ライブ録音から5

同じところに繰り返し行っていると、聞き手と親しくなります。私は先生ではないので、子どもがタメぐちをきいてもあまり気になりません。むしろ、ひとつの物語の中でともに遊ぶ仲間としての関係になることが、大切だと思います。
 
今回ご紹介するのは、幼いときからずっと関わりを持ってきた子どもたちが、語り手とともに、どのように物語の世界を楽しむかという視点からの具体例です。 

「だんごころりん」
語りの森HP《日本の昔話》 村上再話
音声は、小学2年生です。

だんごころりん

この話はもともとは幼児向きに再話したものです。だから、おまけの話として、授業のおはなし会のプログラムの最後に持ってきました。話しはじめると、じきに子どもたちが、「おむすびころりんや~」といっています。地下に鼠の浄土があること、隣の爺型の話であることなど、構成が分かってくると、子どもたちは「おむすびころりん」と同じであることを確信して喜んでいます。

わたしは、「いや、おむすびではなくて、だんごや」と返します。このやりとりが楽しいのです。
 
さらに、最後の場面では、わたしは、「ねずみは、どうしたと思う?」と、あえて尋ねています。なぜ尋ねたかというと、子どもたちに、「おむすびころりん」とは結末が異なることを発見してほしかったからです。
 
昔話には類話があること、真実はひとつではないことを、笑いながら教えるのです。これは、昔話だから意味があるのであって、創作ではやってはいけないことです。 

「ハヴローシェチカ」
『語りの森昔話集2ねむりねっこ』村上再話
これも小学2年生です。

ハヴローシェチカ

娘の目がひとつだったり三つだったりすること、主人公が雌牛の耳から出入りすること、など、冒頭からおどろくようなモティーフが続きます。それをまじめにシャキッと語ります。すると、子どもたちは自然にその世界に入りこみます。「糸をつむいで布に織り、白くさらしてつや出しする」という、たぶん想像できないことがらが出てきても、それはそれとして、質問もしないで聞いています。子どもたちにとってそんなことは二義的なことで、大事なのはいじめられている主人公がどうなるのかということであり、援助者としての雌牛との関係なのです。

この話には、歌が重要な役割をしています。ハヴローシェチカが歌うと娘が眠るというのは、ハヴローシェチカに潜在的な力があるということです。そして、三つ目のときに失敗します。三つ目の目のことを忘れていたのです。「ねんねんころり ふたつの目」のフレーズのあと、少し間(ま)を取って語ります。子どもたちは思わずはっと口に手を当てます。
 
歌は、子どもたちがいっしょに口ずさむこともあります。いっしょに歌えるような単純なメロディにしています。主人公と同化してほしいからです。 

「かめの笛」『ブラジルの昔話』かめの笛の会/東京子ども図書館
音声は5年生。

かめの笛

この話はいつも高学年に語ります。だから、高学年が楽しめるように、テキストを少し整理しています。会話と間(ま)でテンポよく進めます。音声は5年生ですが、ああだこうだと声をあげているのが分かりますね。オチを楽しげに主張している子もいます。

ここにも歌が出てきます。担任の先生によると、子どもたちは、後々まで「フィンフィンフィン」と歌っているそうです。弱いと思われているものが強いものを出しぬくことは、子どもたちを勇気づけます。 

「金の鳥」『語るためのグリム童話』小澤俊夫監訳/小峰書店
5年生です。

この話の持つ重要なテーマは、これまでにも何度もお話し、書いてもきました。失敗を恐れず自分で考えて行動せよ、だいじょうぶ、必ず助けてくれるものが側にいる。そういう思いを込めて語ります。語り手はかなり真剣です。でも暗く深刻には語りません。

そして、子どもの受けとめの明るいこと!思いを口に出せるということは、きっと仲の良いクラスなんでしょうね。その雰囲気に語り手も巻き込んでくれています。このような聞きかたをしてくれると、語り手は素直にストーリーをつむぐだけでよく、聞き手といっしょに楽しめるし、感動できます。 

「まほうの鏡」『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』村上再話
4年生です。

まほうの鏡

子どもは前のめりで聞いてくれています。
ところが、残念なことに最後の最後で語りまちがえました。恩返しのところ、1回目は魚に、2回目は鷲に、主人公は「ぼくをかくしてくれ。だれにも見つけられない所へ」と頼みます。ところが、三回目、きつねには、お姫さまのいすの下まで穴を掘ってくれと頼みます。ここに主人公の成長が見られます。お任せではなくって、自分で考えて何をするべきかをきつねに指示するのです。ここは大切な場面です。
 
間違えたのはほんの数語ですが、わたしは、この話の肝を伝えられなかったので、かなりおろおろしていますね(笑)
 
ふだんなら、狩人が「ここからお城の中まで~」といいはじめると、「ぼくをかくしてくれ~」を予想していた子どもたちは、ハッとして緊張するのです。そして、狩人が自分で考えたことに、「なるほど」とちょっと感動するのです。でも、この音声で分かるように、言い直しをすると、内容は理解できても感動はありません。

「はんてんをなくしたヒョウ」『おおきいゾウと小さいゾウ』アニタ・ヒューエット作/大日本図書
図書館のおはなし会です。

はんてんをなくしたヒョウ

図書館の場合、日によって顔ぶれが変わります。けれども、30年近く毎週決まった時間にやっていると、来る子どもたちも定着します。大人と子どもを合わせると、少ない日で10人くらい、多いと30人を越えます。そして、「きょうが初めて」という子どもは、毎回2、3人です。つまり、ほとんどがリピーター。毎週やって来る子もいます。聞きたくて来てくれるのだから、こちらもやりやすいです。
 
この日も幼児から小学校中学年までが聞いていました。
この話はヒョウに斑点があることを知らなければお話になりません(笑)。
 
わたしは、題名を利用して、斑点のこと、ヒョウのことを説明しています。けれども、この子たちはおはなしのおばちゃんとしゃべるのが好きなのです。そして、知っていることを話したくてしようがないのです。だから、どこで収拾を付けるかをよく見極めておはなしを始めなくてはなりません。
 
音声に、わたし以外の大人の笑い声が入っています。大人もまきこんだ暖かい非日常を楽しむ時間にしたいと思っています。そして、たいていの大人は、協力的です。 

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