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ハヴローシェチカ

ロシアの昔話

話型はATU511「ひとつ目、ふたつ目、三つ目」。
シンデレラ話のひとつで、古くは16世紀にドイツ語圏での記録があるそうです。
 
グリム童話130番「ひとつ目、ふたつ目、三つ目」も類話です。同じ類話でも、「ハヴローシェチカ」に比べ、グリム童話は長く、重く感じられます。グリム童話では、主人公は「ふたつ目」で、「ひとつ目」と「三つ目」のふたりの姉妹が主人公をいじめます。ひとつ目であること、三つ目であることは、宗教的・心理的に意味があるようですが、いっぽう、主人公がふたつ目であるために、ふたりが異常であるという印象があたえられ、身体的な差別を感じてしまいます。が、「ハヴローシェチカ」の相手は三姉妹で、「ふたつ目」も主人公をいじめるのです。単に目の数が、1、2、3であるというだけなので、記号的で軽く感じます。差別感もありません。グリム童話ではなくこの話を語ろうと思った理由のひとつがそれです。それでも印象は強烈ですね。
 
音声は小学2年生です。3年生にも語りましたが、2年生のほうが面白がってくれました。グリムの「ひとつ目、ふたつ目、三つ目」は長く、こうはいきませんね。
 
主人公の持つ、骨から再生させる力は、シャーマンを思い起こさせます。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

2年生のライブが聞けます。




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雌牛のブーコラ

めうしのブーコラ

アイスランドの昔話

小さな男の子が、大事な雌牛を連れもどすために長い旅に出ます。
前半の三回のくりかえしが楽しく、子どもたちはくすくす笑います。
ブーコラの鳴き声がだんだん大きくなってきて、目的地に近づいていることがわかります。
やっとブーコラを見つけましたが、このまま無事に帰れるとは聞き手も思っていません。やっぱり、トロルが追いかけてきます。
「トロル」は、北欧の妖怪ですが、『三匹のやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン作/瀬田貞二訳/福音館書店刊)で知っている子どもたちがたくさんいます。

後半は、呪的逃走のモティーフです。《昔話雑学》⇒こちらで確認してください。
行きて帰りし物語。幼い子どもにピッタリのおはなしです。

音声は1年生。
子どもたちがハラハラしながら聞いているせいで、語るスピードまで上がります。

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

1年生のライブが聞けます。



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ミスター・フォックス

イギリスの昔話

怖い話です。話型名は「盗賊婿」。ATU955。

グリム童話にも同じ話型の話があります。KHM40「盗賊のお婿さん」。
グリムのほうは粉ひきの娘で、娘に「帰りなさい。ここは人殺しの家です」と繰り返し忠告するのは、かごの鳥です。
たるの後ろにかくれるとか、指輪のはまった手が飛んでくるのは同じ。
ジェイコブス再話のこのイギリスの昔話のほうが簡潔で、だからこそ語りかたによっては怖さがひとしおです。親しい子どもたちに、語り手との信頼関係がある場で語ってください。決して本気で怖がらさないで、聞いた後、怖くて面白かった!との感想が出るように語ってくださいね。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

語りを聞けます。


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三人兄弟と鬼ばば

さんにんきょうだいとおにばば

アメリカの昔話

1958年に翻訳刊行された民話集の中に見つけた話です。
主人公はたいそう貧しい、たどり着いた家は一軒、そこにばあさんがひとり。孤立的ですね。若者が鬼婆の家にたどり着き、お金をとってにげきるまでのエピソードが三回、三回とも完全に同じ言葉でくりかえされています。教会堂や畑、井戸と言葉が通じるのは、一次元性のあらわれです。あまりに昔話の語法にぴったりなのがおもしろくて紹介しました。
1、2年生向きかなと思います。
 
昔話では、主人公が彼岸者から宝を盗んで幸せになる話、よくありますね。「ジャックと豆の木」「かしこいモリー」など。「主人公は泥棒している」と感じない年齢の子どもに語りたいです。とくに、ここに紹介した「三人兄弟と鬼ばば」は、原題に「鬼婆」とあるのですが、ストーリーの中ではただの「ばあさん(原話では老婆)」としか表現されていません。兄弟の首をちょん切るところに鬼婆らしさが見えるだけです。疑問を感じさせないようにスピーディに軽快に語りたいです。


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語りを聞けます。




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金剛山のとら

くむがんさんのとら

朝鮮半島の昔話

金剛山は北朝鮮にある有名な山です。クムガンサンと読みます。原題は「大彪退治」。

「焦げ飯」は、ご飯をたいたときにおかまに焦げ付いているおこげのご飯のこと。朝鮮半島の説話のなかでは、猟師が狩りに出かける際には、いつもおこげを持っていくそうです。
男の子の修業もオーバーな表現ですが、とらのお腹の中がひとつの村がすっぽり入るほど大きいというファンタジーがおもしろいですね。

音声は4年生のライブです。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

語りを聞けます。




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三人の姉妹

さんにんのしまい

イギリスの昔話

ジプシーというのは、ヨーロッパを中心に世界のあちこちで暮らしている少数民族です。かつては、馬車などで移動して旅暮らしをしながら、芸能や芸術を伝えているというイメージが強いですが、いまは定住の傾向にあるそうです。自らはロマ、ロムとか呼んでいるそうです。
この民話集は、イギリスのウェールズ地方のジプシーが伝えた話を集めたもの。妖精の出てくる不思議な伝説もたくさん収録されています。
この話の赤い外套のおばあさんも、魔女的な存在なのですが、話の最後までくると、妖精のように感じます。


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酋長カイレ

しゅうちょうカイレ

コロンビアの昔話

不思議な話です。
娘と結婚する若者は、たぶんカイレが仕留めた死者の首が再生した者でしょう。
そして、彼が月にいちど帰っていくところは死者の国。その一族の国では、若者は鹿のすがたをしているように思えてなりません。
人と動物、この世とあの世、永遠の魂がその二つの次元をいったり来たりする世界観は、アイヌの昔話を思い起こさせます。

中学生に語りたいと思って再話しました。
子どもに語ってみると井戸端会議その1 と →その2 を読んでみてください。
あまりにも手ごたえがあって驚きました。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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魔女のミルクグレーテ

まじょのミルクグレーテ

スイスの伝説

この話は昔話ではなくて伝説です。

昔話の魔女には、人間に恩恵を与えてくれる場合と、害を与える場合の二面性があります。日本の山姥と同じですね。彼岸から訪れて、主人公を援助してくれる、または敵対して困難を与える。
 
でもこの話の魔女ミルクグレーテは、そう単純にはいきません。魔女のまねをした主人公を罰したのです。ただそれだけの話です。欲が深いのを戒めるだけの話にも思えません。何が言いたいのでしょう。
そうです、魔女の領域に入ってくるなということです。
伝説では彼岸とこちら側の世間とのあいだには、くっきりとした境界があります。昔話がふたつの次元の世界をたやすく行き来できる一次元性を持つのと対照的ですね。


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七羽のはと

ななわのはと

ドイツの昔話

森の中で道に迷ってこまっていると灯りがひとつ見えます。洋の東西を問わず昔話によくあるシチュエーション。状況の一致。

主人公は、池に水浴びにきた七羽のはとが美しい乙女になるのを目撃します。そして、いちばん美しい娘の肌着を盗んで、その娘を妻にします。羽衣をうばわれて天に帰れなくなった天女の話を思い出しませんか?そうです、日本では「天人女房」とよばれる話型の話で、たなばた伝説や羽衣伝説で有名ですね。

よく似た話が世界中にあるのがふしぎです。この「七羽のはと」は、ATU(国際昔話話型カタログ)では、400番「いなくなった妻を捜す夫」に分類されています。313番「呪的逃走」と結びつくことが多いそうです。「七羽のはと」も、伯爵と妻は、ばらの花と茂み、礼拝堂と神父に変身して、追っ手を出しぬきますね。呪的闘争のモティーフを持っています。

この話の最後に、魔女が、別れていく娘に贈り物をします。娘を自立させる母親の心境になって、ほろっとします。


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とらとほしがき

朝鮮半島の昔話

朝鮮半島では有名な話です。
日本ではパク・ジェヒョンの絵本(光村教育図書)がよく読まれています。

『国際昔話話型カタログ』によると、ATU177「泥棒とトラ」という話型です。
インドの説話集『パンチャ・タントラ』(西暦二百年ごろ成立)に記録があるので、古い話ですね。
ヨーロッパにはなく、アジア特有の話のようです。

とらが、その言葉を知らないために恐がるのは、ここでは「ほしがき」ですが、ほかに、「飴」「たそがれ」などがあるそうです。
日本では「雨もり」です。

日本の昔話「古屋のもり」は全国に伝わっているし、みなさんもご存知だと思います。古くは江戸時代の『奇談一生』(1768年刊)に「猿面赤無尾(猿のつら赤く尾なし)」として、類話が出ています。漢文なので、現代語にして語れるように再話しました。⇒こちら「さるの顔はなぜ赤い」

音声は3年生のライブです。

テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

3年生のライブが聞けます。



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