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かにの親子

かにのおやこ

イソップ寓話

これは昔話ではありません。イソップ寓話と呼ばれるものです。
寓話とは、平たく言えば、たとえ話の事です。人の行いを正したりさとしたりするために作られたものです。
昔話は、作者がいるわけではありませんが、この話はイソップが作ったものです。

イソップは、紀元前6世紀の人だといわれています。だからとっても古い話です。でも、少しも古臭く感じないのは、人間ってあんまり進歩していないからなのでしょうか?

「かにの親子」は日本の昔話にもあるので、昔話通観でさがしたのですが、見つかったのは数話にすぎませんでした。しかも再話する程のしっかりした伝承ではなかったので、もともとのイソップ寓話を再話して紹介することにしました。
同じ話がなぜ日本の昔話にあるのか、という疑問があります。
きっと、イソップの話がもとになっていると思います。というのも、イソップ寓話は、江戸時代の始めに、『伊曽保物語(いそほものがたり)』として日本語に翻訳されて広まっているからです。

これからの季節、おまけの話にどうぞ。

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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プニアとさめの王さまカイアレアレ

ハワイの昔話

ハワイ島に伝わるおはなしです。
ハワイ島が、アメリカ合衆国の州になったのは、いまから120年余り前のことだそうです。18世紀にキャプテン・クックがハワイにやって来て以来、イギリス、フランス、中国、日本などと関りがあって、もとの独特の文化も変化していったと思われます。

この「プニアとさめの王さまカイアレアレ」が、ハワイのもとの文化をどれほど反映しているのかはわかりませんが、勇気ある少年プニアも、おそろしいさめのカイアレアレも、南洋の明るさを感じさせます。島と海の風景も、南の島を想像させてくれます。


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太陽が昇るとにわとりが鳴くわけ

たいようが のぼると にわとりが なく わけ

オーストラリアの昔話

ちょっと珍しい話を紹介します。話型も分かりません。
オーストラリアやニューギニアの昔話資料を読んでいると、「人間はどのようにして地上に散らばったのか」とか、「最初の火」とか「大地はどうやって作られたか」など、神話的な話がとてもたくさん残っていることが分かります。
現代科学に至る前の、人間の自然への探求心がうかがえておもしろいです。

この「太陽が昇るとにわとりが鳴くわけ」の原題は、「太陽の誕生」です。
エミューのたまごの中身がどれほど黄色いのか知りませんが、それが燃えるような明るさをもたらしたというのが、いいなあと思って再話しました。
天に「よい神さま」がいたというのも、心があたたかくなります。

子どもたちに、にわとりの鳴きまねをしてはいけないと教えていますが、きっと生活の知恵なのでしょう。どんな理由があるのか知りたいです。

アジアやヨーロッパの話だけでなく、世界にはこんな話も伝えられているんだよと、高学年のおまけの話として語りたいです。


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ラ・レアールの修道院長

ラ・レアールのしゅうどういんちょう

スペインの昔話

この話は、ATU922に分類され、話型名は「羊飼いが聖職者の代わりに王の質問に答える」。ヨーロッパを中心に世界じゅうで語られているということです。

ところで、マヨルカ島は、地中海に浮かぶ大きな美しい島です。スペインに属します。
 
この話の、のんびりした、陽光を感じさせる明るさが好きでみなさんに紹介したいと思いました。
 
おそろしいほど太っている修道院長と、サトウキビよりもほっそりした王さまという極端な対比がおもしろいです。王さまは、修道院長に解けない謎を出しますが、その理由が、修道院長に頭痛を経験させてやろうというもの。これものんきな話です。主人公の料理人も、修道院長の四分の一の細さです。みごとに難問に答えますが、王さまは笑って約束のほうびをあたえます。
 
登場人物に悪者はいないし、料理人に対して、王さまも修道院長も高圧的でなく、対等の人間として扱っています。また、昔話によくある、問いに答えられなければ死刑にするとかいうような、命にかかわる事件でもありません。
 
さて、この話型の中で出される難問には、ほかに、こんなものがあります。

「この木には何枚の葉があるか?」こたえ「~~~枚あります。信じないのなら自分で数えてください」

「空に星はいくつあるか」こたえ「砂浜の砂の数と同じです。あなたが砂の数を数えられれば、星の数も分かります」
 
古今東西、老若男女、なぞなぞが好きなようですね。難問については、《昔話雑学》にほんの少し説明をしているので、参考にしてください。

テキストは、『語りの森昔話集5ももたろう』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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森の王

もりのおう

イギリスの昔話

ロマが伝えているおはなしです。
貧しい家に母親(または父親)と三人の兄弟が暮らしているというシチュエーションは、ヨーロッパではよくあります。そして、兄弟は順番に出かけて行き、出会った人からちょっとした課題をあたえられます。上のふたりは課題に応えられず、末っ子は親切にして課題に合格します。主人公だけが正しいキーを押すのです。

類話では、兄弟たちは旅に出ることが多いのですが、「森の王」は雪の森にたきぎを拾いに行きます。身近な感じがします。課題は、「パンや飲み物をくれ」というのがよくあるパターンですが、「森の王」では冬の泉から水をくんでくることでした。

出会うのは、小人やおじいさんが多いです。ここでも、出会うのはおじいさん。魔法で森の管理人の塔に閉じこめられていますが、末っ子が親切にしたので、魔法がとけて小人になります。この小人は、森を支配する森の王だったのです。

このように、よく似た話の中でも、ちょっと不思議な、冬の季節感のある話として再話しました。結末句もおもしろいですね。三年生くらいから聞けると思います。

テキストは『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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ロバの耳をした王子さま

ロバのみみをしたおうじさま

ポルトガルの昔話

ATU782「ミダスとロバの耳」という話型です。何らかの理由で主人公の耳がロバの耳になり、床屋が、その秘密を隠しておくことができないで、穴を掘って、穴に向かって秘密を打ち明ける、そこから葦が生えて、葦で作った楽器が秘密をばらす、という話です。
 
穴に向かって秘密をささやくというモティーフもおもしろいし、楽器が秘密をばらすというモティーフも興味深いです。
 
この話は、もともとは、話型名にもあるように、ギリシア神話のミダス王の話からきています。ミダス王は、半獣神のパンとアポロンが音楽の技を競い合ったときに、パンの笛のほうが美しいといったために、アポロンに、ロバの耳に変えられてしまいます。床屋が穴を掘って「王さまの耳はロバの耳」とささやくと、そこから生えてきた葦が、風にそよぐたびに「王さまの耳はロバの耳」とささやき、秘密がばれてしまったという話です。
 
ここに再話した「ロバの耳をした王子さま」は、冒頭がいかにも昔話らしく、子どものいない王さまとお妃さまの間に王子さまが生まれます。王子さまが主人公です。妖精のおくりものもよくある話ですね。
 
王子さまがなぜロバの耳になったかというと、たまたま妖精が「思い上がって偉ぶることがないように」といったからです。そして、王子さまは、結末で帽子を脱ぎ、その通りに成長したことが分かります。昔話では予言は必ず的中します。昔話の語法にのっとることで、お説教臭がないようにしたいと思って、気を付けて再話しました。

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いぬとねこと玉

いぬとねことたま

朝鮮半島の昔話

ATU560「魔法の指輪」に分類されます。
冒頭で、若者が犬とねことへびを助け、お礼に何でも願いの叶う魔法の指輪をもらうというのが典型的な形のようです。主人公は「おじいさん」ではなくて「若者」です。授かる宝物は、「玉」ではなくて、「指輪」です。ヨーロッパを中心に世界じゅうで語られてきた古い話型だそうです。
「おじいさん」「玉」「竜宮」となると、いっきに東洋的になるのがおもしろいです。

日本にも全国にたくさんの類話が伝わっていて、へびが宝をくれるもの、さるがくれるもの、竜宮でもらうものがあるようです。

ここで再話したこの話の載っている『朝鮮民譚集』は、朝鮮半島に伝わっていた口伝えの話を集めたもので、1930年に日本で出版されました。

音声は3年生です。


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三つの五月のもも

みっつのごがつのもも

フランスの昔話

ATU610「病気を治す果物」とATU570「穴ウサギ番」と、ふたつの話型がくっついたものです。
「病気を治す果物」の後半の難題婿の部分が、「穴ウサギ番」に置き換わっています。どちらの話型もヨーロッパに多く、アメリカ大陸やアフリカにもわずかに分布しています。
昔話のパーツが、くっついたり離れたりしながら、語られてきたんだなと興味深いです。

原話は『フランスの昔話』A・ミリアン/P・ドラリュ著/新倉朗子訳/大修館書店刊、です。
 
訳者の新倉先生は、この話について、「フランスのゴーロワーズリーといわれる陽気な笑いのお話」だと教えてくださいました。たしかに、子どもたちは大笑いして聞いてくれます。《ステップアップ》でも取り上げていますので、読んでみてくださいね。こちら→
音声は4年生です。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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トロットリーナとおおかみ

イタリアの昔話

ATU333「赤ずきん」の類話です。幼児から低学年向きの話として再話しました。
 
とげの道といばらの道がファンタジックだなと思います。また、「トロットリーナ、トロットリーナ、三時におまえをつかまえる」「おおかみ、おおかみ、そうはいかない」の掛け合いは、まるで鬼ごっこの囃子言葉か童歌のようです。内容は恐い話ですが、子どもがよろこぶ恐さだと思います。
 
グリム童話の赤ずきんは、おおかみに食べられますが、トロットリーナは、「おしっこをしたい」といって、うまくおおかみから逃げだします。「便所に行きたい」で思い出すのは、「三枚のお札」「天道さん金の鎖」ですね。訳者の剣持弘子先生は、『イタリアの昔話』のあとがきで「本来この話は逃走譚ではなかったかとさえ思えてくる」と書いておられます。
 
トロットリーナという女の子は「赤ずきん」の主人公とはずいぶん違います。まず、お母さんが病気になったので生活は彼女にかかっています。そのきびしさからか、トロットリーナは花を摘んで道草をするようなことはありません。お母さんに化けたおおかみを見ても、すぐに正体を見破ります。そして、知恵を使ってひとりでおおかみから逃げだします。おばさんのスカートの中に隠してもらいますが、それも彼女の知恵です。
強いトロットリーナ、かっこいいですね。

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ちょっとでかけるよ

デンマークの昔話

ATU591「泥棒鍋」の類話です。「壺」は「鍋」であることが多いようです。北欧中心に伝わっていて、あまり世界的な広がりはありません。
 
主人公は、少年の場合もありますが、貧しいです。貧しい主人公が、魔法の鍋によって金持ちになるストーリーは、庶民の願望でもあるのでしょうね。

原話の出典の解説に、「無邪気でユーモラスなたいへん子どもによろこばれる話」とあります。ただ、「牧師」という存在が現代日本の子どもたちになじみがないのが難点です。大人は、牧師がお金を貯めることの罪、その罰として地獄へ連れ去られる、それがおもしろいのですが、子どもには多分分からないでしょう。では、どう語ればいいのでしょうか。

まず主人公が、牛を、羊、がちょうと、つぎつぎと価値のないものと取りかえてしまいます。最後に一番値打ちのないように見える壺を手に入れます。「あ~あ、ばかだなあ」と思わせるように語らないといけませんね。
 
そのあと、主人公は、どん底からはい上がっていきます。初めはおかゆ。それがバターになりお金になります。聞き手は嬉しいですね。そして期待します。すると、牧師さんもお金を数えています。聞き手が先取りして喜ぶように語ります。壺がまた出かけていくので、こんどは何を手に入れるかと聞き手は期待します。小麦粉はお金と比べれば大きな値打ちはないのですが、壺が桝に化けます。ここまで同じくりかえしに慣れていた聞き手にとって、これは驚きです。想像の可能性がぐっと広がります。それがオチへとつながるのです。
 
くりかえしを軽快にリズムよく語ることで、幼い子どもも楽しめるのではないかと思います。ストーリー自体が印象に残るので、大きくなって人生経験を積んでから思い出して、牧師と地獄のユーモアに気付いてくれるのではないでしょうか。


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