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かめ女房

かめにょうぼう

ギリシアの昔話

漁師の若者が亀を連れて帰ると、留守の間に家のそうじや炊事がばっちりてきている。かくれて見ていたら、亀の中から美しい娘が出て来た。
このシチュエーション、亀を魚や狐に取りかえても、成り立ちますね。しかも、日本でもヨーロッパでもよくあるシチュエーションです。
妻が異類の、異類婚姻譚です。

ただし、日本の異類女房のように結末は離別ではありません。むしろ、後半は絵姿女房にそっくりです。
王さまが、妻を手に入れようとして無理難題を出します。けれども、妻は亀の化身で、海の女神である母と弟の豆ちゃんが力を貸して解決してくれます。
この豆ちゃん、かわいいでしょう?かわいくて、子どもに聞かせたくて再話しました。
全体に地中海の明るさを感じます。


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マルーラ

ギリシアの昔話

太陽の神、金のりんご。明るい雰囲気なのは、地中海の話だからでしょうか。

母親との約束で、太陽の神ヘーリオスは十二歳になったマルーラを連れ去ります。このモティーフはよくありますが、誘拐するのは魔女や悪者であることが多いようです。けれども、ヘーリオスは恐ろしい存在ではありません。悲しんでいるマルーラを見て、家に帰らせます。

マルーラを家まで送る動物として、ライオン、きつねは失格で、しかが送ることになります。
木の上のマルーラの姿が水にうつっているのを見て、魔女の娘が自分の姿だと勘違いするモティーフ。魔女の娘は三人です。
帰宅のとき、マルーラに気付くのは、犬、ねこ、おんどりです。
3回のくりかえしが重なって、リズムが生まれていますね。

マルーラが結局は母のもとに帰ることを思えば、この話を喜ぶ年齢は、あまり高くないと思います。


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海でも陸でも走る船

うみでもりくでもはしるふね

ノルウェーの昔話

ATU513B「水陸両用船」

王さまが、海でも陸でも走るふしぎな船を造ったものに、姫と結婚させるというおふれを出します。3人兄弟が挑戦しますが、末っ子が成功する話。よくあるパターンですが、どうやって成功するのか、その成り行きにわくわくします。

魔法の船については、空を飛ぶ船や、絵にかいた船が動きだすという話もあります。
古くは、紀元前250年ごろのギリシアのロドス島の詩人アポロニウスが書いた英雄叙事詩「アルゴナウティカ」に出て来るそうです。

主人公は、とちゅうで出会った男たちを船に乗せて行きます。男たちは、並外れた能力をもっています。その男たちに主人公は助けられます。
グリム童話の「六人男世界をのし歩く」を思い出しますね。話型的にはとっても近いです。


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注:語りは上記のテキストと表現が異なる部分があります。
これから語られる方は、テキストのほうが語りやすいと思います。




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福の神はくさったさくらんぼの中に

ふくのかみはくさったさくらんぼのなかに

マケドニアの昔話

ATU「宝は自分の家にあり」
夢で「ある場所に行けば好い事がある」と聞いて行ってみるが見つからず、そこで出会った人から「夢など信じるな」といわれてその人の夢の話を聞く。その夢のおかげで、宝は自分の家にあることが分かるという話。

この話型は、ヨーロッパでは、橋と関わって語られることが多いです。夢に見て出かけて行く所が、イギリスのロンドン橋やチェコのカレル橋、ドイツのモーゼル橋などなど。
日本の「みそ買い橋」(こちら⇒)は、イギリスの昔話「スウォファムの行商人」からの翻案です。

「福の神はくさったさくらんぼの中に」には、橋は出て来ません。さて橋のあるのと無いのと、どちらのほうが古い形なのでしょう。


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主人と召使い

しゅじんとめしつかい

アルメニアの昔話

力や立場の弱い者が、知恵を使って強い者に勝つ話です。
このテーマは、昔話にはよくあります。おそらく、このような話を語りついだ人びとは、社会的弱者だったのでしょう。そして、社会的弱者は、世間の人口の大多数だったと思います。だから、支持されて語りつがれたのでしょうね。
主人が腹を立てては言い訳をする姿が痛快です。

昔話はファンタジー(架空の話)ですが、必ずしも魔法が出て来るとは限りません。この「主人と召使い」のようなどこにでもありそうな(でも常識ではあり得ない)話もあるのです。


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かも女房

かもにょうぼう

アラスカの昔話

アラスカの異類婚姻譚です。

妻が異類である場合、日本の昔話では、妻は去り、二度ともどって来ることはありません。「つる女房」「かえる女房」「こい女房」などなど。

ヨーロッパの昔話では、夫は妻を探しに行き、見つけ出します。「蛙の王女」「七羽のはと」などなど。

アイスランドの「あざらし」は日本の話とよく似ています。

アラスカの場合は・・・読んで(聞いて)みてくださいね。

異類婚の話、とっても興味があります。


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十人兄弟

じゅうにんきょうだい

中国の昔話

特異な力を持つ兄弟たちが、力を合わせて暴君をやっつけるというストーリーで、たいていは、暴君は最後に水に押し流されるという結末を持ちます。
中国では有名な昔話です。漢族だけでなく、少数民族にも広がりを持っています。
絵本『王さまと九人のきょうだい』(君島久子/岩波書店)は、雲南省イ族のはなし。
兄弟は、11人、6人、7人と、さまざまだそうです。
冒頭で、子どもがいない夫婦に念願の子どもができるという部分は、紹介した「十人兄弟」にはありません。始皇帝の圧制で万里の長城から泣き声が聞こえるところから始まり、始皇帝がすっぽんのえじきになって終わる。ストーリーがすっきりして分かり易いと思います。

子どもに語るときは、万里の長城と始皇帝について軽く説明しましょう。

君島久子著『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店)には、歴史的な説明もあって興味深いです。


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はえ打ちの勇者

はえうちのゆうしゃ

イスラエルの昔話

スルタンというのは、イスラム王朝の君王の称号。11世紀のセルジューク朝に始まるとされています。

主人公は、物乞いから王さまにまで、上り詰めるんですね。昔話の極端性がよく出ています。極端に低い身分ですが、幸せになるといったら、極端に幸せになるのです。
臆病者の主人公が幸せになるきっかけは、たまたまハエを千匹打ち殺したからです。そのあと、つぎつぎと偶然が重なって行きます。まっとうな苦労を重ねているわけではありません。性格は臆病だし、ずるいし、お世辞にもりっぱな人とはいえません。
昔話ではそんな主人公がときどき出てきますね。
そんな話を聞いて、笑い、主人公の幸せな結末に満足できるのはなぜでしょう。きっと、自分の中に「はえ打ちの勇者」的なものが存在するからだと思います。そして、そのような生き方をも肯定するのが昔話なのです。
倫理的道徳的なお説教はひとまず置いて、男の様子をイメージして笑ってください。

ATU1640。話型名「勇敢な仕立て屋(ひと打ちで七匹)」
笑話です。
グリム童話には、KHM20「勇敢なちびの仕立屋」があります。


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食いほうだいに食ったねこ

くいほうだいにくったねこ

ノルウェーの昔話

累積譚(るいせきたん)です。

ATU2028「すべてを吞み込む動物が腹を切り開かれる」
すべてを呑み込む動物は、おおかみであったり、はつかねずみ、くま、ひよこ、しらみ、娘、トロル、巨人、かぼちゃなどで、伝承によって様々です。
アフリカの「フライラのひょうたん」(こちら⇒)は、ひょうたんが飲みこみます。

じつはこの話はとても古くて、〈呑みこみの神話〉ともいわれていて、北欧神話『エッダ』にもあるそうです(未見)。
オーストラリアの一部族や、世界じゅうに残っているようで、興味深いです。

累積譚の語りかたについては《昔話雑学》こちら⇒へどうぞ。


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牛の子イワン

うしのこイワン

ロシアの昔話

イワンやババ・ヤガーや怪物のセリフがとってもロシアっぽいですね。
長いけれど、飽きさせない魅力のある話です。

前半がATU300A「橋の上の戦い」、後半が513A「6人が世界じゅうを旅する」という構成になっています。

ATU300というのは「竜退治の男」の話のグループで、昔話カタログのなかでは、魔法昔話の最初にあげられている話型です。超自然の敵がテーマです。
そしてその「A」となっているのは、大筋は「竜退治の男」なんだけど、少し違うグループだからです。何が違うかというと、A「橋の上の戦い」は、主人公が動物息子だというところです。
このロシアの「牛の子イワン」は題名のとおり、牛の息子です。超人的な力を持っていますが、見た目は人間と変わらないのがおもしろいところ。生まれた時から結末まで人間の姿です。

後半のATU513というのは「並外れた旅の道連れ」の話のグループです。
その「A」は、グリム童話「六人男世界をのし歩く」で知られています。
「B」は「水陸両用の船」という話型名です。ノルウェーの類話をそのうちUPしますね。


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