ライブ録音から2

子どもたちの声を聞いていただくライブ録音、なかなかうまく採れないのですが耳をすませて聞いてみてください。 

「おはなしかめさん」 5歳児 『朝鮮の民話』 瀬川拓男・松谷みよ子著/偕成社

おはなしかめさん5歳児

これを初めて語ったのは20年以上前になります。幼稚園向きのいわゆる幼い子のおはなしを探していて見つけました。そのころはほとんどテキスト通りで語っていました。音声を聴いていただいたら分かるように、今は「ならの木の実」は「どんぐり」に変え、「長者」は「大金持ち」に変えています。20年前の幼稚園児は、この単語を言いかえなくても抵抗なく聞いていました。それは、「ならの木の実」「長者」を知っていたからではなく、知らないけれどもそれなりに理解して聞く想像力があったからだと思います。もちろん、子どもたちも百人百様なので、全員がそうだとは言いませんが、「それなりに理解する子ども」が、最近、減ってきたように思います。

このように分かる言葉に変えるときは、たいへん頭を使います。できるだけ元の言葉で分からせたいけれども、ストーリーの流れを止めることになるならば、しかたがないので、すんなり聞けるように変えるのです。バランス感覚が必要で、いつも、難しいなあと思います。

小判が降ってくる描写は、語法に則って分かりやすくテキストを変えています。これは子どもの読解力の問題ではなく再話の問題です。 

「おはなしかめさん」 小学3年生

おはなしかめさん3年生

上記と同じ話を3年生で語っている音声です。ほぼテキスト通りで、幼児には変えたふたつの言葉は、そのまま「ならの木の実」「長者」と語っています。「ならの木の実」は割注を入れるような語りかたをしています。このやり方を私は時々使いますが、どんな話にも応用できるわけではありません。おはなしにはお話の姿があり、語り手が見えることを嫌う話のほうが多いと思います。そのような話の場合は前もって語の説明しておくとか、分かりやすい語に変えるとか、説明の一文を入れてテキストを整えるとかします。「おはなしかめさん」は軽い話で、しかもこの時は、話の内容に比して聞き手の年齢が高く、余裕をもって笑い話として聞けるため、割注を入れています。また、割注を入れるのは、おはなしの冒頭に限ります。軽い話でも、聞き手は、ストーリーが進むにつれて、おはなしの世界にどんどん入りこむことに変わりはないので、語り手は見えないに越したことはありません。
 
語るスピードも、5歳児とは違っているのに気づかれましたか。子どもがぐいぐい引っ張ってくれて、こんなふうにスピードアップしたのです。じつは、この話は3年生では子どもっぽ過ぎると思っていたのです。語ってみると、おまけの話としてぴったりだと分かりました。 

「はらぺこピエトリン」 小学2年生 『子どもに語るイタリアの昔話』剣持弘子訳/こぐま社

はらぺこピエトリン

レパートリーのうち、私自身がいちばん楽しめるおはなしのひとつです。わたしもきき手も一瞬たりとも気を抜くことがありません。子どもたちは、お母さんの「ニョッキひとつでも食べちゃだめだよ」の一言でストーリーの先を読みます。だから、この言葉は心して語らなければなりません。さらっと当たり前にやってしまうと、危機感が薄くなってしまい、最後まで盛り上がりに欠けてしまいます。また、いかにも期待させようとしてそれらしく語ると、じきに盛り上がりますが、最後のお腹が破裂するところまで持ちません。全体として、途中で少々の上がり下がりはありますが、最初から最後に向けてずうっとクレッシェンドしていくのがいいと思います。あまりに集中するので、10分の話が、5分くらいに感じられます。

そして、「ニョッキ」と「フォカッチャ」は先に説明をしています。なぜだかわかりますね。割注を入れるとおはなしの世界がクレッシェンドしないからです。たまに、説明をし忘れて話し始めることがあるのですが、このふたつはキーワードなので、そんなときは割注を入れなくてはなりません。残念ですが、そのときのピエトリンはどんなに間(ま)を工夫しても失敗に終わります。 

「あんころもちとあみださん」 小学6年生『子どもと家庭のための奈良の民話3』村上郁再話/京阪奈情報教育出版

あんころもちとあみださん

つぎに挙げる「美しいワシリーサとババ・ヤガー」のおまけとして語りました。
 
ここの市には一休禅師が晩年をすごしたお寺とお墓があり、子どもたちは幼稚園時代に一休音頭を踊ったりしています。一休さんは地元のマスコットなのです。長い話で疲れた体と心をほぐすのにちょうどいいかなと思って語りました。笑い話で、話型は「和尚と小僧」。一休に特定されずに全国で語られている有名な話です。意外にも、ほとんどの子どもが知りませんでした。
 

「美しいワシリーサとババ・ヤガー」 小学6年生『おはなしのろうそく4』東京子ども図書館

これはシーンと聞くお話です。子どもの声がほとんど入っていないので聴いていただくこともないかと思いましたが、UPしてみました。出典には所要時間が30分とありますが、この音声は23分です。テキストに手を入れて短くなった分を差し引いても、かなり短くなりました。これは子どもが求める間(ま)に応えているからです。語り手としては、おはなしの強烈な画像をバチリバチリと作り続けていくのですが、子どもの「それから?」に引っぱられてスピードが増します。でもそれは決して雑になるのではなく、画像がより濃厚になっていくのです。活舌に注意しながら、体力勝負です。 

「いのちのろうそく」 小学1年生『おにとやまんば』民話の研究会編/ポプラ社

いのちのろうそく

ずいぶん以前から語っているおはなしです。初めの頃は5歳児にも語っていましたが、今は小学生に語っています。「人のろうそくを消したら人を殺すことになる」という部分は、創作的だと思います。昔話の再話としては合格点ではないかもしれません。でも、ときにはこのように明確な言葉でメッセージを口にしたくなります。そしてこの言葉を語りたくて、すっと共感してくれる小学生に語っています。
 
鬼のそばをすり抜けるハラハラ感、明暗、赤青黄の色彩感、人の命を示すろうそくのふしぎ。構成がしっかりしているので、それらがきちっと子どもに伝わっります。

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