福の神はくさったさくらんぼの中に

ふくのかみはくさったさくらんぼのなかに

マケドニアの昔話

ATU「宝は自分の家にあり」
夢で「ある場所に行けば好い事がある」と聞いて行ってみるが見つからず、そこで出会った人から「夢など信じるな」といわれてその人の夢の話を聞く。その夢のおかげで、宝は自分の家にあることが分かるという話。

この話型は、ヨーロッパでは、橋と関わって語られることが多いです。夢に見て出かけて行く所が、イギリスのロンドン橋やチェコのカレル橋、ドイツのモーゼル橋などなど。
日本の「みそ買い橋」(こちら⇒)は、イギリスの昔話「スウォファムの行商人」からの翻案です。

「福の神はくさったさくらんぼの中に」には、橋は出て来ません。さて橋のあるのと無いのと、どちらのほうが古い形なのでしょう。


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主人と召使い

しゅじんとめしつかい

アルメニアの昔話

力や立場の弱い者が、知恵を使って強い者に勝つ話です。
このテーマは、昔話にはよくあります。おそらく、このような話を語りついだ人びとは、社会的弱者だったのでしょう。そして、社会的弱者は、世間の人口の大多数だったと思います。だから、支持されて語りつがれたのでしょうね。
主人が腹を立てては言い訳をする姿が痛快です。

昔話はファンタジー(架空の話)ですが、必ずしも魔法が出て来るとは限りません。この「主人と召使い」のようなどこにでもありそうな(でも常識ではあり得ない)話もあるのです。


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かも女房

かもにょうぼう

アラスカの昔話

アラスカの異類婚姻譚です。

妻が異類である場合、日本の昔話では、妻は去り、二度ともどって来ることはありません。「つる女房」「かえる女房」「こい女房」などなど。

ヨーロッパの昔話では、夫は妻を探しに行き、見つけ出します。「蛙の王女」「七羽のはと」などなど。

アイスランドの「あざらし」は日本の話とよく似ています。

アラスカの場合は・・・読んで(聞いて)みてくださいね。

異類婚の話、とっても興味があります。


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十人兄弟

じゅうにんきょうだい

中国の昔話

特異な力を持つ兄弟たちが、力を合わせて暴君をやっつけるというストーリーで、たいていは、暴君は最後に水に押し流されるという結末を持ちます。
中国では有名な昔話です。漢族だけでなく、少数民族にも広がりを持っています。
絵本『王さまと九人のきょうだい』(君島久子/岩波書店)は、雲南省イ族のはなし。
兄弟は、11人、6人、7人と、さまざまだそうです。
冒頭で、子どもがいない夫婦に念願の子どもができるという部分は、紹介した「十人兄弟」にはありません。始皇帝の圧制で万里の長城から泣き声が聞こえるところから始まり、始皇帝がすっぽんのえじきになって終わる。ストーリーがすっきりして分かり易いと思います。

子どもに語るときは、万里の長城と始皇帝について軽く説明しましょう。

君島久子著『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店)には、歴史的な説明もあって興味深いです。


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はえ打ちの勇者

はえうちのゆうしゃ

イスラエルの昔話

スルタンというのは、イスラム王朝の君王の称号。11世紀のセルジューク朝に始まるとされています。

主人公は、物乞いから王さまにまで、上り詰めるんですね。昔話の極端性がよく出ています。極端に低い身分ですが、幸せになるといったら、極端に幸せになるのです。
臆病者の主人公が幸せになるきっかけは、たまたまハエを千匹打ち殺したからです。そのあと、つぎつぎと偶然が重なって行きます。まっとうな苦労を重ねているわけではありません。性格は臆病だし、ずるいし、お世辞にもりっぱな人とはいえません。
昔話ではそんな主人公がときどき出てきますね。
そんな話を聞いて、笑い、主人公の幸せな結末に満足できるのはなぜでしょう。きっと、自分の中に「はえ打ちの勇者」的なものが存在するからだと思います。そして、そのような生き方をも肯定するのが昔話なのです。
倫理的道徳的なお説教はひとまず置いて、男の様子をイメージして笑ってください。

ATU1640。話型名「勇敢な仕立て屋(ひと打ちで七匹)」
笑話です。
グリム童話には、KHM20「勇敢なちびの仕立屋」があります。


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食いほうだいに食ったねこ

くいほうだいにくったねこ

ノルウェーの昔話

累積譚(るいせきたん)です。

ATU2028「すべてを吞み込む動物が腹を切り開かれる」
すべてを呑み込む動物は、おおかみであったり、はつかねずみ、くま、ひよこ、しらみ、娘、トロル、巨人、かぼちゃなどで、伝承によって様々です。
アフリカの「フライラのひょうたん」(こちら⇒)は、ひょうたんが飲みこみます。

じつはこの話はとても古くて、〈呑みこみの神話〉ともいわれていて、北欧神話『エッダ』にもあるそうです(未見)。
オーストラリアの一部族や、世界じゅうに残っているようで、興味深いです。

累積譚の語りかたについては《昔話雑学》こちら⇒へどうぞ。


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牛の子イワン

うしのこイワン

ロシアの昔話

イワンやババ・ヤガーや怪物のセリフがとってもロシアっぽいですね。
長いけれど、飽きさせない魅力のある話です。

前半がATU300A「橋の上の戦い」、後半が513A「6人が世界じゅうを旅する」という構成になっています。

ATU300というのは「竜退治の男」の話のグループで、昔話カタログのなかでは、魔法昔話の最初にあげられている話型です。超自然の敵がテーマです。
そしてその「A」となっているのは、大筋は「竜退治の男」なんだけど、少し違うグループだからです。何が違うかというと、A「橋の上の戦い」は、主人公が動物息子だというところです。
このロシアの「牛の子イワン」は題名のとおり、牛の息子です。超人的な力を持っていますが、見た目は人間と変わらないのがおもしろいところ。生まれた時から結末まで人間の姿です。

後半のATU513というのは「並外れた旅の道連れ」の話のグループです。
その「A」は、グリム童話「六人男世界をのし歩く」で知られています。
「B」は「水陸両用の船」という話型名です。ノルウェーの類話をそのうちUPしますね。


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危機一髪

ききいっぱつ

インドの昔話

インドの昔話を読んでいると、ヨーロッパや日本の昔話になれた目では、意外な展開におもしろさを感じます。
ストーリーの違いもさることながら、宗教や文化の違いからくる生き方というか哲学というか、そういうテーマ的なものも多彩だと感じます。
それでも、悪は滅びるとか、誠実であると報われるとか、基本は同じですが。

出典『インドの民話』の序論で、編者のラーマーヌジャンは、女性が主人公の物語は女性が語ることが多かったと書いています。
男性を助け、救い、元気を取り戻させ、男性のために謎を解いたりするのことが、女主人公の役割となります。この「危機一髪」もそんな話のひとつです。

カースト制や一夫多妻制の中で語られたことを理解したうえで、女性の強さを楽しみたいです。

テキストは、『語りの森昔話集5ももたろう』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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あざらし

アイスランドの昔話

日本の天人女房の昔話とそっくりですね。
あざらしの皮が天女の羽衣の役割をしています。
妻の歌から、海の世界でも子どもがいたことが分かります。哀愁漂う美しい話です。

ヨーロッパの昔話では、これが導入部となって男が妻をさがしに出かけてさまざまな苦難を乗り越え、さいごは幸せになるというパターンが一般的です。
話型でいえばATU313「呪的逃走」やSTU400「いなくなった妻を捜す夫」です。
導入モティーフだけで完結しているこのアイスランドの話は、とっても日本的です。


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白くま王ワレモン

しろくまおうワレモン

ノルウェーの昔話

ATU425A「動物婿」。
魔法昔話の「夫」の項「いなくなった夫捜し」の話型に分類されています。
この話型は、いろんなエピソードと結びついて、長い物語になります。
ただ、「妻による探索と贈り物」「買った夜」のモティーフは必ず入っています。

妻による探索。
お姫さまは果てしない森を歩き続けますね。まさにノルウェーの風景です。道中立ち寄った小屋で、女の子から金のはさみ、びん、テーブルかけの、三つの贈り物をもらいます。
類話には、途中で太陽や月、風、星などから贈り物をもらう話もあります。贈り物には、金のつむぎ車や宝石、ドレスなどもあります。

買った夜。
夫と魔女の結婚式の前の三晩、お姫さまは、三つの贈り物で、夫の側で夜を過ごす機会を買います。

このふたつのモティーフは、じつは、子どもの頃から知っていました。
とっても不思議で印象に残ったのです。夫が眠り薬で眠らされているそばで娘が泣く光景は忘れられません。


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