「ふしぎな話」カテゴリーアーカイブ

蟹満寺(かにまんじ)

かにまんじ

島根の昔話

娘が蟹をかわいがっている、または蟹の命を助けてやる。娘は蛇の嫁になると約束するが、蟹に助けられる。というはなし。
話型名は、「蟹報恩」または「蟹の恩返し」。『日本霊異記』『今昔物語集』などの古い文献にあります。だからでしょうか、全国に分布しているそうです。

こに紹介したのは、島根県に伝わっている話ですが、資料の註に、《「蟹満寺」は山城の国にある》とあります。現京都府木津川市にある蟹満寺の由来として語り伝えられたものです。
実際に蟹満寺には、蟹の恩返しの伝説が残っています。比較すると、冒頭が少し異なっているのが分かります。娘は蟹を、いたずら小僧から助けてやります。いっぽう、父親がかえるをヘビから助けてやります。娘が蛇の嫁になるという約束は、父親がするのですが、このパターンは、「猿婿」「蛇婿」などの異類婚姻譚にはよくありますね。
この島根県の伝承は、父親は脇役で、娘の行動にスポットライトが当てられています。また、満月の晩にやって来る蛇の若者の登場も印象的です。それで、語ってみたいと思いました。
冒頭で娘が「生きているものが、お互いに、食うたり食われたりするのはいけない」といいます。娘の「やさしい」という性格があらわれているのでしょう。けれども、他の命を奪って生きるのが生き物の自然の姿でもあります。結末で、蛇は蟹に「食い殺され」てしまいます。そして、娘は「尼になって」、一生蟹を弔うことになります。宗教的、哲学的な課題を考えさせてくれる話になっています。

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節分のお客

せつぶんのおきゃく

京都の昔話

節分に合わせて紹介します。節分の話といえば、豆をまいたり柊やイワシの頭を家の戸口にさしたりして鬼を追いはらう行事の起りを語るものがよく知られています。が、この京都に残っている話は、節分にやって来る「まれ人(びと)」の話です。
「まれ人」というのは、弘法大師であったり旅のお坊さんであったり、物乞いだったりしますが、いわゆる「来訪神」です。村の外からやって来た来訪神に親切にすると、よい報いがあるという話です。このページでは「大晦日のお客」がそうですね。
この「節分の客」は、旅のお坊さん(来訪神)が、その家の神さま(土地の神)たちの会話を聞くのですが、昔は、米も野菜も着物も、何もかもが神さまだったのですね。それがおもしろくて再話しました。
まっとうに生きていると、まわりの神さまたちが守ってくれるという安心感、現代の私たちは忘れているような気がします。

共通語テキストは『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。⇒書籍案内

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二十三夜

にじゅうさんや

鹿児島の昔話

「月待ち(つきまち)」という行事は今ではほとんどなされなくなったようです。月の出を待って拝む行事のことで、この日は、講の人たちが集まって、飲食をともにします。今では、十五夜がその名残ですね。満月の出を待って、だんごやいもを供えて皆でお祭りをしますが、ほとんど子どもための行事になっています。もともとはおとなが集まって物忌みをしたということです。
十七夜、十九夜などがあり、二十三夜待ちは全国でも特に多かったそうです。
この喜界が島の話では、二十三夜の月の神が物乞いの姿になって現れます。主人の「物乞いだって同じ人間だ」という心根に感じ、月の神は恵みをさずけます。ただそれには、妖怪を切り捨てるという勇気も試されなくてはなりませんでした。
天地をつなぐ柱とは、いったいなんの象徴なのでしょう。月の神、赤ん坊のようなニンジュ、妖怪シチ。太古の信仰を想像させるふしぎな話です。

共通語テキストは、『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。⇒書籍案内

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竹の子童子

たけのこどうじ

熊本の昔話

私のすむ地方は竹の子の産地で、竹やぶはとても身近にあります。竹やぶに入っていくと、ほんとうにこんなことがあってもおかしくないという気持ちになります。
竹の中から天人が出てくる、というと、日本最古の物語『竹取物語』を思い出しますね。竹の子童子は天人ではありますが、「桃太郎」や「瓜姫」と同じく、昔話の話型では「異常誕生」に分類されています。
ところで、三ちゃんは、願いをまだひとつしかかなえてもらっていません。続きが知りたいですね。日本の昔話は、ヨーロッパなどの魔法物語と違って、こんなふうに短いものが多いような気がします。なぜでしょうね。
音声は2年生です。

共通語テキストは、『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。⇒書籍案内

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旅人馬

たびびとうま

鹿児島の昔話

話型名「旅人馬」。災厄から逃げる話で、これも「三枚のお札」などと同じ逃竄譚に属します。

「旅人馬」は日本全国に伝わっています。ここに再話したのは鹿児島県喜界が島の話ですが、『子どもに贈る昔ばなし15 馬にされた大吉』所収の話は岩手県の話。馬にされた大吉が逃げるとちゅう、子どもたちの歌を聞いて、人間にもどる薬草をさがし求めて助かる話です。「旅人馬」の「七十歳のおじいさんの助言」の役割をするのが「わらべうた」、「なす」が「薬草」。小道具の違いが、話のテーマや空気感に深く影響すると感じます。大吉のほうもぜひ読んでくださいね。

この話型は、古くは平安時代末期八百年以上前の『宝物集』という説話集に見られます。全国に広がるのもうなづけます。
ところが、国際カタログで探してもこの話型名はありません。STU314「黄金の若者」が最も似ていますが、魔法の馬の正体が王子だったというあのパターンの話です。魔法使いから逃げ出す逃走のモティーフもありますが、ほんと、かすかに似ているなあという程度です。
馬にされるあの不思議な魔法や人間にもどるための苦難の旅は、描かれていません。

では、「旅人馬」は日本に固有の昔話なのでしょうか?

じつは、中国の唐の時代に書かれた『河東記』という伝奇小説集にこの話があるのです。九世紀前半。古いですねえ。そのなかの「板橋三娘子(はんきょうさんじょうし)」の話がこの「旅人馬」。中国でも好まれて後に単独で書物になったりしています。

書物が日本に入ってきて口伝えされたのでしょうか? それとも、中国や朝鮮半島で口伝えされて日本に入ってきたのでしょうか? 極東地域の人々の交流を想像するとたのしいです。

『河東記』の三娘子の話は、絵本『ふしぎなやどや』(はせがわせつこ文/いのうえようすけ絵/福音館書店)で読めます。

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