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森の王

もりのおう

イギリスの昔話

ロマが伝えているおはなしです。
貧しい家に母親(または父親)と三人の兄弟が暮らしているというシチュエーションは、ヨーロッパではよくあります。そして、兄弟は順番に出かけて行き、出会った人からちょっとした課題をあたえられます。上のふたりは課題に応えられず、末っ子は親切にして課題に合格します。主人公だけが正しいキーを押すのです。

類話では、兄弟たちは旅に出ることが多いのですが、「森の王」は雪の森にたきぎを拾いに行きます。身近な感じがします。課題は、「パンや飲み物をくれ」というのがよくあるパターンですが、「森の王」では冬の泉から水をくんでくることでした。

出会うのは、小人やおじいさんが多いです。ここでも、出会うのはおじいさん。魔法で森の管理人の塔に閉じこめられていますが、末っ子が親切にしたので、魔法がとけて小人になります。この小人は、森を支配する森の王だったのです。

このように、よく似た話の中でも、ちょっと不思議な、冬の季節感のある話として再話しました。結末句もおもしろいですね。三年生くらいから聞けると思います。

テキストは『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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ロバの耳をした王子さま

ロバのみみをしたおうじさま

ポルトガルの昔話

ATU782「ミダスとロバの耳」という話型です。何らかの理由で主人公の耳がロバの耳になり、床屋が、その秘密を隠しておくことができないで、穴を掘って、穴に向かって秘密を打ち明ける、そこから葦が生えて、葦で作った楽器が秘密をばらす、という話です。
 
穴に向かって秘密をささやくというモティーフもおもしろいし、楽器が秘密をばらすというモティーフも興味深いです。
 
この話は、もともとは、話型名にもあるように、ギリシア神話のミダス王の話からきています。ミダス王は、半獣神のパンとアポロンが音楽の技を競い合ったときに、パンの笛のほうが美しいといったために、アポロンに、ロバの耳に変えられてしまいます。床屋が穴を掘って「王さまの耳はロバの耳」とささやくと、そこから生えてきた葦が、風にそよぐたびに「王さまの耳はロバの耳」とささやき、秘密がばれてしまったという話です。
 
ここに再話した「ロバの耳をした王子さま」は、冒頭がいかにも昔話らしく、子どものいない王さまとお妃さまの間に王子さまが生まれます。王子さまが主人公です。妖精のおくりものもよくある話ですね。
 
王子さまがなぜロバの耳になったかというと、たまたま妖精が「思い上がって偉ぶることがないように」といったからです。そして、王子さまは、結末で帽子を脱ぎ、その通りに成長したことが分かります。昔話では予言は必ず的中します。昔話の語法にのっとることで、お説教臭がないようにしたいと思って、気を付けて再話しました。

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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いぬとねこと玉

いぬとねことたま

朝鮮半島の昔話

ATU560「魔法の指輪」に分類されます。
冒頭で、若者が犬とねことへびを助け、お礼に何でも願いの叶う魔法の指輪をもらうというのが典型的な形のようです。主人公は「おじいさん」ではなくて「若者」です。授かる宝物は、「玉」ではなくて、「指輪」です。ヨーロッパを中心に世界じゅうで語られてきた古い話型だそうです。
「おじいさん」「玉」「竜宮」となると、いっきに東洋的になるのがおもしろいです。

日本にも全国にたくさんの類話が伝わっていて、へびが宝をくれるもの、さるがくれるもの、竜宮でもらうものがあるようです。

ここで再話したこの話の載っている『朝鮮民譚集』は、朝鮮半島に伝わっていた口伝えの話を集めたもので、1930年に日本で出版されました。

音声は3年生です。


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三つの五月のもも

みっつのごがつのもも

フランスの昔話

ATU610「病気を治す果物」とATU570「穴ウサギ番」と、ふたつの話型がくっついたものです。
「病気を治す果物」の後半の難題婿の部分が、「穴ウサギ番」に置き換わっています。どちらの話型もヨーロッパに多く、アメリカ大陸やアフリカにもわずかに分布しています。
昔話のパーツが、くっついたり離れたりしながら、語られてきたんだなと興味深いです。

原話は『フランスの昔話』A・ミリアン/P・ドラリュ著/新倉朗子訳/大修館書店刊、です。
 
訳者の新倉先生は、この話について、「フランスのゴーロワーズリーといわれる陽気な笑いのお話」だと教えてくださいました。たしかに、子どもたちは大笑いして聞いてくれます。《ステップアップ》でも取り上げていますので、読んでみてくださいね。こちら→
音声は4年生です。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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トロットリーナとおおかみ

イタリアの昔話

ATU333「赤ずきん」の類話です。幼児から低学年向きの話として再話しました。
 
とげの道といばらの道がファンタジックだなと思います。また、「トロットリーナ、トロットリーナ、三時におまえをつかまえる」「おおかみ、おおかみ、そうはいかない」の掛け合いは、まるで鬼ごっこの囃子言葉か童歌のようです。内容は恐い話ですが、子どもがよろこぶ恐さだと思います。
 
グリム童話の赤ずきんは、おおかみに食べられますが、トロットリーナは、「おしっこをしたい」といって、うまくおおかみから逃げだします。「便所に行きたい」で思い出すのは、「三枚のお札」「天道さん金の鎖」ですね。訳者の剣持弘子先生は、『イタリアの昔話』のあとがきで「本来この話は逃走譚ではなかったかとさえ思えてくる」と書いておられます。
 
トロットリーナという女の子は「赤ずきん」の主人公とはずいぶん違います。まず、お母さんが病気になったので生活は彼女にかかっています。そのきびしさからか、トロットリーナは花を摘んで道草をするようなことはありません。お母さんに化けたおおかみを見ても、すぐに正体を見破ります。そして、知恵を使ってひとりでおおかみから逃げだします。おばさんのスカートの中に隠してもらいますが、それも彼女の知恵です。
強いトロットリーナ、かっこいいですね。

テキストは『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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ちょっとでかけるよ

デンマークの昔話

ATU591「泥棒鍋」の類話です。「壺」は「鍋」であることが多いようです。北欧中心に伝わっていて、あまり世界的な広がりはありません。
 
主人公は、少年の場合もありますが、貧しいです。貧しい主人公が、魔法の鍋によって金持ちになるストーリーは、庶民の願望でもあるのでしょうね。

原話の出典の解説に、「無邪気でユーモラスなたいへん子どもによろこばれる話」とあります。ただ、「牧師」という存在が現代日本の子どもたちになじみがないのが難点です。大人は、牧師がお金を貯めることの罪、その罰として地獄へ連れ去られる、それがおもしろいのですが、子どもには多分分からないでしょう。では、どう語ればいいのでしょうか。

まず主人公が、牛を、羊、がちょうと、つぎつぎと価値のないものと取りかえてしまいます。最後に一番値打ちのないように見える壺を手に入れます。「あ~あ、ばかだなあ」と思わせるように語らないといけませんね。
 
そのあと、主人公は、どん底からはい上がっていきます。初めはおかゆ。それがバターになりお金になります。聞き手は嬉しいですね。そして期待します。すると、牧師さんもお金を数えています。聞き手が先取りして喜ぶように語ります。壺がまた出かけていくので、こんどは何を手に入れるかと聞き手は期待します。小麦粉はお金と比べれば大きな値打ちはないのですが、壺が桝に化けます。ここまで同じくりかえしに慣れていた聞き手にとって、これは驚きです。想像の可能性がぐっと広がります。それがオチへとつながるのです。
 
くりかえしを軽快にリズムよく語ることで、幼い子どもも楽しめるのではないかと思います。ストーリー自体が印象に残るので、大きくなって人生経験を積んでから思い出して、牧師と地獄のユーモアに気付いてくれるのではないでしょうか。


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父親を助けた息子

ちちおやをたすけたむすこ

ナイジェリアの昔話

日本では「姥捨て山」という話型名で、全国に残っています。このホームページでも《日本の昔話》に奈良県吉野郡の伝承として「おばすて山」を再話しています。解説にこの話型についてコメントしていますので読んでくださいね。

ナイジェリアの「父親を助けた息子」は日本の姥捨て山の難題型に当たります。「姥捨て山」は純日本風の話だと思っていたので、アフリカに見つけたときは驚きました。調べてみると、世界的にはATUの981番「隠されたお爺さんの知恵が王国を救う」という話型名で、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南アメリカに類話が発見されています。紀元一世紀に記録されていると注があって、またもや驚きました。キリスト教者ユスティノスの『ピリッポス史』という書物にあるそうです。確認できなくて残念です。
 
ところで、以前にこの《外国の昔話》のページで、朝鮮半島の類話「親すて山」を紹介しています。これは、日本では姥捨て山のもっこ型にあたり、ATU980「恩知らずな息子」に当たります。おそらくユダヤ起源だと書かれています。これも驚きです。
 
世代間の相克はいつの時代もどこの民族でも頭を悩ませるものなのですね。
 
難題のモティーフは、民族性が出ていておもしろいです。
 
あちこちにことわざがちりばめられているのも、アフリカの昔話らしくていいなあと思います。

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ものをいう卵

ものをいうたまご

アメリカの昔話

ATU480「親切な少女と不親切な少女」に分類される話です。
この話型の昔話は、世界じゅうに分布しています。グリム童話「ホレおばさん」⇒こちら、ロシアの「ババ・ヤガー」⇒こちら、「馬の首」、イギリスの「地の果ての井戸」⇒こちら、ハイチの「川の母」など、私たちにおなじみのパターンです。

「親切にはよい報いがあり、不親切には悪い報いがある」というメッセージには、道徳的な効用があるのでしょう。

ただ、今回紹介したこの話の中のお母さんは、ずいぶん自分勝手な人に見えますね。ローズとブランシへの対応が、手のひらを返したみたいに変わります。幼い子は、親から認められたいという強い思いがあります。ところが、自分は何も悪いことをしていないはずなのに、ブランシのように理不尽に叱られることがあります。だから、ブランシがきれいなものを持ってかえって来たとき「お母さんは大喜びしました」というのは、子ども側から見ればご褒美なのです。
 
ところで、親切(または不親切)にする相手が人間ではなくて彼岸の存在であることに注目すると、もっと深い意味があるような気がします。森の奥や、井戸などの水の底といった彼岸は、自然界をあらわすと考えることができます。たまたま自然界に入りこんだ人間がどのように行動するかということに焦点を当てると、とても興味深いです。人と自然のモラルを教える話が、世界じゅうで愛されてきたことに、意味があるのではないでしょうか。

同じ話が偕成社文庫の『アメリカのむかし話』(渡辺茂男編訳)に入っていますが、残念ながら絶版です。そこで、皆河宗一氏がA・フォーチャー編『ルイジアナ民話』から翻訳されたものを原話にして、ここに再話しました。ぜひ語ってみてください。。聞きなれていれば5歳児から聞けると思います。
 
音声は図書館のお話会、3歳から7歳まで12人です。小さい子にわかるように語っているので、テキストと少し違っていますが、テキスト通りに語るのが理想形。

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トーレ・エッペの幽霊

トーレ・エッペのゆうれい

スウェーデンの昔話

夏の怪談話にいかがですか。

教会の中に幽霊や化け物が出るという話はたくさんあります。日本の場合は、お寺、それも住職がいなくなった古寺ですね。洋の東西を問わず、恐い話は好まれるようです。そして、必ず恐いもの知らずの者が肝試しに行って、成功してお金持ちになります。

スウェーデンのこの話は、主人公が、豪胆な男性ではなく、娘なのが嬉しいです。しかも、まっくらな谷川まで行って、幽霊の頼みごとをきくというように、二重の肝試しです。きっと川の中から聞こえて来た声のぬしも幽霊ですね。

なんとなくロマンスを感じるので、あまりおどろおどろしく語らないほうがいいと思います。

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めんどりちゃん

イギリスの昔話

ジェイコブスの昔話は日本でもたくさん紹介されているし、ストーリーテリングのテキストになっています。
この話は「Henny-Penny」という題で、めんどりのペニーという意味だけれど、ペニーというのが最小のお金の単位のこと。それで、めんどりちゃんと訳してみました。
 
累積譚→こちらで、原話はもっとくりかえしが多いのですが、英語では歌うようなリズムがあるのに比べて、日本語にするとくどくなってしまうので、ちょっと省略しています。
 
しちめんちょうとがちょうとあひるが食べられてしまうので、ショックでないようにカラッと語ります。主人公は助かったのでめでたしめでたし。
幼い子ども向けです。

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