「男の子の成長の話」カテゴリーアーカイブ

毘沙門さまの授かり子

びしゃもんさまのさずかりご

宮崎県の昔話

話型名「一寸法師」
ATU700「親指太郎」

指ほどの大きさの男の子が冒険に出る話。どうして世界じゅうに、こんなに有名な話として伝わっているのでしょう。
昔話の主人公は、末っ子だったり、食べる物がないほど貧しくて捨てられたりして、極端な存在であることがよくあるのですが、3センチほどの大きさというのは、極端すぎますね。
日本では、たにしやかたつむりとして生まれる話もあります。
ファンタジーの楽しさが満開といえば、それまでですが(笑)

類話の「五分次郎」こちら⇒も見てくださいね。こちらの解説もあわせて見ていただくと、興味深いと思います。

毘沙門天は、軍神。戦いの神さまです。
その授かり子だから、鬼もやっつけるくらいに強いのです。


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小僧さんとねこの絵

こぞうさんとねこのえ

青森県の昔話

話型名「絵猫と鼠」
巧みに描かれた絵の中のねこが画面を抜け出して古ねずみを殺すという化け物退治譚です。

ねこの絵ばかり描くという、大人の価値観から見たらつまらないことに一生懸命になっている姿は、我が子の姿にだぶって見えます。
お寺を追放されるまで描き続ける小僧さん。
でもその絵のおかげで危機を逃れ、それどころかお寺の住職になってしまう。将来安泰(笑)。しかも、一生好きな絵を描いて暮らすことができるのです。

子育てに、このような視点は大切ですね。
子どもたちにも、勇気を持てといってやりたいです。
短いけれど、深いメッセージのあるいいはなしです。

テキストは、『語りの森昔話集5ももたろう』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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山神さま

やまがみさま

鹿児島県の昔話

話型名は「山神と童子」
子どもが山神に弁当を与えることによって福を得る話。

沖永良部島の話では、山神は三日間弁当を食べ、そのお礼をするから天竺の寺へ参れといいます。山のてっぺんではなくて天竺の寺です。仏教と関りがありそうです。
その道中、長者の娘の病気を治す方法、宿屋の三段花の二本が枯れた理由、渡し守の女が昇天できない理由をたずねて来てくれと頼まれます。課題が三つですね。
今回紹介した甑島の「山神さま」は課題が二つですが。

ここで思い出すのが、グリム童話KHM29「三本の金髪をもった悪魔」です。
そうなんです。「山神さま」はこの類話なのです。ずいぶん雰囲気が異なりますね。

ATU461「悪魔の三本のあごひげ」
類話は世界じゅうにあって、多くは、グリムのように、前半に予言のエピソードがあります。日本の話にはこのエピソードはありません。そのため、ドラマチックさに欠けるのですが、おかげで、話のテーマがくっきり見えてきますね。

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五分次郎

ごぶじろう

山形県の昔話

話型名は「一寸法師」。
私たちがよく知っている「一寸法師」はお伽草子に書かれているストーリーがもとになっています。でも、口づたえの世界では、もっと多彩です。小さく生まれた子どもが冒険ののち、宝を手に入れたり結婚したりしてしあわせになるというストーリーですが、その名前は、「五分次郎」だったり、「豆助」「豆たろう」「豆一」「ちびたろう」などなど様々です。

山形県のこの「五分次郎」は、化け物退治をしてお屋敷のあととりになるという結末。ラストで体が大きくなるということはありません。小さいままで幸せになるのがいいなあと思います。
それから、子どもらしい好奇心で木の葉の船に乗ってみるところや、船が波に揺られてゆく情景が好きです。

類話は日本じゅうにたくさんありますが、実は世界じゅうにあるのです。
ATU700「親指小僧」。
身近に読めるものとしては、グリム童話にKHM37「親指小僧」があるし、ロシアの「小指たろう」は、『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に載せています。これはおはなしひろばで語りを聞けるので、ぜひどうぞ(こちら⇒)。


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千人力

せんにんりき

鹿児島県の昔話

全体を三つの部分に分けることができます。
初めの部分は、世間話的な雰囲気です。子どもが恐い物がないといい合う場面は日常よくありそうです。そして、「おれの足をさわってごらん」の発言から一気に恐怖がつのります。
中盤は、幽霊を背負って幽霊の意趣返しに付き合う場面。これは、大人でも恐い。黄色い糸。原色を好む昔話ではあまり出てこない色ですが、暗闇との対比で、非常に印象的です。
幽霊の意趣返しを手伝うモティーフは、1970年代奈良で記録されていて、『子どもと家庭の奈良の民話1』に「ゆうれいのおんがえし」として再話しています。
後半、幽霊がお礼に千人力をくれる所からは、一転、ユーモラスに展開します。歩くたびに足がめりこむというモティーフは、力持ちの描写によくあります。

恐怖を乗りこえて、主人公は幸せを勝ちとります。
ただ、金持ちになったというだけでなく、千人力を使って役立つことをしたのでみんなから慕われた、という結末は、やはり世間話的に感じます。

原話は昭和12年に記録されたものです。

恐い話のおはなし会にどうぞ。


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