慕われた、という結末は、やはり世間話的に感じます。

原話は昭和12年に記録されたものです。

恐い話のおはなし会にどうぞ。


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こんな顔

こんなかお

岩手県の昔話

恐い話ですね。でも、どこかで聞いたことありませんか?
わたしは中学校の英語の時間に、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の「むじな」を読んだのが、この種の話を知った最初です。「むじな」をもとにした落語「のっぺらぼう」もおもしろいです。

昔話的には、世間話に分類されます。
「二度の威嚇」というグループに入るそうです。
なるほど、「むじな」では、一度目は見投げ娘、二度目は蕎麦屋と、二度怖い思いをしますね。妖怪に会って、めっちゃ怖い思いをして逃げ帰り、やっとホッとしたところで、また出てくるという恐怖。心理的な盲点をついています。
落語は、三度目に家に帰っておかみさんがのっぺらぼう。それが延々と続きます。

さてこの妖怪は、ここでは「口が耳までさけた男」ですが、のっぺらぼうのほかに、ひとつ目小僧、幽霊などがいるそうです。

ストーリーが単純なので、どんな状況設定にもはまりやすく、体験談や伝聞談として、広く分布しているようです。現代の民話にもないものか、ちょっと気をつけてさがしてみます。

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蟹満寺(かにまんじ)

かにまんじ

島根の昔話

娘が蟹をかわいがっている、または蟹の命を助けてやる。娘は蛇の嫁になると約束するが、蟹に助けられる。というはなし。
話型名は、「蟹報恩」または「蟹の恩返し」。『日本霊異記』『今昔物語集』などの古い文献にあります。だからでしょうか、全国に分布しているそうです。

こに紹介したのは、島根県に伝わっている話ですが、資料の註に、《「蟹満寺」は山城の国にある》とあります。現京都府木津川市にある蟹満寺の由来として語り伝えられたものです。
実際に蟹満寺には、蟹の恩返しの伝説が残っています。比較すると、冒頭が少し異なっているのが分かります。娘は蟹を、いたずら小僧から助けてやります。いっぽう、父親がかえるをヘビから助けてやります。娘が蛇の嫁になるという約束は、父親がするのですが、このパターンは、「猿婿」「蛇婿」などの異類婚姻譚にはよくありますね。
この島根県の伝承は、父親は脇役で、娘の行動にスポットライトが当てられています。また、満月の晩にやって来る蛇の若者の登場も印象的です。それで、語ってみたいと思いました。
冒頭で娘が「生きているものが、お互いに、食うたり食われたりするのはいけない」といいます。娘の「やさしい」という性格があらわれているのでしょう。けれども、他の命を奪って生きるのが生き物の自然の姿でもあります。結末で、蛇は蟹に「食い殺され」てしまいます。そして、娘は「尼になって」、一生蟹を弔うことになります。宗教的、哲学的な課題を考えさせてくれる話になっています。

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