ライブ録音から3

昔話は、創作の話とちがって、幅広い年齢によろこばれます。それは、時代・場所・人物だけでなく、細部にわたって限定されないことが理由だと思います。もちろん、「菅笠」や「六部」など、昔話に登場する物で理解できないもの(言葉)もありますが、それは説明したり言い換えたりすることが可能です。けれども、一文学者が創作した作品に手を加えることは原則としてできません。

さて、たとえば、語り手に人気のある「アナンシと五」は、ジャマイカ島に伝わる昔話です。単純なストーリーで、おとなのわたしは、語りを聞いても本で読んでも、特に面白いとは思いませんでした。では、子どもにはどうなのか。試してみようと思いました。それで、4歳児から小学3年生の各クラスで語ってみました。
 
出典は『子どもに聞かせる世界の民話』矢崎源九郎編/実業之日本社刊ですが、テキストの言葉遣いには少し手を入れています。年齢によって、また、そのときの聞き手との間(ま)によっても少し変わっています。

まず、3年生のライブ録音です。

3年生

この年齢でも3回のくりかえしは好きなようです。内容が子どもっぽいかなと思って語りはじめましたが、繰り返しの3回目は、楽しそうに声を合わせています。語り手の声が聞こえないくらいですね。子どもたちは自分たちが鳩の奥さんになって、アナンシを怒らせているのが嬉しいようです。女の子の声が大きいでしょう? ところが、アナンシが「こうやって数えるんだ」といったときに「あっ」とさけんだのは男の子たちです。そして、みんなで「あ~~~っ」とさけんで、「死んでしまいましたとさ」というと、ゲラゲラ笑っています。子どもたち、まるで寸劇に参加して楽しんでいるかのようでした。

つぎに、2年生。 

2年生

まずはアヒルの奥さんが食べられるところで「恐っ」と声が上がりました。3年生ほどは客観的に聞けないようです。登場人物に心理的に近づきすぎているんですね。だから、できるだけカラッと語らねばなりません。ここで救ってくれたのが、ひとりの男の子。うさぎの奥さん、鳩の奥さんに、必死で「だめ、だめ」と忠告しているのが聞こえますか? 彼は立ちあがって身振り手振りで忠告していました。わたしが「まあ落ち着いて座って聞きな」といっているのが録音されていますね。おかげでクラス全体に余裕が生まれています。最後の場面は3年生と同じです。ただ、忠告していた彼は、「死んでしまいましたとさ」といったとたん、ばったりたおれて大の字になって動かなくなりました。もうひとりの子が、心臓マッサージを始めました。「死んだあ~」とみんなで大笑いです。もちろんお遊びです。2年生らしい寸劇になりました。

4歳児の反応はずいぶん違っています。 

4歳児

この子たちはやっと数が数えられるようになって、数えることが嬉しいし、誇らしいのです。だから、鳩の奥さんが4までしか数えられないでいると、「5っていいなさい!」と教えています。5といったら死んでしまうことは分かっているんだけれど、彼らにとっては、「死ぬこと」より「5がわかること」のほうが大問題なのです。それは、彼らの生活体験から来るものです。
 
つまり、「アナンシと五」をほんとうに楽しむには4歳児はまだ早いということですね。といっても、子どもによって個人差はありますが。

 
5歳児には語る機会がまだありません。1年生は機会も少なく録音もうまくできませんでした。

さてつぎは、「三枚の鳥の羽根」『語るためのグリム童話4』(小澤俊夫監訳/小峰書店) 小学2年生です。

三枚の鳥の羽

とちゅうで「揚げ戸」の説明をしています。「油を入れておくとこ!」といっている声が聞こえます。物語の世界から現実にもどってしまうのですが、これはストーリーにとってイメージする必要のある言葉です。そして、説明をしても、すぐに物語の世界にもどっています。

子どもたちが「でぶでぶの」という言葉にいちいち反応しているのは、あまり良いとは言えませんね。できるだけ無視して語りました。けれども、ふたりの兄さんたちの行動に、子どもたちがいちいち反応するのは、主人公中心の聞きかたをしているからだと思います。テーマをしっかりとらえているわけです。

「いばらひめ」『語るためのグリム童話3』(小澤俊夫監訳/小峰書店)
4年生です。

いばらひめ

語る前に「つむ」の説明をしなければなりませんでした。ところが、ちょっとしたハプニングで忘れてしまい、気づいたときにはもうお姫さまが誕生していました。そこで、途中で説明を入れています。失敗です。けれども子どもたちはじょうずに聞いてくれました。
静まり返っているお城と次々に目覚めていく場面もイメージしていました。王子がとうに登っていく場面も息をつめて聞いていました。

「心臓がからだの中にない巨人」『おはなしのろうそく』東京子ども図書館。
これは3年生です。 

心臓がからだの中にない巨人

初めて20分ちかくの長い話を聞きました。

「かささぎが、人間の骨をくわえて」のところ、エコーがかかっているように聞こえているでしょう。子どもが一緒にくりかえしているのです。そして、ハラハラしながらも巨人の間抜けさ加減をわらっています。
動物たちの恩返しのモティーフも生き生きと楽しんでいますね。長い話なのに、最後の結末句まで楽しんでいるのがわかります。子どもの聞く力と昔話の力を実感できる話で、いつも3年生の2学期か3学期に語ります。

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