「異界へ行く話」カテゴリーアーカイブ

パシュクンジ

ジョージアの昔話

ATU301「三人のさらわれた姫」

この話には、超自然の敵が出て来ます。魔人のデフ。地上のデフと、地下のデフがいます。末っ子とデフとの戦いが、アニメチックでとても盛り上がります。
パシュクンジは、超自然の援助者です。末っ子を上の世界に連れ帰ってくれますが、とちゅうで肉を食べさせなければなりません。肉がなくなって、末っ子が自分の体の一部をあたえるというモティーフがおもしろいです。

この昔話は、世界じゅうでもっともよく知られた話のひとつだそうです。
長い話ですが、ぜひ子どもたちに聞かせたいです。高学年向き。


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小さなからす

フランスの昔話

病気の父親の眼を治すために、三姉妹の末っ子が、からすと結婚します。
この冒頭のモティーフは、「猿婿」や「蛇婿」など日本の異類婚姻譚とそっくりですね。異なるのは、異類(からす)がじつは魔法にかけられた王子さまで、からすと結婚した娘が幸せになるところです。

嫉妬した姉さんたちの策略で、末娘は王子さまを失います。王子を探して旅に出ますが、ここが話の中心になっています。
ATU425「いなくなった夫探し」


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太陽の娘

たいようのむすめ

ジョージアの昔話

壮大なファンタジーです。

冒頭、三人兄弟が畑を耕しますが、末っ子だけは収穫がありません。
昔話の主人公は、こんなふうに端っ子の存在です。端っこの存在が、さまざまな苦難を経て幸せを手に入れます。

この話の主人公は、太陽の娘と暮らし始めたとき、働くのが嫌で怠けてばかりいますが、妻が助けて楽な生活を送ります。主人公は必ずしも勤勉でなくてもよいのです。昔話はいろんな人生を描いているからです。
現実にはひとりの人間の中に怠け心もあれば、ある時期、怠け者になったりします。それを肯定しているのが、昔話です。


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「太陽の娘」前半の語りが聞けます。
「太陽の娘」後半が聞けます。

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うるわしの王女マリア

うるわしのおうじょまりあ

ロシアの昔話

ATU302C「魔法の馬」
この話型の敵役は、竜であることが多いです。でもこの「うるわしの王女マリア」では不死身のコシチェイが敵役です。ロシアの昔話によく出てくるキャラクターです。
魔法の馬の持ち主である魔女も、ロシアらしくヤガーばあさんになっています。

主人公の妹たちのもとに鷹・鷲・からすが求婚にやって来ます。この鳥たちは、それぞれ鳥の王たちです。つまり彼岸の存在で、主人公にとっては援助者となります。
このモティーフを中心として、これだけでひとつの話型を作っています。ATU552「動物と結婚した少女たち」です。

イワン王子は、不死身のコシチェイにさらわれた王女マリアを探して旅し、課題をクリアしていきます。
これも、ATU400「いなくなった妻を探す夫」というひとつの話型を作っています。大変よくある類話です。

イワンがヤガーばあさんのテストに合格したのは、旅の途中で助けた渡り鳥とライオンとミツバチのおかげです。
この動物の恩返しも人気のある話です。ATU554「恩に報いる動物たち」としてたくさんの類話があります

こんなふうにつぎつぎと人気のある話型が連結して長い大きな話となっています。長いけれど、語っていて楽しく、あきることがありません。


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「うるわしの王女マリア」前半の語りが聞けます。
「うるわしの王女マリア」後半の語りが聞けます。

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楽師と幽霊

がくしとゆうれい

クロアチアの昔話

ATU470「死人の恩返し」
導入部で、されこうべが、結婚式のまんじゅうを食べさせてくれたお礼だといって、主人公を異界へつれていきます。
助けられたカメが竜宮城へつれていってくれる「浦島太郎」と同じですね。
そして、異界ではたった三日しかたっていないのに、帰ってきたら百年以上たっています。異界とこの世では時間の流れが違うのです。
日本の昔話「春の野道で」⇒こちらでは、おじいさんがされこうべにお酒を飲ませますが、異界へ行くことはありません。同じモティーフを使っていても、雰囲気もテーマもずいぶん異なりますね。

あちらの世界で幽霊を訪ねてくる三人の男のモティーフが印象的です。
人生ってそういうものかなあと考えさせられます。


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緑ずきん

みどりずきん

イランの昔話

冒頭、猟師の娘は、父親がとらえてきた馬と結婚します。
ああ、異類婚姻譚だなと気づきますが、この馬が、じつは《翼のある天使》だというところから、いっきに壮大なファンタジーの世界に入っていきます。
魔神の母親やおばが娘に難題を出し、亡き者にしようと追いかけてきます。呪的逃走のモティーフが、はらはらさせてくれます。
主人公の娘がさまざまな試練を乗り越えることで、夫緑ずきんはすくわれ、ふたりは幸せになります。

結末の「この上もなくぜいたくに、この上もなく楽しく暮らしました。」は、現実を生きる語り手聞き手たちにとっての願望であり、夢でもあるのでしょう。
この結末句、気にいっています。


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お月さまをさがしに行くはなし

おつきさまをさがしにいくはなし

パプア・ニューギニアの昔話

イリモというのは、東南アジアに生えている高木です。
「イリモ」というのは、パプア・ニューギニアでの呼び名で、日本では「エリマ」と呼ばれて合板の材料として輸入されています。大きいものは高さ70メートルにもなるそうです。

この話は、月の満ち欠けについての伝承です。
幼い子に、月は満ち欠けがあるんだよと教える話ですね。
月や太陽についての由来ばなしは、いろいろな民族が持っています。天体に物語を見る、素朴な空想が楽しいです。


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ガラスの山

がらすのやま

フランスの昔話

フランスのロレーヌ地方の話です。ロレーヌ地方は、ドイツ語ではロートリンゲンといいます。ちょうどフランスとドイツのあいだにあって、かつてはひとつの国でした。そこで、独自の文化が残っています。

ATU400「いなくなった妻を捜す夫」
この話型の話はとても人気があるようです。グリム童話にも3話入っています。(KHM92「黄金の山の王様」、93「からす」、193「太鼓たたき」)
どうして妻(姫)がいなくなったか、探す旅の道中の出来事、妻を奪還するための戦い、と、ストーリーが進むので、長い話になります。
いろいろなおなじみのモティーフが組み合わさっていって、いかにも昔話らしい話になっていきます。

ここでは、冒頭が、羽衣のモティーフで始まります。日本の「天人女房」とそっくりです。そして、見てはいけないというタブーを冒したために、妻は白鳥になって飛び去ります。

妻を捜して旅する伯爵は、極端に年とった隠者三人に出会います。3回のくりかえしがあります。
とちゅうで、動物たちの分配をアドヴァイスするというモティーフがあります。
動物たちは、お礼に贈り物をくれますが、その贈り物が、妻を救い出すのに、ぴったりの力を持っています。状況の一致ですね。
魔法がとけるときには、場所の一致や時間の一致が奇跡を感じさせてくれます。
竜の頭が七つあるとか、竜の命のありかが図形的であるとか、まるで昔話の語法のオンパレードですね。


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ガムバール

アルメニアの昔話

この話の主人公は、貧しい若者ガムバールです。彼の人生を導くのは、かしこい妻(皇帝の娘)です。
ストーリーはガムバールの行動に沿って進みますが、ほんとうの主人公はかれの妻ではないかという気がします。

物語の真ん中で、ふしぎな井戸が現れます。けれどもそれを中心に物語が進むのではなく、ガムバールと妻の行動に焦点が当てられています。

これらのことから、この話は、とても小説的な雰囲気を持ちます。
それで、彼岸や彼岸の援助者が登場するけれども、まほうの話ではなく、人間たちの話に分類しました。

「たとえ十メーラくれるといっても不正直な仕事は断るんですよ」「愛する者こそが、常に美しく見える」「あなたたちも、自分の幸福は、待たねばなりません。」など、ところどころに、印象的な文言が出て来ます。

結末句もすばらしいです。


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おんどりが屋根の上で鳴くわけ

おんどりがやねのうえでなくわけ

朝鮮半島の昔話

日本の天人女房とそっくりの話です。
水浴びをしている天女の羽衣を盗んで、男は、天に帰れなくしてしまう。ところが、天女は羽衣を見つけて天に飛び去ります。
男は、天女を求めて天に上って行きます。
天上でさまざまな試練があって、男は天から落ちてしまうという話ですね。このさまざまの試練には、天の神さまの妨害とか難題とかがあります。
「おんどりが屋根の上で鳴くわけ」は「浦島太郎」のような形になっています。この結末の形も世界じゅうに分布しています。

ATU400「いなくなった妻を捜す夫」に分類されます。


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