うさぎとねずみ

シベリアの昔話

数ある累積譚(こちら⇒)のひとつです。

ATU2030「おばあさんと彼女の豚」

うさぎは干し草を食べていて、葉で口を切ってしまったので、干し草に仕返しをしようとします。つぎつぎと手助けを頼み、聞入れてもらえないと、脅迫します。
結局うさぎの思い通りになって、干し草への復讐は成就するのですが、干し草がなくなっちゃって、いいのかな?
うさぎはかしこいのか、愚かなのか。子どもたちはいろんなとらえ方をするでしょうね。
真剣に考えてもいいし、でも累積譚はもともと言葉遊びだから、煙に巻いて笑っておしまいでもいいですね。

国際昔話話型カタログによると、ヨハン・フィッシャルト『遊び一覧』(1575年)に載っていて、子どもの遊びとしても知られているそうです。
1575年と言えば、日本では、武田勝頼と織田信長・徳川家康連合軍が、三河の国の長篠で戦った年。古くからある話なんですね。

累積譚は、「逃げだしたホットケーキ」など、いろいろなタイプのものがあります。しっかりした話のおまけにもなるし、2~3話レパートリーに入れておくといいでしょう。《昔話雑学》に「累積譚」として説明しています(こちら⇒)。


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さいふと笛とぼうし

さいふとふえとぼうし

フランスの昔話

ATU566「3つの魔法の品と不思議な果物」
この話型では、お金のなくならないさいふ、どこへでも行けるコート(または帽子)、兵隊を出す(または力をさずけてくれる)笛といった魔法の品と、不思議な果物(食べると頭に角が生える、または鼻が伸びる、またはロバに変身する、など)を主人公が手に入れて、それを使って幸せになります。
ただ、フランスのこの「さいふと笛とぼうし」、何が主人公の幸せなのかよくわかりませんね。分からないながらも、なんだかとっても愉快な結末です。

この話型の起源は古く、ヨーロッパ中世の文献にすでに記録されているそうです。
グリム童話のKHM122「キャベツろば」も同じ話型ですね。グリムのほうはちょっと教訓的です。

魔法の品については、《昔話雑学》「呪宝譚」を見てください。こちら⇒


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かしこい娘

かしこいむすめ

オーストリアの昔話

ATU875「賢い百姓娘」
世界じゅうに類話が広がっています。グリム童話にもあります。KHM94「かしこいお百姓の娘」

導入部の娘と侯爵(王さまなど)出会いにはいくつかのパターンがあります。

1、妻を求めている王が偶然賢い娘に会う。
2、父親が畑で黄金のすり鉢を発見。賢い娘が止めるのも聞かず、父親はすり鉢を王の所に持って行く。王は、すりこ木ももって来いと要求する。
3、農夫と貴族との法廷での争いを解決するために、両者に謎が出される。農夫の娘は正しく答える。
4、王がある家で娘を見つける。王が彼女の親族について尋ねると、娘は機知と賢さに飛んだ答えをする。

「かしこい娘」は3のパターンですね。グリムは2のパターン。

娘は王の出した難題を解くのですが、難題には例えばこんなものがあります。

ア、裸でもなく服も着ないで、馬に乗らずに徒歩でもなく、王の所に行かなければならない。
イ、王のあごひげの値打ちを見積もらなければならない。
ウ、ほんの少しの糸だけで服を編まなければならない。
エ、ゆで卵から雛をかえさなければならない。
オ、七面鳥の肉を切り分け、家族全員に適切な部分を与えなければならない。

などなど。
グリムはアのパターンです。
「かしこい娘」は難題というよりなぞなぞの答えを解くのですね。 

この話は、三重の謎になっています。
まず伯爵が出した謎、次に小百姓の子馬の謎、最後が、最愛のものは何かという謎。
この謎を解いて行く過程で娘は伯爵の愛を勝ちとって行くのですね。特に、最後の最愛のものの謎は、ロマンティックで感動的です。
でも、グリムのように重くとらえないで、笑い話のすてきなオチと考えて再話しました。謎を楽しみながら、軽く語ってください。

この話型の話は、カール・オルフのオペラ「賢い女」(1942年)によってとくに有名になったそうです。重くはなくコミカルなオペラです。

ブログ井戸端会議に、マックス・リュティによる解説をあげています。ご覧ください。こちら⇒


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なぞなぞの好きなお姫さま

なぞなぞのすきなおひめさま

トリニダード・トバゴの昔話

ATU851「謎を解けない姫」
姫に解けない謎を出すことができた者と姫が結婚する話。主人公の男は、自分が経験したり見たりしたことをもとに謎を出します。
紹介したトリニダード・トバゴの「なぞなぞの好きなお姫さま」は、お姫さまが謎を解けずに主人公と結婚して終わりますが、お姫さまが謎の答えを知るために、寝ている主人公の所にしのびこんで、答えを聞きだすというモティーフが付くこともあります。その場合は、男は証拠としてお姫さまの着物を取っておき、あとでお姫さまの策略を暴きます。グリム童話22「謎」がこのパターンです。比較してみてください。

ところで、冒頭で、母親が毒入りの弁当を息子のジャックに持たせますね。ちょっとびっくりです。これはどう考えたらいいでしょう。
グリムの「謎」では、毒を盛るのは母親ではなく、森の中の悪いおばあさんになっています。
イタリアの類話「ソルダティーノ」では、なぞ解きに行くという息子に対して、母親はこう考えます。「王女さまに殺されるよりは、その前に、この手で息子を殺したほうがましだ」そして、パンケーキに毒を入れるのです。
ジャックの母親もこの心理だと解釈すればいいのかもしれません。でも、こじつけのようで無理があるような気がします。

そこで、この話全体がナンセンスな笑い話である、というところに解決を見つけました。
中盤の鎖のような展開は状況の一致が繰り返されます。小さな奇跡の連続です。日本の笑い話「間のいい猟師」のような展開ですね。
冒頭で母親が毒を入れた場面で、聞き手が「え~っ」とびっくりした後、考える間をあたえず、すぐさま中盤に入って行きます。驚きは笑いに変わります。
最後のジャックの出す謎は、中盤の出来事の言葉によるくりかえしです。ここも意外性があって笑えるところ。このなぞなぞの部分は遊びのようにリズミカルに語れるような言葉で再話しました。

結局、母親が毒を盛ったおかげで、ジャックはお姫さまと結婚して目的を果たすことができたのですね。

謎かけ姫については、ブログ井戸端会議で、マックス・リュティの解説を紹介しています(こちら⇒)。


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プレッツェモリーナ

イタリアの昔話

イタリア語でプレッツェモロというのは、パセリのこと。だから、プレッツェモリーナは、パセリちゃん。

3年生くらいからがきっと楽しめるだろうと思います。

グリム童話の「ラプンツェル」の類話です。「ラプンツェル」は創作の物語がもとになっていますが、「プレッツェモリーナ」は口承で、イタリアのカルヴィーノが集めた昔話集の中のひとつです。
同じ類話でもずいぶん雰囲気が違います。じつは、グリム「ラプンツェル」以外は、どの類話も、概して明るくちょっと滑稽(こっけい)です。このことについては、マックス・リュティの説明があり、《井戸端会議》でとりあげているので、見てください(こちら⇒

ATU310、話型名「塔の中の乙女」
ヨーロッパを中心にアジア・アフリカに分布しています。
もっとも古い記録は、イタリアのバジーレの集めた昔話集『ペンタメローネ』(1634-36)です。大修館書店から翻訳が出ているので、ぜひ読んでみてください。「ペトロシネッラ」という題名です。
ペトロシネッラは、プレッツェモリーナの古語だそうです。そう、パセリちゃんね。イタリア語の分かる人は、こちらの動画もどうぞ。 (こちら⇒

もともとこの話型は、後半が呪的逃走です。
主人公と王子が、後ろに三つのどんぐりを投げて魔女から逃げます。


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かめとぞうのかけくらべ

アフリカ コンデ族の昔話

二匹の動物が競走をする話は、さまざまなバージョンで世界じゅうにあります。

@うさぎとかめが足の速さを競い合って、うさぎが時間に余裕があると思って寝ているあいだにかめが追い抜く「野ウサギとカメの競走」―ATU275A。イソップ寓話にありますね。もしもしカメよ~🎵っていうあれです。

@ザリガニがキツネのしっぽにつかまって勝つ「キツネとザリガニの競走」―ATU275B。これは、駆けっこのバージョンと跳びっくらのバージョンがあります。おはなしひろばに日本の類話で「たにしとたぬき」を紹介しています。(こちら⇒)『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に載せています。

@ハリネズミが、親族に、競走区間のむこうの端で待つように頼む、または数匹の親族を競走区間に沿って配置する。野ウサギは端から端まで走りついには疲れはててしまう「野ウサギとハリネズミの競走」ATUC。
登場する動物は、他にも、かに、かえる、だに、かたつむり、カメレオン、ジャッカルなどがいます。伝承地で身近に見かける動物なんでしょうね。

ここではかめとぞうが競争しますが、前半は、跳躍を競い合い、後半は足の速さを競い合います。妻や親戚に頼んで勝つので、ATU275Cです。

この類話は、グリム童話にもあります。KHM187「うさぎとはりねずみ」。第5版から童話集に入っています。グリム自身の註に、「この昔話の相当な古さは疑うべくもない」とあります。そして、この話には教訓がついていて、「教訓1、人を馬鹿にしてはいけない。教訓2、自分と似たものを結婚相手に選ぶこと」。

ブログ井戸端会議にマックスリュティによる興味深い解説があるので、参考にしてください。(こちら⇒


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白いハンカチ

しろいハンカチ

フランスの昔話

レノア伝説(レオノーレ)といわれる話のひとつです。

レノア伝説とは、死んだ男が恋人に会いにやって来て、馬に乗せ、夜道を墓地またはあの世へいざなうというストーリー。
古代の死者信仰に基づく伝説で、もともとヨーロッパで広く語られていたそうです。また、バラードや民謡としても伝わっているとのことです。

伝説が昔話化していて、ATU365、話型名は「死んだ花婿が花嫁を連れ去る」。
馬に乗って走っているとき、花婿が「怖いか」と2度尋ね、3度目に墓地につくというのが典型的な形のようです。「白いハンカチ」では尋ねるのは一回ですね。

結末は、花嫁は服をひき裂かれて逃げきる、墓に引きずりこまれる、死ぬまで踊らされる、ずたずたに引き裂かれる、など。恐いですね。伝説から生まれたことが実感できますね。

伝説の特徴については、《昔話雑学》「伝説」(こちら⇒)と、《ブログ井戸端会議》「生きている人形」(こちら⇒)で確認してください。

さて、「白いハンカチ」はフランスのブルターニュ地方東部に伝えられている話です。出典の解説では、ブルターニュ地方は伝説と昔話の宝庫だということです。歴史が古く、かつては巨石文化を持つ人々が暮らしていて、紀元前6世紀にはガリア人、前1世紀にはローマ人、5世紀にはケルト人が移り住みました。だから、文化が重層的なのですね。しかも海に囲まれているので、船乗りの運んでくる話もあったのです。

「恐い話して!」とせがまれたときにどうぞ。

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ババ・ヤガー

ロシアの昔話

はい、私たちのサークル名です ( 笑 ) ババ・ヤガーはふしぎな魔力を持っていて、その力で人を助けることもあるし、人を害することもあります。二面性を持っています。日本のやまんばも 同じですね。この話では、ひたすら恐ろしい魔女です。
小屋の中で機織りをしていますね。糸紡ぎをしていることもあります。機織りも糸紡ぎも、本来女神の仕事です。こういうところに、キリスト教以前の神のなごりが見えるのかなあと思ったりします。
それから、日本のやまんば(こちら⇒)は、追いかけるのが好き。「 三枚のお札 」 も 「 馬方やまんば 」 も、めちゃ走りますね。ここのババ・ヤガーも走ります。


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ジャルジューフ

イエメンの昔話

アラビア半島イエメンに伝わる昔話です。主人公が「アラーの神さま」といっていることからわかるように、イスラム教が信仰されています。

ジャルジューフというのは、本文にあるように、荒野の精霊です。
精霊は、イスラム教が伝わる以前から信仰されてきた自然宗教の超自然的な存在のこと。本来は悪ではありません。ここでは対イスラムだから妖怪としてあつかわれているのです。日本で山の神が山姥に、川の上がかっぱになったのと似ています。

ジャルジューフが、人食いでありつつ、主人公や息子を愛する姿を見ると、あわれをさそいます。文明の対立もしくは宗教の対立が表れているのでしょうか。

ジャルジューフが死ぬところで、「もう一太刀切ってくれ」「踏んづけてくれ」「つばをはきかけてくれ」といいますが、アリはその手に乗りません。少しでも相手の言うとおりにしたら、すべて言いなりになって立場が逆転してしまうのです。主体的に生きなければなりません。

ATU311「妹による救出」。グリム童話の「フィッチャーの鳥」と同じ話型です。
恐いおはなし。

マルヤムは、アラビア語でマリアさまの意。


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知らない旅人

しらないたびびと

モンゴルの昔話

日本の昔話では、貧しいおじいさんに親切にしてあげると、大判小判に変わったりするのですが、この話はそうではありません。だからこそ、ぞっとする話。
夏の怪談話、恐いおはなし大会などにどうぞ。
自分のうしろって気になりますよね(笑)

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