テキストを整える2

では、前回(⇒こちら)おはなしした3つの事柄について、くわしく見ていきましょう。

1, 聞き手がイメージしにくいとき。

a、単語の意味が分からなくて、またはそのものを見たことがなくて、イメージできないときがあります。
これは、聞き手の実体験がカギを握るので、年齢や環境に即して考えなくてはなりません。

**************

たとえば、いろり
実際に見たことがあるのは小学高学年以上でしょうか。大人でも、その火にあたって暖かさを感じる経験はまれかもしれません。でも、昔話なら、「いろり」という物を指し示すだけで実体は抜いて語りますから、とにかくその形と機能(暖をとる、ものを煮る)さえ知っていればストーリーについてこられます。
となると、絵本で知っている子どももけっこういるでしょうから、語るとき、あまり心配しなくてよさそうです。

たとえば、ふくべ
「ひょうたん」のことだと知っている人は少ないと思います。こんなときは、
①ストーリーの途中で、「ふくべって、ひょうたんのことよ」とことばをはさむ。
②「ふくべ」という言葉は使わないで「ひょうたん」に置き換える。
③おはなしの前に「ふくべって知ってる?」と説明する。

① は、聞き手の集中が途切れないようにしないといけません。説明がないとストーリーが前に進まない場合だけ、この方法をとります。
② は、「ふくべ」という言葉を伝えることができません。これくらいの表現は知ってほしいと思う場合は、この方法は使えません。
③ は、おはなしのなかでのキーワードの場合や、題名に含まれている場合、この方法を使うことができます。ただし、よっぽど印象的な言葉でないと、聞き手は、ストーリーの途中でその言葉が出てきても気づかないし覚えてもいません。

**************

テキストを整える具体例を、さらに、示してみます。

ロシアの昔話「がちょうはくちょう」を『おはなしのろうそく27』のテキストで語るときの例です。5歳児のグループに語る場合を想定します。

*主人公のマーシャが走っていくと、ペーチカのところにやって来ます。
テキスト「・・・ペーチカが立っていました」⇒語り「・・・ペーチカがありました
「立っていました」とすると、人が立っていたように誤解されることがよくありました。そこで、「ありました」とすると、それはモノで、人間や動物ではないことが分かります。さらに、「パンを作る大きなオーブンね」と、さらっと言葉をはさみます。

*ペーチカがマーシャに話しかけます。
テキスト「わたしのなかの黒パンをおあがり」⇒語り「わたしのなかの黒パンをお食べ
小学生になると、「おあがり」とテキスト通りに語っても、自然に理解するのですが、幼児は普段使わない言葉の場合、そこでいったん考えます。その考える間が、ここは不要なので、「お食べ」に変えてしまいます。でも、「おあがり」という表現は覚えてほしいので、もう少し年齢の上の子にはテキスト通りに語るのです。

「がちょうはくちょう」は、スピード感のある物語です。スピーディなストーリーについてくるには、ふだんいじょうに集中力が必要です。単語でつまずいてしまうと、気持ちが離れてしまい、ストーリーから脱落します。また戻ってきても、それまでの緊張感はもうずいぶん途切れてしまっているでしょう。

ステップアップで前におはなしの姿(⇒こちら)ということをお話しましたが、テキストに手を入れるか入れないか、入れるならどう入れるか、ということも、そのおはなしの持つ姿を理解して考えなくてはなりません。そのうえで、聞き手の子どもたちが物語の世界に入れるようなテキストで語りたいものです。

次回は、語順に問題があってイメージしにくい場合についてお話します。

2 thoughts on “テキストを整える2

  1. 覚えているときなどに、ついつい違う言葉を使って言い換えてしまうことがよくありますが、感覚的に手を加えてはいけない、もっとセンシティブにならないといけないと改めて思いました。この三つのポイントは常に心がけておきたいです。またテキストの整え方のメソッドを理解できれば、「○年生には難しい」と避けていたおはなしを語れる可能性もありますね。児童文学の新訳が出るとよく読まれるようになるのも、似たような例かなと思ったりもしました。ただの感想で、すみません。

  2. たぬこさん
    コメントをありがとうございます。
    そうですね、うまく整えることで対象年齢の幅が広がると思います。
    わたしたちが語るテキストの出版年を見ればわかるように、少し前のことばづかいになっています。時代とともにことばは変化する。そのせいで、少し前の世代には理解できた話が、いまはもっと年齢が高くなければ理解できないことが生じてきます。でも、内容というか、精神的には理解できるんですね。それなのに、言葉でつまずいてしまうのは、残念です。
    うまく整理されたテキストで語れば、聞き手の精神的な成長ににピタッとあった話が語れると思うのです。これも、語法と同じで、聞き手への愛ですね~

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です