孤立的に語る

昔話では、写実的な細かな描写はしないということは、もうお分かりですね。では、どのように描写するのか。確認しましょう。

 リュティ先生いわく。

「昔話のなかの物の輪郭は、けっしてだんだんにぼやけていったり、だんだんにとけあったりすることはなくてするどい。そうしたするどい輪郭は物や人物をはっきり分離する。きわだった色や金属的な輝きは、ひとつひとつの物や動物や人物をとくにめだたせる」

これって、抽象性を勉強したときに出てきたよね。原色を好むとか、金や銀などの高貴でまれなものを好むとか。極端性のひとつの表れでもある。

そうそう、そうです。そしてここでは、立体を描写する際に立体的に描かないと言っているのです。  ディック・ブルーナの絵を思い出してください。うさこちゃんは、輪郭だけで描かれていますね。よく考えれば、現実には物に輪郭線なんてありませんよね。それを太い線で描く。

抽象画だ!

そう、そして、輪郭線は、背景とうさこちゃんをくっきりと分けているということなのです。そうやって目立たせるのです。  「分離する」といっています。つまり、一つひとつを孤立させるのです。

だから孤立性なのか。

たとえば山を描くとき、昔話では、ただ「山」と名を指し示すだけです。せいぜい、「大きな山」「暗い山」と形容されるだけです。
その山にどんな木が生えているのか、斜面はなだらかなのか、どんな生き物が生息しているのか、細かな描写は一切ありません。山の輪郭だけが描かれるのです。くっきりと孤立的に浮かびあがらせているのです。

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