「スリルのある話」カテゴリーアーカイブ

三匹のやぎ

さんびきのやぎ

ノルウェーの昔話

マーシャ・ブラウンの絵本『三びきのやぎのがらがらどん』でおなじみのノルウェーの昔話です。
瀬田貞二の名訳もあって、絵本で楽しめばいいのかもしれませんが、もともとは、語り伝えられてきた昔話です。
耳で聞いて楽しみたいと思って、再話しました。

ATU122E「太ったヤギを待つ」という話型です。
ATU122というのは、「嘘の言い訳で獲物が逃げることができ、動物は獲物を失う」という話が集められていて、A~Zまでさまざまなバリエーションがあります。弱肉強食の世界で、弱いものが知恵を使って強い者から逃れる話です。
 
前回紹介したイタリアの「おんどりときつね」⇒こちらも見てください。

この「三匹のやぎ」は、北欧を中心に語られていたようで、世界的にはあまり残っていません。そして、いかにも北欧らしいトロルは、他の国、例えばドイツでは、オオカミになっています。

単純な話ですが、三回のくりかえしのリズム、やぎの大きさのクレッシェンド、最後に恐ろしいトロルをやっつけるという爽快さ、魅力的な話です。

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

語りを聞けます。



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こぶたのリコション

フランスの昔話

ATU124。「家を吹き飛ばす」という話型名です。
わたしたちはこの話型の話としては「三匹のコブタ」がなじみ深いですね。世界じゅうに類話が伝わっていますが、口承としてはアジアには少ないようです。

子どもたちは、「三匹のコブタ」の面白バージョンと感じるようです。
低学年までの幼い子向けの話だと思うし、またそのようにも再話しました。けれども、まずは「三匹のコブタ」を聞かせたいと思います。

音声は、2、3年生です。学童保育の子どもたちで、元気いっぱいに聞いています。わたしの語りもどんどんスピードが出ています。聞き手が乗ってくると、語りも早くなります。でも、言い間違えてはいけませんね(笑)

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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美しいユーラリ

うつくしいユーラリ

フランスの昔話

冒頭、主人公の若者は、兵役を終えて国に帰るところです。このシチュエーションは、ヨーロッパの昔話でよく見かけます。グリム童話の「くま皮」は、クビになった兵隊ですね。

「美しいユーラリ」は、イギリスの昔話「鳥たちの戦争」の類話です。このホームページでは、「オーバーンメアリー」として紹介してあるので読んでみてください。とてもよく似ているでしょう。「鳥たちの戦争」にある古い宗教的な要素は、「美しいユーラリには見当たりません.それに、短いので、こちらのほうが語りやすいかもしれませんね。

ATU313、話型名は、「呪的逃走」。この話型では、さまざまな導入のエピソードが、「呪的逃走」と「忘れられた婚約者」というふたつの主部に結びついています。


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語りを聞けます。




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おんどりときつね

イタリアの昔話

ATU122「嘘の言い訳で獲物が逃げることができ、動物は獲物を失う」という話型です。
この話型は、多くのヴァリエーションがあります。
 
たとえば、きつねががちょうをねらっていると、がちょうたちが、死ぬ前にお祈りをさせてくれといって、つぎからつぎへとお祈りをしていつまでも終わらないという「きつねとがちょうたち」。これはグリム童話です。
 
トロルに出くわしたヤギが、後からもっと大きなやぎが来るといって逃げる「三匹のやぎのがらがらどん」も同じ話型です。
 
「私が太るまで待って」とか、「食べる前に私を洗って」とか、「口を洗ってから食べて」とか、「自分で飛びこむから、口を大きく開けて待っていて」など、弱い動物が生き延びるために、知恵を使って言い訳します。短い話ばかりですが、含蓄がありますね。
 
「カッタンネオー」というのは、どこの地名かは分からないそうです。語り手が自分の知っている地名を入れて語ってもいいそうです。


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トロットリーナとおおかみ

イタリアの昔話

ATU333「赤ずきん」の類話です。幼児から低学年向きの話として再話しました。
 
とげの道といばらの道がファンタジックだなと思います。また、「トロットリーナ、トロットリーナ、三時におまえをつかまえる」「おおかみ、おおかみ、そうはいかない」の掛け合いは、まるで鬼ごっこの囃子言葉か童歌のようです。内容は恐い話ですが、子どもがよろこぶ恐さだと思います。
 
グリム童話の赤ずきんは、おおかみに食べられますが、トロットリーナは、「おしっこをしたい」といって、うまくおおかみから逃げだします。「便所に行きたい」で思い出すのは、「三枚のお札」「天道さん金の鎖」ですね。訳者の剣持弘子先生は、『イタリアの昔話』のあとがきで「本来この話は逃走譚ではなかったかとさえ思えてくる」と書いておられます。
 
トロットリーナという女の子は「赤ずきん」の主人公とはずいぶん違います。まず、お母さんが病気になったので生活は彼女にかかっています。そのきびしさからか、トロットリーナは花を摘んで道草をするようなことはありません。お母さんに化けたおおかみを見ても、すぐに正体を見破ります。そして、知恵を使ってひとりでおおかみから逃げだします。おばさんのスカートの中に隠してもらいますが、それも彼女の知恵です。
強いトロットリーナ、かっこいいですね。

テキストは『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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悪魔の話

あくまのはなし

フランスの昔話

この話のはじまりは、「ヘンゼルとグレーテル」にそっくりですね。
ATU327「子どもたちと鬼」という話型に属します。ここでは、子どもたちが行き着くのはお菓子の家ではなくて、人食いの悪魔の家です。このあたりは「かしこいモリー」などと同じです。

木に登ると灯りがひとつ見えたというのもよくあるシチュエーションですが、孤立的で、いかにも昔らしい展開です。

指輪と寝場所を取りかえるというのは、ナイトキャップの取りかえのモティーフですね。子どもたちは知恵を出して悪魔の家から逃げだします。

援助者としてマリアさまが出てきますが、日本ではあまりなじみがないですね。敵が「悪魔」だからでしょうか。
 
最後の所も子どもたちは知恵を出します。子どもにいわれた通りに刈り入れの用意をしてやってくる百姓も何だかまぬけですが、すっかりだまされる悪魔もまぬけですね。


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雌牛のブーコラ

めうしのブーコラ

アイスランドの昔話

小さな男の子が、大事な雌牛を連れもどすために長い旅に出ます。
前半の三回のくりかえしが楽しく、子どもたちはくすくす笑います。
ブーコラの鳴き声がだんだん大きくなってきて、目的地に近づいていることがわかります。
やっとブーコラを見つけましたが、このまま無事に帰れるとは聞き手も思っていません。やっぱり、トロルが追いかけてきます。
「トロル」は、北欧の妖怪ですが、『三匹のやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン作/瀬田貞二訳/福音館書店刊)で知っている子どもたちがたくさんいます。

後半は、呪的逃走のモティーフです。《昔話雑学》⇒こちらで確認してください。
行きて帰りし物語。幼い子どもにピッタリのおはなしです。

音声は1年生。
子どもたちがハラハラしながら聞いているせいで、語るスピードまで上がります。

テキストは『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

1年生のライブが聞けます。



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三人兄弟と鬼ばば

さんにんきょうだいとおにばば

アメリカの昔話

1958年に翻訳刊行された民話集の中に見つけた話です。
主人公はたいそう貧しい、たどり着いた家は一軒、そこにばあさんがひとり。孤立的ですね。若者が鬼婆の家にたどり着き、お金をとってにげきるまでのエピソードが三回、三回とも完全に同じ言葉でくりかえされています。教会堂や畑、井戸と言葉が通じるのは、一次元性のあらわれです。あまりに昔話の語法にぴったりなのがおもしろくて紹介しました。
1、2年生向きかなと思います。
 
昔話では、主人公が彼岸者から宝を盗んで幸せになる話、よくありますね。「ジャックと豆の木」「かしこいモリー」など。「主人公は泥棒している」と感じない年齢の子どもに語りたいです。とくに、ここに紹介した「三人兄弟と鬼ばば」は、原題に「鬼婆」とあるのですが、ストーリーの中ではただの「ばあさん(原話では老婆)」としか表現されていません。兄弟の首をちょん切るところに鬼婆らしさが見えるだけです。疑問を感じさせないようにスピーディに軽快に語りたいです。


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かきねの戸

かきねのと

ドイツの昔話

わたしの再話のなかでも大ヒット作!絶対に外さない(笑)。 音声は3年生のライブです。

兄妹がかきねの戸を外して出かけるところで、聞き手の子どもたちはこの話が笑い話だとわかります。4歳児でもわかる。ところが、森で迷子になるあたりから緊張しはじめます。恐いのです。それが私には意外でした。あくまでもちょっとした笑い話として語っているからです。木の下に泥棒がやってくるあたりから緊張は高まって、息をつめて聞きます。だからこそ、「 おしっこ 」 「 うんこ 」 で緊張が緩和して、ドカッと笑うんですね。桂枝雀さんの落語の理論とおなじです。

それから、兄妹がどろぼうたちの置いていったお金をみんな持って帰るところ、「 悪~っ 」 て言った子どもたちがいたのです。これも意外でした。な んて正義感が強いんだろうと思いました。そう、たとえどろぼうがおいていったものでも持って帰ったらどろぼうになるのです。ところが、それを知ったお母さんが大喜びしたっていうところで、子どもたち、笑ったんです。このユーモア感覚、すごいと思いません?

そのお金で一生楽に暮らしましたっていうと、「 ああよかった~ 」 と大満足します。昔話の主人公の幸せ = 富の獲得と身の安全で、めでたしめでたし。ほんのおまけの話として再話したのに、子どもたちのおかげで実のあるしっかりした、上質な笑いを引き出す話になりました。


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テキストは『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』にも掲載しています。こちら⇒書籍案内

3年生のライブが聞けます。



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オーバーン・メアリー

イギリスの昔話

ケルトの昔話。長い話です。ヨーロッパの昔話によく出てくるエピソードが次々とつながって、聞き手を飽きさせません。原題は「THE BATTLE OF THE BIRDS(鳥たちの戦争)」ですが、話型名「主人公の逃走を助ける少女」AT313にちなんで、「オーバーン・メアリー」と題しました。

開けてはいけないといわれたのに袋を開けてしまう。だれにもキスさせてはいけないといわれたのに、飼い犬がキスをする。など、禁令と禁令破りではらはらします。

主人公がオーバーン・メアリーといっしょに巨人から逃げるとき、リンゴの切れ端が彼女に変わって返事をします。巨人が追いかけてくると、馬の耳から木や小石を出して後ろに投げ、それは森や山になります。まるで「三枚のお札」です。

骨の再生は、古い宗教とかかわりのあるモティーフ。最後の古いかぎと新しいかぎもいかにも昔話らしいモティーフです。

最後の2文は結末句です。昔話雑学を参考にしてください。

こういう長いストーリーは、わかりやすい言葉でテンポよく語るのがコツ。子どもの「それで?それで?」に応えるように語りましょう。


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